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Hands-On オリス スター エディション 35mm

1966年のオリジナルをもとにした、スター エディション 35mm。単純に小さな復刻時計に見えるが、その背景にはスイス時計法の撤廃とロルフ・ポートマン氏の功績がある。

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Watches and Wonders 2026で発表されたオリスの新作のなかに、スター エディション 35mmという時計があった。最初に写真を見たときは、35mmのバレル型ケースに、グレーのダイヤル、プレキシ風防を備えた、最近よく見る小さめのヴィンテージ風ウォッチのひとつだと思った。

 しかし、これは単なる小径モデルではなかった。スター エディションの元になったのは、1966年に登場したオリス スターである。その背景には、1930年代に制定されたスイス時計法、ピンレバー脱進機の時代、そしてロルフ・ポートマン氏という人物が関わっており、これらのストーリーをひも解くことが新作のスター エディションがもつ魅力を理解することにつながるのだ。HODINKEEでも以前、この時計をブランドの歴史における転換点を象徴するモデルとして紹介した。

 まずは新作の時計そのものについて簡単に紹介しよう。ケースは直径35mmのステンレススティール製で、丸型ではなく少し横に張り出したバレル型だ。風防はプレキシ製で、防水性能は5気圧、ラグ幅は17mm。ムーブメントは自動巻きのCal.733-1で、パワーリザーブは約41時間。価格は36万3000円(税込)である。

 サテン仕上げのシルバーダイヤルにはクロスヘアが入り、12時位置にはORIS STARのロゴ、6時位置にはAUTOMATIC 26 JEWELSの文字が配されている。アプライドインデックスは単なる角棒ではなく面に角度がつけられていて、光を受けるとかなり立体的に見える。3時位置にある台形の日付窓は大きめで、少し主張が強い印象だ。外周に沿って置かれた小さな夜光ドットも含めて、1960年代の時計らしい顔つきになっていると思う。

1960年代当時のオリス スターの広告。

 オリス スター エディションの元になったオリス スターは、同社にとってひとつの転換点であった。1930年代に導入されたスイス時計法は、スイスの時計産業を守る一方で、メーカーによる新技術の採用を大きく制限した。オリスもその影響を受けたブランドのひとつだった。

 当時オリスが製造していたムーブメントには、ピンレバー脱進機が使われていた(量産向けの簡易な脱進機)。それ自体が悪いという話ではない。ただ、すでにレバー脱進機を採用していたメーカーがあるなかで、オリスはそこへ容易に移行できなかったのだ。

 そこで登場するのが弁護士のロルフ・ポートマン氏である。1956年にオリスへ入社した彼は、約10年にわたりスイス時計法の制約に向き合い、1960年代半ばにその壁を取り払った。その流れのなかで1966年に生まれたのがオリス スターだ。これはブランドにとって初のスイスレバー脱進機搭載モデルであり、自社製自動巻きムーブメントを備えていた。スターという分かりやすくアイコニックな名前も、ブランドにとってのひとつの到達点だったのだろう。


オリスがヘリテージに託したもの

 オリスの公式サイトを見ると、スター エディションはヘリテージカテゴリに属している。そして現時点で、同カテゴリに並ぶモデルはこの1本だけである。つまりスター エディションは、単に1966年の時計を復刻したモデルというより、ブランドがこれから自分たちのヘリテージをどう扱っていくのかを示す、最初のモデルにも見える。

 高級時計において、ヘリテージモデルというのは正当化しやすい存在でもある。復刻にはすでに評価された過去があり、限定化や特別仕様にすることでそのまま希少性に変えられるからだ。けれどスター エディションはヘリテージカテゴリに並ぶ唯一のモデルでありながら、高額な記念碑ではなくレギュラーコレクションとしての立ち位置を与えた。

裏蓋には当時の旧ロゴが配されている。

 その見方は、ロルフ・ポートマン氏の功績ともつながる。彼が向き合ったスイス時計法の撤廃は、オリスだけの利益にとどまるものではく、スイスの時計メーカーがそれぞれの意思で技術を選び、挑戦できる未来を切り拓いた出来事だった。スター エディションがたたえているのは、ひとつのブランドの成功談ではなく、時計メーカーが自分たちの意思でものづくりができるようになった、その自由そのものなのだ。

 また時計そのものとしては、スター エディションは完全な復刻ではなく、スペックを語る時計でもない。35mmというサイズも人を選ぶし(私にはぴったりだった!)、傷跡が残りやすいプレキシ風防に抵抗がある人もいるだろう。ただ、その不完全さを弱点として捉えるだけでは、この時計の役割を見落としてしまう。スター エディションが担っているのは、1966年の意匠をなぞることだけではなく、ロルフ・ポートマン氏が切り拓いた自由な時計づくりを、現代のヘリテージカテゴリへ接続することなのだ。

 この先、スターから派生していくのか、それとも別のアーカイブモデルが加わるのかはまだ分からない。ただ、ヘリテージカテゴリに初めて置かれたのが、スイス時計法撤廃とポートマン氏の功績に深く結びつくスターだったことは重要だ。オリスはこのカテゴリを、過去のデザインを再現するためだけではなく、ブランドにとって重要な出来事やメッセージを現代の時計として残す場所にしようとしているのではないだろうか。

 スター エディションは、オリスのヘリテージカテゴリにおける最初の意思表示である。自分たちの歴史を高額な記念碑にするのではなく、次の自由な時計づくりへつなげていく。その姿勢を示す1本として、この35mmはかなり重要な意味を持っている。

オリス スター エディション。Ref.01 733 7813 4151-Set。ステンレススティールケース、直径35mm、5気圧防水、プレキシ風防、ねじ込み式ケースバック。グレーダイヤル、日付表示、スーパールミノバ。ムーブメントは自動巻きCal.733-1、2万8800振動/時、パワーリザーブ約41時間。レザーストラップ、SS製ピンバックル。36万3000円(税込)、発売中。