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Recommended Reading タッシェン社刊『Ultimate Collector Watches』―時計関連書籍に学術的なアプローチを提供

この新しい2巻セットの書籍は、単なる写真集ではなく、世界で最も希少な時計のいくつかを詳細に調査した内容となっている。

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最近、ある人たちとの会話のなかで、私がよく口にする言葉を繰り返した。「時計は集められないから、その代わりに知識を集めている」というものだ。相手はどちらも世界屈指のコレクターで、ひとりはおそらくパテック フィリップのスプリットセコンドクロノグラフを最も網羅的に収集している人物、もうひとりはA.ランゲ&ゾーネ、F.P.ジュルヌ、そして歴史的名品において世界有数のコレクションを築いた人物である。すると2人は口を揃えて、こんな趣旨のことを話してくれた。「こうした時計を買えるようになったのは、ほんのここ数年のこと。それまでは、ひたすら学び続けていたんだ」と。だからこそ、たとえ彼らのような高みに到達することはないとしても、私はたくさんの本を所有し、常に新たな知識を求めている。知識はきわめて重要だ。

 時計に関する書籍は、大きく分けてふたつのカテゴリーに分類される。ひとつは膨大な情報量を誇る反面、専門性が高すぎるもの。もうひとつは美しい写真が豊富であるものの、内容は比較的広く浅くまとめられたものだ。私はどちらのタイプも少しずつ持っているが、結局頻繁に戻ってくるのは前者のほうだ。オーデマ ピゲの『20th Century Complicated Watches』や、パテック フィリップのミュージアムコレクションをまとめた全2巻の書籍からは実に多くの知識を得られるが、開くのは年に1、2回ほどだ。ロレックスのデイデイトやハンジャール デイトナに関する本も素晴らしいが、ひと通り読んでしまうと、その後はあまり手に取らなくなる。ヘルムート・クロット(Helmut Crott)博士の『The Dial』は、おそらく私の本棚で最も重要な1冊だが、ときには情報量が多すぎて、気軽に読み流すには少々重たい。そんななか、シャーロットとピーター・フィエル(Charlotte and Peter Fiell)氏によるタッシェンの新刊『Ultimate Collector's Watches』全2巻は、学術的な内容、美しい写真、そしてコレクターたちの知見を絶妙なバランスで融合させており、これまでの時計本ではあまり見たことのない仕上がりになっている。

Ultimate Collector Watches

 正直に申し上げると、本書にはHODINKEEの創設者ベン・クライマーのインタビュー記事の一部として、私の写真が1枚掲載されている。インタビューで彼は、時計収集について自身の見解を述べている。レビューに特に影響はないと思うが(実際、HODINKEEではベンの時計収集に関する見解をいつでも無料で読むことができる)、念のため触れておく。本書においてより重要な点は、時計の素晴らしさを歴史的、時には技術的な観点から解説しつつ、時計の重要性(時計製造における対象物として、ポップカルチャーにおける位置づけとして、あるいは歴史的な意義として)を文脈化することで、今日の時計収集がなぜこのような形になったのかを説明している点だ。

 本書を2部構成に分けた利点は、おそらくそこにあるのだろう。第1巻は1891年から1958年までの初期の時代を扱い、これらの時計をヴィンテージ品として独立した存在として捉えることができ、第2巻は1959年から現在までを取り上げている。1冊の本のなかでも、時代を跨いで物事がどのように変化してきたのかを見るのは実に興味深い。第1巻だけでも463ページに及び、冒頭を飾るのはルイ・ブラン&フレールのミニッツリピーターを備えた懐中時計を腕時計へと改造したきわめてマニアックな1本。この導入だけでも、この本が話題性だけで読者を惹きつけようとする一般的な時計本とは一線を画し、中身で勝負する1冊であることが伝わってくる。

Ultimate Collector Watches
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 読み進めるうちに、写真のクオリティもまた、本書が目指す学術的なアプローチに匹敵するほど高いことに気が付くはずだ。おそらく世界各地のフォトグラファーを起用したのだろう(そうでなければ撮影の段取りはとてつもなく大変だったはずだ)。そのため写真によってはやや暗かったり、迫力が欠けていたりするものもあるが、その差はごくわずかだ。それ以上に感心させられるのは、時計のオーナーたちから、ケースバックやダイヤルを外した状態での撮影許可を得られていることだ。なかにはかなり分解して撮影されたものもあり、そのおかげで読者は時計について自分自身の目でじっくり学ぶことができる。

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Ultimate Collector Watches
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 さらに驚かされるのは、そもそも世界でも指折りの希少な時計をこれだけ集めること自体に成功している点だ。例えばジェームス・シュルツ(James Schulz)のグランドコンプリケーション(世界初の永久カレンダー、ミニッツリピーター、クロノグラフを備えた腕時計)は長らく個人コレクションに秘蔵され、最近になって再び個人間で所有者が変わったばかりだ。私は実物を見る機会には恵まれたものの、撮影は許されなかった。しかし本書ではその時計を撮影しただけでなく、オリジナルブレスレット(最近になってようやく戻ってきたもの)を装着した姿や、ムーブメントまでも紹介している。また、J.B.チャンピオンのパテック フィリップのクロノメーター(私にとっても歴史的名品ベスト10に入る1本)については、2種類のダイヤルをケースに装着した状態の写真に加え、ブレスレット、ムーブメント、さらにはダイヤル裏側まで掲載されている。こうした情報は時計を評価するうえできわめて重要であり、通常はひと握りのトップコレクターしか目にすることのできないものだ。

