ご存じかもしれないが、ロレックスは先日初の量産型チタンウォッチで1万1000m防水の新モデル、ディープシー チャレンジを発表した。しかし、今回の記事では少なくとも50年以上時計製造に使用されている金属であるチタンそのものにスポットを当ててみようと思う(シチズンは最近、X-8クロノメーターの50周年を記念した)。ロレックスは何事につけ慎重な傾向がある。もちろん満を持して世に送り出すのだが、その時は時計業界の誰もが首をかしげ、ひと目見ようとするのだ。ロレックスは何年もチタンを使って試行錯誤し、2012年にチューダー ペラゴスが発表されたが、ロレックスの製品となると話は別だ。しかし、後に振り返れば2022年は「チタンが登場した」といえる年になるかもしれない。スティールに代わるクールで軽量な金属としてだけでなく、メーカーが思う存分、心に響くような(もちろん顧客の心にも)チタンを作り、成形しているのである。
そして、チタンで作られているのは、ディープシー チャレンジのような、文字通どおり海の底まで潜れる税込309万3200円の大作だけではない。確かに、多くの高級時計メーカーがチタンを採用している。ランゲはチタン製のオデュッセウスを、オーデマ ピゲはフライングトゥールビヨンを搭載したロイヤル オークを、そしてパテックもチタン製のユニークピースのRef.5270を発表し、この個体はチャリティオークションに出品される。シチズンからバルチック、そして新型ペラゴス39まで、チタン製の腕時計の選択肢はかつてないほど広がった(もちろん、ロレックスのディープダイビングの好敵手であるオメガのウルトラディープも忘れてはならない)。
正直なところ、チタンには慣れが必要だ。重いものに引かれ、高価なものに憧れるのは、おそらく原始人類の採集時代に刷り込まれた本能的のものだろう。「重い時計が好き、強い、いい」という論法だ。しかし、その概念を乗り越えれば、チタンには多くの魅力があり、それは過去1年ほどのあいだに発表された時計だけにとどまらない。
チタンはスティールとは異なる多くの特性を持っており、それがまた、正直なところ、時計にとってある種素晴らしいものにしているのだ。素材学の授業の代わりに、以下にコレクターや時計愛好家にとって実際に問題となりそうな実用性に焦点を当てよう。
- 軽量性:チタンはスティールより約40%軽いということが最も重要であり、話題にあがる。例えば、ディープシー チャレンジの場合。チタンケースのこの時計の重量は251gで、時計界のバーベル、プラチナケースのRef.5711とほぼ同じ重さだ。しかしロレックスによると、スティール製の場合、重量は350g近くになるそうだ。チタンで製造することで、ディープシー チャレンジ(またはオメガのウルトラディープ)のような時計は、少なくとも着用性の観点からは扱いやすいものになる。
- 伸縮性:これは、必ずしも時計コレクターに影響を与えるものではないが、注意すべき重要な点だ。チタンはスティールよりも機械加工が難しいことで知られている。特に、低弾性率と呼ばれるものを持つため、エンジニアのあいだでは(例えばスティールよりも)、簡単に曲げたり変形させたりできることを意味する用語として使われている。この柔軟な特性は、実用的な利点もあるものの、その分、素材をどのように扱うか、メーカーが頭を悩ませることも少なくない。これらの製造の難しさのために、チタンモデルは、しばしばスティールモデルよりもコストが嵩むのだ(しかるに、親愛なる時計コレクターに影響を与えるのだろう)。
- 熱伝導率:これは些細なことではあるが、私が想像していた以上にコレクターがよく口にすることだ(チタン製の時計を持っていない人が特に)。チタンはスティールほど熱を伝えない。もし、夏の暑い日にスティールの時計に触れて少し熱く感じた(あるいはシカゴの寒い冬に少し冷たすぎると感じた)ことに不快感を覚えたことがあるなら、それはチタンの時計では起こりにくいことである。
- “傷つきやすさ”:一般的に、チタンはスティールよりも傷がつきやすいと言われている。これはチタンの表面に薄い酸化皮膜があるためだ。しかし、このような表面上の傷は、簡単に補修できるという利点がある。
- 強度と硬度:チタンはスティールに匹敵する強度を持っているが、スティールよりもはるかに軽いため、その強度はより印象的に映るだろう。同様に、チタンとスティールの硬度も近いが(どちらが硬いかは、比較する合金によって異なる)、どちらも時計ケースに適している。
