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HODINKEE Japanでは2026年7月27日(月)から8月2日(日)まで、Divers Watch Week 2026としてダイバーズウォッチに焦点を当てた特集を公開している。このウィークのために用意した新規取材記事や編集部員による動画企画まで、サイト上で毎日配信していく予定だ。すでに公開されたコンテンツについてはこちらから確認して欲しい。
1. ダイバーズウォッチ誕生前夜(1950年代以前/防水時計の確立)
ダイバーズウォッチとは、水中で潜水時間を安全に計測し、暗所でも必要な情報を確実に読み取れるよう設計された潜水用の腕時計を指す。現在、ダイバーズウォッチを名乗るためには、国際規格「ISO 6425:2018」が定める条件を満たす必要があり、単に高い防水性能を備えていればいいというものではない(ダイバーズウォッチ規格については記事「ダイバーズウォッチ完全ガイド:現代のライフスタイルに合う選び方と、歴史を彩るマスターピース」のなかで詳しく紹介している)。しかし、その原点をたどれば、いかにケース内部への水の侵入を防ぎ、腕時計の防水性能を高めるかという、時計メーカー各社による試行錯誤の歴史に行き着く。
ベゼル、裏蓋、リューズを、ガスケットを介してケースにねじ込むことで、水の浸入を防ぐ。腕時計の高防水化を実現したのが、今から100年前の1926年にロレックスが開発したオイスターケースであることは、多くの時計ファンが知る史実であろう。それに先駆け、同社は1922年に“密閉”を意味するハーメティックケース(Hermetic Case)に時計本体を収めることで高防水化を図った「サブマリン」を試作していた。また、オメガも同様にハーメティックケース構造を備えた角形防水腕時計「マリーン」を1932年にリリースしている。
ロレックス初の防水・防塵腕時計、サブマリン(1922年)。当時の防水構造は、時計自体をさらに別のケースに入れるという特殊な形式だった。© Rolex
1922年にロレックス創業者、ハンス・ウイルスドルフによって登録されたサブマリン(THE SUBMARINE)の知的財産登録証明書。登録日(1922年3月31日)と公開日(1922年6月9日)が明記されている。© Rolex
1926年にロレックスが開発した初代オイスターケースの分解図。ねじ込み式のベゼル、裏蓋、リューズを備え、世界初の防水腕時計となった。© Rolex
オメガが初の“ダイバーズウォッチ”と表現する「マリーン(1932年)」。特許を取得した独自の二重構造ケースを採用し、コルクによって密閉することで、水や外部環境からムーブメントを保護した。オメガ本社からほど近いレマン湖において、水深73mでの試験に成功したといわれている。
また、現在のダイバーズウォッチに必須である夜光塗料をいち早くダイヤルに応用したのは、パネライだった。1916年、パネライはラジウムをベースとする自発光塗料「ラジオミール」を発明。これをインデックスに塗布した防水時計のプロトタイプを、イタリア海軍からの要請で1935年に開発した。のちに、ダイヤルはラジオミールを塗布したディスクにインデックスをくり抜いたディスクを重ねる“サンドイッチ構造”に進化し、イタリア海軍に制式採用された。その腕時計には、裏蓋とリューズをねじ込み式としたオイスター構造のケースが用いられた。これはパネライの本業であった「スイス時計店(1860年にイタリア・フィレンツェに開業)」がロレックスと密接な関係にあり、同社にケースとムーブメントの製造を託したためとされている。
高い防水性能、そして海中での優れた視認性。ダイバーズウォッチは、こうした時計メーカー各社の試行錯誤を原点に開発が進んでいった。
1935年、イタリア海軍向けに開発されたラジオミール。画像だけではケース番号やムーブメントを確認できないものの、パネライが公式サイトで“最初のラジオミール試作機”として紹介していることから、試験用プロトタイプとして製作されたRef.2533と思われる。なお、同様の外観を持つモデルとして、実際に海軍へ供給されたRef.3646がある。
また、パネライは防水機能を高めるためにレバーロック式リューズプロテクターを発明し、1956年に特許を取得した。これはテコの原理でリューズをしっかりと押し込むことで水の浸入を防ぐ機構で、今もパネライのアイコンとなっている。写真の時計は、1956年にエジプト海軍のために開発されたエジツィアーノだ。
2. ダイバーズウォッチの誕生(1950年代/潜水専用計器の完成)
