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長年、機械式時計を手首につけて潜水していると、ともすれば地上では隠れた機能的デザインの長所と短所が見えてくることがある。また、実際に潜水してみると、その時計に対する美的評価が変わることもよくある。特定のデザインディテールが持つ重要性、ひいては満足感は深海では大きく変化するものだ。
西カリブ海のオランダ領ボネール島で1週間ほどダイビングをするなど、チューダー ペラゴス FXDと数週間過ごしたあと、私は時計オタクとしての平凡な好奇心から、ダイバーとしてすっかり魅了されるほど、この時計に対する印象は変化した。FXDの美しさ、機能的なデザイン、そして最大限に発揮された水中ナビゲーションツールとしての類希なる性能を目の当りにして、私の視点は段階的に変化していったのだ。
機能美
ペラゴス FXDに対する私の最初の反応は、ジャック・フォースターのセカンドオピニオンに集約されている。私もジャックと同じく、この時計のコンセプトはおもしろいと思うものの漠然としていたが、実際に装着してみると、完全に魅了されたのだった。これは、私がこの時計で水に浸かるよりずっと前のことだ。
FXDを手にする前に私が知らなかったのは、ペラゴスの通常ラインを含むほかのダイバーズウォッチとの違いだった。したがってFXDのさまざまなデザイン上の工夫が、これほど斬新でまとまりのある美しさを形成しているとは思っていなかったのだ。
FXDは、サテン仕上げのチタン製モノブロックケースとメタルブレスレットがないため非常に軽量で、42mmの時計としては驚くほどスマートだ(厚みは、わずか12.75mm)。そのため、FXDは機械式ダイバーズとしては独特な触感をもたらす。それは、超軽量のキャンプ用品やカーボンファイバー製の自転車を持ち上げるのに似た感覚だ。FXDの装着感は、例えば無垢材のブレスレットを装着した重厚なロレックス サブマリーナーの装着感とは正反対のものだ。
機械式時計であるFXDを腕に乗せると、未来的でハイテクというよりは、最先端、つまり真面目で目的がはっきりしている適切な機械ツールのように感じられる。
私がこれまで使用したダイバーズウォッチのなかで最も高いFXDの視認性は、この時計の目的意識をさらに高めている。“スノーフレーク”針、スクウェアインデックス、そして豊かな色合いのブルーは、チューダーのオリジナルモデルで、1969年からフランス海軍のエリート潜水部隊に支給されたミルスペックウォッチ、サブマリーナーのRef.9401/0 “MN”を彷彿とさせる。しかし、FXDを装着して使用すると、その系譜を窺わせるようなヴィンテージ感はまったく感じられない。
チタン製の固定式ストラップバーにファブリック製ベルクロストラップを通すと、すぐにでも使える状態になる(今回は機会がなかったが、ラバーストラップのオプションもある)。ベルクロ製ストラップというと一見地味な印象があるが、このダークブルーの生地はフランスの有名なリボンメーカー、ジュリアン・フォール社が手がけたものだ。しなやかさと丈夫さを併せ持つ、希有な存在だ。ベルクロはウェットスーツの上から瞬時に調整できるため、ダイビング中にその場で調整できる最も簡単な機構でもある。ダイビング後、15分もしないうちに乾いたので快適だ。
FXDの固定式ストラップバーは、戦闘など過酷な環境を想定した旧来の軍仕様に由来する。特にダイビングの前後は、トラックからエアタンクを出し入れしたり、荒れた海のなかでボートに金属製のハシゴをかけたりするので、これほど時計が傷つく環境も希だ。FXDの固定式ストラップバーがもたらす信頼感は、まさに革命的だった。
FXDは、私がダイバーズウォッチに求める目的意識と冒険心をくすぐるモデルだ。しかし、このようなインスピレーションはFXDを実際に体験してみるまで、まったく湧いてこなかった。FXDのデザインは実際に手に取ってみないとわからない、触感を重視したユニークなものだからだ。
ダイビングコンピューターには真似できない芸当とは?
