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数年前のバーゼルワールドの最中、僕がこの時計とそのクレイジーさについて最初に耳にしたとき、その存在をすぐには信じられませんでした。「フルゴールドでフルメタルのG-SHOCKだって?」や「なぜそんなものが?」という疑問が頭に浮かびましたが、その時計を見た瞬間、それらの疑問に対する答えが出ました。それは「楽しいもの」のひと言に尽きます。
どの時計が(機能にしろ、ステータスにしろ)優れているかを競いがちな世の中で、21世紀における腕時計というモノの真髄は、結局のところ、趣味としての楽しさにあることを忘れてしまいがちです。言ってしまえば、機械式腕時計の「必要性」は、日時計のそれと大差ないのです。だからこそ、あなたがその腕に巻いた時計に目を落とす度に微笑む気にならないようなら、何かが間違っているとも言えるのではないでしょうか? もちろん、様々な種類の脱進機について読むことからも楽しみは得られますし、コレクター同士でドイツ VS スイス談義を肴に飲むのも愉快ですし、ハードコアなコレクターが羨むレアで高価なモデルを所有する喜びが存在しないと誰が言えるでしょう。
しかし、時にそれは、もっと圧倒的にシンプルなものであったりもするのです。世の中には、ダニエルズ愛好家から、デテント脱進機とスイスレバー脱進機の違いが分からない一般ユーザーまでを同時にわくわくさせる、そんな時計が存在するのです。G-SHOCK GMW-B5000 フルメタルはそんな時計の一つであり、時計という存在に対して再び僕の心を躍らせるために必要な、新鮮な一本でした。
G-SHOCKの定義とは?
35年の時を経て、G-SHOCKは一つのカルチャー・アイコンの領域へと達したといえるでしょう。そのあまりの知名度により、あることが当たり前、もしくは日用品とすら認識されがちですが、実は非常に高度なエンジニアリングの賜物であり、時計業界に大きなインパクトをもたらした存在なのです。G-SHOCKというプロジェクトは、カシオで製品開発を担当していた伊部菊雄氏により、自身が体験した機械式時計のアクシデントから始まりました(詳しくは、伊部氏と初代G-SHOCKにまつわるジャックの記事を是非ご一読あれ)。そのゴールは非常にシンプルで、地球上最も頑丈で信頼できる時計を作る事でした。
その功績を「伊部氏とその同僚達は成功した」のひと言で片付けるわけにはいきません。数年の開発期間を経た1983年、DW-5000の発表と共にG-SHOCKは産声をあげました。その構造にはいくつもの革新的な手法が取り入れられ、それらの多くは今日まで継続して採用されています。例えば、時間制御モジュールを少数の支点のみで外装に固定し、言わば宙吊りの状態にする事で、ケース全体を衝撃緩和装置にするアイデアもそのひとつです。この時計は、200mの防水性と高さ10mからの落下にも耐えられる仕様でした。伊部氏が「追加テスト」と称して時計を車で轢き、それに問題なく耐えたという逸話まで残っています。
その誕生以来、G-SHOCKは主に、デザインとテクノロジーという二つの面で進化を続けてきました。カシオはソーラー充電、Bluetooth、そしてGPSといった技術をいち早く取り入れ、同社の時計をより機能的なものへと進化させました。そして、長年にわたる様々なG-SHOCKのシリーズ展開と共に、アナログ針の採用、多様なケース形状、そしてもちろんケースやダイヤルのポップなカラーバリエーション等が登場しました。G-SHOCKユーザーのフォーラムを覗けば、いかに多くのハードコアなコレクターが存在するかがひと目で分かるでしょう。G-SHOCKコレクターの真剣さには、ロレックスやパテッのコレクターがタジタジになるほどです。
フルメタル
そして、この時計の登場です。正式名称は「カシオ G-SHOCK GMW-B5000TFG-9 フルメタル」ですが、幸い、コレクターには「フルメタル5000」と呼ばれており、僕たちの仕事を少し楽にしてくれています。この時計は紛れもなく現行のG-SHOCKであり、異なるケースとブレスレットによってその独自の個性を引き出しています。2018年はG-SHOCKブランドの35周年という(記事の執筆時点で)節目の年であり、この時計および非ゴールドカラー仕様の兄弟機のどちらも明確な記念モデルという位置づけではないものの、やはり特別な雰囲気を持っているのは間違いありません。それでは、フルメタル5000という時計を少しずつ分析していきましょう。
ケース
さて、カシオの唱える「フルメタル」の定義とはなんでしょう。全てのG-SHOCKはケース、ベゼル、ケースバック、そしてブレスレットからなる、主に4つの外装パーツで構成されています。この時計は、それらのパーツ全てがステンレススティールで作られているのです。これはG-SHOCK初となります。これまでのモデルにも金属の外装パーツは使用されたことがありましたが、上記の主な構成要素全てが金属のモデルはこれまで存在しませんでした。