1943年、アクアラング(編注:圧縮空気ボンベと呼吸用レギュレーターを組み合わせた自給式の水中呼吸装置)が発明されたことで、人類は水面から空気を送るホースに頼ることなく、水中を自由に動き回る術を得た。これを契機に、それまで一部の職業人に限られていたダイビングはレジャーの領域へと広がり、レクリエーションダイビングが普及していく。また当時は、海洋探査や軍事用途における防水腕時計の需要も従来以上に高まっており、実用ツールとしての腕時計には、高い防水性能が不可欠になりつつあった。
こうした需要に応えたのが、潜水可能時間を把握できる高防水腕時計、すなわち現在のダイバーズウォッチの始祖とされるモデルだ。なかでも代表的な存在なのが、ロレックスのサブマリーナー、ブランパンのフィフティ ファゾムス、そしてゾディアックのシーウルフである。
ロレックス初の本格ダイバーズウォッチとして1953年に誕生したサブマリーナー Ref.6204。回転ベゼルを備え、小ぶりな37mm径ケースで100m防水を実現した。その特徴的なスタイルはロレックスのみならず、ダイバーズウォッチの多くに影響を与え、その礎として広く知られる。© Rolex/Eric Sauvage
ロレックスのサブマリーナーを紹介した広告(1957年)。興味深いのは、660フィート(=約200m)までの防水性を備えると記載されている点だ。ファーストモデルのRef.6204では100m防水だったが、1955年に登場したRef.6200では200m防水を確保したとされる。© Rolex
いずれも水中での経過時間を計測するための回転ベゼルを備えており、このうちフィフティ ファゾムスだけが、押し回し式のロック機構を採用していた。経過時間を計測できる回転ベゼル自体は、すでに航空時計で実用化されていたため、その仕組みを潜水用腕時計へ転用したものと考えられる。
3モデルはいずれも1953年に誕生し、防水性能も約91〜100mと近い水準にあった。さらに、針とインデックスには夜光塗料が施されていた。これほど共通点の多いモデルが同じ年に相次いで登場したことは、にわかには信じがたいが、1953年がダイバーズウォッチの歴史における大きな転換点となったことは疑いようがない。
ちなみに、ゾディアックの公式情報ではシーウルフの登場を1953年としているが、現時点で確認されている最初期の広告は1957年のもので、画像を伴う本格的な紹介は1958年とされる。そのため、現在確認できる資料に基づいて、実際の登場は1957〜58年ではないかとする説もあり、シーウルフの発売時期については議論の余地が残されている。
初代フィフティ ファゾムス。6時位置にロトマティック インカブロック(Rotomatic Incabloc)表記があることから最初期のモデルと思われる。フィフティ ファゾムスにおいても初期にはさまざまな仕様違いの個体が作られた。なかには、同様の特徴を備えつつ、ダイヤルにリップ(Lip)、アクアラング(Aqua Lung)、テクニサブ(Technisub)の表記が入るダブルネームモデルも存在した。© Blancpain, The Original Fifty Fathoms
ちなみに、ブランパンのフィフティ ファゾムスが欲しいと考えているなら、記事「Buying, Selling, & Collecting ブランパン フィフティ ファゾムスコレクション 初心者のため完全ガイド」は必読だ。
1944年から1982年まで存在したフランスの対外情報・諜報機関、SDECE(防諜・外国資料局)に所属したロベール・“ボブ”・マルビエ(Robert “Bob” Maloubier)大尉。フランス海軍の士官クロード・リフォ(Claude Riffault)中尉とともに、フィフティ ファゾムスの軍用要件を定め、開発と実地試験を推進した。© Blancpain, Bob Maloubier wearing the Fifty Fathoms
ジャン-ジャック・フィスター(Jean-Jacques Fiechter)は、1950〜1980年にかけてブランパンを率いた経営者で、自らのダイバーとしての経験をもとにフィフティ ファゾムスを構想・開発した。特に、同モデルの核となるダブルシール式リューズ、ロック式ベゼル、ケースバックのシール保持構造について特許を取得した。© Blancpain, Jean-Jacques Fiechter
なかでもブランパンのフィフティ ファゾムスの開発には、フランス潜水戦闘部隊に所属していたロベール・“ボブ”・マルビエ(Robert “Bob” Maloubier)大尉とクロード・リフォ(Claude Riffault)中尉が参画した。時計には彼らの要望が反映され、軟鉄製インナーケースによる耐磁性能を備えたミルスペック(MIL-SPEC)として設計され、フランスのみならず、ドイツ、アメリカ、ノルウェーの海軍にも採用されていった。
