trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth ブルガリの新作「オクト フィニッシモ ウルトラ」が世界最薄記録を樹立

壊れたレコードのように繰り返すが、ブルガリはまた新たな記録を更新した。


ブルガリのオクト フィニッシモ コレクションが2014年に始まったばかりとは信じがたい。わずか8年だが、このコレクションは10年足らずでブルガリの高級時計製造の要となり、オーデマ ピゲのロイヤル オーク、パテック フィリップのノーチラスと同じくらい(あるいはオメガのスピードマスター、ロレックスのサブマリーナーと同じく)ブランドと強く結びついているのだ。

 その8年間、オクト フィニッシモ コレクションは超薄型時計の記録を破り、更新し続けることに重点を置いてきた。ブルガリはこれまでに世界最薄のトゥールビヨン、ミニッツリピーター、自動巻き時計、自動巻きトゥールビヨン、クロノグラフ(しかもGMT付きの自動巻き)、トゥールビヨンクロノグラフ、永久カレンダーを発表し、2014年からの8年間で超薄型時計の記録は7つ達成された。

Bulgari Octo Finissimo Ultra

世界最薄時計の新たな記録保持者。ブルガリ オクト フィニッシモ ウルトラ、厚みわずか1.80mm。

 さて、このリストで目立って欠けていたのが、世界最薄時計の記録だ。これまで、その記録はピアジェのアルティプラノ アルティメート・コンセプトという時計が持っていた。2018年に発売されたそれは、全体の厚さがわずか2mmで、時計のケース自体を地板として使用することで、薄さの極限を実現している。これにより、独立したムーブメントを不要とし、実際、時計全体がムーブメントとなり、ダイヤルは輪列、主ゼンマイバレル、輪列と同じ平面上にある。最小限の厚さで可能な限りの剛性を持たせるため、ピアジェはコバルトに加えてクロムとモリブデンを多く含むコバルト合金、M64BCを採用した。

ピアジェ アルティプラノ アルティメート・コンセプト

アルティプラノ アルティメート・コンセプトは、世界最薄の時計ではなくなったが、最先端の時計工学における珍しい作品であることに変わりはない。スティーブン・プルビレントのハンズオン記事「ありえないほど薄いピアジェ アルティプラノ アルティメート・コンセプトを見た衝撃」で、その詳細をご覧いただきたい。

 ピアジェのアルティプラノ アルティメート・コンセプトは、薄型時計の決定版だと思っていたし、実際に手にしてみるとシュールな体験をした。これまで読んだなかで最も優れた表現のひとつに、HODINKEEの読者が書いた「時計というより時計を印刷したコピーに見える」というのがあったが、もし私がピアジェだったら、これは賛辞として受け取るだろう。しかし、もちろん、時計製造において、誰かが記録を打ち立てるやいなや、それを破ろうとするもの。そして今日、ブルガリは、全体の厚さがわずか1.80mmの“オクト フィニッシモ ウルトラ”を発表したのである。

 ピアジェがアルティプラノ アルティメート・コンセプトで採用した、すべての構成要素を可能な限り同一平面上に抑えるという基本戦略は、オクト フィニッシモ ウルトラでも用いられている。そのため、本機でも輪列全体が見えるようになっている。アルティプラノ アルティメート・コンセプトと異なるのは、左上に大きな香箱がひとつ配置され、見える部分の多くを占めていること。香箱のカバーにはQRコードが刻まれており、これを読み取ると、その時計に関するビデオと、その時計に特化したNFTやその他の資産にアクセスすることができる。時計の世界でこのようなNFTの実装を見たのは初めてだ。しかも、リンクするQRコードを装飾要素として、これほど直接的かつ明確に使用した例はない。

QRコードは、ゼンマイバレルのラチェットホイールにレーザー刻印されている。

 時計のケースは、ムーブメントの地板としてムーブメントと一体化しているが、上部はチタン、裏蓋とメインプレートはタングステンカーバイド製のふたつのパーツで構成されている。タングステンカーバイドは非常に硬く、従来の時計ケース素材に比べて加工が非常に困難で、実際、多くの場合、切削工具のドリルビットの素材に使われているほど。本機では、一般的な靭性だけでなく、特に剛性を重視してこの素材が選ばれた。ケースにたわみが生じると、歯車の歯やピニオンが噛みすぎてて時計が止まってしまう恐れがあるからだ。(タングステンカーバイドは、ステンレス鋼の約2倍の剛性がある)。 この硬度により、ケースのタングステンカーバイド部分はレーザーで加工がなされた。一方、ムーブメントのブリッジは、伝統的な時計製造の材料で構成されており、一体型のブレスレットもチタン製で、標準的なオクト フィニッシモのブレスレットの半分の厚さしかない。