ダイバーズウォッチを語る上で、数十年前にダイビングコンピューターが主流になって以来、機械式時計が不要になったというのが、ある種の決まり文句になっている。時計愛好家が機械式時計を使うのは単に楽しいから、レトロチックだから、20世紀を象徴する道具が好きだから、などなど。我々は機械式時計でダイビングをすることが、ただの道楽であることを公然と認めているようなものだ。
しかし、ダイビングコンピューターは、FXDが得意とする、ダイバーが夜間に行う隠密作戦のようにコンパスで次々と泳ぐタイミングを計るということには向いていない。だから、FXDは決して贅沢品ではない。FXDはデジタルウォッチを凌駕さえする、希有な機械式時計なのだ。
標準的なダイバーズウォッチのベゼルは、空気の消費量を計算できるようにカウントアップし、誤って時間が追加されるのを防ぐために反時計回りにしか回転しない。チューダー ペラゴスの通常モデルもその仕様を踏襲している。
しかし、標準的なペラゴスと異なり、FXDは両方向に回転できるカウントダウンベゼルを採用している。さらに、ベゼルのローレット加工をケースの外側にまで広げ、グリップ性を高めている。このような工夫により、ミッション中、潜水区間毎に何度もベゼルをセット・リセットするような使い方に最適なモデルとなっている。分針に希望の時間間隔を合わせ、分針がベゼルのピップを指すまでコンパスの針路に従い、次に新たな時間間隔をベゼルにセットして次のコンパスの針路を追うような使い方である。
逆回転防止ベゼルを調整したことがある人なら、目盛りを合わせるためにベゼルを再び回転させることがどんなに面倒なことかわかるだろう。朝、卵を食べるタイミングを計る程度なら問題ないが、生死を分ける可能性のある戦闘状況では深刻な問題になりかねない。パイロットウォッチに両方向回転ベゼルが採用されているのは、そのためだ。これらは任務の最中にすばやく設定する必要があるナビゲーションツールであり、しばしば手袋をはめたまま、方向感覚を失うような環境下で使用されるからである。
逆回転防止ベゼルはミッションのナビゲートには理想的ではないが、ほとんどのダイビングコンピューターはさらに使い勝手が悪い。一般的に、ダイビングコンピューターにはカウントアップするストップウォッチが搭載されており、ダイバーは泳ぐたびにその長さを覚えておかなければならない。戦闘時に短期記憶や外部からの指示リストを追加で使用することは軍事的な機能設計上、許されないことだ。
また、仮にダイビングコンピューターにカウントダウン機能があったとしても、デジタルストップウォッチを設定するには複数のボタンやプッシャーを操作し、わかりにくいメニューシステムからアクセスし、起動する必要がある。タイマー付きのデジタルウォッチをいじったことがある人なら、おわかりいただけると思う。そして、ほとんどのダイビングコンピューター(私のものも含む)は、ストップウォッチ機能が作動しているあいだは重要な情報を表示しない。大型の照明付きTFTスクリーンを備えた(スマートフォンのような)現代のダイビングコンピューターは、これらの情報を一度に表示できるかもしれないが、そのようなスクリーンでは戦闘中のスイマーの位置が特定されてしまうかもしれないのだ。
しかし、ここでもやはり重要なのは視認性だ。チューダーは、初代ペラゴスのダイヤルを一新し、デイト表示と立体的なフランジを省略した。FXDのダイヤルはフラットで風防に寄せているため、影など視覚的な乱れが少なくなるよう配慮されている。これらの変更は陸上では些細なことに思えるかもしれないが、水深100ft(約30m)にいるとき、FXDのデザイナーが視認性を最適化することに成功したのが初めて明らかとなる。
これらのディテールは、FXDが装飾的でもなく、贅沢品でもないことを保証している。FXDはツールであり、格好だけではない。FXDはダイバーの装備品に加えられることで、特に視界の悪いダイビングの場面で役立つのだ。
ペラゴス FXDを使って進路をナビゲート
