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Culture Of Time 『オン・ザ・ロック』が今年1番のウォッチムービーである理由

映画の小道具師が語るカルティエ、スウォッチ、そしてフランシス・フォード・コッポラのロレックスとは。

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 「彼を尾行させたよ。 その夜、どこから出て来たと思う? 5番街52番通りの…カルティエだ」

 ビル・マーレイが語ったこのセリフは、Apple TV+で放映されたソフィア・コッポラ監督の新作映画『オン・ザ・ロック』からで、富裕層の暮らすマンハッタンを舞台にした父娘のコメディだ。作品を通して象徴的な時計が随所で目に留まる。

夫の浮気を疑う作家のローラ役をラシダ・ジョーンズが演じている。 マレー演じるニューヨークの美術商で社交家でもある彼女の父が、娘の疑惑を煽ったのだ。ローラの誕生日にプレゼントとして受け取った2つの時計を中心に物語は展開していく。父と娘、夫と妻、そして時の移り変わり - 我々の生活が根本的に変化していく様を描いている。このような物語を描くとき、時計(この場合は複数の時計)に勝る小道具はない。しかし、コッポラの脚本(彼女は監督だけでなく脚本も書いている)では、時計の具体的なブランドは必ずしも指定されていない。そのため、彼女はプロップマスターを必要とした。

ソフィア・コッポラ監督(左)は撮影中、ゴールドのカルティエ パンテールを身に着けていた。主演のラシダ・ジョーンズ、ビル・マーレイと。

 そこでデビッド・シャンカー氏の出番だ。彼自身は時計愛好家ではなかったが(「私にとって映画のプロセスの一部にすぎませんでした」と彼は言った)、時計の選び方をよく知っていた。彼とコッポラは、プリプロダクション中に協力して多くの時計を選び、ほぼ全ての主要キャラクターに合わせて多様な時計を用意した。今回、シャンカー氏がそれらを一本一本説明してくれる。

カルティエ パンテール

 この時計(ネタバレだが、ラストシーンに登場)が最も重要な役割をもっている。これはローラの、夫に対する不倫疑惑の秘密を独力で解き明かしたのだ。パンテール ドゥ カルティエは、映画の"マクガフィン"( ストーリーの展開に効果を発揮する小物 )の役割を果たし、ローラと彼女の父親を冒険へと駆り立て、最終的にはまたこの時計に戻ってくるよう導くのだ。

カルティエ パンテール。写真のツートンモデルは、映画の中で見られるもの。

 シャンカー氏は、「最後の時計であるカルティエは、台本に書かれた唯一の時計だったかもしれません。カルティエは私たちに何を使うかの発言権をもっていましたが、最終的な選択はソフィアに任せることにしました。ひとつはパンテール、もうひとつはタンクという選択肢でした。最後に彼女はパンテールを選んだのです」と語った。コッポラがタンクではなくパンテールを選んだのは興味深いことだが、驚くべきことではない。タンクは広く普及しているモデルで、20世紀初頭のデコでクラシックな雰囲気がある。パンテールはより新しい世代の時計だ。洗練されたブレスレットと隠れたクラスプが特徴で、1980年代に登場した。ピアース・ブロスナンやキース・リチャーズも着用していた。映画『マリー ・アントワネット』(ザ・キュアーやニュー・オーダーをサントラに使った)の監督が、ローラのためにこの時計を選んだのは当然かもしれない。

スウォッチを身に着けた俳優マーロン・ウェイアンズ(左)のシーンを演出するソフィア・コッポラ。コッポラは、またしてもゴールドのパンテールを着用。

 カルティエは、カメラの前だけでなく、オフスクリーンでも存在した。シャンカー氏は、「カルティエは、映画での使用のお礼に、実際にソフィアに時計をプレゼントし、彼女は撮影中それを着けていました」と語った。

