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Lead illustration of the Sylvain Pinaud Origine by Andy Gottschalk.
私が知る限り、時計産業で最もエキサイティングなのは、独立系時計メーカーの世界だ。この趣味と産業のなかで、最も多様で魅力的な分野だ。企業というよりは個人、広報ではなく個性、そして最も重要な特性は常に職人の技術が重視される世界だからである。
しかし、“独立系時計メーカー”とは、いったい何を意味するのだろうか? オーデマ ピゲやパテック フィリップ、そしてロレックスも、株主の付託を受けていないことから、法的には“独立系”であると、知ったかぶりの人たちはよく指摘する。私の考えでは、独立系時計メーカーとは、時計製造に対するより包括的なアプローチであり、才能ある時計師やエンジニアたちが時計づくりに専念することである。
独立系時計メーカーとは、その多くが創業者兼社長のもと、時計師や起業家など、ダイヤルにその名を刻む人物のもとで運営されている時計メーカーという見方もある。年間生産本数は一桁、数十本、数百本、あるいは5桁以下とさまざまだが、メジャーレーベルやコングロマリット傘下のブランドと比べると、手作業の多さと開発・生産に携わるスタッフの少なさから、どの時計も必ず希少となる。デザイン、機構、クラフツマンシップ、コミュニケーションなど、この業界における真の革新性は、しばしば独立系の時計製造によってもたらされる。会議で作られたものはなく、すべての決断は大きなリスクを伴うのである。
もしあなたが、日々同じブランドや時計について繰り返し読み、聞くことにうんざりしているのなら、独立系時計製造の沼に落ち、現在市場に存在する驚異的創造性を探求する時が来たということだろう。今がまさにその好機である。2022年、独立系時計製造は、この分野に携わるほとんどの人が想像もしなかったような形で爆発的な成長を遂げたからだ。
時計に興味を持つ消費者が以前より増えているということは、それぞれのブランドを支えるクリエイターや職人をサポートする潜在的なコレクターが増えるということだ。それはつまり、私にとってインディーズの時計づくりが、今世紀かつてないほどエキサイティングであるということとして捉えられる。本稿は入門編として、何をみるべきかを提示したい。
私はこの“独立系”の領域から生まれる最高の、最も興味深い、そして最もエキサイティングな時計の2022年版ガイドを要約してみた。あなたが知っている時計もあれば、聞いたこともないような時計もあるかもしれないが、どれも特別な作品たちだ。もし、あなたのお気に入りの今年のインディーズヒットを見逃している場合は、ぜひコメントで教えてほしい。
ザ・ベスト・オブ・ザ・ベスト
大賞:まずはトップからいいだろうか? 今年、MB&F初のクロノグラフほど、私が学び、書くことを楽しめた時計はなかった。しかし、論より証拠である。LM シーケンシャル EVOは、先月行われたジュネーブ時計グランプリ(GPHG)の授賞式で最優秀賞を受賞したばかりなのだから。
この時計の特徴は、実はふたつの独立したクロノグラフ機構と表示を搭載し、ケース両側に配置された別々のツインプッシャーで制御し、両方の機構をひとつのムーブメントに統合して、ひとつの調速機構で駆動している点だ。このふたつのクロノグラフをひとつの時計に組み込むことで、さまざまな計時機能を実現している。ここまで読んで今、あなたはこう思っているかもしれない、「ほぅ、それはとても理に適っているかもね。なぜ、今まで誰もやらなかったのだろう?」と。それは、この時計を作ることが非常に、ばかばかしいほど難しいからにほかならない。MB&Fがムーブメントの開発に起用した北アイルランドの優秀な時計職人、ステファン・マクドネル(Stephen McDonnell)氏は、シーケンシャル・クロノグラフのコンセプトを実現するために4年以上を費やしたそうだ。その結果は、実際に見てみればよくわかるだろう。この時計の詳細については、以前公開したIn-Depth記事のこちらとこちらをご覧いただきたい。
