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Photos by Tiffany Wade
もしあなたが2023年の時計トレンドに敏感な人なら、小振りな時計はすでに、あなたのレーダーに引っかかっていることだろう。セレブリティからInstagramの有名人、時計愛好家、そしてニューヨークのダウンタウンに住む“クールキッズ”など、ありとあらゆる場所にあふれており、そのトリクルダウン効果を簡単に見抜くことができる。昨晩も、ロンドンにあるごく普通のレストランチェーン店で、イエローゴールドの小さなセイコーを身につけている給仕係を見かけた。ティニー タイニー ウォッチ(Dimpieceの創設者、ブリン・ウォルナー氏による造語で、小さくて可愛らしい時計という意味)は、どこにでもあるのだ。
小振り時計の復活は、ファッション業界におけるジェンダーラベルの見直しから生まれたものであるため、少なくともそれと関連している。最大手の老舗ブランドが、男女共同参画のランウェイショーのアイデアを取り入れることにしただけではなく、今やグッチのように強力なブランドが両方の性に向けた商品をデザインし、ターゲットにしている。
男性はスカートにクロップドTシャツ、ブラウス、そして“女性らしい”ジュエリーを身につけるなど、性の垣根を超えたフルイドファッションを、キッド・カディ(Kid Cudi)とハリー・スタイルズ(Harry Styles)がリードしている。一部の人にとっては、これは大変革のように思えるかもしれないが、正直に言おう。ジェンダーニュートラルの思想はすでに普通のこととして称賛されている。なぜならハイファッションの世界では本気で誰も気にしていない、というのが真の変化の兆しである。
時計の製造という、本来は氷河のようにゆっくりとしたペースに回帰すると、ジェンダーのレッテルを取り払うという考え方のほうが主流になりつつあるのだ。私は男性が小振りな時計を身につけることを特に革命的だとは思っていないが、これは自分が何をすべきか、何をしてはいけないかなど多くのルールがある業界のなかで、新鮮な息吹を感じさせてくれるとは思う。
カルティエは、スモールウォッチのトレンドの先頭を走っている。ティニー タイニー ウォッチクラブの結成メンバーであるタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)がこの数年のあいだ、ブランドに多大なストリートクレド(ストリートカルチャーのトレンドに敏感な都会の若者から信頼を受けること)を与えたことは間違いない。とはいえ、ジェンダーバイナリー(男性か女性かの二択のみで性別を分類する見解)について広く議論されるようになるずっと前から、カルティエはジェンダーニュートラルな時計をつくり続けてきたことを否定する人はいないだろう。
私が完全な反対主義者であるという余談になるが、もしあなたがXがクールだといったら、私はすぐにYのほうがクールだというだろう。人気が出ているのを見ると、本気で身体的な不快感を覚えるほど苦しくなるのだ。そのためこの瞬間だけは、小さな時計はただ小さな時計に過ぎないということにしておこう。駆け引きはもういい! これからの数分間は、このミニサイズのカルティエの時計が、本当に純粋な喜びに“火をつけて”くれるため、公平な時計トークに没頭しようではないか。
カルティエのプレゼンテーションは、間違いなくトレードショーで最も好きなイベントのひとつだ。30分間、身の回りのあらゆるものすべてが赤と金色に彩られ、カルティエのロゴが表示される。プレゼンテーション用のトレイ、ノートや鉛筆、そして小さなエスプレッソコーヒーのカップまで、お揃いのソーサーに繊細に置かれていた。カルティエの世界へと誘われるその数分間は、新鮮さ、フレンチアクセント(発音)、そしてリストショットを上手に撮ることだけが問題なのだ。
私はこのプレゼンテーションに、スモールウォッチの課題を持って挑むつもりはまったくなかった。しかし各コレクションのアイテムを試着してみると、小振りウォッチが大量にあったことに気づいた。
まずは「タンク アメリカン」。ステンレススティールではかわいらしい印象ながら、ダイヤモンドをあしらったホワイトゴールドでは完璧な仕上がりになっていた。私は普段、レクタンギュラーダイヤルを持つ時計を褒めるときは「タンク サントレ」までにとどめているのだが、「タンク アメリカン」については新たな敬意を抱いている。この敬意はほとんど、同僚のリッチ・フォードンのおかげなのだが、彼はそのなかで、ヴィンテージの「タンク アメリカン」を購入すれば、私の「タンク サントレ」への強い憧れが一時的に和らいで、入手・購入する領域に入るだろうと、親切にも教えてくれた。
