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Watch & Learn まったくの時計初心者が初めて大人用の1本を買う

ビギナーズコラムも第3回目になり、我々の記者はついにお金を出した。何を買ったのか、そして壊れたときにどうしたのか、ぜひご覧ください。

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夜遅くまでインターネットで時計を見る習慣は、とうとう中毒に近い状態になってしまった。たくさんの時計が欲しくなったが、ほとんどの場合このロレックス、このオメガ、または別のオメガという感じだった。私の好みは、普遍的な人気や価値が上がる可能性とはあまり関係がないように思っていた。私はただ自分の好きなものが好きで、たまたまブルーだったり、(私のように)1960年代後半に作られたものだったりしていた。

 私は、時計コレクターのマイケル・ウィリアムズ氏が、2007年に当時の少ない給料のうちの大部分をチューダーに費やすという画期的な決断をしたことに大きな感銘を受け、しばしば彼の真似をしようと考えた。そして最終的には、ウィリアムズ氏がこの大胆な行動をとったのは彼の将来がまだ描けない時点であったことを思い出すようにした。自分の将来は完全に描けるのだから - 「もう若くない」し、「高価な時計を買ったら、一緒に住宅ローンを払っている人に殺される」と自分に言い聞かせた。しかし、私が買える値段のものに、胸がときめくようなものはなかった。

 時計愛好家であれば、「四六時中、時計の写真を送ってくれる親切な知人 」というジャンルの友情をに覚えがあると思う。そんな知人がガールフレンドに買った時計の写真を送ってきた。それはラケタで、小さくて可愛くて、でもしっかりした時計という印象を受けた。私はとても気に入ってしまった。彼はソ連製の時計が 「流行っている」と言ったが、全く知らなかった。

watch on a black strap

歯磨き粉は含まれません。

 ご存知だろうが、それはどこにでもあり、安価で、私は美しいと思った。このブランドのキリル文字が気に入った。真面目なエレガンスを感じる。安い時計の多くは彼ら自身を恥ずかしいと思っているかのようで、もし彼らが言葉を話せるなら、「私はカルティエのタンクに見せようとしてるんだけど」「私はロレックスに」「私はウブロに」とでも言っているだろう。もしソ連の時計が話せるなら、「時間を知りたいの? 知りたくないの?」と単刀直入に言うに違いない。

 知人に見せてもらった時計が気に入ったのでラケタが欲しかったが、なかなか同じようなものが見つからなかった。このラケタもいいが、こちらの方も好きだし、また高すぎでもあった。しかし、私は何度もEtsyで見つけたLUCHに戻ってきた。数字のダッシュが金色でシンプルな文字盤は黒。ブルーはないが、特に目を引くところに色を使っている。それは、猫のヒゲほどの幅しかない赤い秒針だ。私はこの赤い針が大好きだった。私はこの時計がとても欲しかったし、少なくともそう思っていた。しかし、この時計の写真を誰かに送るたびに、「これは見たことある?」と、違うソ連製の時計の写真が送られてきた。私は、自分が選ぶ時計が変なのかと思う気持ちと、この時計が好きでたまらないという気持ちの間を行ったり来たりしていた。そしてある夜、私は思い切って「買う」をクリックした。値段は100ドルくらいだった。これは私の時計だ、誰にも邪魔されない、と自分に言い聞かせた。

 届くのを楽しみに待っていると、茶色の無地のパッケージに入ってやってきた。私が行ったことのない、そして今の時点では正直言っておそらく行くことはないだろうと思われる場所が発送元だった。実物を見てみると、それは私が想像していたよりもいいものだった。ゴールドのインデックスに光が当たる様子が気に入った。12は3つのダッシュから成り、芸術的でわずかにカーブを描いていることに気づいた。それと赤い針があるだけで、それ以外はシンプルだ。これはまさに正解だったと思った。

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 しかし、すべてが完璧というわけではない。私の時計は、数時間、ときにはそれ以下の時間しか動かないことがあった。私はHODINKEEの編集者に手紙を書いた。「巻いてみた?」と言われ、私が 「そこまで無知じゃない」と答えると、彼は「これでいいと思う以上に真剣に巻かなければならない」と説明してくれた。これで問題は解決。ただもう一つの問題は、私の時計にはホールジーからヴィング・レイムスまで誰にでも合うように作られた調節可能な最も安いストラップがついているということ。私の場合、凝ったレストランでの手の込んだスターターのパスタのように、何ヤードにもわたって折りたたまなければならなかったことだ。編集者は、「ストラップは、まったくの別物だ」と言いました。彼はきっと落胆させようとしたわけではないだろうが、何ヵ月もかけて自分に合った時計を探した後に、今度は時計ストラップを探すというのは、楽しいというよりもストレスが溜まるように思えた。また一つ、悩みが増えた。