グローニング禁止:クロノグラフの波に乗ろう! 今年、並外れた新しいクロノグラフを発表したのは、MB&Fだけではない。オランダのグローネフェルト兄弟による“グローノグラーフ(Grönograaf)”という素晴らしいネーミングのこのモデルは、同社にとって初のクロノグラフへの挑戦となった。特に遠心式レギュレーターをダイヤル上から見ることができるなど、グローネフェルトの作品には機械的な要素がふんだんに盛り込まれている。そして、そのムーブメントは? それはまさに、冷徹なまでに素晴らしいものに仕上がっているのだ。
タイムオンリーの若き大物たち:若手独立系時計メーカー3社による3本の時計は、時計製造における最もシンプルな理想である“タイムオンリー(時刻表示のみの時計)”に対して、それぞれが完全に個性的かつ独特なアプローチをとっており、この1年を通して私の頭のなかに留まった作品群だ。レジェップ・レジェピのクロノメーター コンテンポラン IIは、数々の賞を受賞したオリジナルのクロノメーター コンテンポランのすべてを受け継ぎ、デッドビートセコンドを搭載したムーブメントに刷新し、ジャン=ピエール・ハグマンのハンドメイドのケースを採用するなど、さらなる進化を遂げた。一方、ラウル・パジェス レギュレーター・ア・デタントRP1は、2022年初頭に発売された。このカラフルなレギュレーターの画像を毎月何度も見返しているのは、私だけではないだろう。そして最後に、今年2本目の時計“オリジン”を発表したシルヴァン・ピノー。ジュネーブで開催されたAHCI展(Watches & Wondersと同時開催)に参加したプレスやコレクターのあいだで、瞬く間に話題の中心となった。
魔法の手を持つモーザー:2022年を通してH.モーザーの相次ぐリリースには、特に感銘を受けた。シャフハウゼンを拠点とするこの会社は、四半期ごとに実に優れた新製品を発表して人々を魅了し、話題を提供しているようだった。そして話題は常に時計の品質の高さに関するものであり、決してマーケティングのトリックやギミックに関するものではなかった。シリンドリカル・トゥールビヨン、RGケースのストリームライナー トゥールビヨン ベンタブラック®、そしてストリートウェアブランドUndefeatedとのコラボレーションモデルなど刮目に値する作品が揃っている。
カリ・ヴティライネンとドゥ・ベトゥーンは、2022年にそれぞれ創業20年の大台に乗った。ヴティライネンはユニークピースのヴァントゥイット(Vingt-8)で記念し、ドゥ・ベトゥーンはまったく意外なことをやってのけた。“Sensoriel Chronometry Project(感覚時間測定プロジェクト)”という、まったく新しいアプローチのオーダーメイド時計を発表し、新作DB28GS グラン・ブルーのオーナーは、持ち主のライフスタイルに最も合うように時計を調整する、オーダーメイドのクロノメーター調整を提供するチャンスを得たのである。また、F.P.ジュルヌが今年発表したヴァガボンダージュの新作は、そうそうあることではないので、今一度注目したい。
新作・注目作品
新星現る:今年は、多くのニューフェースが時計業界に参入し、その勢いを増している。HODINKEE編集部がWatches & Wondersでひと目惚れした若手ハンズフリーブランド、トリローブ(Trilobe)もそのひとつだ(当ブランドがHODINKEE Shopに掲載されたのは、それから間もなくであった)。フランスを拠点とするこのチームは、新作“ニュイ・ファンタスティック・デュヌ”でGPHGのプチ・エギュイユ(小さな針)賞を受賞したばかりだ。
パリからロサンゼルスへ:テオ・オフレ(Théo Auffret)のトゥールビヨンの最新バージョン、トゥールビヨン・グランスポールは特に印象的だった。27歳のパリジャンは、伝統的なフランスの時計製造スタイル(ブレゲのそれと近似している)を維持しつつ、非常に思慮深い方法でそれを現代化し、祖先への敬意と21世紀の時計師としての未来を物語っているのである。そして、価格帯は大きく異なるが、今年デビューしたロサンゼルスのハビッド・ネイガン(Havid Nagan)のデビュー作の記事も、もう一度読み返してみる価値があるのではないかと思う。彼は将来に大きな計画を持っている。