オークションにときどき出品される、ダイヤモンドでできたアール・デコ調のカルティエ ブレスレットを試着するような気分で、今回は新しい可憐なダイヤモンドバージョンを試着した。頑丈でありながらしなやかさもあり、そして宝石がセットされているため非常に強い輝きを放っているが、決して明るすぎることはない。正直なところ、時計をじっくり吟味する前にこのブレスレットに心を奪われてしまった。シルバーのサンレイダイヤル、ブルースティール製のソード型時分針を備えたこのクラシックなカルティエに。ロジウム仕上げのWGケースとリューズには、ブリリアントカット ダイヤモンドをセット。さらにロジウム仕上げのWGブレスレットにもブリリアントカット ダイヤモンドをセットしている。ミニモデルの「タンク アメリカン」は、2023年秋に778万8000円(税込予価)で発売される予定だ。
次は新しい「パンテール ドゥ カルティエ」にいこう(人気のものを好きになってしまうという私の悩みを思い出させてくれる!)。金無垢にブラックラッカーとダイヤモンドをあしらった文字盤を合わせた、スモールサイズの時計だ。試しにつけてみると、パンテールがセクシーで可愛らしい時計だと呼ばれていることについて、今まで考えていたことや感じていたことをすべて覆されたような気がした。このすらっとした優美なアイテムは、手首につけるとベルベットのような感触をもたらした。まるで真夏のクローゼットから完璧なバイアスカットのシルクのドレスを引っ張り出すかのように、簡単で、風通しがよく、完璧で、予備の選択も必要ない、そんな感覚を覚えたのだ。私は彼女をゆるく巻いて、手首の内側をちらっと見て時間を確認するだろう。そして黒いアイテムを、もっとたくさん身につけるようになるかもしれない。私はこの時計を中心に、まったく新しいライフスタイルを築いていくのだろう。YG製の小さな「パンテール」は、30.3mm×22mmのサイズで、長寿命クォーツムーブメントを搭載している。こちらは2023年冬に、403万9200円(税込予価)で発売される予定だ。
グランドフィナーレは、バングルにつけられたミニ「ベニュワール」だ。これは実物を見るまで、私の好みとは程遠いものだった。だがゴールドオンゴールドが私を虜にしてしまうということを知るべきだった。この「ベニュワール」ウォッチで、まったく新しいカテゴリーのジュエリーウォッチを生み出したと思う。「ベニュワール」を金無垢のバングルに装着したデザインチームの天才に、敬意を表したい。バングルはブレスレットよりも主張が強いと感じるが、宝石をセットしたものよりかは主張が薄められていると思う。バングルがジュエリーウォッチのどの位置にいたとしても、私の目には完璧に映る。なお発表会では、この時計がほかのブレスレットとも重ね付けできるように設計されていることまで教えてくれた(私にはまさしくそう聞こえた)。巷で話題になっているスタッキング(重ね付け)について、個人的な感想がどうであれ、大都市の富裕層が住む地域を散策すれば女性は皆スタッキングしている。LOVE ブレスレット、アルハンブラ、テニス ブレスレット、チャームブレスレット、そして高価な腕時計も一緒に。カルティエが消費者の声に耳を傾けた結果、重ね付けしたときに少し楽に休めるような時計をつくりあげたというのは、とても素晴らしいことだ。新しい「ベニュワール」はクォーツムーブメントを搭載し、2023年夏に171万6000円(税込予価)で発売予定となっている。
小振りな時計を身につけることがトレンドになっているのかもしれないし、その結果、私は誰よりも早くクールなものを知っていると言わんばかりに、ファッションに敏感な編集者のように振る舞っているだけかもしれない。しかしこの新しい流れのなかで、私は純粋に、時計の未来に希望を抱くようになった。ソーシャルメディアや、ここHODINKEEの神聖なホールで、あなたやあなたの気持ちを口汚く攻撃するスタイルエディターに影響を受けているのと同じくらい、自身にとって何がクールかを決めるのはあなただけなのだ。ロイヤル オーク オフショアや、カルティエ「ベニュワール」のバングルをつけて、至福のひとときを過ごせる世界に乾杯しようではないか。