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Hands-On チューダー ブラックベイ セラミックを実機レビュー

最新のブラックベイは技術的に目を見張るものがあるが、チューダーのダイバーズウォッチとして我々が待ち望んでいたものだろうか?


今、私の腕にあるのは、2015年に登場したブラックベゼルのチューダー ブラックベイだ。ある意味、これはブラックベイの、少なくともある時代のブラックベイの頂点だといえる。この時計はベン・クライマーが2012年に記事「チューダー ブラックベイ ヘリテージ 7922R 現行モデルに通じる復刻ダイバーの原点」で指摘したように、特定のヴィンテージのチューダーを再現したものではない。1968年にチューダー サブマリーナー Ref.7016/0に初めて採用されたスノーフレーク針や、1954年に初めて採用されたRef.7922のビッグクラウン、側面が平たくて長いケースデザイン、ギルトダイヤルなど、チューダーのヴィンテージダイバーズウォッチのデザインの中で、特に人気の高かったものを組み合わせたものだ。

 そして、ムーブメントもチューダーのある時代の頂点といえよう。ETA 2824を改良したものだ。メインプレート、ブリッジ、角穴車、ネジアタマに独自の仕上げを施し、テンプの軸の耐震装置にはキフショックを採用し、さらにガンギ車の歯とアンクルも改良し、精度の安定性を高めた(6年経った今でも私の時計は素晴らしく正確に時を刻んでいる)。つまり、ベースとなるキャリバーはETA製だが、ロレックスのキャリバーでなくても、ロレックス標準の正確さで時を刻むことができるように配慮されているのである。

 この時計は、デザイン的にはチューダーの新しい方向性を示すものであり、ヴィンテージのチューダー サブマリーナーの復刻版ではなかったため、当初は一部の愛好家の間で物議を醸したが、独自のレトロノスタルジーな魅力をもち続けていることは確かだ。チューダーファンは、サブマリーナーの再来を待ち望んでいるが(私はこのまま待ち続けことができると思っている)、当時も今も、ブラックベイは、それが好きな人にはたまらない魅力をもっているのだ。現行モデルでは、ダイヤルのバラがシールドに変更されているが(正直、バラが恋しい)、それでも十分に価値のあるモデルだ。ムーブメントにはシリコン製ヒゲゼンマイを採用した自社製のMT5602を搭載し、価格も2015年の3425ドルからわずか50ドルアップの3475ドル(日本での価格は税込で37万6200円。ストラップモデル)と、ほとんど変わっていない。

 なぜこのような話をしたかというと、この時計は、新しいブラックベイ セラミックと比較して、チューダーの製品開発やデザインの進化に興味深いつながりを描いているものだからだ。

 ブラックベイ セラミックは、まず第一に、ひと目でブラックベイだと分かる。確かにセラミック製だが、おなじみの側面が平たくて長いケースに、タンクのようなプロポーションは健在だ(カルティエのタンクではなく、装甲戦闘車両のことだ)。ケース素材のおかげで軽量化されてはいるが、根底にあるのは我々がよく知っているレトロな雰囲気のたくましいスポーツウォッチであることに変わりはない。

 それとも、本当にそうだろうか? オリジナルのブラックベイ(およびBB58)はレトロな雰囲気を醸し出そうとしたことは明白だが、ブラックベイ セラミックは、ある意味で全く新しいブラックベイだといえる。ここには、ちょっとした古き良きヴィンテージウォッチの要素はない。代わりに、光沢とマットのブラックの質感が巧みに表現されており、色の気配は全くない。ギルトレターは消え、ダイヤルにはグレースケールの文字が使用されて、セラミック製のベゼルには確固としたダークサイドへの忠誠が感じ取れる。ベゼルには夜光すらないのだ。

 セラミックがデビューする前のブラックベイの姿に慣れていると、非常に衝撃を受ける。同時に、それは不気味なほどの美しさだ。夜光を塗布したマーカーや針は、まるで夜の空母の甲板に設置された着陸灯のように、自らの光で浮かび上がっているように見える。

