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来る11月28日にクリスティーズ香港は、「ルビーコレクションとアジアの重要なプライベートコレクション Part5」を開催します。本サイトでも以前ご紹介した「チタニウムコレクションとアジアの重要なプライベートコレクション Part3」の続編で、今回はタイトルに有る通りルビーを備えた様々な希少ピースが登場します。
今回もHODINKEE Japanは、オークションプレビューにてそれらを見る機会を得ました。数々のロットの中から僕たちが注目した5本の時計を編集部撮り下ろし画像とともにご紹介します。それでは早速見てみましょう。
パテック フィリップ Ref.1518 シャルル・スターン文字盤
1941年に発表されて以来Ref. 1518は、パテック フィリップの複雑機構をもった時計の中でも最も人気のあるモデルの一つです。永久カレンダー搭載クロノグラフは、同社を象徴する複雑時計として知られ、聖杯と呼ばれるステンレススティール製のRef. 1518について本サイトでも取り上げました。
このパテック フィリップ Ref.1518は、歴史的に非常に重要なモデルの一つです。その理由は、文字盤が大きく関係しています。実はこの特徴的な文字盤は、パテック フィリップの共同オーナーであるシャルル・スターンのリクエストによって製作されたものです。しかし最初からRef. 1518についていたのではなく元々はRef. 1527に取り付けられていたものでした。今回登場したRef. 1518はつまり、カスタマイズされた個体なのです。では一体この文字盤にはどんなストーリーがあるのでしょうか? 順を追って紐解いていきましょう。
1943年、シャルル・スターンは、自身のために自社の時計Ref. 1527をワンオフで注文しました。彼は通常生産とは別の文字盤を欲しており、文字盤製作事業を行っていた自身の旧家に目を向け特注品をオーダーするのです。もちろんその文字盤とは、今回オークションに登場したRef. 1518に取り付けられたもの。
残念ながらシャルル・スターンは、念願だったこの文字盤が取り付けられたRef. 1527を手にすることはなく、直前の1944年に亡くなってしまいます。その時計は、息子でパテック フィリップの社長アンリ・スターンが受け継ぎ、約3年間、旅をしながら仕事道具として使用されました。
エングレービングとハードエナメル加工が施され文字盤は、真っ先にルビーのアワーマーカーが目に付きますが、特別なのはそこだけではありません。3時位置の30分積算計をよく見ると3分の位置に“3”と分かりやすく印字がされています。これはテレフォンタイマーで、アメリカとヨーロッパ間の国際電話がいかに高価なものであるかを意識するために付け加えられたものだといいます。
1946年、理由は明らかにされていませんが、Ref. 1527は新しい時計として販売されるため、ジュネーブの工場に戻されます。ここからはパテック フィリップのアーカイブに記載されているように新しいRef. 1518の文字盤が備えられ新たな所有者の元へと売却されました。その後Ref. 1527は、2010年にクリスティーズ・ジュネーブでパテック フィリップによって625万9000スイスフランという記録的な金額(その時点でこれまでに販売された最も高価な腕時計)で落札され、買い戻されました。現在はジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムに所蔵されています。
では、シャルル・スターン特注の文字盤はどうなっていたのでしょうか? 1990年代のある時点で、とあるバイヤーがこの文字盤を個人的に入手し、自身のRef. 1518に取り付けました。今写真でご覧いただいているのがその時計なのです。
オークションに登場するモデルを改めて見てみましょう。シャルル・スターンのユニークな文字盤は、イエローゴールド製でセカンドシリーズRef. 1518に取り付けられており、元々付いていたかのように完璧に取り付けられています。文字盤は、タキメーターの印字部分など非常によいコンディションが保たれています。もちろん小さな傷はいくつか見られますが、それもこの文字盤がどんな運命を辿っていたのかを想像させる要素になっているように感じます。
