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Photos by TanTan Wang
2025年に創業250周年を記念した目まぐるしい1年を経たブレゲは今年、ブランドを象徴するトラディションコレクションにエナメルを主役としたアップデートを加え、比較的落ち着いた展開を見せている。愛好家のお気に入りは、38mmのトラディションであることは間違いないだろう。しかし数週間前に新作をいくつか見る機会に恵まれたが、その際に私の目を引いたのは、より大きな40mmのトラディション GMTだった。1057万1000円(税込)のトラディション GMTは、オートオルロジュリーの世界で本格的な価格帯に位置する有力な1本である。しかし本作をひと目見れば、その特別な魅力の多くがわかる。そして何よりも重要なのは、本作がきわめてブレゲらしいということだ。この最新世代のビジュアルアップデートも加えると、これまで見たなかで最高のバージョンだと思う。
本作の個性を決定づけているのは、何より12時位置にあるメインのインダイヤルだ。トラディションではこれまでブルー、ブラック、ゴールド、グレーが主流だった。グリーンを採用するのは珍しい。そして実際、このコレクションでは今回が初採用となる。本作のグリーンからブラックへと移ろうグラデーションのグラン・フー エナメルダイヤルは、実に見事な仕上がりだ。エナメル加工はブレゲが誇る自社技術の強みのひとつであり、このモデルでもその技術は存分に発揮されている。深みのあるフォレストグリーンが外周に向かってダークブラックへと変化していく表現は美しく、そのすべてが手作業で仕上げられ、焼成されている。ブレゲのロゴやそのほかのダイヤル表記は、視認性を高めるためにメタリックシルバー仕上げでプリントされているが、6時位置の上にはブレゲのサインがさりげなくエンボス加工されている。ダイヤル表記といえば、ミニッツトラックには、まるでWingdingsフォントを思わせる遊び心ある意匠が施されている。これは時計全体の美観を損なうことなく、ルーペで眺めたときに気づく小さな楽しみになっている。ダイヤル正面の非対称なデザインを引き立てるのは、10時と4時位置に配されたダイヤルフレームを固定する2本のネジだ。これは周囲に広がる無数の機構部品のなかに自然に溶け込み、デザインの一部としてうまく機能している。
私にとって何より重要なのは、このブレゲ トラディション GMTにブレゲ数字が採用されていることだ。デザイン面で言えば、私は以前からトラディションにはローマ数字ではなくブレゲ数字を使って欲しいと思っていたが、ついに標準カタログに掲載された。ブレゲはまた、ホームタイム用のインダイヤルに“オリエンタル数字”を採用した仕様も提供することを明らかにした。これは東アラビア数字で表記されるもので、かつてブレゲがオスマン帝国の顧客向けに製作していた時計へのオマージュとなっている。だがこれは地域限定ではない。そのため、理論的にはどのブレゲ顧客でもこのバリエーションを特別注文することができる。
これはGMTウォッチなので、メインのグリーンエナメルダイヤルが現地時刻を表示する。左下のインダイヤルは、シルバープリントを施したブラックのエンジンターン技法によるオープンダイヤル仕様となっており、ホームタイムを示す。そのすぐ上には、ホームタイムを示すモノクロームの控えめなAM/PM表示が配されている。こうした表示機構に加え、トラディション GMTの表側には、テンプ(シリコン製のブレゲひげゼンマイを搭載)と脱進機が全面に露出しているほか、輪列や香箱も鑑賞できる。さらに見逃せない美観上のアクセントとなっているのが、香箱のエンジンターン技法だ。その大半は各部品の背後に隠れているものの、さりげなく存在感を放っている。エナメルダイヤルと合わせて、本作にはブレゲが得意とする装飾技法が存分に盛り込まれていると言えるだろう。現地時刻は、左上ラグ付近のプッシャーで1時間単位に調整できる。
これらすべてが、厚さ12.1mmのずっしりとした40mmのプラチナケースに収められている。溶接されたラグデザインのため、ラグ・トゥ・ラグはかなり長く感じられる。そのためコレクターのあいだでは、より小ぶりな38mmのトラディションのほうが常に人気を集める傾向があるのだろう。実際に着用すると、この長いラグとプラチナケース特有の重量感によって、きわめて堂々とした印象を与える。特に手首の細い人にとってはなおさらだ。またラグとストラップの固定に用いられていたスクリューバーが廃止されたことで、トラディションならではの特徴がひとつ失われたように感じるかもしれない。だがバネ棒のほうが、ラグの外側に露出したネジを傷つける心配なくストラップを簡単に交換できるため、所有者にとってははるかに良い変更だと思う。これはまた、トラディションGMTに付属する新しいラバーストラップがクイックリリースバネ棒を採用していることを意味する。
GMT機能を調整するためのプッシャー。
実機レビューではたいてい、このあたりで“…そして時計を裏返すと、ついにムーブメントの複雑な構造が姿を現す”といったことを書くものだ。しかし本作については少し事情が異なる。ブレゲ トラディションのデザインは、こうしたレイアウトを採用していたアブラアン-ルイ・ブレゲのスースクリプション懐中時計へのオマージュであり、その構造をダイヤル側で余すことなく見せる設計になっている。そのためケースバック側にある40mmのスペースは、ブラックPVDコーティングを施したブリッジが軸受用のルビーを支えているだけで、かなり簡素に感じられる。裏側で目を引く表示といえば、50時間パワーリザーブインジケーターの指針だろう。
グリーンダイヤルと、Cal.507DRFの大部分に施されたブラックPVDコーティングによって、この新しいトラディションは、豊かな歴史を受け継ぐこのコレクションのなかでも、ひときわ現代的な1本に仕上がっている。ブレゲのより実験的な時計に見られる現代的なデザイン言語と、ブランドの多くのデザインに脈々と流れる伝統との中間に位置している。一見すると矛盾しているように思えるかもしれないが、トラディションのデザイン構造は、このコレクションに時代を超越した魅力を与えることに成功している。そして現代の高級時計製造の文脈において、そのデザインはきわめて優れた経年変化を遂げてきたと思う。今年発表された数々のアップデートを通じて見えてくるのは、このコレクションが現代の嗜好に合わせて進化を続けながらも、ひと目でブレゲとわかるアイデンティティをしっかりと保ち続けているということだ。
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