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A Week On The Wrist 高級時計界の衝撃作、カルティエ クラッシュを1週間レビュー

変わり種からモダンクラシックへの変貌。

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カルティエ クラッシュは、同社の歴史上、興味深い瞬間に生まれた。1967年、カルティエ ロンドンは、カルティエの歴史ある3大ブティックのうち、一族が経営していた最後のブティックだった。歴史的にはつながっていたものの、ブティックはそれぞれ独立で経営されていた(カルティエ ニューヨークは1962年に、カルティエ パリは1966年に売却された)。伝統的なラグジュアリービジネスにとっては、まさに激動の時代であったと言って過言ではない。カルティエは、ヨーロッパとフランスの伝統的なラグジュアリーブランドの代表格であり、王族や(特にアメリカでは)王族に憧れる人々のニーズに応えることでビジネスを成り立たせていたのである。しかし、1960年代に入ると、この上流階級向けのアプローチは次第に通用しなくなり、時代遅れの感が否めなくなった。そこで、時代の潮流に合わせてジャン=ジャック・カルティエの指揮のもとカルティエ ロンドンは、同ブティックにとってかつてないほど伝統と決別した時計を製作した。

Cartier Crash

 それが今回ご紹介するカルティエ クラッシュである。クラッシュはジャン=ジャック・カルティエがデザイナーのルパート・エマーソンと共同でデザインしたのだが、数十年にわたって、この時計の起源にまつわる神話がついてまわった-ある自動車死亡事故でオーナーの腕にあったカルティエ ウォッチが衝撃と炎で溶けて、魅力的な形になったというものである。現実は平凡でもあり、興味深いものでもある-クラッシュは、1960年代という時代の嗜好の変化を表しているのは確かだが、その起源となる説とは対照的に、一切の妥協を許さない時計でもあるのだ。

 ロンドンブティック版の初代クラッシュは、わずか10数本しか存在しないとされている。このように数が少なく、コレクターの関心も非常に高い時計は、市場価格について語ることはできない-市場に出てくる頻度が少なすぎて、相場が定まらないためだ。なお、ロンドンブティック版のクラッシュの最新の落札価格は150万3888ドル(約1億9590円)である。もし明日この時計が売りに出されたとしても、その落札額は神とルイ・カルティエの亡霊のみぞ知るだろう。

 カルティエ ロンドンでの初代生産分以外のクラッシュは(相対的に)かなり玉数が多く、これには1990年代にカルティエ パリで生産された400本が含まれる。カルティエ クラッシュは現在のカタログに掲載されており、本記事執筆時の定価は3万6500ドル(約507万円)だが、街中で見かけることは滅多になく、現行品のクラッシュが比較的珍しいことも、その魅力に拍車をかけているようだ。このA Week On The Wristのために用意されたクラッシュは、カルティエ Cal.8971、つまりジャガー・ルクルトのCal.846を採用している。ロンドンブティック版の初代クラッシュもJLCキャリバーを使用していたので、この点は歴史的に一貫している。

1週間手首につけてみて

 ときには、着用する前から予想がつく時計もある-誰がなんと言おうとダイバーズウォッチはダイバーズウォッチである。しかし、このクラッシュは、少なくとも私の予想を裏切る時計だった。実際にクラッシュを身につけたことのある人でなければ、わずかでも似た時計すら身につけたことはないだろう。写真で見る限り、「ちょっと変わった時計」という印象で、必ずしもカリスマ的なオーラを纏った時計ではない。しかし、じっくりと時間をかけて見ていくと、一見(あるいは二度見、三度見)すると見落としがちな魅力がこのクラッシュに数多くあることが見えてくる。

