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Just Because 黄金比から時計の美を生み出す。ビアンシェ創業者、ロドルフォ・フェスタ・ビアンシェが語る時計づくり

フィンテックの起業家が時計づくりへ戻った理由とは。妻とともに築くビアンシェの美学と、次なる挑戦を聞いた。

時計のセールスからキャリアを始め、フィンテック企業を立ち上げたのち、再び時計の世界へ。ロドルフォ・フェスタ・ビアンシェ氏が妻のエマニュエル氏とともに創業したビアンシェは、黄金比に基づくデザインとトゥールビヨンを軸に、独自の時計づくりを追求しています。彼が時計づくりへ戻った理由と、ブランドが目指す未来について聞きました。


時計から離れていた時間を経て

 ロドルフォ・フェスタ・ビアンシェ氏と時計との最初の接点は、19歳のときに働き始めたイタリアの時計ブランド、ロックマンです。創業間もないブランドで、最初の営業メンバーとしてキャリアをスタートしました。

 幼い頃から時計に関心があり、20代半ばまでは時計に強くひかれていたものの、その後は時計業界を離れ、さまざまな仕事を経験します。その後もロレックスやロックマン、モバードなどを購入していたそうですが、熱心なコレクターだったわけではありません。時計フェアに足を運ぶこともなく、時計は人生の中心から少し距離を置いていたといいます。

ビアンシェ ウルトラフィーノ・トノー スケルトン カーボン レッド

 大きな転機となったのは、長年経営してきたフィンテック企業を売却したことです。彼は妻のエマニュエル氏に、「本当に好きなことをしたい」と話しました。ただ、その時点では、具体的に何をするかは決まっていなかったそうです。

 「インターネットで時計を買うようになり、マイクロブランドの時計やロレックスを見ていました。ある夜、目が覚めて、『時計の会社をつくれる』と思ったのです。翌朝、妻に話しました」。エマニュエル氏はそのアイデアを応援し、ふたりで一緒にブランドづくりを始めました。ロドルフォ氏は、フィンテックの仕事でも、従来は専用端末で提供されていた金融情報をインターネットで利用できるようにする仕事にも携わっていました。時計をオンラインで購入するようになった経験も、ブランドを立ち上げる発想につながったといいます。

 ブランドを構想し始めた当初、彼が思い描いていた時計は、600ドルほどの価格帯でした。しかし、デザインを考え、品質を追求するうちに、目指すものは少しずつ変わっていきます。「美しい時計をつくりたい。品質にもこだわりたい。けれど、これではまだ十分ではないと思うようになりました。私は若い頃からトゥールビヨンに憧れていました。フェラーリを手に入れるような、現実離れした夢だったのです。そこで、トゥールビヨンをつくることにしました」


金融市場で見いだした黄金比

Photo Courtesy: Bianchet

 ビアンシェの時計を語るうえで欠かせないのが、黄金比です。ロドルフォ氏は前職で金融市場の分析に携わり、トレーダーとして黄金比に基づく予測指標を開発していました。そこで得た知見を、時計のプロポーションに応用したのです。

「金融市場の分析で黄金比を深く研究しました。時計をつくり始めたとき、その原理をデザインに取り入れ、技術と組み合わせました」

Photo Courtesy: Bianchet

Photo Courtesy: Bianchet

 彼が関心を持ったのは、金融市場の値動きだけでなく、花や銀河など自然界のさまざまな形態にも黄金比が見られることでした。多くの人々が売買する市場の動きと、自然の形に共通する数が現れる。そのことから、黄金比は「創造の基礎にあるもの」ではないかと考えるようになったといいます。

ビアンシェ ウルトラフィーノ・ロトンド

 黄金比を用いることは、ビアンシェの時計デザインに一定の方向性を与えます。ロドルフォ氏によると、比例や調和を重視することで、円や曲線を基調とした、よりクラシックでエレガントな造形につながるそうです。一方で、ビアンシェは先進素材や加工技術も取り入れ、伝統的な印象にとどまらない表現を模索しています。

ビアンシェ ウルトラフィーノ・ロトンド

 「黄金比に基づいてつくられた製品は、視覚的に心地よいプロポーションを持っています。そのため、時を経ても古びて見えにくいと考えています。20年後、あるいは50年後にも、時代遅れに感じられない時計をつくりたいのです」