Raketa watch

赤い秒針に注目。

 私はこの時計が大好きで、どこにでも身につけて行った。「私の新しい時計を見て」「私は時計を持っているのよ」と見せびらかしたが、誰もそこまで関心がなかったようだ。しかし、空想の友達を持つ4歳児のように、私は他の人から見えないことで、自分の時計がより貴重なものになっていることに気づいた。携帯電話が時間を独占することがなくなったという安心感もあった。

 時計を手に入れてからわずか2週間ほどで、新品の時計に傷がついているのを発見し、とてもショックを受けた。そのあと、柔らかい布に歯磨き粉をつけてこすれば傷を消すことができると知って、とても嬉しくなった。これで私は大手を振って走り回ることができ、手首と壁やコーヒーカップとの衝突もアクアフレッシュで解決することができるのだ。しかし、洗濯機の不注意な開閉には勝てないし、酔っぱらって湯船につかるときにデッキに放り出すのにも向いていない。ある朝、目を覚ますと、リューズに歯磨き粉では届かないほどの深い深い溝ができていた。さらに悪いことに、分針が外れてしまっていた。手首を動かすと、エビ漁船に乗ったフォレスト・ガンプの様にあっちこっちに動いてしまう。

 My watch returns to its ancestral homeland.

私の時計は、先祖代々の故郷に戻った。

 私は時計を引き出しのなかにしまった。

 誤解のないように言っておくが、私は "時計修理 "という商売を知っていた。ただ何となく、もう存在しない別の国から来た私の時計を修理するのは面倒だろうと思ったのだ。近所の時計店に電話してみると、そこは電池しか扱っていなかった。別の時計店にも電話してみたが、同じだった。しかし、電話を切ろうとしたとき、「ちょっと待ってください、お嬢さん」と言われ、私は自分を「お嬢さん」と呼ぶ人の電話を切ろうとは思わなかった。彼は、シエラ・フットヒルズにある別の小さな町の宝石店に電話するように言った。

 その店の女性は、私が時計を直してもらえるか尋ねるのを、まるで面白いことのように思っているようだった。

 「手巻き時計ですが」と私は尋ねた。

 「ああ、そうですね、全部見ますよ。お持ちください」と彼女は言った。

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 私は彼女に、自分は時計のブログを書いていて、時計を修理する人に修理について話を聞きたいと伝えた。彼女はこれを聞いて困ったり困惑したりしたようには見えなかったが、確かに嬉しくはなさそうだった。私の経験では、小さな町の人たちは、取材というものに興奮しない傾向がある。

 私は、夏の最初の暑い日に、期待を込めてこの店に行った。真新しいトラックのクロームメッキが街中で光っていた。人々は麦わら帽子をかぶって外でサラダを食べていた。何人かはマスクをしていたが、ほとんどの人はマスクに飽きているようだった。宝石店には白いカーペットが敷かれていて、主に婚約指輪や、女性が婚約指輪をもつための準備として贈るもの、あるいは何年か後に、その経験が完全には再現できないことを知って、婚約指輪をもらったときのことを思い出すために贈るものを扱っているようだった。

A black lizard watch strap

悪名高きトカゲバンド。

 私が到着したとき、最初に話した女性はそこにいなかった。驚くことではないが、私が「前に電話しましたが、私はHODINKEEで働いていて、時計のブログの件です」と言ったとき、その場にいた販売員の女性は、ブログのことも、私が時計の修理担当者と話したいと言ったことも初耳だったようだ。修理担当者はここにはいませんが、時計を取りにいらしたときに話をすることができます、と言われた。私は少しがっかりした。つまり、これが私の記事の主旨になるが、もし彼と話ができなかったらどうしよう?

 私の情報を聞きながら、彼女は私に質問した。「時計の記事はどれくらい書いていますか?」と聞かれ「3回めです」と答えた。彼女は 「Nice, 」と言った。単語を2音にして、"Ni "からより静かな "Eeece "を発音する頃には笑顔が消えていた。「過去の記事は何を書きましたか?」私はロレックスの店に行ったことを書いたと言った。彼女は再び「Nice」と言った。時計のコレクターに会ったことも書いたと言うと、また 「Nice」。彼女はそれ以上の質問をしなかったが、私はさらに3つのことを話した。そして彼女は、それら全てにまったく同じ調子で、冗談ではなく「Nice」と言ったのだ。そして私の時計が2週間後に出来上がると言い、私は地球上で最もつまらない愚かな人間のような気分で外に出た。それからバーに行って、 2020年3月以来、自宅以外で飲んだ初めてのお酒を楽しんだ。 明らかに午後2時に酔っぱらっていたウェイトレスが持ってきたお酒は、本当に「Nice」だった。