Cartier Crash

 カルティエ クラッシュは、その名のせいか、発祥の地の都市伝説のせいなのか、あるいはその両方なのか、一見するとかなり奇抜なデザインに見える。カルティエの時計をクラッシュ(破壊)させるという発想は、他のカルティエのデザインに比べ、過激で無秩序な歪みを意味するように思われるからだ。しかし、このデザインは非常に洗練されており、細部に至るまで徹底的に考え抜かれている。その結果、確かに奇抜ではあるものの、タンク ルイ・カルティエのクラシシズムと威厳を受け継いだ時計に仕上がっているのだ。

Cartier Crash

 クラッシュのケースは明らかにアシンメトリー(左右非対称)だが、それだけではない。ケースの頂点から時針と分針の軸を通り、時計に中心線を引くと、その線分はケース底点を通らないことが分かる。しかし、特にVIIIの膨らみとくぼみを交互に配置した構成により、時計全体の視覚効果はシンメトリー(左右対称)となっている。この中心線は、ダイヤル中央の“Cartier”と“Swiss Made”の文字を含む尖った楕円の上下の頂点も通過している。

 ローマ数字のレイアウトやデザインも非常に洗練されている。どの数字もユニークである-数字は標準的なフォントから構築されておらず、各数字の伸長、形状、厚みの各要素が、ときには数字ごとに劇的に異なっているからだ。XIのXの細い足は複雑なS字カーブを描いているし、単独のVの細い足、その形はケース右下のくぼみと呼応しているなど、形状は非常に複雑だ。ケースと調和するように特別にデザインされたローマ数字は、まるでケースが伸び縮みし、数字が流動的な物体に印刷されたように歪んで見える。

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真にユニークな時計

 すべての腕時計は、あるいはほとんどすべての腕時計は、そのデザインを時計製造史の先達に負っている。しかし、このクラッシュに匹敵するような腕時計は、他に思い当たらない。クラッシュは、ドレスウォッチの最も基本的な要素を根本的に見直したものなのだ。

Cartier Crash

 クラッシュの最も興味深い点は、それが非常に時代遅れに見える可能性があったということだと思う。ポップ・アートや視覚芸術が隆盛を極めた時代に発表された、アンディ・ウォーホルの『キャンベルのスープ缶』のようなある意味、時代の産物とも言えるだろう。この時期の時計は、華やかな配色と大胆なケースデザインが特徴的だが、そのすべてが普遍的であるわけではなく、魅力的でありながら、その時代の呪縛からは逃れられないのである。

Cartier Crash

しかし、このクラッシュは、大衆受けとは対極を行くデザインだ。20世紀初頭のカルティエのクラシックなデザインに見られるような、ダイナミックでありながら、非常にバランスのとれたデザインである。そして、最も正確な意味での“比類なき”時計なのだ。タンクやサブマリーナーを模倣することはできても(多くのブランドがそうしてきたように、ある時点でデザインは、その発案者が望むと望まざるとにかかわらず、そのクラスのものの共通のデザイン言語の一部となり始める)、クラッシュのデザインを模倣しようとする楽観的な人は想像できないし、もし誰かがやろうとしたら、商業的にも批評的にも成功しないだろうと私は確信している。

 クラッシュは今年で55周年になる。普通なら、「よく真似されるが、決して同じではない」というのが定型句だろう。よく真似される、というのはクラッシュには当てはまらないが、限られた基本的なデザイン要素からどれだけ洗練されたものを引き出せるかを示すものとして、私はこれほどまでに綱渡り的な、背水の陣を組んで挑んだデザインを実現した時計を思い浮かべるのに苦労している。私はこの時計を、カルティエが得意とする、非常に困難なことを難なく見せることのできる最高の例のひとつだと思っている。それはまるで、バレエダンサーの絶頂期を見るようなものだ:技量ではなく、踊りそのものに魅了されるように。

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カルティエ クラッシュは、カルティエ ロンドン ボンドストリートブティックでのみ購入可能。写真は65本限定生産モデルです。

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時計を分からない人が見ても、一目で凄さが伝わるのがこの時計の特徴だと思う。なぜこの時計がこんなに美しいのか、おぼろげだけど分かった気がする。