結果、この時計にはG-SHOCKの定番である鮮やかな色合いのプラスチックパーツが存在せず、馴染みのある横顔でありながら、全く違った雰囲気を持つ時計に仕上がっています。なお、ベゼルとメインケースの間に特別な樹脂製のレイヤーを敷くことで、より高い柔軟性と衝撃吸収性を持つ通常モデルと同等レベルのタフさを実現している点も、G-SHOCKマニアの皆さんには朗報でしょう。
スティール製であることに加え、この時計は、ダークメタリック仕上げのケースバック以外、ほぼすべての表面にゴールドコーティングが施されています。このコーティングは純金メッキではなく、明るいイエローゴールド調のイオンプレーティング処理(IP処理はPVD処理の一種)となっています。現在のトレンドからすれば、ローズゴールドという選択肢もあったと思いますが、個人的にはオールドスクールな魅力のある柔らかいイエローゴールドが大好きで、このG-SHOCKはその色合いを完璧に捉えています。その仕上げ処理はほぼ鏡面レベルなので、おそらくは細かい傷が目立つだろうと思っていたのですが、ニューヨーク・シティとロサンゼルスのストリートで丸一週間使用した後でも、目に付く傷はほとんどありませんでした。
見た目の(強烈な)インパクトに加え、この時計は物理的にもかなりの重量感があります。ケースは幅43.2mm、縦49.3mm、そして厚さ13mmとなっています。ドーム型のケースバックの影響もあり、着用時にはある程度の厚みを感じました。重さはブレスレット込みで170g弱となっています。装着時の不快感は全く無く、わずかに横長の長方形のケース形状は細めの腕にもしっくりきます。
ブレスレット
物理的にも視覚的にも、やはりそのブレスレットがこの時計の装着感を大きく左右します。ケースと同じく全ステンレススティール製、イエローゴールドIPコーティング仕様のブレスレットがこの時計のデザインの要といえるでしょう。小さな円形の窪みが各リンクの両端に配置され、ケース部分から続くこのモチーフが時計全体を一周する形になっています。シンプルなフォールド式のクラスプはしっかりとロックされ、このヘビー級の時計を支える安心感があります。
このブレスレットの構造は少々ユニークなものになっています。厳密に言えば着脱可能ではあるものの、一般的なリンクの代わりに、ケースそのものを延長する形状の特別なエンドリンクを採用しており、一体型ブレスレットと言っていいでしょう。このエンドリンクの回転角はかなり制限されており、ケースに対してほぼ固定された角度を保っています。下の写真を見れば、それが一目瞭然だと思います。
結果として、この時計の装着感は、その本来のポテンシャルに届いていないとも言えるでしょう。エンドリンクがあとほんの少しでも大きく可動すれば、装着感に関して最高スコアをあげられたと思います。しかし、この固定されたエンドリンクせいで、僕の手首から時計が多少飛び出る形になってしまい、ブレスレットの着け心地は僕の理想よりも少々硬めに感じてしまいました。この点を除けば、リンク自体は丁度良いサイズ感で、手首にスムーズに巻き付きます。このエンドリンクのデザインが装着時の時計の佇まいを決定することは分かっていますが、快適性を犠牲にする価値があったのかと言われると、個人的には首を傾げてしまいます。
文字盤&アプリ
この時計はあくまでも5000シリーズのG-SHOCKであり、その全ての機能を持っています。文字盤には「スーパーツイステッドネマティック(STN)」LCDと呼ばれる特殊な液晶が使用されており、一般的な液晶よりも高いコントラストと視野角を実現しています。メイン画面では時間(時・分・秒)、曜日、そして選択可能なもう一つの機能(上の写真では日付)を表示します。また、側面のボタンを使い、アラーム、ストップウォッチ、タイマーなどの操作が可能です。もちろんボタン一つで点灯するLEDバックライトも搭載されており、唐突な点灯・消灯ではなく、スムーズにフェードイン・フェードアウトするような仕様です。
液晶画面の周りにはお馴染みのレンガ模様が入っていますが、これはただのデコレーションではありません。実はこの部分がソーラーセルとなっており、G-SHOCKの駆動に必要な電力の充電を可能にしています。晴天屋外一日分の充電で、数ヵ月もの駆動時間分のパワーを得られるので、バッテリーライフのテストをする必要は無いでしょう。
時間制御機能のほとんどは、マルチバンドの標準電波受信によるものですが、このモデルはさらにBluetoothを搭載しており、モバイルアプリを経由してその他の機能にもアクセスできます。正直、僕がそれらの機能を今回のテスト中に使う機会は全くありませんでしたが、あなたがより高度なワールドタイムのインターフェースやアラームの追加などを必要とするなら、それも可能です。
On The Wrist