死すべき時を告げる時計:今年、時計製造の魔術師ドミニク・ルノー(ルノー&パピで有名)氏が、若い時計職人ジュリアン・ティシエ氏と、テクノロジーと生命科学の革新を支援する非営利財団イナルティス(Inartis)の代表であるブノワ・デュブイ博士とチームを組んだ。そして、3人はテンパス・フュジット(Tempus Fugit)という腕時計を完成させた。この腕時計は、あなたの余命を知らせることができるかもしれないのだ。
この腕時計を購入する際(38万ユーロ)、所有者はDNAサンプル、家族構成、個人的な習慣など、かなりの量の個人情報を提出する必要がある。そのデータをもとに、イナルティス財団の科学者や医師が寿命を予測する。そして、その予測に基づき、オーナーの時計には、死亡予定日までのカウントダウンを含む世俗的な永久カレンダーが個別に設定されるのだ。つまり、自分の人生のパワーリザーブを表示することほど便利なことはないというわけだ。
チームスピリットの香り:リリック・エチュード N°1は、世界中の熱心な時計コレクターと愛好家の共同作業から生まれた。5大陸16カ国の51人の時計コレクターがチームを組み、スイスが誇る最高のサプライヤーを使って、彼ら好みの仕様に合わせた時計を作り上げたのだった。
アジェノーは、この時計のために魅力的な新しい手巻きムーブメントを開発した。ヴティライネンとカタンは、美しく滑らかなティアドロップ型のラグを持つ38mm×9.75mmのステンレススティール製ケースを手がけた。フィドラー(Fiedler)はオブセルバトワール様式の針、メタレム(Metalem)はラッカーダイヤルを製作した。合計70本が生産され、価格は1万スイスフラン(約146万円)以下だった。私はこのリリック・エチュード N°1を美しいと感じるとともに(まだ手にしていないが)、その製作コンセプトは、21世紀のコレクターと時計愛好家がいかに協力して、本当に特別なものを作り出せるかを示す素晴らしい例だと思っている。5〜10年前では考えられなかったスケールとクオリティだ。
カムバック・シーズン:COVID-19の大流行時やその前に、一時的に閉鎖したり、脚光を浴びることがなかったブランドや個人も、今年は大復活を遂げた。ハイドロ・オロロジーのパイオニアであるHYTは、かつてチューダーやモンブランで活躍したダビデ・チェラートCEOの指揮のもと、見事な復活を遂げた。
H.モーザーの兄弟会社であるオートランス(Hautlence)は、8月のGeneva Watch Daysのショーケースで、短い休眠から正式に目覚めた。そして、80年代にクロノスイスを創業し、率いたあと、最終的に売却した時計界のアイコン、80代のゲルト・リュディガー・ラング(Gerd-Rüdiger Lang)氏が、この夏、ゲオルク・バートコウィアックという名の企業家とともに手がける新しい時計ブランド、ラング1943のデビューによって、大々的に復活したのである。
知るべきニュース、そしてその他の過小評価されたリリース
グルーベルの成長:私たちが見逃しがちな、射程圏外のニュースが常に存在する。どの年にも時間というのはごく限られるものだからだ。2022年に取り組めなかった大きなニュースのひとつに、グルーベル・フォルセイが安定と成長を目指し、いかに水面下で戦略を進化させてきたかを詳しく紹介することであった。たとえば今年、彼らがビジネス面で行った大きな動きのひとつは、2006年に株式を取得したリシュモンから20%の株式を買い戻したことだ。2022年現在、グルーベル・フォルセイは創業者のロバート・グルーベルとスティーブン・フォルセイ、そして最近CEOに就任したアントニオ・カルチェにより100%手中に収めた状態にあるのだ。
