MB&F レガシー・マシン フライング T(“T”はトゥールビヨンを意味する)は2019年初頭に初めて発表された。当時はレディスウォッチと称されており、ダイヤモンドをセットしたベゼルとケースを備えたバージョンとパヴェダイヤモンドを施したダイヤルを追加したバージョンの2種類があった。この時計は愛好家やMB&Fコレクターのあいだで多くの関心を集め、かなりの数が販売された。その結果、性別を問わず、宝石のないバージョンが欲しいという意見が多く寄せられた。彼らの願いは叶い、2020年2月にはカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏のダイヤル製作会社であるコンブレマイン(Comblémine)社のギヨシェダイヤルを採用したフライング Tのセカンドバージョンが発表された。
MB&Fとブルガリはドバイ・ウォッチ・ウィークで、フライング Tの最新バージョン、フライング T アレグラを発表した。これは宝石をセットしたフライング Tのアイデアに、ブルガリの高いジュエリー技術とデザイン言語を組み合わせたものである。その結果、信じられないほど豪華なモデルが誕生した。これはフライング Tのなかでも想像を絶するほど豪華なバージョンであると言えそうだ。
ホワイトゴールドとローズゴールドの2種類があり、それぞれほぼ同じ種類のクリアストーンとカラーストーンを使用。さらにどちらの時計にもダイヤモンド、ツァボライト、アメジスト、トルマリンが使用されているが、ローズゴールドモデルには丸いルベライトが1個使用されている(ルベライトはトルマリンの赤色バージョンで、トルマリンのなかでも最も希少価値の高いものだ)。
ケースはこのコラボレーションのため、ブルガリにより再設計された。オリジナルのフライング Tはラウンド型でラグが長い、ほぼ伝統的なケース形状だったが、フライング T アレグラではラグが短くなり、ケースの縁にほとんど隠れている。
エンジニアリングの観点から見ると、新しいアレグラは初期のバージョンと同じだ。ムーブメントは自動巻きで、サンバーストモチーフの全回転巻上げローターを備え、輪列のコンポーネントはフライングトゥールビヨンとテンプを頂点にして垂直にレイアウトされている。ダイヤルは6時位置に斜めに配置されており、時計を身につけている人だけが判読できるような角度になっている。
サイズも39mm径×20mm厚(オリジナルバージョンは38.5mm径)とほぼ同じで、WGとRG各20本の限定モデルとして提供される。発売時の価格は2134万円(税込、予価)だ。
今回のコラボレーションは誰もが予想していなかったと思うが、振り返ってみると非常に理にかなっている。MB&Fは概して、時計のデザインにおける先鋭的な革新性とほかとは異なる工学的なソリューションを組み合わせた企業と考えられているのは事実だが、実はブルガリも同様に、ここ十年ほどにわたって、特に世界記録を樹立したオクト フィニッシモコレクションで知られるようになった。MB&Fに見られる過剰とも言える複雑さやマンガやSFにインスパイアされたデザインは、確かにブルガリとは少し異なるが、MB&Fのレガシー・マシンは古典的な高級時計製造に見られる工芸品のレパートリーを駆使しながらも極めて特異なデザイン言語を保持している。
本作におけるMB&Fの新しさは、もちろんカラーリングやカラーストーンをふんだんに使っていることだと思う。同ブランドはアラン・シルベスタインとのコラボレーションでHM2.2 “ブラックボックス”を発表し、HM2に彩りを添えたが、一般的にはオロロジカル・マシンもレガシー・マシンもカラースキームはどちらかというと単色が多い。彫刻的なケース形状やムーブメントのデザインと仕上げに重点を置いていることを考慮すると、これは当然のことかもしれない。私が知っているMB&Fのコレクションのなかで、本当に限界を超えたハイジュエリーとのコラボレーションはブシュロンとのコラボレーションであるジュエリー・マシン HM3だけだ。
だが、優れたデザインとは往々にして汎用性の高いものであることが多いのも事実だ。通常、ウォッチメイキングにおいてはテーマに沿った多くのバリエーションをサポートする極めてシンプルなデザインを意味する(レベルや価格帯はまったく異なるが、現時点で発売されているチューダー ブラックベイのバリエーションを考えてみて欲しい) 。しかしすでに多くの個性あふれるベーシックなデザインを持っている場合は、より難しい挑戦となる。レガシー・マシン フライング Tは非常に独創的なデザインだが、バランスのとれたデザインでもある。そのため、厳格で保守的な腕時計からブルガリのカラフルな宝石をセッティングするためのプラットフォームまで、あらゆる用途に対応できることは驚くようなことではないのだ。
All photos, Tiffany Wade.
MB&F×ブルガリ レガシー・マシン フライング T アレグラ:ケース、WGまたはRG、39mm×20mm。二重反射防止加工を施したハイドーム型サファイアクリスタル風防、サファイアクリスタル製ケースバック、30m防水。
宝石:WGモデルはダイヤモンド、ツァボライト、オーバルトパーズ、オーバルアメジスト、ラウンドタンザナイト、ラウンドトルマリン。RGモデルはダイヤモンド、ツァボライト、トルマリン、タンザナイト、アメジスト、ルベライト。
ムーブメント:MB&F フライング T キャリバー、バーティカルムーブメント、60秒フライングトゥールビヨン、サンバーストモチーフの巻上げローター、オフセットダイヤル。パワーリザーブ100時間、30石、1万8000振動/時で作動。
WGモデル、RGモデル各20本の限定生産。価格は2134万円(税込、予価)。