Photos by Jonathan McWhorter
デイトナビーチは多くの人にとって、たくさんの意味を持っています。ある人にとっては子どもの頃からの趣ある夏のビーチタウン。またある人にとっては春休みの旅行先として、(記憶が少し曖昧ですが)それに劣らない記憶に残る場所という人もいるかもしれません。
しかし時計やクルマ、労力を可処分所得(おそらくそれ以上?)費やす人々(そしてベン図の中心にいることに気づいた最も不幸なグループ)にとって、フロリダの大西洋岸にあるこの小さな前哨地は、かき氷やサメの歯よりもはるかに魅力的に映ります。
モータースポーツのファンにとって、ここは非公式の耐久三冠レースの3分の1を占める本拠地です。そして、時計ファンにとっては最近手に入らなくなったロレックス クロノグラフの名を冠しています。24時間かけて、ドライバーチームは3.5マイル(約5.5km)のコースを周回し続け、チェッカーフラッグが振られるまでに最も長い距離を走破しようとします。
デイトナ24時間レースで優勝するドライバーはしばしば“ハードウェイ”と呼ばれ、ロレゾール仕様のロレックス デイトナを手に入れることができます。私が確かな筋から聞いたところによると、この時計自体、最初にゴールラインにたどり着いた人たちのあいだで、とても名誉な証となっているそうです。実際、デイトナで最も勝利回数を重ねたドライバー、ハーレイ・ヘイウッド(5勝)氏は、ドライバーにとってあの時計は、ほかの何よりも勝利へのインセンティブであると語っています。世界最高のドライバーである彼らの多くは、その仕事でかなりの大金を稼いでいますが、それでも時計は単なるトロフィー以上のものです。それは、かなり特別なことを成し遂げた競技者たちの仲間入りを象徴するものなのです。
ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの仲間たちの協力のもと、全勝優勝を果たし、憧れのシンボルを持ち帰るために何が必要なのか、間近で見ることができました。
ほとんどのリストショットのやりとりは似たようなものです。誰かの1日を邪魔して、その人が身につけている時計の写真を撮ったり、歓談したりしてその場を後にします。あるときグリッドを歩いていて起こったことは、最初はそうだったのですが、だんだんエスカレートしていき、本当に来るべきところに到達しました。
リシャール・ミルにブレスレットを重ねづけした女性を見つけたとき、“トニー”(デイトナ)がはびこる海で息継ぎをする必要があったため、写真を撮らせて欲しいと頼みました。呼吸を整えたあとに振り返ると、RMしかありませんでした。最初はデイトナの飽和を補うための自然な反応だと思いましたが、私自身の目は欺きませんでした。
いつも辛抱強い私の被写体は、一緒に時計の写真を撮ろうと友人を呼びました。ファインダーに目をやると、うれしいことに突然フレームのなかに多くのRMが現れました。
すると彼女は、何もないところから現れたように、金無垢のRMまで私を誘導してくれました。“あれを撮りたいでしょう!”。フォトグラファーのトンネルビジョンで設定を確認し、リフレーミングしたところで奇妙なことに気づきました。
それは紛れもなく、リシャール・ミルを身につけたリシャール・ミル氏本人でした。飽和したデイトナはめまいがするほどのリシャール・ミルになりました。