パートナーのシェリーと私はよく一緒にスキューバダイビングをするが、標準的なダイバーのハンドシグナルと、自分たちで作ったいくつかのシグナルで、しっかりとしたコミュニケーションをとることができるようになった。また、視界の悪いところでは視覚信号が効きにくいため、ペアでイレギュラーなナビゲーションをすることもある。チューダーのペラゴス FXDは、そのような悪条件でも我々を助けてくれるだろう。
2020年10月、我々2人はニューヨーク州の有名な淡水湖、極寒のジョージ湖の濁った水中で、外来植物の発生周辺の境界線を調査するために2日間を費やした。潜ってもせいぜい数mということで、減圧停止を必要としないため、潜水時間の記録は意味はない。ダイビングコンピューターは必要な情報を教えてくれないので、身につけることもなかった。
視界は腕の長さほどしかないため、私が外来植物の発生状況を確認しながら、シェリーはコンパスを使ってナビゲートしてくれた。しかし、ジョージ湖の管理当局に報告するチャート上の特定のポイントに、より正確に泳ぐための時間を計るFXDのような効果的なカウントダウン機器がなかった。浮上し、目視で地点を記録することで対応したが、時間がかかるうえに、やや不正確な解決方法だった。
カリブ海でペラゴスFXDの水中ナビゲーション機能を試した今、FXDのようなカウントダウンベゼルがあれば、ジョージ湖の特定の場所をより正確に到達し、メモすることができたことは明らかだ。
ボネールの澄んだ海でFXDをテストしたとき、シェリーはすべてのダイバーが認定講習で習うように、ダイバーひとりでコンパスと時計の両方を操作する方法でナビゲートした。視界がよく、生死を分けるようなミッションがないなか、シェリーの行動を頼りに私は写真を撮ることができた。
シェリーの空気深度計システムにはコンパスが内蔵されており、彼女はそれを右手に持ち、FXDを前にして左腕を折り、ふたつの計器が一直線になるようにした。まるで何年も前からやっていたかのように、簡単にこのナビゲーションを行うシェリーの姿はとても勉強になった。これはFXDの優れた機能的デザインを示すものであり、シェリーの言葉を借りれば、“実際にかなり使える時計”なのだ。
FXDで唯一の不満は、ベゼルの目盛りは“5”の倍数部分すべてにアラビア数字を配した方がよかったかもしれないということだ。例えば、5や15のハッシュマークの近くにベゼルをセットすると周囲の数字に視線を移して認知する必要があり、余計な手間がかかると思うからだ。ただしシェリー自身はこの点に不満を感じておらず、それ以外の点では我々は海中でのFXDの働きに全面的に感心した。
最適なツールとしての訴求
単なる記号に成り下がった機能的なモノに囲まれているのは、ポストモダンの一面である。例えば、流行のホテルに置いてあるダイヤル式の固定電話、誰も読まない色別に並べられたヴィンテージの書籍でいっぱいの図書館、機能しない鍋敷きストーブの上に吊るされた木製のスノーブーツなどだ。
機械式ダイバーズウォッチに関して言えば、その機能はほとんど象徴的なものであることを我々は知っている。しかし、我々はスペックや精度、デザインにこだわり、まるでそれが重要であるかのように追求することで、ツールウォッチに興味を持つことの不条理さをさらに深めているのだ。これは決して斬新な見方ではない。多くの時計愛好家は、このようなツールウォッチとの関係を自覚しつつも楽しんでいるのだ。
しかし、チューダーのFXDは、20世紀にルーツを持つ機械式時計がポストモダンの状態から飛び出して、現代にふさわしいツールとして訴求している希有な例といえるだろう。私は20世紀半ばのダイバーズウォッチと同じように、FXDを素直に受け入れた。このように、この時計と過ごした数週間は、うれしい驚きと思いがけないノスタルジーにあふれた素敵な体験だった。
画像は特に断りのない限り、すべて筆者撮影によるもの。
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チューダー ペラゴス FXDの詳細については、公式Webサイトをご覧ください。
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