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クイック解説
日本の独立時計師や独立系ブランドの中でも、関口陽介氏はひときわユニークな存在です。氏は現在、スイス・ル・ロックルを拠点に、自身の名を冠したブランドで時計製作を行っています。
関口氏は大学卒業後の23歳で単身スイスへ渡り、ムーブメントメーカーのラ・ジュー・ペレ社やクリストフ・クラーレ社で経験を積みました。その後、スイス・ラ・ショー・ド・フォンにあるヴィンテージウォッチショップ「Juval Horlogerie」で専属時計師として腕を振るいながら、大手時計ブランド数社からアンティーク時計の修理を請け負ってきました。
関口氏が腕時計のケースに入れたユール・ヤーゲンセンの懐中時計(左)と、YOUSUKE SEKIGUCHIのプリムヴェール(右)。
関口氏のプリムヴェール(右)は、ユール・ヤーゲンセンのムーブメント(左)に大きなインスピレーションを受けている。(Photographs by Mark Kauzlarich)
そして2020年に「YOSUKE SEKIGUCHI Le Locle」を設立し、翌年には初作となる「プリムヴェール」を発表。詳しくは、マーク・カウズラリッチの記事「One to Watch: 関口陽介氏は過去からインスピレーションを得て未来を描く」をご覧ください。
プリムヴェールは、関口氏が敬愛する19世紀の時計師ユール・ヤーゲンセンが手がけた懐中時計から着想を得た作品です。柔らかな印象の丸みを帯びたケースにスペードの針、エナメル文字盤には、繊細なローマ数字のインデックス、レイルウェイのミニッツトラック、6時位置には大きなスモールセコンドが配されたクラシックなデザインです。
拡張し続けるプリムヴェールコレクション。
関口氏は2022年以降、毎年、文字盤カラーとケース素材を巧みに変えた新作を発表し、コレクションを絶えず進化させています。今年の新作は二本。ひとつはホワイトゴールド製ケースに柔らかなクリームスノーの文字盤を合わせた Ref.39WG-OWBLBSで、もうひとつはコレクション初となる“ガーネット”と称される深紅のダイヤルを、ローズゴールドケースに収めた Ref.39RG-GAWG。
クリームスノーダイヤルのRef.39WG-OWBLBS(左)とガーネットダイヤルのRef.39RG-GAWG(右)。
ケースはアンティーク懐中時計の雰囲気を残しつつ、視認性と装着感を高めた完全オリジナル設計です。ベゼルを細くし、裏蓋ガラスを広げるなど細部を微調整しながら、リューズは二部品構造に改良し巻き心地を大幅に向上させました。設計図を描かず、職人と隣り合わせで形を追い込む現物主義は関口流の持ち味です。
また、いずれのダイヤルも、金属の下地に窪みを彫り込んでエナメルを流し込むシャンルベ技法と、1000℃以上の高温で文字盤を焼成するグラン・フー エナメル技法によって仕上げられています。ダイヤルは、ケース同様にアイデア段階から職人との二人三脚で生まれます。色味をスケッチではなく言葉で共有し、ヌーシャテルの部品メーカーに所属する熟練の女性職人が手掛けるそう。彼女とは以前のメーカーで培った縁で再びタッグを組みました。
職人の多くは英語よりフランス語を好むため、関口氏はフランス語で熱意を伝え、信頼を築き上げています。「言葉が通じると、細かな要求も真剣に聞いてもらえる。日本人は細かいと言われますが、完成品を見れば納得してくれるのです」と振り返ります。
最終仕上げ、面取りや磨きはすべて自身の手で行われます。専門の職人に任せれば高度な装飾も可能ですが、「うますぎると調和が崩れる」と判断し、敢えて“自分の精一杯”で全体をまとめる姿勢を貫きます。そこには「私の名前が入る以上、自分の手で完結したい」という強い矜持がありました。
2025年新作のプリムヴェールは、各モデル10本限定で価格は1584万円(税込)です。
ファースト・インプレッション
2本の新作のうち、僕がとくに心を奪われたのは新色ガーネットです。光の加減で鮮やかな赤に輝いたかと思えば、穏やかなブラウンへと表情を変える──そんな多彩さが魅力的でした。色選びの理由を尋ねると、関口氏は「流行はまったく意識しません。次はこの色が面白いとひらめいた瞬間に決めるのです」と語ります。
昨秋に浮かんだ直感から生まれたという深みのある赤。初めて金属製のインデックスと併せた本作はダイヤルとインデックスの異なる光沢感のコントラストが非常に印象的です。関口氏は「まだ満足していません。さらにごくわずかな金粉を散りばめて、その光源によって生まれる“きらめき”をいっそう際立たせたいのです」と語ります。金粉の配合や赤味のトーンは今なお試行錯誤の途中で、「もっと美しくなる余地がある」と微笑む関口氏。完成を急がず、理想の輝きを追い求める姿勢に、時計作りへの確かな情熱が感じられました。
毎年わずかずつ新作を積み重ねてきた関口氏に、ブランドの行く末を尋ねました。サプライヤーとの協業によって部品は生まれるものの、最終仕上げは必ず自身の手で行う──それがプリムヴェールの絶対条件です。現行コレクションは引き続き改良を重ね、量産体制も徐々に整備するといいます。
初期は失敗部品の作り直しで時間を浪費しましたが、近年はロスが減り量産の目途も立ちました。空いた時間で次のモデルについても構想しているそうですが、それもまた図面ではなく現物試作で形にする予定です「完成まで数年かかるでしょうが、急ぐ理由はありません」。
関口氏の探求は、彼の手が動く限り続きます。ブランドを継ぐ予定はなく「私の人生の軌跡を映す作品だから、私が作れなくなればブランドも終わりで構わない」とも語り、その一心不乱な情熱こそが彼のウォッチメイキングの原動力であり、彼が作る時計の一つひとつが、彼自身の人生の軌跡になっているのだと強く感じました。
基本情報
ブランド: YOSUKE SEKIGUCHI
モデル名: プリムヴェール(Primevère)
型番: Ref.39WG-OWBLBS(クリームスノー)、Ref.39RG-GAWG(ガーネット)
直径: 39.5mm
厚さ: 12mm
ケース素材: Ref.39WG-OWBLBS、ホワイトゴールド / Ref.39RG-GAWG、ローズゴールド
文字盤色: クリームスノー / ガーネット(ともにグラン・フー・シャンルべ エナメル)
インデックス: ローマ数字
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: レザーストラップ
ムーブメント情報
キャリバー: Cal. YS-Y01
機構: 時、分、スモールセコンド
パワーリザーブ: 40時間
巻き上げ方式:
振動数: 1万8000振動/時
石数: 23
クロノメーター認定: なし
価格 & 発売時期
価格: 1584万円(税込)
発売時期: 今すぐ
限定: 各10本限定
詳細は、公式サイトへ。
とくに記載のない画像は、すべてPhotographs by Katsunori Kishida
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