この時代、レクリエーションダイビングは、まだまだ限られた人々のためのものだった。ダイバーズウォッチもまたプロフェッショナルのための腕時計であり、主に軍や海洋探査に従事するダイバーや水中作業員の命を守るための潜水用計器として位置づけられていたのである。
画像は、1959年頃のアメリカ向けに掲載されたゾディアック シーウルフの広告である。当時の市販ダイバーズウォッチとしては画期的な200m防水を備えていたとされるが、広告では「水深660フィート(約200m)でテストされた」と表現されているものの、防水性能の保証まで明確に示しているわけではない。リファレンスの記載はないが、その外観と「660ft」の仕様、年代から第2世代のシーウルフ、Ref.699系と考えられる。
3. 多様化、プロフェッショナル化、そして国際化(1960〜70年代)
1960年代に入り、レクリエーションダイビングを楽しむ人々が増え始めると、ダイバーズウォッチへの需要はさらに高まっていった。これを受けて時計メーカー各社からは、現在まで受け継がれるダイバーズウォッチのコレクションが次々と登場することとなる。
画像の時計はいずれもセイコー ファーストダイバーで、左が“スモールクラウン”と呼ばれる6217-8000、右が“ビッグクラウン”の6217-8001である。セイコー初のダイバーズウォッチとなった62MASについては、記事「セイコー ファーストダイバー開発の舞台裏」で詳しく紹介しているので、本稿と併せて読んで欲しい。
発売時期だけを見れば、日本で最も早くダイバーズウォッチを発売したのは、当時のオリエントだった。1964年にブランド初のダイバーズウォッチとされる「オリンピアカレンダー ダイバー」を発売している。ただし、その防水性能は40mであり、現行のISO規格が定めるダイバーズウォッチの要件を満たす仕様ではなかったとされる。
一方、日本でいち早く本格的なダイバーズウォッチの開発に成功したのはセイコーだった。1965年に発売された「150mダイバー」こと、セイコー ファーストダイバー 62MAS-010が、国産ダイバーズウォッチの道を切り開いたのである。その防水性能は150m。さらに3年後の1968年には、ワンピース構造のケースを採用することで300m防水を実現した6159-7000、通称「300mダイバー」が誕生した。
画像は、1967年に発表されたドクサの初代SUB 300 プロフェッショナル。コレクターのあいだでは、後年のSUB 300Tと区別して“SUB 300 No-T”または“シンケース”と呼ばれている。ドクサのダイバーズウォッチ史における原点にあたるモデルだ。
現在では他社にも広く採用されている、海中で最も視認しやすいとされるオレンジ色のダイヤルを初めて用いたのは、ドクサだった(1964年)。さらに1967年には、アクアラングの考案者でもある海洋学者ジャック=イヴ・クストー(Jacques-Yves Cousteau)との共同開発により、減圧不要限界(編注:無減圧限界とも。浮上途中で減圧停止を行わずに水面へ戻れる、その水深における最大潜水時間のこと)を読み取れるダブルスケールの逆回転防止ベゼルを備えた、300m防水のSUB 300が登場した。
このSUB 300を契機に、ドクサはオレンジダイヤルを備えたプロフェッショナルダイバーズウォッチで広く知られるようになる。さらにダイバーズウォッチを軍用・特殊用途の装備品から、一般のスクーバダイバーも使用できる実用計器へと発展させたブランドのひとつとして、その地位を築いていった。
また当時、プロのダイバーからの要望を受け、ヘリウムと酸素の混合ガスを用いる飽和潜水への対応にいくつかの時計ブランドが挑んだ。
1967年に登場した、ロレックスの初代シードゥエラー Ref.1665。長期の水中作業を行うプロフェッショナルダイバー向けとして投入されたモデルで、当初から610mという高い防水性能とヘリウムエスケープバルブを備えた。ダイヤル6時位置の「SEA-DWELLER」「SUBMARINER 2000」の2行を赤く記した仕様から、通称“ダブルレッド(DRSD)”と呼ばれている。© Rolex / Jean-Daniel Meyer
ケース内部に侵入したヘリウムガスが浮上時に膨張し、その圧力によって風防が破損する問題を、排出バルブによって初めて解決したのが、1967年に登場したロレックスのシードゥエラーである。翌年には、ドクサもヘリウムエスケープバルブを備えたSUB 300T コンキスタドールの一般向け販売を開始した。両者とも、ケース内外の圧力差が一定値に達すると自動的に開き、内部のガスを排出する一方向弁式のヘリウムエスケープバルブを採用していた。