タングステンカーバイドケースバック/メインプレートをレーザ加工する様子。

 この時計は、コンプリケーションのスペシャリストであるコンセプト(Concepto)社とのパートナーシップによって誕生。ブルガリ ウォッチ デザイン センターシニア・ディレクターのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏が、先週のZoomプレゼンテーションでHODINKEEに語ったように、この時計は最終的なデザインに至るまでには、ある種のプロセスがあったそうだ。時計のケースをムーブメントのプレートとして使うという基本的なアイデアは不可欠だったが、最初のデザインをコンセプト社がプレゼンしたとき、スティリアーニ氏は、「唯一の問題は、それが他の時計に見えることだ!」と言っていたそうだ(おそらく、アルティプラノ アルティメート・コンセプトのことだろう)。

タングステンカーバイドプレート/ケースバック、真鍮のプロトタイプを使用。

 スティリアーニ氏によれば、そのときブルガリとコンセプト社は、白紙からやり直したのだという。「ラウンド型にする必要も、3針にする必要もない」と彼は言った。何度も修正を重ね、コンセプ ト社は完成に至った。ムーブメントは文字盤の丸い開口部にぴったりと収まるが、右側には時・分のサブダイヤルのエッジのためにふたつの切り欠きがあり、主ゼンマイ、テンプ、ふたつのサブダイヤルの中心軸は、正確には四角形ではないにしても、少なくともその四隅に配されている。

ケース素材。右から時計回りに、ベゼルとクリスタル風防、ムーブメントプレート/ケースバック、ケースボトム、ガスケット。

 バックプレート/ムーブメントプレートは、超硬合金の一体削り出しで、丸みを帯びた長方形のアウトラインをなしていて、ラグを含むケース底部に直接はめ込まれている。ケース底部とベゼルのあいだには、ケースを縦にしたときに見える非常に薄いガスケットがあり、最後にベゼル、そこに上部のサファイアクリスタルが取り付けられている。ケース全体は、ロウアーケース(いわば下部のベゼルのようなもの)、ケースバック/ムーブメントプレート、ガスケット、そしてベゼルの4つのパーツでサンドイッチされた状態になっている。

 クリスタルの厚さはわずか0.3mmで針の隙間は0.1mmと、期待通り非常にタイトなクリアランスを実現している。安全対策として、文字盤の下にふたつの丸いシリコンバンパーがあり(主ゼンマイから見て3時位置と6時位置)、過度の圧力がかかった場合にクリスタルの裏側がムーブメントに接触するのを防いでいる。

 アルティプラノ アルティメート・コンセプトでは、時針と分針は通常のダイヤルのように配置されているが、(これも輪列レベルにまで下げられている)、ブルガリでは時分針にふたつの個別のサブダイヤルを用いている。ランニング・セコンドも表示されるが、これは輪列の動力の流れに直接連動している。

時間用サブダイヤルをレーザーエッチングで表現。

分ホイールのサブダイヤルを配置。

 テンプには板バネを採用(ブレゲオーバーコイルはクロノメーターや工芸品の観点からは好ましいが、厚みがでるためこうした超薄型時計には原則的に採用されない)。テンプの微調整は、アジャスタブルリムウェイトによって行われる。テンプはみっつのアームからなるテンプ受けの下で振動し、ヒゲゼンマイの内端カーブのためのスタッドホルダーが内蔵されている。このブリッジは、通常の4石(ふたつの軸受けとキャップジュエル[蓋石])とショックスプリングに代わって、テンプの耐震システムとしても機能するように設計されている。

3アーム式バランスブリッジ、スタッドホルダーを内蔵。

 従来型のリューズはなく、ゼンマイの巻き上げや針合わせを行う輪列やクラッチ機構が不要なため、ムーブメントの省スペース化を実現。その代わりに、ローレット加工が施されたふたつの独立した水平の歯車(平らなツマミのようなものだ)がケース側面にセットされている。右側の歯車で時刻を調整し、8時位置にある左側の歯車でゼンマイを巻き上げる。設定ツマミにはニュートラルポジションと第2リューズポジションがないため、針の駆動輪は輪列からディファレンシャルギアで分離されており、針を設定する際に輪列の回転を妨げることが無いように設計されている。

 ツマミのすぐ隣、ムーブメントの3時位置に見える小さなクリックホイールは、設定ツマミの回し間違いを防ぐだけでなく、時刻合わせの際に感触をフィードバックする(ニュートラル位置がないため、ノブが不意に動くのを防ぐため)。

ケースバック/ムーブメントプレートはタングステンカーバイド(グレー)、ロウワーケース本体(チタン、ライトグレー)、巻上げ用ツマミ(右)と時刻合わせ用ツマミ(左)。