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ロレックス オイスター パーペチュアル デイト

 どんな映画でもそうだが、編集室で全てカットされるものがある。このケースでは、ある時計が撮影現場でデビューの機会を得られなかった。それは、『ゴッドファーザー』の巨匠であるフランシス・フォード・コッポラ監督からソフィアに贈られたヴィンテージのロレックス オイスター パーペチュアル デイトである。

『オン・ザ・ロック』の監督ソフィア・コッポラが所有していたものと同型のSS製、シルバーダイヤルのロレックス オイスター  パーペチュアル デイト。

 シャンカー氏は語る。「元々、ビルがラシーダの誕生日に贈る時計は古いロレックスという計画でした。ソフィアが古いロレックスにして欲しいと言ったのです。だから、色々な意味をもつ古いロレックスの写真を見せました。彼女が考えていたものに合うかどうか 確認したかったのです。 写真を見せると彼女は言いました。‘これと同じような時計があるの。持ってきます’と言いました。そして、それが私たちが当初使う予定のものになったのです」

トノー型のジャガー・ルクルト

 結局、撮影日が近づくと、ソフィアのロレックス オイスター パーペチュアル デイトは採用されないことになった。ジョーンズ個人のスタイルに基づいて、シャンカー氏とコッポラは別の時計を使うことにした。それはヴィンテージのトノー型のジャガー・ルクルトで、レザーストラップのものだ。シャンカー氏はこの時計を自分で探し、レンタルし、撮影前の最初の制作発表でクルーに披露した。

シーンの中のラシダ・ジョーンズ、トノー型のジャガー・ルクルトを着用。

 コッポラ家の出自をもつロレックスもクールだが、古い錆のあるJLCの方がもっとクールかもしれない。「お父さんの時計! この時計が好きだったのよ」とローラはプレゼントを開けながら言う。「お前は昔この時計を着けたがった。今の方が少しは似合うかもしれないね」と彼女の父親は答える。「初めての大きな商談の後に買ったんだ」そこには、財産、思い出、家族といった、時計を特別なものにする全ての要素が凝縮されている。ロレックスとは異なり、この時計は、子供が父親の手首にあったことを思い出すような印象深い外観をしているのだ。

スウォッチ

 誕生日の時計を受け取る前は、ローラはよりシンプルなものを身に着けているが、それは魅力的なある背景をもっている。

 シャンカー氏はこう振り返っている。「私たちはたくさんの選択肢を検討して、映画の中の時計が何になるかを話し合ったのですが、会話の途中でソフィアが言ったんです。‘スウォッチを使えばいいんじゃない?’ 私は ‘スウォッチ?’と聞き、彼女は ‘そうよ、ローラと旦那がスウォッチを着けてるのよ、まるで子供が買ってきたみたいな’ と。それで俺は言ったんです。‘ああ、それはいいね、もう一世代分の時計がストーリーに組み込まれているんだから’ って。それが彼女とのブレストだったので、私はスウォッチに連絡してすごい数の時計を注文しました。スウォッチといったら無限に種類があるのです」

『オン・ザ・ロックス』でスウォッチを着用したラシダ・ジョーンズ(右)。

 このブレストの結果、ジョーンズとスクリーン上の彼女の夫(マーロン・ウェイアンズ)、それから子供たちの内の一人がスウォッチの時計を身に着けることになった。これは時計を贈る従来の習慣を覆すもので興味深い。通常、マレーが娘にJLCを贈るように、子供のために時計を選ぶのは親だ。しかし、ここではそれが反対になり、このスウォッチの時計をさらに特別なものにしている。

ミステリーウォッチ

 しかし シャンカー氏でさえ特定できなかった 時計が一つある。 ビル・マーレイが身に着けていたものだ 。「彼が自分の時計を持って来たと言いたいが、そうとは断定できない」 映画の中で彼がそれを身に着けているのが2回見られる。0:20:32のところで 一時停止を押してよく見よう。この時計が何か分かったら、コメントでシェアして欲しい。