私はブルックリンに住み、バスケットボールが好きだが、ブルックリン・ネッツには興味がない。スパイク・リー(Spike Lee)もブルックリンに住んでいるが、同様に同区のNBAチームへの愛情はほとんど持っていない。彼はニックス、私はウィザードのファンで、ネッツに対する無関心が我々の共通点だろう。そして、映像への尽きることのない情熱も。
BK(テキストの時間を節約するため。実際にはそう呼んでいない)のフォートグリーン地区を歩いていると、地味な住宅街にある、かなり装飾の凝った外観の建物に出くわすだろう。ここにはリーの制作会社、「40Acres and a Mule Filmworks」の本社がある。ここで「ジョインツ(Joints)」が作られるのだ。
スパイク・リー監督作品の多くは、ニューヨークを生きた人物としてスクリーンに登場させるのが特徴である。『ドゥ・ザ・ライト・シング(原題:Do The Right Thing)』は、80年代後半のベッドフォード・スタイヴェサントが舞台になっている。『ラストゲーム(原題:He Got Game)』には、コニーアイランドの精神が息づいている。ニューヨークは、プロットの一部として存在していない映画でも輝いている。
もうひとり、彼の映画作りに欠かせないのがデンゼル・ワシントン(Denzel Washington)という俳優だ。もしかしたら聞いたことがあるかもしれない。
2006年、リー監督は当時彼にとって最もメインストリームな作品となるものを製作し、最も多くの劇場公開を行った。この映画は、マンハッタンを舞台にクライヴ・オーウェン(Clive Owen)とワシントンが出演する強盗映画『インサイド・マン( Inside Man)』である。シドニー・ルメット(Sidney Lumet)の名作『狼たちの午後』(「アッティカ!」)のような、銀行強盗映画を象徴する作品の精神的後継作であり、その映画から数人の俳優がイースターエッグ的に出演していることもある。映画マニアにはたまらない作品だ。時計マニアにはワシントンが変り種のゴールドウォッチを身につけているが、リーのニューヨーク風のエスプリに見事にマッチしている。
注目する理由
ニックス、ビッグアップル、そしてデンゼル・ワシントンもさることながら、多作なリーと切っても切れない関係にあるのがナイキである。リーといえば90年代のナイキの広告で、あのマイケル・ジョーダン(もちろん議論の余地はなし)とともに登場した分身、マース・ブラックモンが有名だ。後ろ向きの帽子にオーバーサイズのメガネをかけたスニーカーヘッズは、現代を代表する広告キャンペーンのひとつである「It's gotta be the shoes」というフレーズを生み出し、人気を博した。先週、ナイキの50周年を記念してリーはその役を再び演じ、ナイキへの感動的なトリビュート作品を撮影するために再び監督の座に戻った。その撮影が行われたのは主に、もちろんニューヨークだ。
そこで、今回のWatching Moviesでは『インサイド・マン』に注目した。リー監督がこのジャンルの映画に挑んだ珍しい作品で、2時間にわたる純粋な映画的エンターテインメントだ。この映画はクライヴ・オーウェン演じる犯罪の首謀者ダルトン・ラッセルの銀行強盗を描いたもので、彼は仲間とともに完璧な犯罪を実行すべくマンハッタン信託銀行に乗り込む。しかし物事は計画通りには進まず、よりダークなプロットが仕掛けられているのだ。ラッセルの計画を阻止しようと決意するのは、ニューヨーク市警のキース・フレイジャー刑事(ワシントン)。ニューヨークの法執行機関のフル装備を纏い、マンハッタンのトレンディな地区にちなんで名付けられた超特殊なゴールドカラーのジェビル チェルシーを身につけている。
ジェビルは、おそらく多くの人にとってなじみのないブランドだろう。もし知っているなら、それはもうひとつのNY関連のタイムピース、ポール・ニューマンのロレックス デイトナのほぼ1:1のレプリカ、通称“ジェビル トライベッカ”からだろう。レプリカについてのコメントを書く前に知ってほしいが、この時計は技術的にはレプリカではないし、私自身がこの時計を紹介した最初の人間でもない。その栄誉は、数年前にTalking Watchesで彼自身のトライベッカを紹介したキーガン・アレン(Keegan Allen)氏に属するものだ。そして、なんと彼はこの時計をとても気に入っている。私は彼を責めるつもりはない。ポール・ニューマン デイトナ(専門用語で)の市場は異常で、これを身につけることは銀行の金庫を手首につけて歩くようなものなのだ。彼が言うように「25万ドルの時計をつけずに、25万ドルの時計をつけているような気分になれる」。それが正しい姿勢なのだ。
銀行の金庫に話を戻すと、フレイジャーは18Kイエローゴールドのジェビル チェルシーを、同じくゴールド(ブレスレットが金無垢かゴールドトーンかはわからない)のジュビリー風のブレスレットにつけているように見える。また、ブレスレットのスタイルから、ジェビル マディソンである可能性もある。チェルシーは、ドレッシーでフォーマルな、パテックのようなローマ数字のマーカー、曜日と日付表示、およびムーンフェイズのついた直径39mmの控え目な時計だ。ETA2824を搭載し、さらにデュボア・デプラ 9310モジュールを搭載することで複雑機構を搭載している。
ゴールドのジェビル チェルシーは100本限定のモデルなので、フレイジャー刑事は時計マニアであるだけでなく、幸運な時計マニアでもあるようだ。ニューヨーク市警の刑事が18Kゴールドの限定モデルを買えるほど稼いでいるのなら、私を雇ってほしい。偉大な人質交渉人になれると思う。コストとは関係なく、私はチェルシーがフレイジャーと映画の両方にフィットする偉大なキャラクターだと思う。スパイク・リーの世界観にNYにまつわる別の切り口を持ち込み、カフスボタンを締め、中折れ帽を被ったフレイジャーにぴったりのスタイルであることを証明しているのだ。さらにデンゼルは好きな服をなんでも着ることができる。
見るべきシーン
ラッセルのモノローグに続いて、我々はスパイク・リーの古典的なニューヨークのモンタージュに引き込まれ、銀行強盗の最初の瞬間に導かれる。強盗が動き出すと、シーンは警察署に移り、そこでフレイジャーがガールフレンドと電話をしているところになる。彼らは、彼のキャリアやお金のこと、そして彼女の兄がまた逮捕されたこと(彼女も警察官)について口論している。彼が電話を切り [00:09:44] 、彼のパートナー(キウェテル・イジョフォーが演じる)から軽い非難を受けると、フレイジャーの広い、カフリンクで固定された袖の下にジェビル チェルシーを初めて垣間見ることができる。この後、彼の一日は大きく変わることになる。
フレイジャーは、偶然にも銀行強盗事件の担当刑事となる。上司がたまたま休暇中だったのだ。彼と相棒は銀行の前に到着し、当直の警部ジョン・ダリウス(ウィレム・デフォー扮する)から報告を受ける。ダリウスから詳しい説明を受けたフレイジャーは、その内容を理解し、自分なりの作戦を立てる。3人はニューヨーク市警のトレーラーに近づき、階段を上って中に入る。フレイジャーは階段の手すりに手をかけ [00:30:30] 我々観客は、彼の18カラットのジェビル チェルシーを堪能することができるのだ。なんという光景。
『インサイド・マン』(デンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン出演)は、スパイク・リー監督作品。HBO Maxでストリーミング、iTunesとAmazonでレンタルまたは購入が可能。