 これは示唆に富む時計であり、実際、意図的に挑発しているようにも見える(これはロレックスにとってもチューダーにとっても珍しいことではない。2013年に発表されたプラチナ製のアニバーサリー デイトナや、最近では2019年に発表したチューダーのP01など、どちらも熱狂的なファンが歯ぎしりしそうな時計だ)。全体としては確かにブラックベイだが、その洗練された氷のような現代的な雰囲気は、ブラックベイが象徴すると思われていたものを全て否定しているようにも見える。つまり、夜光がないこの時計を“ダイバーズウォッチ”と呼ぶべきか、ということだ。

 また、正直に言えば、息を呑むほどの美しさももっている。METAS認証を取得したMT5602-IUは、裏からも表からも美しく見え、超音速のSR-71 ブラックバード偵察機のような魅惑的な雰囲気を醸し出している。しかし、ステルス戦闘機とは異なり、ブラックベイ セラミックのカラースキームは実用性を考慮したものではなく、デザインのためのデザインといえるだろう。

 だが、それは問題ではない。忘れてならないのは、チューダーのコレクションには、純粋に実用的で完璧なまでに優れたダイバーズウォッチ、ペラゴスがあるということだ。ブラックベイ セラミックはそのような時計ではないが、正確に言えば、今までになかった時計なのだ。

 確かに、私が今着けているオリジナルバージョンは、間違いなくより実用的なダイバーズウォッチだ。少なくともベゼルは明らかに読みやすいように作られているが、ブラックベイ セラミックの場合、ベゼルが読みづらいと非難する人はいないと思う(暗い場所では基本的に数字が消えてしまう)。

 同時に、ブラックベイはペラゴスに比べて、常にデザイン性を重視するモデルだった。当初は緩やかなレトロキッチュ、そして最近では、より現代的な表現になってきている。ダイバーズウォッチというよりはダイバーズウォッチ風の時計のようだが、オリジナルでは夢にも思わなかったスタイルと現代的なセンスが評価されてもいるのだ。このような進化はチューダーに限ったことではない。ブルータリスト的な(直接的で生っぽい素材使いが)魅力のオリジナル DW-5000からはほど遠い、華美でカラフルなG-SHOCKのようなものが何十億と存在するのだ。

 もしキャリバーMT5602-IUが搭載されていなかったら、ブラックベイ セラミックはどうなっていただろうかと考えてしまう。純粋に実用性の観点から考えると、ペラゴスに搭載した方が理にかなっているように思える。現代のハイテクなダイバーズウォッチに、同様のハイテクなムーブメントを搭載するのだから。

 しかし、チューダーはその考えを採用しなかった。その代わり、もっと話題になるものを選んだ(発売時の記事には250以上のコメントが寄せられているが、これは通常、トラベルクロックやブラックパンサーのロイヤル オークコンセプトでなければできないことだ)。私の中の気難しい愛好家心は、これを機にペラゴスを再び注目させてほしかったと思っているが、ブラックベイ セラミックのような刺激的でパンチの効いたものを作ることも有効な戦略であったこと疑いの余地はないと思う。

 しかし、ダイヤルに“Omega”と書かれていない初のMETAS認証時計を製造することは、どう考えても力強い一歩であることは間違いない。METASは、磁気に対する耐性だけではないことを覚えておいて損はない(もちろん、それが大部分を占めるが)。この規格には、厳しい精度と耐久テスト(クロノメーターを認証するCOSCは、ムーブメントのみをテストする一方で、これはムーブメントだけでなく時計全体に適用される)など、さまざまな要素が含まれている。チューダー(ひいてはロレックス)がこの規格を支持することは、オメガへの明らかな挑戦であるだけでなく、スイスの時計製造全般における特徴的な機能として、この規格の可能性を証明するものでもある。ベルンのスイス連邦計量・認定局の職員は、このニュースを聞いたとき、昼食後にシュナップス(※非常にアルコールの強いお酒のこと)を一杯余分に飲んでいたに違いない。

 そして、あまり細かいことまで言うつもりはないが、この時計はいまいましい程に優れた外観をもっている。これまでのブラックベイのイメージとは異なるが、チューダーのラインナップが進化していく中で、それはそれでいいし、必要なことだと思う。私がこの時計を使いこなせるほどクールかどうかわからないが、使いこなせる人がいることは間違いない。

詳しいスペックや価格は、記事「チューダー ブラックベイ セラミック 初めてチューダーでMETAS認証を受けた時計」をご覧ください。

All photos, Tiffany Wade.