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女性が選ぶアンティークロレックスの新定番|小さな手巻きからバブルバック、金無垢まで

小さな手巻きモデルだけでなく、30mm前後のバブルバックや36mmのデイトジャスト、フルゴールドまで。女性が選ぶアンティークロレックスの幅は、以前よりも確実に広がっている。専門店2店への取材から、いま選ばれているモデルとその理由、そして選び方に起きている変化を探った。

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アンティークロレックスの世界では、サブマリーナーやGMTマスター、デイトナについて、年代やリファレンスごとの違いまで実に多くのことが語られてきた。それほど奥深い世界でありながら、女性が選ぶ時計について私が思い浮かべられたのは、華奢なケースに細いブレスレットを合わせた小さな手巻き時計くらいだった。

 今回、アンティークウォッチ専門店であるシェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店とケアーズ 東京ミッドタウン店に話を聞くと、女性が実際に選んでいる時計は、私が想像していたよりもずっと幅広かった。女性はいま、どのような基準でアンティークロレックスを選んでいるのだろうか。


女性が選ぶアンティークロレックスの変化

シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店。

 「現行のロレックスは、オイスターケースにフルーテッドベゼルというイメージが強いと思います。それがアンティークでは、まったく違う形で存在している。“ロレックスにこんな時計もあったんだ、かわいい”と驚かれる方は多いですね」。そう話すのは、シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店の斉藤 拓氏だ。

 同店では、イエローゴールドの小型手巻き時計や、ダイヤモンドをあしらったジュエリーウォッチが、現在も変わらず女性に選ばれている。そのうえで近年目立つようになってきたのが、従来は男性向けとして仕入れていた時計を選ぶ女性だという。

 「当店が男性向けとして仕入れているボーイズサイズのバブルバックなどを、シンプルに着けたいという女性が増えています。ダイヤモンドが入っていない、すっきりした見た目がいいのだと。なかには36mmのデイトジャストを選ぶ方もいらっしゃいます」(斉藤氏)

シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店で見かけたロレックス。

 “なかには”という言葉どおり、36mmが女性の新たな定番になったという話ではない。それでも、店側が男性向けと考えて仕入れた時計を、女性が自分のために選ぶ例は生まれている。時計がどちらの売り場に置かれているかと、実際に誰の手首に収まるかは、必ずしも一致しない。

 選ばれる素材にも変化がある。ケアーズ 東京ミッドタウン店店長の高須 恵氏が例に挙げたのは、ブレスレットまでゴールドを使用したモデルだ。

ケアーズ 東京ミッドタウン店で見かけた34mmサイズのロレックス。

BOX、ギャラ等の付属品が残る1980年代製のYG製デイトジャスト Ref.6917、242万円(税込)/ケアーズ 東京ミッドタウン店。

 「以前は、時計本体はよくても、ブレスレットまで無垢だと派手すぎるという反応があり、積極的には仕入れていませんでした。いまは海外のお客様だけでなく日本人女性にも選ばれており、頑張って仕入れたい状況です」(高須氏)

 高須氏によれば、新品の金無垢時計とは異なる、時間を経た金の落ち着いた風合いも装いに取り入れやすい理由のひとつだという。ボーイズサイズや36mm、金無垢モデルが選ばれているのは、女性の好みが別の方向へと向いたわけではない。これまでの選択肢を残したまま、候補となる時計が増えているということなのだ。

1960年代製のYG製プレシジョン、247万5000円(税込)/シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店。

1970年代製のYG製ロレックス、170万5000円(税込)/シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店。

左から1940年代製のSS製オイスターパーペチュアル、132万円。1930年代製のSS製オイスターケース、46万2000円。1940年代製のSS製オイスターエレガント、96万8000円。1950年代製のSS製オイスターパーペチュアル、94万6000円(すべて税込)/シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店。

 現在のアンティーク市場では、レディスのジュエリーウォッチを、現行品と比べて手の届きやすい価格で探せることもある。シェルマンでは、現行品を見て回ったあと求めていたサイズやデザインをアンティークに見いだす人もいるという。ケアーズでも、小さな手巻きモデルは、デザインの豊富さに加え、価格の面から選ばれている。

 しかし、こうした時計が発売当時から手ごろだったわけではない。斉藤氏によれば、1970年代初頭、GMTマスターが約16万円、手巻きのデイトナが約16~18万円だった一方で、ロレックスのレディス向けジュエリーウォッチのなかには、約190万円で販売されていたものもあったという(編注;1972年および1974年の社団法人 日本時計輸入協会発行「輸入時計総合カタログ」より)。当時の所得水準を考えても、小さなケースに収まっていたのは、ごく限られた人のための贅沢品だった。

