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Photos by James Stacey
時計から針を取り外してみたら可能性の幅が広がる。トリローブは2018年の登場以来、針を使わずに時刻を示す独自の手法で人々を楽しませ、魅了し続けてきた。2022年に初出で最新のユヌ・フォル・ジュルネ(Une Folle Journée。フランス語で、“荒ぶる一日”となるだろうか)は、先のふたつのコレクションで確立したアプローチを次のレベルへと引き上げるものだった。既存のレ・マティノーとニュイ・ファンタスティックをベースにしたユヌ・フォル・ジュルネは、ムーブメント上の柱に3つの回転リングを設置し、ドーム型のクリスタルを重ねることで、腕時計というよりは時を刻む球体のような印象を与えている。
トリローブはユヌ・フォル・ジュルネを、贅沢なダイヤモンドセットが特徴のDiamantを含む5つのバリエーションで展開している。このモデルでは、3つのリングが回転することで時・分・秒を知らせるという、トリローブ独自の回転リング式計時方法を採用。6時位置にある昔ながらの赤いインジケーターが時・分を指し示し、その内側の高い位置で秒のリングが回転する構造となっている。これらのリングはそれぞれが地板に取り付けられた支柱の上に置かれており、機構全体がまるで都市のスカイラインに整然と佇む高層ビルのような、構築的な雰囲気を醸し出している。
革新的な計時方法をとる一方で、ユヌ・フォル・ジュルネではオーソドックスな40mmケースを採用。素材としては、グレード5のチタンとローズゴールド、そしてダイヤモンドをセットしたリングを持つプラチナ製のDiamantが用意されている。ケースにはポリッシュ仕上げ、ミドルケースにはサテン仕上げが施されている。大型のドーム型クリスタルは厚さ17.8mm(ケース本体の厚さは10mmだ)で、回転リングがクリスタル内の異なる高さに配置されているため、非常に立体的な時計に仕上がっている。MB&Fを彷彿とさせるが、時を刻む機構は唯一無二のものだ。
トリローブのリングシステムは、ラ・ショー・ド・フォンに拠点を置く著名な時計メーカー、ル・セルクル・デ・オルロジェ(Le Cercle des Horlogers)とのパートナーシップによって実現したものだ。この提携により、トリローブがアップデートした計時へのアプローチをユヌ・フォル・ジュルネで具現化するべく、Cal.X-Centricが誕生した。ブランドにとって技術的課題のひとつとなったのは、時計の針に比べて重たいリングを支えるムーブメントを開発することだった。そのために、同モデルには主ゼンマイの動力として重量を持たせたマイクロローターを採用し、解決した。Cal.X-Centricは48時間のパワーリザーブを備え、2万8800振動/時で作動。ブリッジとプレートにはマイクロブラストと電解メッキが施され、マットでダークな仕上がりに。地板のグレイン加工は文字盤がないために目を引き、ユヌ・フォル・ジュルネのモダンな外観をより際立たせている。ローズゴールドとチタン、2種類の素材に施されたサンドブラスト加工(写真を見て欲しい)は特に素晴らしく、浮かび上がるブラックのリングと見事なコントラストを形成している。
実際に装着すると、ユヌ・フォル・ジュルネは時計というよりは、手首の上のコンセプトアートのような存在に思えてくる。リングシステムはコツさえつかめば直感的に操作ができ、どこかオーデマ ピゲのスターホイールを思い出させる。6時位置のインジケーターをちらっと見るだけで、時間と分を瞬時に読み取ることができるため、実際にはもう少し簡単だ。だが、これには多少の慣れが必要だろう。さらに言えば、時を告げるオブジェとして巨大な球体を手首に装着することに慣れるにもそれなりの時間が要る。確かに手首につけるとちょっと滑稽だが、そこが魅力ではないだろうか。加えて、サファイアガラスは美しいドーム状で、厚さ10mmあるクリスタルとは思えないほど違和感がない。しかし、実用性を求めるならトリローブにはニュイ・ファンタスティックがある。ユヌ・フォル・ジュルネは、純粋なコンセプトウォッチなのである。
Watches & Wondersにおいて、トリローブは遊び心からダイヤモンドをセットしたDiamantも披露していた。3つのリングすべてにバゲットダイヤがセットされているのだが、ダイヤモンドは重いため、トリローブはリングに別の合金を使うことで軽くする必要があったそうだ。そのダイヤモンドの上には、手作業でインデックスが描かれている。このユヌ・フォル・ジュルネはUFOのようにモダンな雰囲気がありながら、すべてのダイヤモンドが優雅さを演出し、どこか伝統的な雰囲気さえも感じさせる。およそ時計には見えず、ダイヤモンドが手首の上の球体に浮かんで回転を続ける、未来のジュエリーのような印象を与えている。Diamantはプラチナ製で約17万ドル(約2280万円)もするので、この時計を再び目にできたなら、そのときにはUFOを目撃したような気分になるかもしれない。だが、またお目にかかれるとしたらうれしいことだ(それこそおそらく、UFOのように)。
チタン、ローズゴールド製のユヌ・フォル・ジュルネに話を戻そう。チタン製は2万1700ドル(約291万円)から、ローズゴールド製は約3万2700ドル(約438万7000円)となっている。考え抜かれたデザインにル・セルクルのユニークなキャリバーがうまく組み合わされており、決して突拍子もない価格には感じない。この時計は、トリローブの創業者であるゴティエ・マソノー(Gautier Massonneau)が計時に対して持っていた特異なビジョン、その最初の5年間を具現化したもののように感じられる。先の2作から得たアイデアを文字通り3次元に発展させ、サファイアクリスタルのスノードームのなかに積み上げたのだ。このように誰かの構想を理解することは、コンセプトウォッチの醍醐味と言えるだろう。
着用感には少し難があり、そういう意味ではまず2万ドルも出して買うような時計ではない。しかし、面白い時計なのだ。数日にわたってWatches & Wondersの大規模なブースで時計を見たのちに、ゴティエと会ってその新作を手に取る瞬間は、新鮮な空気を思い切り吸い込むような体験だった。トリローブの時計は大手ブランドでは考えもつかないようなもので、十分過ぎるほどに素晴らしいものだったのだ。
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