スイス時計協会が掲載するドクサのブランド史では、SUB 300T コンキスタドールのヘリウムエスケープバルブは、ロレックスと共同開発されたものと説明されている。一方、ヘリウムエスケープバルブに関する特許はロレックスが取得している。ただし、ドクサとロレックスがまったく同一の部品や構造を共有していたという確証はない。両社がほぼ同時期にヘリウムエスケープバルブの開発を進めるなかで、ドクサが同じ課題に対して、独自のバルブ構造によって同様の機能を実現した可能性も考えられる。いずれにせよ、両社の開発が実際にどのような関係にあったのか、その全容は現在も明らかになっていない。
画像の時計は、セイコーのダイバー・プロフェッショナル600。1975年に発売された、Ref.6159-7010の初代機械式“ツナ缶”だ。最大の特徴は、ヘリウムエスケープバルブを設けず、特殊なパッキンによってヘリウムの侵入自体を防いだこと。ロレックスやドクサとは異なる思想で、飽和潜水の問題を解決した。
一方、セイコーは、ワンピース構造のケースに加え、ヘリウムを透過しにくい素材を用いた風防と、密着性に優れたL字型パッキンを採用することで、ケース内部へのヘリウムの侵入そのものを遮断した。1975年にはヘリウムをケースに“侵入させない”という設計思想に基づいた飽和潜水対応のRef.6159-7010、通称「600mダイバー」を開発した。
同モデルではチタンケースに加えて、水中作業者の要望を受けて、落下時の衝撃から風防を保護する着脱可能な外胴を装備。その特異な外観から、“ツナ缶”の愛称で呼ばれるようになった。
オメガ シーマスター 600 “プロプロフ” Ref.ST 166.077。オメガによれば、その試作機は1968年に完成しており、フランスの潜水会社コメックスによる深海油田探査および飽和潜水の実験計画「ヤヌス計画」で使用された。一般向けモデルは1970年に登場したとされる一方、正式発表は1971年2月、市場投入は同年4月だったともいわれている。ケース右側に設けられた赤いボタンは、両方向回転ベゼルのロックを解除するためのものだ。
同じくオメガも、ヘリウムをケース外へ排出するのではなく、内部への侵入を防ぐという道をまずは選んだ。1970年にフランスの潜水会社コメックスとの共同開発によって誕生したシーマスター 600 “プロプロフ”は、ワンピース構造のケースと、リューズを強固に密閉するロック機構によって、きわめて高い気密性を実現した。さらに、風防を上からベゼルで挟み込む構造を採用することで、仮にヘリウムがケース内部へ侵入しても、浮上時の圧力によって風防が外れることを防いだ。ちなみに、モデル名の“プロプロフ”とは、フランス語でプロフェッショナルダイバーを意味するプロンジュール・プロフェッショネル(Plongeur Professionnel)を縮めた造語である。
この時代、レクリエーションダイビングの普及を背景に、時計メーカー各社がダイバーズウォッチの開発を進め、モデル数を増やす一方、プロフェッショナルの要望に応えて、より屈強に進化したハイスペックモデルも相次いで登場した。
4. 国際規格の整備、そしてアイコンへ(1980〜90年代)
1970年代までに登場したダイバーズウォッチは、基本的に、いずれも1953年に誕生した3つの始祖をひな形として発展してきた。共通していたのは、高い防水性能に加え、インナー式を含む経過時間計測用の回転ベゼル、そして夜光塗料を施した針とインデックスを備えていたことである。これらは長らく業界における不文律にすぎなかったが、1982年、国際標準化機構によって明文化された。ダイバーズウォッチに関する国際規格、ISO 6425が制定されたのだ。
これにより、ダイバーズウォッチは「少なくとも水深100mでの潜水に耐え、かつ潜水時間を管理するシステムを備えた時計」と定義された。また、経過時間を計測する回転ベゼルについても、「不慮の回転または誤作動を防止する機構を備えていること」が定められた。このほかにも、視認性、耐磁性、耐衝撃性、さらには飽和潜水、すなわち混合ガス潜水への対応など、多岐にわたる要件が設けられている。
各社がこうした規格に準拠して開発を進めた結果、ひと目でダイバーズウォッチとわかる様式が公的な基準として確立されていった。しかし、その原型をたどれば、1953年に誕生した前述の3モデルに行き着く。ゆえに、これらは現代のダイバーズウォッチの原点と位置づけられているのだ。なお、最新版は2018年に改訂された第4版、ISO 6425:2018で、日本のJIS B 7023、ドイツのDIN 8306、中国のGB/T 18828も、ISO 6425におおむね準拠している。
ISO 6425規格や腕時計の防水表示の意味と実用上の限界などの詳細は、記事「ダイバーズウォッチ完全ガイド:現代のライフスタイルに合う選び方と、歴史を彩るマスターピース」や「Technical Perspective 腕時計の防水表示を正しく理解するふたつのISO規格に関する逸話」でも紹介している。