70年という長い歳月Ref. 1527とこの文字盤は離ればなれになっていたわけですが、もしパテック フィリップが落札し、シャルル・スターンが望んだ形に戻されることがあるとしたらそれは本当に素晴らしいことだと思います。間違いなく本オークションにおいて特別で、注目すべき1本でしょう。
本機はLOT2424で、予想落札価格は400万〜1200万香港ドル(約5300万〜1億6000万円)です。
パテック フィリップ Ref. 2481 エナメル文字盤
1950年から1960年までの約10年間に生産されたRef. 2481は、1950年代としては大きめの直径37mmで作られ“キングサイズ”の愛称をもったモデルです。そのほとんどがイエローゴールド製で、ピンクゴールド製のモデルは希少価値が高く、プラチナ製に至ってはわずか1本のみ。
極めて希少なピンクゴールドモデルの本機は、1955年に製造され、ルビーのインデックスが付いた無地のクリーム色のエナメル文字盤で作られた唯一の例です。この種の文字盤をもつ他のモデルはほとんど全て、サウジアラビアのサウードビン・アブドゥル・アジズ王子の肖像画が描かれていることで知られま明日(同オークションに出品されるLOT2426の懐中時計はその一例)。
また、ゲイ・フレアー社製のピンクゴールドの着脱可能なブレスレットがついていることも特筆すべき点です。
これと同様の文字盤をもったRef. 2481はこれまで市場に登場したことはなく、ユニークピースであると考えられています。ケースは、ベルナール・デュボア社(Bernard Dubois & Cie)製で、ケースバックにはカラトラバ十字と“PATEK PHILIPPE GENEVE”の刻印が見られます。
本機はLOT2425で、予想落札価格は40万〜80万香港ドル(約530万〜1070万円)です。
パテック フィリップ Ref. 3448/8 パーペチュアルカレンダー
Ref. 3448は、ミニマルな外観に直径37mmのやや大きめのサイズ感から複雑機構を備えたヴィンテージパテックの中でも最も人気のあるモデルの一つです。合計で586本しか製造されず、その中でもリファレンス末尾に“-008”をもったゴールドブレスレット仕様のモデルはわずか3本だけしか確認されていません。ここでご紹介するのは、Ref. 3448-008Jです。
本モデルは1965年頃に製造されたモデルで、シルバー仕上げのソリッドゴールド文字盤は、当時のオーナーの特別な要望によって1990年頃に製作されたものを1991年の修理の際に取り付けられました。ルビーを支えるのはホワイトゴールド製の爪。他の類似例では、イエローゴールド製のセッティングが採用されることが多いですが、文字盤のシルバーと同色になっておりクリーンな印象を与えます。
盛り上がったルビーのアワーマーカーが取り付けられた文字盤に対応するため、ベゼルの高さがパテック フィリップによって変更されています。この修正は文字盤取り付け時に行われており、同社の細部へのこだわりが伺えます。
内部に搭載されたムーブメントは、Cal. 27-460 Q。テンプの錘のみで精度を調整するジャイロマックスバランスをもったパテック フィリップ自社製Cal.27-460をベースにしています(QはQuantième、つまりカレンダーの意味)。
世界に3つしか存在しないとされるRef. 3448/8 パーペチュアルカレンダーのゴールドブレスレット仕様、そして本モデルはルビーセッティングのユニークな魅力をもち合わせています。
本機は、LOT2427で予想落札価格は400万〜780万香港ドル(約5400万〜1億450万円)です。
パテック フィリップ アクアノート Ref. 5063 ルビーセッティング文字盤
この時計が真であることは、ひと目見てすぐに分かります。パテック フィリップ アクアノート Ref. 5063は、直径33.5mmのホワイトゴールド製ケースにバケットカットされた12のルビーがセットされた文字盤上をもったユニークピースで、最も希少なアクアノートの一つです。