ディファレンシャル機構。

 オクト フィニッシモ ウルトラの技術的な偉業(8つの特許を申請中)にもかかわらず、私の目にはこれらの機構は非常に伝統的に見える。例えば、オオカミの歯を改造したような歯車と、巻き上げと時刻合わせの歯車に隣接するコハゼが使用されている点だ。また、伝統的なデザインの時計に見られるような直線的なデザインではあるが、主ゼンマイ香箱のラチェットホイール自体にも非常に伝統的な外観のコハゼ(クリック)とコハゼバネ(クリックスプリング)がある。ウルトラのスティールワークには、非常に伝統的な研磨とアングラージュも施されている。

中央のムーブメントブリッジに石を置く様子。

 超薄型時計はすべて、極限のフラットさと合理的な精度や信頼性を両立させるために苦労している。ケースをムーブメントプレートとして使うという基本的なアイディアは、1986年のオーデマ ピゲによる自動巻きトゥールビヨン、Cal. 2870までさかのぼることができ、コンコルド社はデリリウムで、オメガは超薄型ディノサウル(Dinosaure)(いずれもクォーツ)で同じアイデアを採用している。地板とブリッジはほぼオーソドックスな構造を用いてケースとは別の機構として作られた、今日における最も薄いムーブメントは、厚さ1.85mmのジャガー・ルクルト Clal.849、そして同じ基本設計で1.64mmのヴァシュロン・コンスタンタン Cal. 1003である。

コンコルド クォーツ デリリウムの初期の広告、ティファニーにて。

 これらのムーブメントはどちらも極めて薄型でそれなりの信頼性があり、しかも多かれ少なかれ標準的な時計製造の道具と技術で修理することができる。オクト フィニッシモ ウルトラは、ケースなしのCal.849よりも(0.05mmとはいえ、事実は事実だ)薄いというのは、ブルガリがいかにこのモデルで物事を推し進めてきたかを示すものだ。

 もっと薄い時計やもっと薄いムーブメントもあった。最も薄いクォーツ デリリウムは厚さ0.95mmで、史上最も薄い時計だと思うし、1920年代にはヴァシュロンがポケットウォッチ用のCal.10726を製造し、厚さ0.90mmという薄さを実現している。しかし、デリリウムもヴァシュロンのキャリバーも非常に壊れやすく、実用的とは言えなかった(ヴァシュロンはCal.10726のムーブメントを3個しか作らず、その後断念している)。

 ブルガリ オクト フィニッシモ ウルトラは、広く普及させるための時計ではない。同社は、少なくとも現時点では10本の限定生産としており、ファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏は、このプロジェクトがこれまでで最も困難であったと語っている。また、この時計はおそらくもっと薄くすることができたはずで(可能性として全体で1.50mmまでありえるとのこと)、その場合、許容できるレベルの実用性が犠牲になる危険があるとも語っていた。

 以前にも思ったことだが、ブルガリの過去8年間の業績から学んだことは、記録の更新が不可能であることを前提にしてはいけないということだ。しかし、機械式時計の最薄記録でウルトラを超えるものが現れるとはとても思えないし、実際、自慢話をする以外になぜこの時点で誰かがわざわざ挑戦するのか想像もつかない。

 ムーブメントの全体的なレイアウトは、ここまで平面で作られた時計からするとありえないような視覚的奥行きが与えられている。1920年代のジャガー・ルクルト製懐中時計“ナイフ”以来、超薄型時計製造において最も顕著に推進されたこの8年間を締めくくるにふさわしい作品であり、ブルガリが次に何を用意しているのか、(また)気になってしまう。ただひとつ言えることは、「予想外の展開になる」ということだ。

ブルガリ オクト フィニッシモ ウルトラ: サンドブラスト仕上げの40mmチタンケースとアンスラサイトDLC加工が施されたタングステンカーバイトプレート(厚さ1.80mm)、時分カウンター、ブラックPVD加工の針、1気圧(10メートル)防水。

超薄型マニュファクチュール手巻きムーブメント、BVLCal. 180(厚さ1.50mm)。ラチェットホイールにはNFTのアートワークにリンクする独自のQRコードが刻印されている。50時間パワーリザーブ、2万8800振動/時(4Hz)。フォールディングクラスプつき超薄型チタン製ブレスレット。

風防、香箱構造、振動モジュール、ディファレンシャル・ディスプレイ、モジュール構造、ブレスレット、バイメタルケース中板/ケースバック、ブルガリ シンギュラリティ テクノロジー(Bvlgari Singvlarity Technology)に関する8件の特許を申請中。

世界限定10本。価格: 40万ユーロ(約5275万円)。

Shop This Story

HODINKEEはBVLGARIウォッチの正規販売店です。BVLGARIのウォッチメイキングについては、ブルガリ公式サイトでご覧ください。

ログイン もしくは 新規登録 をしてコメントしてください。
承認待ち

薄型時計は大好物です。薄くした上に実用性を盛り込んで本当に素晴らしい。デザインや仕上げも格好良くできていると思う。いつかこの技術でドレスウォッチを作って欲しい。

1 いいね