1978年に登場したセイコー プロフェッショナル ダイバー 600m クォーツ Ref.7549-7000。1975年の機械式ツナ缶をクォーツ化したモデルで、通称は“ゴールデンツナ”。クォーツならではの高精度に加え、プロ用ダイバーズウォッチに不可欠な高トルク、耐磁性、耐衝撃性などを両立した点が評価されている。
こちらは1986年に登場したセイコー プロフェッショナル ダイバー 1000m クォーツ Ref.7C46-7009。1975年の600mダイバーで確立した外胴構造を発展させ、セイコー初となる1000m飽和潜水用防水を実現。さらに外胴プロテクターに初めてセラミックスを採用した。
初版のISO 6425が制定された当時は、クォーツウォッチの全盛期だった。世界初のクォーツ式飽和潜水用ダイバーズウォッチは、1978年にセイコーが発売した“ツナ缶”の第2世代にあたるクォーツ式600mダイバー(Ref.7549-7000、PYF018とも)である。同年、この時計は日本大学隊および植村直己氏による北極探検で使用された。さらに1983年には、海洋科学技術センター(現在のJAMSTEC、海洋研究開発機構)の潜水調査船「しんかい2000」に取り付けられ、水深1062mまで潜航した後も正常に作動し、圧倒的な耐圧性能を実証した。1986年には、1000m飽和潜水に対応する発展型の1000mダイバー(Ref.7C46-7009、SSBS018とも)が登場。このモデルでは、外胴の素材に初めてセラミックスが採用された。
なお、JAMSTECとセイコーの関係については、記事「深海へ向かった時計。セイコーダイバーズの60年とJAMSTEC」のなかで詳しく紹介されているので、併せて読んで欲しい。
1985年に登場した初代シチズン アクアランド デプスメーター CQ-1012-50(発売当時はスポルテダイバー デプスメーターという名だった)。電子式水深計を搭載した世界初のダイバーズウォッチで、腕時計からダイブコンピューターへと移行する過渡期を象徴する潜水計器の名作といえる。ケース左側に大きく張り出しているのは、装飾ではなく水圧センサー。この左右非対称の独特な造形は、機能を追求した結果として生まれたものだ。
セイコーが外装技術の進化に注力していたのに対し、シチズンはクォーツムーブメントと電子機器の親和性の高さに着目した。そうして1985年に発表されたのが、電子式デジタル水深計を搭載した世界初の腕時計、アクアランド デプスメーターである。同モデルは現在の水深を表示するだけでなく、最大到達深度や潜水時間といったデータを記録し、潜水後に確認することもできた。
アクアランド以前にも、水深を機械式または電気機械式で示す腕時計は存在していた。だが、電子センサーで計測した水深を液晶に表示し、最大到達深度や潜水時間まで記憶する機能を市販のダイバーズウォッチに実装したのは、本作が初めてだった。
オメガ シーマスター プロフェッショナル 300M クロノメーター Ref.2531.80.00。1993年に誕生したモデルで、ピアース・ブロスナン期の“ボンド・シーマスター”として知られる代表作である。なお、1995年公開の映画『007/ゴールデンアイ』に登場したのは、実はクォーツモデルのRef.2541.80.00。一方、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(1997年公開)、『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年公開)、『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年公開)では、自動巻きモデルのRef.2531.80.00が採用された。
一般向けのダイブコンピューターが登場し始めたのも、ちょうどこの頃だった。1990年代に入ると、ダイブコンピューターは実用面でダイバーズウォッチに取って代わるようになる。それでもダイバーズウォッチは、ダイブコンピューターのバックアップ機器として、またタフな腕時計の象徴として生き残ってきた。
その流れを決定づけた存在のひとつが、1993年に登場したオメガ シーマスター プロフェッショナル ダイバー 300Mだ。1995年公開の映画『007/ゴールデンアイ』に登場して以降、ジェームズ・ボンドの装備品として強い存在感を示し、その知名度を一気に高めることに成功した(ジェームズ・ボンドとシーマスターの関係については、過去にも紹介しているので、こちらの記事をご覧いただきたい)。
