ハリウッドがすべての復活させるべき映画シリーズを復活させたと思っていたが、そうではなかった。フレッチが帰ってきたのだ。新作のタイトルは『Confess, Fletch(告白せよ、フレッチ)』だ。ミレニアル世代やZ世代に送る『フレッチ/殺人方程式(原題:Fletch)』(1985年)は、かつてチェビー・チェイス(Chevy Chase)がロサンゼルスの敏腕調査記者を演じ、あらゆるハチャメチャに巻き込まれ、最高潮のパフォーマンスを達成したコメディ映画シリーズである。
しかし、グレゴリー・マクドナルド(Gregory Mcdonald)の本を原作とするこの作品の主人公を、チェイスはもう演じていない。その役は『マッドメン』のジョン・ハム(Jon Hamm)に受け継がれ、このシリーズを21世紀へと導いている。ハムは、チェイスが過去の『フレッチ』にもたらしたコミカルなスタイルには及ばないものの、その王冠にふさわしいヴィンテージダイバーで時計の魅力を一層高めている。
注目する理由
本日、「Confess, Fletch」が劇場公開(日本未公開)され、自宅で楽しめるようデジタル配信も開始された。また、この作品は筆者にとって特別な作品である。というのも、この映画のプロップマスターであるキャサリン・ミラー(『アンカット・ダイヤモンド(原題:Uncut Gems)』や『セヴェランス(原題:Severance)』の特集で紹介したので覚えているかもしれない)氏と一緒に、フレッチの腕にはめる時計を選ぶ舞台裏を体験することができたからである。
ご想像のとおり、映画製作のプロセスは短いものではない。このキャラクターの身につける時計を選ぼうという話題が上がったのは、1年半ほど前のことだ。私が受け取ったのは、ただ、スティール製のロレックスのスポーツウォッチが欲しい、ヴィンテージだとより好ましいという指示のみだった。私の歯車が回りだし、すぐに最も象徴的なふたつの時計が思い浮かんだ。デイトナとサブマリーナーだ。そして、小道具と衣装のフィッティングのために、ふたつの時計を一緒に送った。
ひとつはスティール製のロレックス デイトナ Ref.6262(1970年製、シルバーダイヤル、ジュビリーブレス)、そしてもうひとつはロレックス サブマリーナー Ref.1680(1978年製、パティーナマーカー)だ。そして、早々にサブマリーナーが選ばれたとの知らせが届いた。
映画の製作が佳境に入った数ヵ月間、私はネット上の記事を探そうとしていた。私が映画のなかで選ぶのを手伝った時計を見るためだ。何を隠そう、ハムが撮影の合間に、ボストンの街角で通行人の犬と一緒にいるところを撮影され、ちょっとした話題になったのだ。普段は犬の見出しに引かれることはないのだが、この時計ではないかとクリックしてみると、ご対面することができた。
その後すぐにハムがサブマリーナーを気に入り、カメラが回っていようがいまいが、その時計をずっと身につけていたことがわかった。やがて撮影が終わり、その時計は私の手元に戻ってきた。私物の時計ではないが、改めて見ても素晴らしく、言葉には表せない、不思議な変化が感じられた。送ったときには普通のRef.1680だった。しかし、帰ってきたときには、ある種のスター性を帯びていたのだ。
私はこの映画を正式に鑑賞し、この時計がスクリーンで重要な役割を担っていることを実感し、喜ばしく思った。『Confess, Fletch』のなかで、主人公は混乱した状況に巻き込まれることとなる。ローマでイタリア人伯爵の娘と恋に落ち、その後、伯爵の美しい絵画コレクションを盗んだ不愉快な連中を捕まえるためにボストンへ旅立つ。殺人の容疑をかけられながら。
この作品は、優れた濃厚なミステリーと同様、ひねりとミスディレクションに満ちている。また、チェイスの代わりにハムが登場するのも、違和感がありつつおもしろい。彼は、オリジナルの映画でチェイスが紫のレイカーズジャージを着ていたことにちなんで、ロサンゼルス・レイカーズの帽子をかぶっている。しかし、チェイスが演じるフレッチはサブマリーナーを着用しておらず、ハムが演じるフレッチはサブマリーナーを着用している(ということで、追加点)。さらに付け加えれば、ハムとジョン・スラッタリー(John Slattery, AMCのヒット番組でロジャー・スターリングを演じた)がこの作品で再会しているのも、『マッドメン』ファンにはうれしいことだろう。
サブマリーナー Ref.1680は、ロレックスの歴史において非常に重要な時計である。この時計は、サイクロップスレンズの下にデイト機能を搭載し、世に送り出した初めての時計だからだ。そして、フレッチというキャラクターにとってこの時計の魅力のひとつは、サブマリナーデイトがスクリーン上でジャーナリストを演じるほかのある俳優と結びついていることだ。ロバート・レッドフォード(Robert Redford)が、『大統領の陰謀(原題:All the President's Men)』のなかで赤サブのRef.1680を愛用していたことを覚えているだろうか。彼は自身の持つ赤サブのRef.1680を着用していた。この映画でフレッチは、元捜査員のジャーナリストで、フルタイムのフリーランサーに転身する役を演じている。赤サブの存在感は鼻につくかもしれない。しかし、このRef.1680はハムの演じるフレッチに合っている。この映画シリーズのように、少しヴィンテージで、時代を超え、現代のなかで機能することができるのだ。
見るべきシーン
自分が第一容疑者となった殺人事件の犯人を追いながら、恋人の誘拐された父親である伯爵の美術品が盗まれた事件の調査を続けるフレッチ。彼は、この事件に巻き込まれていると思われる伯爵夫人とランチミーティングに参加する。豪華なホテルのレストランの洗練されたテーブルに座ると、ヴィンテージのサブマリーナーが初めてはっきりと目に飛び込んでくる。「ああ、フレッチ」と伯爵夫人は言う。「遅かったわね」とも。彼は彼女が正しいかどうか確認するために時計に目を落とす[00:41:57]。彼女は正しい。
映画の終わる数分前、フレッチはボートの上でハンモックに寝そべっている(一風変わった選択ではあるが、とてもリラックスできそうだ)。ネタバレはしないが、殺人事件と盗まれた美術品にまつわる事件の真相が明らかになったとだけ言っておこう。フレッチは編集者の友人フランク(スラッタリー扮する)から執筆依頼の電話を受けるが、評判いい元ジャーナリストとして引退したままでいいと感じている。彼がハンモックに揺られている時 [01:34:30] 、Ref.1680が自然に囲まれ、水辺に佇んでいるのが見える。そしてエンドロールだ。
『Confess, Fletch』(ジョン・ハム主演)は、グレッグ・モットーラ監督、キャサリン・ミラーが小道具を担当。現在、劇場にて公開中。
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