この秋の初め、私はカルチェと1時間以上にわたって、今後数年間の同社の事業展開についてインタビューすることができた。簡単に説明すると、ラ・ショー・ド・フォンにある同社のマニュファクチュールで大規模な雇用を実施し、新しい建物の建設計画を立てているということだ。これにより、時計業界屈指の品質基準を落とすことなく年間生産本数の拡大が可能としている。時計の平均小売価格は若干下がり(それでも1000万円はゆうに超えるのでご安心を)、グルーベルの小売に対するアプローチも完全に変わる(取扱販売代理店数を減らし、主要市場に直営ブティックを導入することを意味する)。また、時計のビジュアルも一新され、ブランドのカタログにも徐々に掲載される予定だ。“ダブル・バランシエル・コンヴェックス”、“トゥールビヨン24セコンド・アーキテクチャー”、“GMTバランシエル・コンヴェックス”など、2022年に発表されるグルーベル・フォルセイのいくつかのモデルで、それが具体化し始めていることがわかるだろう。
まさにイギリスらしいコラボレーション:ギャリック・ウォッチ・カンパニー(Garrick Watch Company)とフィアーズ(Fears)は、現在活躍中の最も興味深いイギリスブランドのひとつだ。フィアーズは、1976年に閉鎖を余儀なくされた家業の時計製造を2016年に再開したニコラス・ボウマン=スカーギルという粋な若き紳士が経営している。一方、ギャリックは2014年に誕生し、現在ではイギリスを拠点に真のハンドメイドの高級時計製作を追求する数少ない企業のひとつとなっている。
両社は今年初め、フィアーズの長い歴史にインスパイアされた美的センスと、ダイヤル側から見える大きなフリースプリング式テンプとサーキュメット(Sircumet)という独自の合金で作られたギャリック社製手巻きムーブメントの限定生産モデルを共同制作した。しかし、ロジャー・スミスやチャールズ・フロッドシャムのようなハンドメイドのイギリス時計に比べれば、このフィアーズ×ギャリックのコラボレーションはかなり魅力的な選択肢といえる。
クールで複雑なもの:独立系時計メーカーは、複雑機構を好む。金目にうるさい株主を気にすることなく、自由にメカニックやデザインの実験ができ、時間やエネルギー、経費を自由に使うことができるからだろう。ここでは、残念ながら当サイトで紹介しそびれてしまった、今年のインディーズ系複雑時計のなかから、私のお気に入りの時計をいくつかご紹介しよう。
ミン 37.04は、みんな大好きマレーシアのブランドの5周年を記念した超クールなモノプッシャークロノグラフだ。ドゥ・ベトゥーンのドゥニ・フラジョレとフランソワ・ポール・ジュルヌが、それぞれ独立する前にカルティエで手がけていた1990年代のキャリバーが搭載されている。
ハブリング²も今年、数々の素晴らしい作品を発表したが、なかでも最高だったのは、マッセナLABとのコラボレーションで生まれた、38.5mmの愛らしいケースにクロノグラフと永久カレンダーを組み合わせたクロノ・フェリックス・パーペチュアルではないだろうか。パルミジャーニ・フルリエのトンダPF GMTも、このセクションで賞賛に値するのは間違いないだろう。そして最後に、ローラン・フェリエは最近、北米市場限定のブルーメテオライトダイヤルを備えた、非常に魅力的なクラシック・トラベラーの新モデルを発表した。トラベラーは新しい機能やデザインではないが(私たちもかつて、独自のアレンジを加えたHODINKEE限定モデルをリリースした)、この最新モデルは確かに美しい。
奇妙だが、素晴らしい:そう、私の大好きなセクションだ。奇妙なものが大好きだ。2022年に発表されたばかりのレッセンス タイプ8Cのような時計を見たとき、まず頭に浮かぶのは“クール”と“奇妙”という単語ではないだろうか? そして、アーミン・シュトロームが新作オービットで試みたデイトコンプリケーションはどうだろう。実にワイルドではないだろうか? 誰がこんなことを思いつくというのだろうか?
そして、今日最後の奇妙な独立系時計を飾るのは、10月下旬にデビューしたモリッツ・グロスマンと写真家アトム・ムーアの素晴らしいコラボレーションだ。ニューヨーク在住の写真家(HODINKEEにも時々寄稿してくれている)は、ドイツの時計メーカーの37mmケースと“摩擦による銀メッキ”ダイヤルを出発点として、彼の“爆発する原子”柄を取り入れ、ダイヤルを生き生きとさせ、オールドスタイルのドイツ時計製造に喜ばしい現代的なヒントを加えた。奇妙であることはいいことだ。そして、独立系時計製造はいつだって素晴らしいのだ。
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