 この考えは、外装だけでなくムーブメントの設計にも反映されています。円形を基調とする造形や、パーツの配置に見られる幾何学的な構成は、ビアンシェの時計に一貫したデザイン言語を与えています。


異なるふたりの視点がブランドを形づくる

Photo Courtesy: Bianchet

 エマニュエル氏は、ロドルフォ氏にとって創業を支えるパートナーであると同時に、ビアンシェのデザインと製造を具現化するうえで欠かせない存在です。彼女はアーティストとしての感性とエンジニア的な視点を併せ持ち、細部まで考えます。建築家やデザイナーがいる家庭で育ち、スイスへ移ってからはサプライヤーとのやりとりにも力を発揮しました。

 「私は大きなビジョンや戦略、方向性を考えます。一方で、妻は私が見落とすものに気づき、それを形にできます。ふたりは異なる考え方を持っていますが、それがうまく釣り合っているのです」

 意見が異なることもあります。ロドルフォ氏がアイデアを出すと、エマニュエル氏は実現に必要な技術や工程を一つずつ検討します。彼が大きな構想を描き、彼女が実際の製造やデザインの観点から問い直す。こうしたやりとりが、構想を実際の時計へと落とし込む原動力になっています。


自社製造と専門家の技術を組み合わせる

Photo Courtesy: Bianchet

 ビアンシェでは、トゥールビヨンムーブメントの主要部品を自社で製造し、時計の組み立てはスイスのラ・ショー・ド・フォンで行っています。また、地板やブリッジ、トゥールビヨンケージなどは、5軸加工機を用いて製作しています。

 一方で、ゼンマイや香箱、受け石、歯車などの部品は、現時点では外部の専門企業に製造を委ねています。ロドルフォ氏は、創業初期からすべての技術を内製化するのではなく、経験を積みながら、どの工程を自社で担うべきか見極めていく考えです。

「ケースの製造には長年の経験が必要です。チタンは加工が難しい素材なので、品質をよりよく管理するために、自社で製作することにしました。何を自分たちで行い、何を専門企業に任せるかは、時間をかけて判断していきます」

 2019年に最初のプロトタイプをつくった経験も、その後の製造体制に影響しました。自ら加工を経験し、時計製作に必要な知識を身につけたことが、現在の内製化の基盤になったといいます。


トノーケースに宿る独自の歴史

ビアンシェ ウルトラフィーノ トゥールビヨン ホワイトセラミックケース

 ビアンシェはトゥールビヨンをブランドの中心に据えながら、将来的にはグランドコンプリケーションにも挑戦する考えです。ケースデザインについては、初期モデルの開発で得た経験を踏まえ、より薄く、洗練されたウルトラフィーノへとブランドの方向性が定まってきました。

 現在の課題のひとつは、トノーケースの独自性をどう伝えるかです。ロドルフォ氏は、リシャール・ミルの成功によって、トノー型のケースが同ブランドを強く連想させるようになったと考えています。そのため、ビアンシェの時計も、実際のデザインや構造の違いを見てもらう前に、つい他のブランドを連想されてしまうことがあるといいます。

 「トノーケースは、リシャール・ミルよりも前から時計の歴史に存在しています。私たちにとってトノーは、デザインと時計史における重要な遺産です」。リシャール・ミルが、軽量性や高い技術性とともにトノーケースの新たなイメージを築いたことは、時計業界にとって大きな出来事だったとロドルフォ氏は評価します。一方で、その印象が強くなったことで、他のブランドがトノーケースを採用すると、独自性を理解してもらうまでに時間がかかるとも語りました。

 「ブランドが知られるには時間がかかります。より多くの人にビアンシェの時計を見てもらえれば、独自の時計であることを理解してもらえるはずです」

 時計への情熱から始まり、黄金比への関心、フィンテックで培った起業家精神、そして妻との協業が形づくったビアンシェ。ロドルフォ氏が目指すのは、単に時計をつくることにとどまらず、独自の美学と世界観を持つブランドを育てることです。その歩みは、トゥールビヨンを起点に、これからさらに広がっていくでしょう。

詳細はビアンシェ公式サイトへ。