時計の収集と鑑賞の世界は、この10年で大きく進歩した。かつては難解であったものが今や主流となり、業界の内部事情も公知のものとなっている。ある意味では、時計という趣味から神秘性が失われ、またある意味では、真に特別なもの(見方によっては狂気的なもの)が生み出されたとも言えるかもしれない。今日ご紹介するのは、ニバダ・グレンヒェンと時計のカスタマイズを手がけるUNDONE(スペースジャムを手掛けた同じブランド)の新しいコラボレーションで、スペシャルかつクレイジー、そしてリミテッドエディションの完璧なマリアージュが表現されている。その名もニバダ・グレンヒェン × UNDONE デプスマスター ピクセルアートだ。
プレスリリースで見て、「ハンズオン記事を書きたいのですが」とすぐに相談した。UNDONEからの返答は「えーと…...1本送りますよ」だった。
そして、レビューすることになったのだ。すべてのレビューがそうであるように。私は、自分の仕事がどのように行われるのか、一瞬忘れてしまったようだ。いずれにせよ、なぜ私がこの作品に興奮したのか。それは、ニックネームを本当に実現したものだからだ。
かつてアルトン・ブラウンが「ベビー・パネライ」と呼んだケースと、80年代のゲームキャラクター「パックマン」のような文字盤を備えたクラシックなダイバーズウォッチだ。ただしデプスマスターはこのゲームよりも何十年も前にデザインされたもので、似ているのはまったくの偶然だった。
以前にもここでご紹介したが、ニバダ・グレンヒェンは1970年代から80年代にかけてクォーツが台頭するなかで、多くの犠牲者を出したメーカーのひとつだった。現在は、ギョーム・ライデ氏の指導とマネジメントのもと、次々と素晴らしいモデルを静かに復活させている。彼のニバダは、マイクロブランドとレガシーブランドの中間に位置するような存在で、キラーデザイン(歴史を感じさせる)とバリュープライスを両立させている。彼はすでにデプスマスターをクラシックな形で復活させているのだ。
このUNDONEとのコラボレーションは、まったく別モノだ。しかも、ここ数週間で発表された彼のコラボレーションは、これだけではない。11月末には、ニバダとseconde/secondeのクロノマスターシリーズで、“カオスマスター”と名づけられた、同じく奇抜な、でもそれに劣らずクールな限定版の腕時計が発表された。しかし、今日はピクセルアートに注目したい。
ピクセルアートと呼ばれるのはなぜって、見てくれ。文字盤のマーカーをあえてピクセル化し、パックマンのモチーフを誇張しているのだ。私が特に気に入っているのは、パックマンのブランドをあからさまに打ち出しているわけではなく、むしろコレクターたちに名づけられたニックネームをよりあからさまにするためにスタイリングされている点だ。
ピクセル化されたマーカーがこの外観で最初に目に留まる部分で、ブラックのレイヤーを剥がしたような雰囲気だ。ブラックの文字盤はまるでゲーム画面のようなピクセルのような質感に仕上げられているのも特徴だ。また、文字盤上の深度表示は、ゲームのハイスコアをイメージさせるイエローのドット絵風のタイポグラフィで表現されている。
全体として、このデザインは遊び心に溢れているが、決して悪いものではない。一線を越えているとは思わないが、その一線に近いからこそ、私は気に入っているのかもしれない。私はこの時計をブラックのトロピックスタイルストラップ(イエローステッチのブラックレザーストラップとイエローのトロピックスタイルストラップもある)で試すことにしたのだが、それはフルブラックを強調する感じが好きだったからだ。
ケースは39mm(ラグからラグまでの全長はわずか47mm)で、ヴィンテージ風のクッションデザイン、ヘリウムエスケープバルブ(1000m防水)を備えており、装着感に優れている。ステンレススティール製ケースにはマットなDLCコーティングが施され、ケースバックにはダイヤルアートと同じイエローフィニッシュのエングレーヴィングが確認できる。完全にブラックアウトされたモデルである。
同じくブラックの120クリックのベゼルはケースによく映え、イエローの蛍光塗料が文字盤をクールに引き立たせる。この時計の内部では、ソプロード(Soprod)社製のCal.P024が搭載されている。特別なものではないかもしれないが、このような時計ではデザインに重きが置かれるからだ。そして、15万6200円という税込価格に異議を唱えるのは難しいことだ。
この時計は、200本限定ということもあり、特別感があり、とても楽しくつけられた。このようなインスピレーション、つまりピクセル化されたグラフィックの栄光の時代を、意図的に時計のデザインに置き換えることは、めったにないことだ。このアイデアをさらに発展させて欲しいと感じた。
私が聞いた限りでは、これはUNDONEとニバダの多くのコラボレーションの最初であるとのこと。次はどんなものが出てくるのか、楽しみだ。
すでに世界の各市場で発売されているニバダ・グレンヒェン × UNDONE デプスマスター ピクセルアートについては、こちらでご覧いただくことが可能だ。
ニバダ・グレンヒェン × UNDONE デプスマスター ピクセルアート:1000m防水。直径39mm、ラグからラグまでの全長は47mm。DLCコーティングが施されたステンレススティールケースとレザーストラップ、トロピックスタイルのストラップはイエローとブラックの2種類。ムーブメントはSoprod P024。価格は15万6200円。
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