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映画が歴史を扱おうとするとき、しばしば“実話に基づく”という文句が使われる。これは映画作家に歴史的出来事に独自のアレンジを加えるクリエイティブな資格をたっぷり与える特別な言い回しである。映画ファン、特に映画で描写される特定の主題に熱い思いを抱く映画ファンはこの芸術的自由を不快に思う。結局のところ、映画は歴史ではなく、あくまで映画であり、実際の出来事を簡略化し、台本を書き、脚色したものなのだ。
この前置きは完全に、今回のWatching Moviesに選んだ『グローリー/明日への行進』(2014)のためのものだ。この映画の主役はデヴィッド・オイェロウォ(David Oyelowo)が演じるマーティン・ルーサー・キング・ジュニアで、劇中で彼は南部の公民権闘争に国中の関心を引きつけ、黒人アメリカ人に対する投票弾圧策を終わらせるための運動のなかで、アラバマ州のセルマからモントゴメリーまで行進を先導する。
あなたがどのように感じようとも、この映画は歴史的な出来事を起こったとおりに描いている。それを2時間半という短い尺に凝縮するのは至難の業だ。当然、この映画が扱うのは歴史を変えた重厚な主題だが、我々はあらゆることのなかで最も瑣末なもの、つまり時計のためにここにいる。これは制作者たちが非常に正しく理解していたディテールのひとつだ。オイェロウォが着用しているとおり、キング牧師に選ばれた時計 は、地球上で最も認知度の高い時計ブランドによる幾分レアな金無垢の時計である。
注目する理由
今週の初めに「I Voted(私は投票した)」というステッカーを身につけた多くの人が歩きまわっているのに、みなさんも気づいたかもしれない。みなさん自身もブースに入って1票を投じたかもしれない…そうであることを願う。前の火曜は選挙の日であり、国中で市長選や知事選が一斉に行われた。
我々の多くは投票を行う憲法上の権利を当然のものとしてとらえている。しかし、まだ浅いアメリカの歴史のなかでは、人口の大半がその権利を持たずに生きていた。アメリカ南部の無数の黒人市民にとって、投票する法的権利は必ずしも現実世界での投票を可能にするものではなかった。マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師を描く『グローリー/明日への行進』では、まさにこの問題を扱っており、リンドン・B・ジョンソン大統領(トム・ウィルキンソン〈Tom Wilkinson〉扮する)と議会を、のちに1965年投票権法となる法案を可決するように説得するキング牧師のミッションを追っている。
オイェロウォはアイコニックなキング牧師を非常にみごとに演じており、話し方や独特の仕草、スタイル、それから腕にはめた金時計までを再現している。その時計は明るいシャンパンカラーのダイヤルを配した金無垢ケースに、そろいの金のジュビリーブレスレットをそなえたロレックス デイトジャスト Ref.1601だった。キング牧師がお気に入りの時計であるデイトジャストを着用しているのが見られる写真は数えきれない。
デイトジャストはこの上なくクラシックなロレックスである。ステンレススティールでもツートンカラーでも、そしてこの金無垢の場合でも多くの意味で“ザ・ロレックス”である。しかしどういうわけか、デイトジャストはヴィンテージウォッチの狂騒とそのクレイジーな価格高騰を何とか免れてきた。これは奇妙なことだ。というのも、デイトジャストは非常に多くの著名人の愛用時計であったからだ。キング牧師と同じように、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領も金無垢のロレックス デイトジャストを着用していたが、彼の時計はルーレット式の日付表示をそなえていた。SSバージョンを着けこなすジェームズ・マカヴォイやポール・ニューマンについても最近取り上げたところだ。
オイェロウォは映画全編でキング牧師としてデイトジャストを着用している。いつもダイヤルに完璧にフォーカスが合っているわけではないが、非常に特徴のあるアイコニックなゴールドのジュビリーブレスレットは見落としようがない。実際のところ、ロレックスの時計については、見つけたり識別したりする際にブレスレットがほかのどの部分にも劣らず重要である。
そしてオイェロウォはこの時計を上手く身につけている。腕の先の方にしっかりと留まっており、スクリーンで彼が着ているどのシャツの袖口からも何とか出ているので、時計がなおさら目に付きやすい。公民権のための戦いを率いたときにキング牧師がどれほど若かったかを、我々は忘れがちだ。彼がまだ30代半ばだったのは、彼の成し遂げたことや1964年に最年少受賞者としてノーベル平和賞を受け取ったことを考え合わせると非常に驚くべきことだ。噂によると彼は金のデイトジャストをプレゼントされたようだが、事実を確認するのは困難である。もちろんその時代のロレックスは今日のようなブランドではなかったが、彼が著名人としての立場で金無垢の時計を身に着けることを選んだのには、何か意味があるはずだ。それは主張となる。強さと自信を表現する。それらは紛れもなくキング牧師の特性だ。
見るべきシーン
映画がはじまってまもなく、ホワイトハウスの大統領執務室でキング牧師がジョンゾン大統領に会って、南部の黒人アメリカ人を取り巻く投票に関する問題に真剣に取り組むよう大統領を説得する場面がある。ジョンソン大統領は、この問題に同情を寄せてはいるものの、自分の優先課題にはなり得ないものだとはっきりと伝える。2人が大統領の執務机を挟んで対話するとき[00:09:30]、キング牧師の金無垢のデイトジャストがその腕にはっきりと見えており、特に自分の主張を理解してもらうために活発に手を動かす際に目に付く。この同じシーンのなかに、もうひとつの史実に正確な時計が見られる。ジョンソン大統領を演じるウィルキンソンは“プレジデント”として知られている18金無垢のロレックス デイデイトを着けており、これは大統領が実際に身につけていたのと同じ時計だ。プレジデントのブレスレットはジュビリーと同じように特徴的だ。ひとつの部屋のなかにたくさんの金がある。
映画のなかのもっと静かで親密な時間、キング牧師は自宅のキッチンで皿を洗っている。ニューヨーク・タイムズ紙による『Anatomy ofa Scene(シーンの詳細分析)』というすばらしいビデオエッセイにおいて、この瞬間が上手く分析されている。そのなかで、ナレーターはキング牧師が棚の中のゴミ袋を見つけるのにいかに手間取るかに注目している。彼はあまりに家を離れることが多いため、自分自身の家に慣れていないのだ。シーンが進むと[00:19:19]、妻であるコレッタ・スコット・キング(カルメン・イジョゴ)が袋を彼に手渡し、キング牧師がゴミを処理してから自宅の壁に四方を囲まれた安らぎのなかで、メディアと一般大衆の注目を逃れ、妻に話しかける際に金のデイトジャストがきらめく。夕暮れ時の薄暗い部屋のなかでも、このクラシックなデイトジャストは見間違いようがない。率直に言えば、それは映画そのものへの集中を妨げるような時計なのだ。
『グローリー/明日への行進』(デヴィッド・オイェロウォ主演)の監督はエイヴァ・デュヴァーネイ(Ava DuVernay)で、小道具はロビン・L・ミラー(Robin L. Miller)が担当。Plutoでストリーム配信、iTunesもしくはAmazonでレンタルが利用できる。
Lead illustration, Andy Gottschalk
ロレックス デイトジャストの詳細は、ロレックス公式サイトをご覧ください。