1972年製のSS×WG製オイスターパーペチュアルデイト ゴーストダイヤル Ref.6917、77万円(税込)/ケアーズ 東京ミッドタウン店。

1960年代製のWG製オーキッド カメレオンモデル Ref.2059、82万5000円(税込)/ケアーズ 東京ミッドタウン店。

 もちろん、これは宝飾を凝らした特別なモデルの一例であり、レディスモデル全般とスポーツモデル全般の位置づけを単純に比較できるものではない。それでも、小さな時計だから当時も手ごろだった、とは限らないことがわかる。

 現在の価格は素材やダイヤモンドの有無、個体の状態によって大きく異なる。発売当時の定価が、そのまま現在の市場価値になるわけでもない。それでも、いま手の届きやすく見えることと、その時計がもともと贅沢品だったことは両立する。当時どのような時計として売られていたのかを知れば、“レディスだから安い”という一言では片づけられなくなる。


金無垢人気と、資産性への意識

1950年代製のWG製プレシジョン、396万円(税込)/シェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店。

 現行モデルの定価上昇は、相対的に手の届きやすかったアンティークウォッチへ目を向けるきっかけとなってきた。一方で、いまやアンティークウォッチ全体の価格も上昇し、選び方は慎重になっている。その背景として、状態のよい個体が減っていることや、海外から日本へ買い付けに来る人が増えていることが挙げられた。アンティークウォッチが以前より高額な買い物になれば、ブランドやコンディションに加え、将来手放す際にも価値が残るかまで気になるのは自然なことだろう。

 金無垢モデルの場合は、華やかさや時を経た金ならではの風合いに加え、素材そのものの価値も判断材料になっているようだ。実際、時計に使われている金の重量を尋ねる客もいるという。

バーク仕上げされた1970年代製のYG製デイトジャスト Ref.6927、220万円(税込)/ケアーズ 東京ミッドタウン店。

 「10年、20年前は、いまは名前が残っていないようなメーカーの時計を、かわいいから所有してみようと、遊びの感覚で選ぶ方も多くいらっしゃいました。いまは価格が上がり、女性も“間違いのないものを買いたい”と考えるようになっています。使って楽しむことが第一ですが、もし手放すときにも価値が残るかは、頭の片隅にあるように感じます」(高須氏)

 ここでいう“間違いのないもの”とは、単に値上がりが期待できる時計を指すわけではない。自分で着けて楽しめることを前提に、ブランドの信頼性や時計の状態、購入価格を確かめ、将来手放すことになっても一定の価値が残るかまで考える。金の重量を尋ねる人がいるという話からも、デザインだけでなく、時計が持つ実質的な価値まで見極めようとする姿勢がうかがえる。


カテゴリーを越えて、間違いのない1本を選ぶ

1930年代から1980年代までのオイスターモデルの変遷。左から66万円、59万4000円、41万8000円、107万8000円、50万6000円、77万円、242万円(すべて税込)/ケアーズ 東京ミッドタウン店。

 アンティークロレックスは、年代やリファレンス、希少性、相場といった豊富な情報とともに語られてきた。もちろん、それらは1本の価値を見極めるうえで欠かせない。だが今回の取材で見えてきたのは、そうした既存の評価軸だけでは捉えきれない選び方だった。

 小さな手巻き時計からボーイズサイズ、36mm、金無垢モデルまで、これまで男性向け、女性向けと分けられてきたカテゴリーを越え、自分の腕に合い、自分が着けたいと思える1本を選ぶ。その一方で、見た目の好みだけに委ねるのではなく、時計の状態や価格、ブランドの信頼性、将来手放すことになったときに価値が残るかまで冷静に確かめている。好みだけでも、資産性だけでもなく、その両方に納得できる1本を選ぼうとしているのだ。

 サイズや性別のタグには縛られず、しかし資産価値に無頓着というわけでもない。好きという直感をもとに、知識や情報も、自分の選択に納得するために役立てる。そんな時計との付き合い方は、アンティークロレックスを見る女性の視野を少しでも広げてくれるのではないだろうか。

この場を借りて、ご協力いただいたシェルマン 銀座・BARNEYS NEWYORK店ケアーズ 東京ミッドタウン店に御礼申し上げます。

Photographs by Yuki Matsumoto