本モデルが製造されたのは、1997年のこと。アクアノートが誕生したのは1996年であり、アクアノートが生産されるようになったかなり初期の段階で製造されていたことになります。1996年の初代アクアノート Ref. 5060のケースは、ステンレススティール、またはイエローゴールド製で、裏蓋はソリッドケースバック仕様でした。1997年には、トランスパレントバック仕様のRef. 5066が登場。いずれも自動巻きのCal. 330/194を搭載。1998年には、ピンクゴールド製ケースにホワイトダイヤルを備えた限定モデルがアジア市場向けに3本だけ製造されました。1966年から1977年にかけてギヨシェベゼルを備えた特別なゴールド製の限定モデルRef.5061Jも登場します。
今回オークションに登場したアクアノートは、ホワイトゴールド製のデプロイヤントバックル、ルビーがセットされた文字盤、独自の型番Ref. 5063が与えられたユニークピースとして同時期に製造されたのにも関わらず、全く無名のままであったというのはとても興味深いポイントです。パテック フィリップの最も重要な顧客の一人のために、特別注文としてワンオフで作られたのはほぼ確実で、23年もの間プライベートコレクションとして、保管されていました。
ホワイトゴールド製のアクアノートは、同モデル誕生20周年の2017年に5168Gが発表されていますが、それを除けば唯一の例となります。
文字盤のルビーは、アクアノートの独特なダイヤルパターンに溶け込むようにデザインされています。インデックスのアラビア数字はホワイトゴールド製。また、ブランドロゴは文字盤ではなく風防に印字されている点も特徴的です。内部に搭載するムーブメントは、他のアクアノートに使用されているCal.330/194ではなく、自社製の極薄のCal.335 SCを搭載。1992年までノーチラス Ref. 3800に採用されていたことで知られるムーブメントで、29石、ゴールドローターを備えています。
ホワイトゴールド製のアクアノートというだけでも非常に珍しいですが、さらに目を見張るようなルビーセッティングの文字盤をもっているため、大きな結果を生むことは間違いないと思います。
本機は、LOT2429で予想落札価格は400万〜780万香港ドル(約5400万〜1億450万円)です。
パテック フィリップ Ref. 3939HR シルバーオパーリン文字盤
パテック フィリップ Ref. 3939は、トゥールビヨン・ミニッツリピーターモデルで、イエロー、ホワイト、ローズの3種類のゴールドモデルとプラチナバージョンが存在し、1993年に発表され2009年までに合計で200本のみが製造されました。
本機は、そんなRef. 3939の中でも2008年に製造されたピンクゴールド製ケースをもつモデルで、通常モデルは全てがアラビア数字のインデックスですが、本機は12時以外ルビーのインデックスに変更されています。これはルビーインデックスを備えた唯一のRef. 3939です。
また、通常のRef. 3939がエナメル文字盤を有しているのに対して、シルバーオパーリン文字盤の仕様です。ルビーインデックスとシルバーオパーリンの文字盤は、オリジナルの証明書によって最初からその仕様で作られたモデルであることが証明されています。
小ぶりな直径33.3mmのケースの内部には、Cal.R TO 27 PSを搭載。Cal.R TO 27 PSといえば、今年大幅に再構成された同型のムーブメントを搭載したミニット・リピーター・トゥールビヨン 5303を覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。トゥールビヨンと2つのゴングをもったミニッツリピーターを備えた手巻きムーブメントです。実際にチャイムを鳴らしてみるとその小ぶりなケースサイズに対して予想よりも大きく透き通ったサウンドを奏でます。
本機は、LOT2430で予想落札価格は400万〜780万香港ドル(約5400万〜1億450万円)。
パテックフィリップが色付きの宝石をセットした時計を作る機会があったのはごくわずかで、常に最も高級なのはルビーセットの時計でした。特別なリクエストや、最も大切なクライアントを招待して製作していたという作品たちには様々なストーリーが垣間見えます。もちろん僕は入札することはありませんが、こうした時計を知ることも時計を楽しむことの一つなのだと思います。
オークション開催は、11月28日です。さらなる詳細は、クリスティーズ公式サイトをご覧ください。