シチズン アクアランドによって“潜水用計器”としてのひとつの頂点に達したダイバーズウォッチは、1990年代に入ると従来の役割を終え、タフさや海を象徴するアイコンへと変化していった。コンビモデルを含め、ゴールドがダイバーズウォッチの素材として多用され始めたのもこの頃。こうしてニッチな実用時計だったダイバーズウォッチは、次第に高級なスポーツウォッチへの転換期を迎えることとなる。
5. 新素材が鍵となった現代のダイバーズウォッチ(2000年以降)
モノもコトも、非日常になればなるほどラグジュアリー感は高まる。1990年代、ゴールドを用いることでラグジュアリー化したダイバーズウォッチが次に向かった先は、日常生活にはまったく必要がないケタ外れの防水性能だった。
2008年に登場した初代ロレックス ディープシー Ref.116660。新開発のリングロックシステムを採用することで、3900mというきわめて高い防水性能を実現した。2018年には、約70時間のパワーリザーブを備えるCal.3235を搭載した後継モデルのRef.126660が登場。さらに2022年には、現行モデルとなるRef.136660へと進化した。© Rolex / Jean-Daniel Meyer
2012年に製作された実験機を市販用に再設計し、2022年に登場したディープシー チャレンジ Ref.126067。実験機は904Lスティール製できわめて重く、サイズ、重量ともに日常使いには現実的ではなかった。そのため市販化に際しては、ケース素材をRLXチタンに変更し、ケース径を50mmに最適化するなど、実用性を高めるための改良が加えられている。© Rolex
先行したのは、ロレックスだ。同社は1960年、ディープシー スペシャルと名付けたプロトタイプをマリアナ海溝の最深部(約1万916m)まで到達させている。その後、2008年に発表したオイスター パーペチュアル ロレックス ディープシーでは、それとはまったく異なる方法で3900m防水を達成した。
超高深度を実現したのは、リングロック システムと名付けられた独自のケース構造である。厚さ5.5mmのドーム状サファイアクリスタル風防と、グレード5チタン合金製のケースバックが、ムーブメントを収めた窒素合金スティール製の耐圧リングを挟み、水圧を受けるほど強く密着することで高い気密性をかなえた。つまり、深海の水圧を味方につけたのだ。そして2022年、そのリングロック システムを進化させることで、1万1000m防水を市販モデルで実現してみせた。その50mm径×23mm厚という巨大な外装ケースとブレスレットは、RLXチタン製である。
なお、ロレックスのダイバーズウォッチの歴史は、記事「After the Oyster ロレックスのオイスターケースが育んだダイバーズウォッチの進化」でも紹介しているので、併せて読んで欲しい。
2022年に発表されたオメガ シーマスター プラネットオーシャン 6000M コーアクシャル マスター クロノメーター ウルトラディープ Ref.215.30.46.21.03.001。2019年にマリアナ海溝の最深部へ到達した実験時計の技術をベースに開発された市販モデルで、風防、ガスケット、リューズ、ケースバックの接合構造を全面的に再設計した。ヘリウムエスケープバルブを設けることなく、ケース径45.5mm、厚さ18.12mmというサイズで6000m防水を実現した。
オメガもまた、2019年にマリアナ海溝への挑戦を果たした。その際に培われた技術を生かし、2022年に登場したのが、6000m防水を誇るシーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープである。
裏蓋にはメタル製ガスケットを採用し、ケースとの接合面を斜めに設計して接触面積を広げることで、きわめて高い防水性能を実現した。ケース素材にはチタンに加え、特殊な精錬技術によって硬度と耐食性をSUS316Lよりも大幅に高めた高性能ステンレススティールであるO-MEGAスティールが採用されている。
2000年代に入り、ダイバーズウォッチでチタンケースが広く採用されるようになった背景には、研磨仕上げが可能なグレード5チタン合金の普及があった。また、セラミック技術も進化し、多くのモデルでベゼルインサートの素材として用いられるようになる。さらに、外装のすべてをセラミック製としたモデルも相次いで登場した。SSについても、前述のO-MEGAスティールや、2020年に登場したセイコーのエバーブリリアントスチールなど、新たな素材が各社から開発されている。
防水性能の追求と防水機構の開発については、もはや完成の域に達しているといってよい。一方、現代のダイバーズウォッチでは、素材開発も防水性能と同じくらい重要な要素となった。ケース構造と素材の進化によって限界に挑む試みは、これからも続いていくことだろう。
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