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本稿は2017年10月に執筆された本国版の翻訳です。
ポール・ニューマンが所有するポール・ニューマンデイトナが、秋のオークションに出品されるというニュースが6月に報じられて以来、それは世界中の時計業界で最も話題になっていたテーマですが、それには理由があります。この時計は30年近く前、今日のヴィンテージロレックス狂騒の始まりとなった時計なのです。コレクターやディーラーはこの個体が出回っていることを知り、同じくらい長い期間追い続けてきました。さて、先週、僕は実際の時計と数分間過ごす機会を得ました。そしてそれはとても爽快な体験だったと言わざるを得ません。
この時計の背景について復習したい人のために、簡単に説明しましょう。1984年、ポール・ニューマンの娘であるネル(Nell)と交際していた青年、ジェームズ・コックス(James Cox)は、コネチカット州にある一家を訪れていました。ポールがジェームズに時間を尋ねると、ジェームズは時計をしていないと言い、ポールは自身の時計を彼に渡しました。ああ、かなりクレイジーな出来事ですよね。数十年間この時計を身につけていたジェームズは、この時計をオークションに出品し、その収益の一部をネル・ニューマン財団に寄付することにしました(彼とネルはずっと前に別れていますが、今でも親交があります)。以上が基本的な情報ですが、もっと詳しく知りたい方はHODINKEE Magazine Vol.1をチェックしてみてください。そこではカーラ(・バレット)が、この時計が最終的に市場に出てきた経緯を(もっと複雑に)語っています。
時計自体はRef.6239 デイトナ(スティールベゼル、ポンプププッシャー)で、黒地にクリーム色という、3色のエキゾチックダイヤルを備えており、“ポール・ニューマン”ダイヤルの名称はまさにこの時計から由来しています。この時計は1968年のもので、妻のジョアン・ウッドワード(Joanne Woodward)からニューマンに贈られました。裏蓋には“Drive Carefully Me”(運転には気を付けて)の文字が刻まれており、その刻印は今日でもケースバックに鮮明に残っています。ネル・ニューマンによると、彼女の父親はこの時計を持っていた15年のあいだ、ずっと身につけていて、ライム・ロック・パークでのラップ計測にも使っていたほどでしたが、最終的にはコックスに渡したと言います。
ロサンゼルスで行われたフィリップスのプレビューがスタートする約1時間前、会場に足を踏み入れたとき辺りは静かで、フィリップ・デュフォーのデュアリティ、ミントコンディションのRef.6200 サブマリーナー、そして2本の初期ホイヤー オータヴィアと並んで、この時計はガラスケースに収められていました。これがほかのポール・ニューマンだったら、非常にたくましい競争相手のなかに紛れていたかもしれません。しかし、これはただのポール・ニューマンではなく、ポール・ニューマンのポール・ニューマンでした。
僕はすぐに、この時計を取り出して数分間腕につけ、写真を撮らせてもらえないかと尋ねたところ、フィリップスのチームは親切にも応じてくれました。ヴィンテージロレックスに情熱を持っている者として、この時計には本当に不思議な何かがあると言わざるを得ません。大げさに聞こえるかもしれませんが、何か特別なことや重要なことを目にしたとき、それを感じることができるのです。幸運にも、HODINKEEで仕事をしていると、本当に素晴らしい時計をたくさん見ることができます。ポール・ニューマンデイトナを手にするのは並大抵のことではありません。しかし、これは本当に特別なものでした。
まず驚いたのは時計の状態でした。最初にこのニュースを報じたウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズに掲載された写真を見た人は、この時計がかなりボロボロだと思ったかもしれませんが、そうではなかったのです。デイトナのコンディションは非常に良好で、長年の使用は明らかですが、文字盤のクリームカラーの部分の汚れはそれらの写真ほどひどくなく、ケースと裏蓋には日常的な使用による擦り傷はありましたが、特にボロボロには見えません。
さらに、ラグは摩耗しているように見えますが、極度に磨き上げられたようなものではありません。プッシャーとリューズはまだシャキッとしていて、夜光プロットはすべて無傷で本物(交換されていない)のように見えます。もしこの時計がポール・ニューマンのものではなかった場合、最も望ましい例ではないかもしれませんが、文脈を考慮すると、その時計が新古品の状態であることよりも、手が加えられていないこと(そして実際に着用されていたこと)を示すほうがはるかに好まれます。
腕時計を手首につけるのは、かなり非現実的な体験でした。繰り返しになりますが、僕は6239 デイトナやポール・ニューマンを何度も試着したことがありますが、なかでもこの時計は本当に素晴らしいです。この写真を撮ったとき、僕がそうであったように、ニューマン自身がそれを見下ろしていたということは非常に特別なことです。時計を返すよう丁寧に、言われるまでリストショットを撮っていたことを信じて欲しい。この時計のことはしばらく頭から離れないでしょう。
しかし、それ以上に興奮したのは、プレビュー中にほかのコレクターがそれに反応するのを見ていたことです。比較的新参の人から、バブルバック覇権時代の素晴らしいロレックスコレクションを集めてきた玄人まで、誰もがびっくりしていました。大の大人がおもしろがりながら、ガラスケースに入った時計の横に立っているところをiPhoneで撮ってくれと友人に頼んでいるのです。この経験全体が、僕らのこの小さな情熱がどれほど楽しいものか、そしてこの時計がロレックスのワーストセラーモデルだった時代から、周りに素晴らしいコミュニティが形成されたことを思い出させてくれました。
ポール・ニューマンデイトナは、10月26日の午後6時から、ニューヨークで開催されるフィリップスのWinning Iconsオークションのロット8です。“100万ドル以上”という漠然としたエスティメートが載っていますが、それよりもはるかに高い値段で落札されることは誰もが知っています。セール当日からそれまでの数週間、ライブ中継をたくさんお届けします。ご期待ください(編集注記:このポール・ニューマンデイトナは1775万ドル、当時の相場で約20億円以上の価格で落札された)。
現代時計収集アイコンであるポール・ニューマンデイトナについて、まだ詳しく理解していない方は、こちらの詳細なReference Points記事をご覧ください。