そして、それはほんの始まりに過ぎない。素材としてのチタンとチタンモデルを取り上げた、私たちのお気に入りの記事を何本かご紹介しよう。
特集記事
冒頭でビッグブランドからのリリースに焦点を当てたが、実はチタンはしばしばインディーズ御用達の金属であるかのように感じられる。そしてローマン・ゴティエほどそれをうまく使いこなしている人物はいないだろう。2016年、私たちは彼のチタンモデル、ロジカル・ワンの実物をハンズオンし、私たちの絶対的な愛を示した。上述したとおり、私はケース素材としてのチタンについてしか触れていない。それは、ほとんどのブランドにとって、チタンはそのような存在だからだ。スティールに代わる、実用的で軽量な素材だ。しかしゴティエはそれだけでは満足しない。彼はこの凄まじいムーブメントにチタンを(ほかの多くの金属に加えて)使用しているのだ。チタンは加工が難しいという話は上述のとおりだ。実際の機械式ムーブメントを作動させるために必要な公差でそれを実現することを想像してみてほしい。それを可能とするのがローマン・ゴティエなのだ。
11月7日、年2回開催されるチルドレン・アクション・ガラで、パテック フィリップのチタン製のユニークピース、パーペチュアルカレンダー・クロノグラフ Ref.5270がオークションに出品されることは、上述のとおりだ。しかし、パテックがチャリティのためにチタン製のユニークピースを作るのは、これが初めてではない。ここではパテック フィリップの第一人者であるCollectabilityのジョン・リアドン氏が、チャリティのために作られた最高のユニークなパテックを何本か紹介している。そこにはチタン製もある。そしてチタン製のユニークピースのパテックがまだ物足りないという読者は、ベンが2013年のOnly Watchに出品されたチタン製のユニークなRef.5004のハンズオン記事を思い出してほしい。
チタンの歴史は長い。ジェームズは、彼が最も好きなブライトリングと呼ぶ、80年代に発表された初期の素晴らしいチタンモデルのひとつであるエアロスペースに注目した。今日、この時計は80年代のすべて(そしてブライトリングのすべて)を完全に象徴している。1985年に発売されたエアロスペースは、パイロットウォッチの概念を覆すポストモダンなモデルであり、時計界の新しい支配者であるクォーツを全面的に取り入れたモデルだった。この35年以上のあいだに、ブライトリングはエアロスペースを繰り返し進化させ、ケースサイズを大きくし、その機能、有用性、精度を向上させてきた。
過去10年を振り返っても、ブルガリのオクト フィニッシモほど大きなインパクトを与えたモデルはないだろう。今回は、ブルガリのもうひとつの代表作であるクロノグラフ GMT オートマティックをご紹介する。自動巻きクロノグラフとGMT機構を組み合わせたこのモデルは、手首に装着したとき、わずか6.9mmという最薄クロノグラフの記録を打ち立てた。そう、自動巻きとGMTを搭載しながら、最も薄いクロノグラフの記録を打ち立てたのである。時計製造に革新性が乏しく、すべてが何かの二番煎じであるかのように感じられる時代にあって、オクト フィニッシモは過去10年間の真のデザインおよび技術革新の象徴であった。
それでは、時代をさらに遡って2012年に発売されたチューダー ペラゴスのハンズオン記事を振り返ってみよう。当時の私たちの感想はこうだ。「かなりクールではないだろうか? ロレックスより先にチューダーにこの技術が与えられたことは、奇妙だが素晴らしいことだ。しかし誰が最初にこのコンセプトを実際に開発したのか、あるいは研究開発が母体であるふたつのブランドのあいだで共有されているのかについては定かではない」。ついにチタン製のロレックスの通常モデルが登場し、それがまた素晴らしく奇妙な時計、ディープシー チャレンジだと知った10年後の今、この記事を振り返ってみるのも楽しいことではないだろうか?
ペラゴス 39を考えるには、それがいちばんいい方法なのかもしれない。単にペラゴスをダウンサイズしたのではなく、現代におけるチューダー サブの再来として、ブランドの最も現代的で有能なデザインをベースとしたモデルに仕上げたのである。
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