 その4日後、同じ女性から電話があり、私の時計が直ったことを告げられた。彼女は「新しいクリスタル風防を付けました」と言った。私は分針のことを尋ねた。

 「時計は直りました 」と彼女は言う。

 「わかりました。分針も直りましたか?」

 「時計は直りました 」彼女は再び言った。

 「クリスタルについてはわかりました」と私。「でも分針はどうですか? 動かなかったのですが」

 彼女は「お待ちください」と言い、文字通り1秒ほどで戻ってきた。「巻かないといけませんよ」と彼女。「自動巻きではないので」

私と私の時計。

 私は知っていると言い、もう一度、分針が直ったかどうかを知りたいと言った。なぜなら、わざわざ黄泉の国をもう一度運転して南黄泉の国にたどり着いたのに真新しいクリスタルの下で分針がランダムに動き回っているのを発見してしまうという場面が浮かんだからだ。

 彼女は「時計は動きます」と言った。

 私たちは行き詰った。

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 時計店を再び訪ねると、最初に電話で話した人が働いていたので安心した。彼女は丁寧に整えられたブロンドの髪にピンクの口紅をつけ、ゴールドのグッチの時計をしていた。彼女は、かつて『Nevada Woman』誌のユーモア・コラムニストだったが、最近は北カリフォルニアの人々があまりにも真面目なのでつまらなくなってきたと話してくれた。私は「よくわかります」と答え、彼女は私に時計を手渡してくれた。動いている! 分針は安定していて、自慢の赤い秒針はしっかりと動いていた。私は販売員の女性に、彼女のグッチの時計の写真を撮ってもいいかと尋ねた。彼女は快く時計を差し出しながら、子供に時計を買ってあげる話を書くべきだと言った。デジタル時計ではなく、本物の時計を買ってあげることについて。面白そうだと思った。

 「デジタルウォッチは侮辱です」と彼女は言った。

 「誰に対しての?」と私が尋ねると

 「時間を告げることができる人々に対してです!」

 出会いが実現しないのではないかという不安が何週間も続いた後、時計の修理師が連れてこられ、話ができることになった。彼は60代で、白髪にコーンフラワーブルーの目をしていて、ロシア語のアクセントが強かった。彼の笑顔は温かく、シャイに見えた。彼は私の時計を懐かしむように見て、「私は若い頃、この時計を作っていたんだ」と言った。彼は分針を修理した工具を持ってきた。英語での名称はわからないという。私はそれを写真に撮った。

 彼にこの時計はどこで作られたものかと尋ねると、「ミンスク」と教えてくれた。今ではベラルーシと呼ばれる地域で、彼の出身地であるウクライナからはそれほど遠くない。私は彼に、この時計は良いものかと尋ねた。とりあえずLUCHを「ルーク」と発音したが、彼は優しく 「ルーシュ 」と訂正し、「"LUCHというブランド "は、よくも悪くもないです」と言った。彼はポストイットにソ連のベストウォッチ・ブランドを書き出した。「ポレオット」、「ラケタ」、ともう一つ。あとで気がついたのだが、「ポレオット」をロシア語で書いたものだった。

A women wearing a floral dress and watch

満足した顧客がまた一人。

 「LUCHは、何と表現したらいいのか...市民のための時計なんです 」と彼は言った。

 私にはぴったりだ。これ以上のものは必要ない。

 帰ろうとしたとき、ストラップが必要なことを思い出した。「時計用のストラップはありますか?」今日は一石二鳥かもしれないと興奮して、店の中央に向かって叫ぶように言ってしまった。私は本当にここでストラップを買うつもりだったのだろうか? 婚約指輪の店で? 間に合わせの買い物のように見えない? いや、そんなことはない。私は時計の半分の値段のトカゲ革バンドを選び、もう一つのストラップはゴミ箱に捨てた。このトカゲのストラップは、私の時計を生まれ変わらせた。

 「それはリザード革です」と、『Nevada Woman』の元コラムニストは言った。「お嬢さん、これは一生モノですよ」と。

 自分の時計は今や完璧だ。でも、一日おきにオメガを見て昔のように喉が締め付けられるような感覚に襲われるのをやめられればいいのだが......いいものを手に入れても、いつも他のものが欲しくなるというこの感覚を。

サラ・ミラー氏は、北カリフォルニア在住のライター。Twitter@sarahlovescali または Substackを。 

Photos by Ingrid Nelson. Illustrations by Andrea Chronopoulos.