普段の僕は「ゴツいゴールドウォッチ」派ではありません。あなたがHODINKEEの常連読者であれば、おそらくもうご存知でしょう。僕はブランドロゴの無い製品を意識して探すタイプの人間であり、多くの場合古めで、小さめのおとなしいスティール製ウォッチを着けて日常の大半を過ごしています。しかし、誰にでも少しだけハメを外して楽しみたいときがあるものです。結局のところ、僕たちは腕時計の話をしているわけで、ちょっとギラついたアクセサリーをたまに楽しむのも有りでしょう。この時計がクォーツであることや、デジタルであることを欠点として挙げる人もいるでしょう。そういう人たちには「とりあえずちょっと落ち着こうか」とだけ言っておきます。
僕が初めてこの時計を着けたとき、まずその重量感に驚かされました。これは本当に洒落にならない重さの金属です。使用開始から最初の二日間は、時計を時々外して腕を休ませていたほどでした。しかしその後は僕自身が慣れていったようで、不快感無く丸一日着用できるようになりました。あなたが既に大型の時計に慣れていれば、最初から何も問題は無いでしょう。
上でも少し触れましたが、僕は今回、基本的にG-SHOCKを時間とデイト機能のみの時計として扱っていました。それは別にこの時計に限ったことではなく、僕が日常でクロノグラフを使うこともほとんどありません。そのうえで、この時計は非常によく出来ていると感じました。たとえあなたが様々な機能を使わなくても、この時計のG-SHOCKとしての魅力が損なわれるわけではない。実のところ、僕が最も好きなG-SHOCKの要素の一つはそこなのです。G-SHOCKはあくまでもユーザーのために働く時計であり、ユーザーを振り回す時計ではないのです。
唯一僕が慣れるのに苦労した点は、この時計を着用している際に浴びる注目でした。今回の試用期間中、地下鉄やバーで向けられる視線を常に感じ、複数の友人からは「な、何それ??」と驚かれました。繰り返しますが、僕は基本的に(時計やファッションに関して)目立たない日常が普通なのです。あべこべな話ですが、特に気にも留めずにヴィンテージロレックスを着けて電車通勤する僕が、この時計を袖で隠そうとする機会が多々ありました。
そうはいっても結局のところ、僕が話した人は皆この時計を気に入ったようで、話す相手をあっという間に笑顔にさせる時計でした。こういうタイプの時計としては、なかなかの好感を得たといえます。
競合モデル
比較対象の選択はいつも難しいのですが、今回の難易度は別格でした。ゴールドG-SHOCKは他の何者でもないわけで、この時計と直接的に比較できる時計なんて存在しません。しかし、広大な時計の世界におけるこの時計の立ち位置に、全く違うアプローチで迫る、全く異なった時計をピックすることができました。かなり、違ったものですが(笑)。
ミドー コマンダー シェイド
この時計の雰囲気は全く異質のもので、G-SHOCKの様なイエローゴールドではなく銅色に近いローズゴールドですが、全面ゴールド調の時計ではあります。特筆すべき点は、レトロな文字盤に3時位置のデイデイト窓の組み合わせ、サンバースト仕上げの文字盤、そして一体型のメッシュブレスレット でしょう。今回のG-SHOCKは、この時計のシックな1960年代を彷彿とさせる雰囲気に対して、ド派手な80年代が出した答えのような存在と言えるかもしれません(笑)。
11万5000円(税抜) midowatches.com
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク “ジャンボ” イエローゴールド
突っ込みどころ満載なのは分かっていますが、まずは言い分を聞いてください。もしもあなたが「ゴールドカラーで一体型ブレスレットを採用した、スポーティで多少の荒い扱いにも耐える時計」を探しているなら、ゴールド製のロイヤル オーク ジャンボに勝る時計を思いつきますか? もちろんこの時計の値段は、あなたの友人全てにゴールドG-SHOCKを買い与えたとしても有り余る予算ですが、事実として、これら二つの時計の性質は、ある意味それほど変わらないといえるのではないでしょうか?
580万円(税抜) audemarspiguet.com ※ブティック限定
総評
カシオ G-SHOCK GMW-B5000 フルメタルは、4つのボタンにアプリ、そして数種類の画面モードを備え、複雑な時計と映るかもしれません。そしてソーラー充電やBluetooth接続が可能で、超頑丈なのです。しかし、突き詰めていけば、その先に見えるのは実にシンプルな時計という事実。大きめで、ピカピカで、悪びれもしないゴールドの時計という、ひたすら見た目に忠実な存在だといえるでしょう。競って探し当てるような代物でもなければ、機械に対する造詣が云々という時計でもありません。この時計は、いかに周りの人より楽しむか、そのド派手な雰囲気を謳歌するか、そして、時計という存在の真髄は、それを楽しみ、一つひとつの瞬間に喜びを見つけることにあるのだと思い出させてくれる、そんな一本なのです。
カシオ G-SHOCK GMW-B5000 フルメタル:限定モデル(現在完売)
定価:6万8000円(税抜)
より詳しい情報は、G-SHOCK公式サイトへ。