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Hands-On リシャール・ミル RM 17-01 トゥールビヨン カーボンTPT®

大きく、軽く、大胆不敵。僕がちょっと愛する一本。

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リシャール・ミルの時計について考えるとき、真っ先に思い浮かぶのは「アグレッシブ」という言葉です。リシャール・ミルの時計にはいつも何かしら挑戦的な部分があり、その特有の姿勢を時計全体で主張しているのです。トノー型のケースから、スケルトンのムーブメント、色や質感まで、どこをとっても注目せずにはいられない時計だといえます。だからご想像の通り、RM 17-01 トゥールビヨン カーボンTPT®が僕のデスクにやってきたとき、当然のように興味をひかれることになりました。

 正直に言いましょう。この時計が手元にやってくるまで、僕はこれについて見聞きしたことがありませんでした。リシャール・ミルは2019年の9月にこの時計をコレクションに加えましたが、ただインスタグラムに投稿したのみで、通常のプレスリリースやイベントといった派手な宣伝を行いませんでした。たったの10本だけが製造され、世界各地のリシャール・ミルブティックで販売されているのです。そのうちの1つが、たまたまニューヨークにあったので、他の誰かが確保する前に、僕がRM 17-01と1日を過ごす機会を得ることができました。それは幸運なことでした。

 RM 17-01はさまざまな形で発表されてきましたが、今回のモデルは旧来のリシャ―ル・ミルのモデル・RM 017をベースにしています。RM 017はレクタンギュラー型の非常に薄く、スケルトン仕様のモデルに手巻きトゥールビヨン ムーブメントを搭載したものです。その薄く、角ばった見た目のために、長らくリシャ―ル・ミルのカタログの中で異質な存在でした。それと同じムーブメントをRM 17-01も採用していますが、より馴染みのある厚めのトノー型ケースに内蔵されています。リシャ―ル・ミルの典型的な手法といえるでしょう。

 この限定エディションを特別なものにしているのはそのケースで、リシャ―ル・ミルがこの数年間、好んで使用しているカーボン複合材である、カーボンTPT®が使用されています。従来のカーボンファイバーとダマスカス鋼の中間のような見た目で、ダークグレーの表面に波うった木目調の模様が見られます。ベゼルとケースバック、ケース側面もすべてカーボンTPT®製です。マットな印象ですが、実際には変化に富んだ表層が光を見事にとらえるので、金属のような強い輝きではないものの、淡く光を反射します。

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 カーボンTPT®のもう一つの長所はとてつもなく軽いということで、本当に信じがたいほどに軽いのです。48.15mm×40.1mm×13.8mmというサイズでありながら、着けてみると大ぶりな時計という感じが全くしません。カーブした形状のケースバックのおかげもあり、想像以上に着け心地が良いのです。ケースの高さがなく、腕を包みこむようで、邪魔な感じがありません。シャツの袖口に容易に収まるわけではありませんが、リシャール・ミルを購入できたならそれを隠したいとは誰も思わないでしょう。リシャールを腕に着ける度に、僕はその心地良さに繰り返し驚かされますが、この最新のRM 17-01も例外ではありません。

 Cal.RM017にちょっと話を戻すと、このムーブメントを「スケルトン化された」と表現するのはほとんど侮辱であるといえそうです。元々あるキャリバーの一部を切り取った感じには見えないのです。むしろ、光の通り道を十分に残し、時計を重くするだけの不要な要素を排除し、可能な限り余計なものをなくすために、一からデザインし直されたように感じられます。そこには本当のところ、本機には文字盤といえるような部分がなく(厚さ0.3mmのサファイアガラスがありますが)、ムーブメントのパーツ上に浮かんでいるような表示と、インナーベゼルに付けられた夜光目盛り(そこには分目盛りも記されている)があるだけです。ここまでオープンなつくりでありながら、このダイヤルは判読性も担保され、シャープなピンクゴールドの針はチタンパーツによく映えています。表示は光の加減によって明るい黄色のように見えたり、抑えた金色に見えたりして、それがこの時計にちょっとした趣きを与えています。

 機能の面では、この時計には多くのものが詰まっていて、とりわけ3針時計に必要なものはすべて揃っています。時針と分針があり、2時位置に70時間のパワーリザーブ表示があり、3時位置にリューズが巻上げ・ニュートラル・時刻合わせのどのポジションなのかを知らせてくれる、機能選択表示があります。ワンミニッツトゥールビヨンも搭載していて、6時位置で存在感を主張。RM 017の無骨なデザインと主張の強い曲がったブリッジのために、そこに収められたトゥールビヨンケージに一見して気付かなくても無理ありませんが、この時計の一番の見どころでもあるのです。トゥールビヨンをこのようなスポーツウォッチに搭載するのはリシャール・ミルお得意のやり方で、期待にたがわず、巧みに組み込まれています。

 どんなリシャール・ミルもそうであるように、この時計も安くはありません。RM 17-01は49万3000ドル(約5400万円)というなんとも素敵な価格です。これだけの金額を出せば購入できる、とびきり素晴らしい時計は数多くありますが(極上の時計が1つばかりか、3つか4つ手に入る金額です)、リシャール・ミルは他のどんな時計とも比べられない時計なのです。それがこのブランドの強みのひとつです。リシャール・ミルを欲した人は、おそらく本当にリシャール・ミルしか欲しくないのであり、他の時計と比較検討して買おうなどとは一切思わないものなのです。

 あなたは今こう考えているのかもしれません、「スティーブン、君は本当にリシャール・ミルが好きなのかい? 君が? モノクロ文字盤の小さな3針時計を身に着けているのに? 本気かい?」。その答えはシンプルに、そしてとても真剣に、「イエス」です。僕は本当に好きなのです。好きでたまらないのです。普段の好みに反しているものの、リシャール・ミルの時計に心を奪われてしまっているのです。同じような時計があふれている中で、リシャール・ミルは独自の時計を作り、多くの他の時計メーカーが「高級な時計づくり」はこうあるべきだと考える道を外れています。僕のヴィンテージ・エクスプローラーに代わってリシャール・ミルのトゥールビヨンを日常使いしたいとは夢にも思いませんが、僕の時計コレクションの中に、ちょっと特別な日のために、とっておきのリシャール・ミルを加えてもいいような気がしているのは本当です。

 自分の慣れ親しんだ心地良い領域から抜け出して、いつもと違うことをするのは大事なことです。それは人生において大事であるのはもちろんのこと、どんな趣味や探求においても、はたまた車やアート、そして時計への愛着においても大事なことなのです。この時計は、僕を心地良い領域から連れ出します。それによって僕はしきりに考えることになるのです。自分が何を好むか、それはなぜか「高度な時計づくり」についてどう考えるのか。そしてその理由、それから、21世紀の機械式時計をおもしろくするのは何なのか、といったことを。僕がこの時計と過ごしたのはとある一日の午後だけですが、そのようなわけで、このRM 17-01 カーボンTPT®は、僕の記憶に深く刻み込まれました。

リシャール・ミル RM 17-01 トゥールビヨン  カーボンTPT®は49万3000ドル(約5400万円)で、10本のみの限定エディション。詳細についてはリシャール・ミル公式サイトをご覧ください。