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久住あゆみ(@ayumi_kusumi)さんは二児のママでありながら、モデル業をこなしエッセイストとしても注目を集めだしているインディペンデントな女性。昨今、ブランド各社が女性用の機械式時計(とくにブルガリやシャネルのムーブメントは素晴らしい)をとみに開発するようになった状況が示すように、女性も単なるアクセサリーにとどまらない腕時計を求めだしているように見える。久住さんはそれ以前から時計を身につける習慣があるが、そのなかでの体験はやはり特別な意味を持つようだ。男性の愛好家にはまったく思いも寄らない角度と感性で時計を身につけ、楽しむ女性の声に耳を傾けると、この趣味の世界がもっと開かれた楽しいものになると思う。
数年前、カンヌでのあるガラパーティーに夫婦で出席した時のこと。当時の私はそのような場所に慣れていなかったため、手探りでドレスアップしたことを覚えています。
その夜、私が選んだのはブラックのステラ マッカートニーのドレスと小さな宝石箱のようなパーティーバッグ。
手首にはダイヤモンドの散りばめられたジュエリーウォッチを身につけて。
会場に入り、その場の雰囲気に圧倒されていたところ席が隣だった只者ではないオーラの(のちにその予想通りだったというのがわかるのですが...!)上品な白髪の紳士が話しかけてくれました。
ひと通り、自己紹介が済んだあとと、私の時計に目を留めて
「お嬢さん、とてもいい時計ですね。ですがこんな美しい夜には時間はいらないのですよ。これからはその素敵な時計には部屋で待っていてもらいなさい」
そう静かに、茶目っ気たっぷりにウィンクをして私に伝えてくれました。
この紳士の何気ない言葉で「時間を置いていく」という概念が私のなかに新たに作られて...! 時間を意識しない時間を意識的に作るという贅沢に目覚めた瞬間でもありました。
生まれた瞬間から月日は流れる川のようにその人のそばを流れ続けています。意識、無意識に関わらず、淡々とずっと流れ続けているもの。
それが、時間。
時間の概念はその時々によって姿を変えます。例えば日常のルーティンを当てはめているとき、流れゆく時間を愛しんで大切に過ごすというよりは、目の前のタスクを終わらせるために使う、こなす、消費する、という感覚になってしまいます。
私自身の毎日のことで言うと、家事や育児の時間。「何時までにあれもこれもしなくてはいけない」そんなことの連続の中にいると時間は速度を変えて私をどんどんと追いかけてきます。
スケジュールを綿密に組むことは日常を上手く回していくために必要なことでもありますが、それを意識しすぎると一日のどんな時間に対してもつい「時間的効率」などを気にしてしまい、時間を使うことに対して、節約めいた考えをもってしまいがち。
でも実は、そんなにすべての時間を意識しなくてもいいのかもしれない。「意識する時間」と「意識しない時間」のメリハリをつけること。
ジュエリーをつけたり外したりするように必要なときや気に入ったときにだけ、時間を身につけて、集中したり、楽しんだり、見つめたり、わざと置いてきたり、そしてときには忘れてしまったりしてもいい。
それからというもの、「意識する時間」に身につけるのがわたしにとっての時計との付き合い方。
今までなんとなくつけていた時計に対し、きちんと役割を持たせるようになったことでより頼もしく、愛すべき存在に。
そうすることで時計を身につけているときは今まで以上に時間を意識的に感じます。
わたしの腕で動く針を目で追うたびにまだ見ぬ新たな時間を生み出す瞬間に立ち会っているようなそんな新鮮な気分にも。
そんな私の日常生活での頼もしい相棒はA.ランゲ&ゾーネのサクソニア。とてもシンプルでエレガントな時計。
日中の「意識する時間」はこの時計を身につけてしっかりと現実的な時間と共に過ごす。子どもたちの送迎や、日中の細々とした用事、学校行事や仕事、etc...。そんなとき、流れる時間をしっかりと手放さないような感覚で腕時計を頻繁にチェックします。
そして夜や休日は「意識しない時間」の贅沢を堪能する。そんなときは時間の流れに乗ったり、乗らなかったり、すべて、気の赴くまま、自由にする。
この腕時計は長男を出産したときに夫が贈ってくれた大切なもの。
時計を身につけて時を意識する時間。
時計を外して、時の概念から解放される時間。
そのどちらも大切で時の意味をより感じさせてくれるわたしにとって、時計は大切なアイテムなのです。
久住あゆみは東京のエッセイスト。Instagram(@ayumi_kusumi)では、彼女の自然体でありながら上質な日常を垣間見ることができる。ライカをこよなく愛し、Q2やM10などを所有。
Photos by Ayumi Kusumi