「俺はCIAじゃない、俳優だ! 俺が所属している唯一の組織はアメリカ映画俳優組合と……それにAFTRAだが、それが何なのかさえ知らない。ラジオか何かだ。銃を下ろしてくれ!」
ニコラス・ケイジがニック・ケイジを演じる、ニコラス・ケイジについての映画を見るまでは、メタバースという言葉は聞いたことがあってもメタ(meta)を見たことはないだろう。それこそが映画『ジ・アンベアラブル・ウェイト・オブ・マッシブ・タレント(The Unbearable Weight of Massive Talent)』(2022年)なのだ。100万ドルを受け取るためにスペインのマヨルカ島で開催される裕福な武器商人の誕生パーティーに出席し、落ち目になったキャリアから這い上がろうとする架空の自分を演じるケイジが主演の、奇想天外な娯楽映画だ。
全体を通して、この映画は『マルコヴィッチの穴』(1999年)をやや軽く、より楽しくしたような作品だ。ケイジはびっしりとひげを蓄え、想像上の若い自分自身に話しかけ、贅沢なゴールドジュエリーを身につけている。そしてそれに典型的なデジタルブランドのゴールドトーンのアナログウォッチを合わせている。もしこれがいい時計でなかったなら、彼のような地位の俳優には信じられないようなチョイスだ。
注目する理由
1週間ほど前、『ジ・アンベアラブル・ウェイト・オブ・マッシブ・タレント』がデジタル配信され、映画館でこのちょっと変わった、やや難解なニック・ケイジ フィーバーのような映画を観られなかった人たちが、レンタルや購入することができるようになった。私は、この映画は最終的にカルト的なファンを獲得する映画だと思っている。リビングルームでくつろぎながら、この映画を鑑賞した。ケイジの叫び声を聞くには、これ以上の方法はないだろう。
この映画を見るにあたって、私はケイジの時計をぜひ見たくなった。予告編でちらっとは見ていたが、最終的に映画全編を見るまでよく見ることはできなかった。ゴールドであるとは思ったが、本物のゴールドではない予感がしていた。
しかし、おかしなことが起こる。映画の序盤、ケイジを演じるケイジは、娘とセラピーセッションを受けている(彼らの関係はあまりよくない)。彼は古典的な躁病のエネルギーを発散し、絶えず顔や首を触っている。そして、別のゴールドの時計がちらりと見えるのだ。それは本物の金の時計、ロレックスだ。金無垢のロレックス サブマリーナーらしいが、クラスプとブレスレットしか見えない。予告編で見た時計とは違うが、私がそこで見た偽物の金時計の予感は正しかったと確信し、見続けた。これがケイジの手首で見た最初で最後のロレックスだったが、この映画に登場する唯一のロレックスではないことがわかった。
スペインの武器商人と称する人物と会うためにマヨルカ島に飛んだケイジは、メッシュブレスレットにゴールドトーンの腕時計を着用している。よく見ると、それはカシオのLTP E140G-9A クラシック レトロだった。聞いたことがない? 私もだ。しかし丸いゴールドのケースに、シンプルなシャンパンカラーのダイヤル、レトロなメッシュ(ミラネーゼ?)のブレスレットというデザインは珍しくない。
彼はゴールドの(本物のゴールドと思われる)ブレスレットと時計を重ね付けしているのだ。しかし私は不思議でならなかった。本物のゴールドの時計を所有していることは明らかなのに、なぜゴールドトーンのカシオを身につけるのだろう? そこで思い出した。彼はニコラス・ケイジだ。好きなことを何でもできる。彼の性格は魅力と混沌のバランスが絶妙で、スペインの大金持ちの犯罪者の家にカシオをつけていくのは、時計学的に見ても、何かカオスを表しているような気がする。
そういえば、その犯罪者(とされる)ジャヴィ・グティエレスを演じるのは、『マンダロリアン』で有名なペドロ・パスカルだ。ニコラス・ケイジの大ファンで、ふたりで映画を書くことを期待してケイジを自分の誕生日パーティーに招待する役だ。しかし、CIAは彼が犯罪撲滅を訴える政治家の娘を誘拐したと思い、事態をややこしくする(映画的)。ケイジはCIAと協力してこの陰謀を暴き、少女を救おうとする。その過程で彼とグティエレスは友人となり、ケイジらしいハチャメチャな展開が繰り広げられる。
グティエレスは、この映画のもう1本のロレックス、ジュビリーブレスレットにクラシックなツートンカラーのデイトジャストを着用している。この時計は、彼が登場するすべてのシーンで見ることができ、彼の屈託のない裕福な態度、つまり“私は文字どおり大邸宅に住んでいる”という態度にぴったりの時計だ。カシオじゃない。
見るべきシーン
映画の序盤、誕生日パーティーのためにマヨルカ島のグティエレスの屋敷にいるとき、ケイジはCIAと交信するためイヤホンをしている。カメラシステムをハッキングするため、彼にセキュリティルームにアクセスさせる必要があるのだ。その部屋でケイジは、グティエレスの警備隊員が近づいていて、もし捕まった場合、警備員の皮膚に“無力化剤”を塗らなければならないと知らされる。彼が薬剤を準備していると、カメラは彼の手首のクローズアップに切り替わり [00:36:08]、金色のカシオとそのメッシュブレスレットの暗いショットが映し出される。その直後、ケイジはうっかり自分の肌に無力化剤を塗ってしまい、気を失う直前にようやく解毒剤を投与するという狂気の展開になる。
その後、彼とグティエレスと親しくなり、ふたりはLSDでトリップしながら冒険の旅に出る。旅のあと、ケイジはティファニー・ハディッシュ演じるCIAエージェントのひとりと面会する。彼は彼女に、自分とグティエレスが本当に素晴らしい映画の制作に励んでいることを説明する。彼女は、グティエレスに誘拐された少女の居場所を吐かせるために、自分たちの映画に誘拐のプロットを入れてみてはどうかとケイジに提案する。ケイジはこの提案に難色を示し、両手を頭に当てる。そこでカメラはカシオをはっきりとらえる[00:55:50]。「これは大人のための知的な映画だ」と言いながらも、彼は結局CIAエージェントの提案に同意する。カシオは変わったチョイスだが、これは変わった映画であり、ケイジは(いい意味で)変わった役者だ。すべてはこの映画のためなのだ。
ニコラス・ケイジ主演の『ザ・アンベアラブル・ウェイト・オブ・マッシブ・タレント』は、トム・ゴーミカン(Tom Gormican)監督、アンドリュー・ワート(Andrew Wert)が小道具を担当。iTunesやAmazonでレンタルや購入が可能。
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