 それだけでは物足りないなら、本書にはニール・アームストロングが月面で着用したオメガ スピードマスター、ポール・ニューマンのロレックス “ポール・ニューマン”デイトナ、パテック フィリップからは美しいスティール製のRef.530、ピンク・オン・ピンクのRef.1518、ドレダイヤルのRef.2499、そして私のお気に入りのひとつであるスティール製のスプリットセコンド・クロノグラフ Ref.1436まで登場する。そして第1巻の終盤になると、より現代的な雰囲気の時計へと方向転換し始める。1951年製のヴァシュロン・コンスタンタン Ref.4261のような、極薄のミニッツリピーターはまるで数年前に作られたかのような佇まいだ。

Ultimate Collector Watches
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 シャーロット・フィエル氏とピーター・フィエル氏は本書の完成に多大な尽力を注ぎ、執筆にも大きく貢献した。だが、調査にはほかにも多くの人々が関わっている。フィリップスのアレクサンドル・ゴトビ(Alexandre Ghotbi)氏、A Collected Manの創設者であり、独立系時計製造に関する百科事典の著者であるサイラス・ウォルトン(Silas Walton)氏、ジャーナリストのミン・リウ(Ming Liu)氏とロビン・スウィシンバンク(Robin Swithinbank)氏などが挙げられる。

 これだけの文章を書き上げるだけでも膨大な作業だ。というのも時計に関する資料は引用や転載を繰り返すうちに情報が不完全になったり、誤って伝わったりすることも少なくないからだ。なおウォルトン氏、ゴトビ氏、パトリック・ゲトライド氏(OAKコレクション)、ベン・クライマー氏らは本書にも登場している。

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 正直なところ、私が最も興味を持っていたのは、現代の時計収集の世界がどのように扱われているかということだった。この分野は近年、大きな変化と過熱したブームを経験してきた一方で、忘れ去られた名前も少なくない。クリスチャン・クリングス(Christian Klings)やデレク・プラット(Derek Pratt)といっ​​た、より異彩を放つデザイナーたちも掲載されていれば良かったのだが、本書は10年ごとの構成を採用しているため、そうした人物まで盛り込むと1980~90年代だけでかなりのページを割くことになってしまっただろう。

 しかし、意外ながらも素晴らしい時計がいくつか掲載されている。セイコーのクオーツ アストロン(時計製造史においてきわめて重要でありながら、やや地味な存在)、ユニークなクォーツ式のパテック フィリップ ノーチラス Ref.3800、ブルネイのジェフリ・ボルキア王子のために製作されたジェラルド・ジェンタのグラン・ソヌリなどだ。もちろんジョージ・ダニエルズのスプリングケース トゥールビヨンや、ロジャー・スミスとダニエルズの時計も多数掲載されており、それぞれに詳細な歴史的解説が添えられている。

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 この本について最後にひとつ触れておきたいのは、「話題性」と「歴史的・技術的な重要性」は必ずしも相反するものではないという姿勢を恐れずに示している点だ。例えば、本書にはレジェップ・レジェピの作品が、アクリヴィア時代のものから自身の名を冠したブランドのものまで複数収録されている。彼の時計の評価がどこまで高まるのか、いまだその頂点は見えていない。

 一方で、多くの時計愛好家にとってはレジェピよりも受け入れにくい存在なのがリシャール・ミルだろう。確かに同ブランドは現代の時計製作に大きな変革をもたらした存在と言えるが、単なる“ブーム”と片付けられることも少なくない。本書にはRM001、サファイアケースのRM56-02、そしてUP-01が収録されている。しかし同時に、A.ランゲ&ゾーネのグランド・コンプリケーションや、第2巻の表紙を飾るオーデマ ピゲのRD#4も掲載されている。これらは本書においてF.P.ジュルヌとほぼ同等の扱いを受けており、これはきわめて公平と言えるだろう。

Ultimate Collector Watches
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 本書の大きな魅力のひとつは、『Ultimate Collector Watches』が250ドル(日本円で約3万9000円/編注;蔦屋書店では税込5万1568円で販売されている)という価格で手に入ることだ。この2冊組の内容と情報量を考えると、むしろ破格と言っていいだろう。比較のために挙げると、オスバルド・パトリッツィ著『White Cartier』は、特定の希少なカルティエを研究するうえで決定版ともいえる資料と見なされていることから、1冊2500ドル(日本円で約40万円)ほどで争奪戦になることもある。しかし、そこには掲載されている時計についての解説はほとんど載っていない。それに対して、少なくとも私にとっては、本書のほうがはるかに安価でありながら、はるかに役立つものになるだろう。

 タッシェン社刊『Ultimate Collector Watches』の詳細については、出版社のウェブサイトをご覧ください。All photos courtesy Taschen

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