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Dispatch 深海の女王シルヴィア・アール博士とロレックス

女王の腕はカジュアルなダイビングにロレックスのデイトジャストを用いていた。

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「少なくとも1か月に1回は潜らないと、干からびてしまいます」と、海洋学者のシルヴィア・アール博士は、はしごを登り、水を滴らせながら小さなパンガボートに足を踏み入れる。一部の人々にとっては、その発言は大げさな空威張りかもしれないが、スキューバダイビング、​​潜水艦の操縦、そして1950年代から水生生物の生息地に暮らしている82歳の『ナショナルジオグラフィック』誌のエクスプローラー・イン・レジデンス(Explorers-in-Residence)の称号をもつ人物が言うと、本当に信じてしまう。そして、ほとんどの人がお風呂で滑って転ぶのを心配するような年齢ながらアール博士にとっては、「水は命である」という表現ほどぴったりくるものはないだろう。

 自分にとっての英雄には決して会うなと言う人がいる。  その理由は、必ず失望させられるからだという。私もお気に入りの作家、ミュージシャン、冒険家と出会って心底がっかりすることが何度かあった。しかし、ルールには常に例外があるもので、シルヴィア・アールとの出会いには失望しなかった。私はロレックスから、メキシコのバハ・カリフォルニア半島にある遠隔の地、カボプルモに招待され、数日間にわたり彼らの「テスティモニー」(生き証人)であるアール博士と会ってダイビングをした。熱心なダイバーであり、私のようにダイビングの歴史を学ぶものにとって、これほど最高のものはなかった。ネプチューンの申し子と彼女の自然の生息地で貴重な時間を過ごしたり、アールの「ミッションブルー」の海洋保全計画についてさらに詳しく知ることができた。

メキシコのカボプルモという小さな町は、海洋保全活動のケーススタディであり、また最高のダイビングスポットだ。

  アール博士は、驚くべき人生を送ってきた。彼女はニュージャージー州に生まれ、家族は、彼女が幼い頃にフロリダのガルフコーストに引っ越した。彼女は、波に打ちのめされたそのころの記憶を思い出し、海にとりつかれ、彼女の生涯の情熱に火をつけた瞬間だったと語る。当時の多くの人がそうであったように、借りもののアクアラング(ダイビング器材)と「息を止めないように」という簡単な指示だけで、ダイビングの仕方を学んだのだった。1960年代までには、彼女は一流の海洋生物学者となり、海洋生物の調査を行いながらインド洋を渡る非常に重要な遠征に招待された。彼女は男性の科学者で一杯の船でただ一人の女性だった。1970年に彼女は、初めて全員が女性潜水技術者で構成されるチームのリーダーに指名される。NASAと米海軍共同のテクタイト計画の一環として水中の居住環境で2週間を過ごした。1979年、彼女は内部が1気圧の「JIM」スーツで1250フィート(約381m)まで潜水し、深度記録を樹立した。おっと、それと彼女は、NOAA(アメリカ海洋大気局)を率いてTED賞を受賞し、タイム誌の表紙も飾っている。彼女が「深海の女王(Her Deepness)」というニックネームを付けられたのも不思議ではない。

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  メキシコで彼女に会ったとき、シルヴィア・アールはゴールドのロレックス デイトジャストを着けていた。勇敢な海の探検家にはありそうもない時計である。今回の旅で私は、借りものの新型のシードゥエラーを着けていたのだが、博士とダイビングボートに乗ったとき、彼女はすぐにそれに気が付いた。私の1220mの防水性能、ヘリウムに対し安全な時計であることを指さしながら「あら、あなたは本物を着けているのね」と彼女は言った。「私も同じものをいくつかを持っていますよ」と彼女は言い、目をキラキラさせながら、「私は遠征の時にそれを着けるの」と続け、ダイビングスーツの上に彼女の防水機能50メートルのドレスウォッチをだらりとぶら下げてバックロールでまた太平洋の中に潜って行った。

シルヴィア・アール博士、「深海の女王」に注目が集まる。

 私は時計ブランドのアンバサダーたちにかなりうんざりしている。彼らは現れてはすぐ消えてしまう。提携する会社と具体的なつながりがほとんど無いこともよくあることだ。時には、雑誌の広告やレッドカーペットに登場する時以外、時計を着けていないことさえある。しかし、シルヴィア・アールは違う。彼女はテクタイト計画の期間中にロレックスの時計を初めて着け、それ以来ずっと着用している。彼女にとって、それは信頼できる道具であり、それを着けた後、彼女がそれを必要とするまで忘れていられるものである。ロレックスがシルヴィア・アールのために働くのであって、彼女がロレックスのために働くことはあまりない。アール率いるNGO「ミッション・ブルー」に対するロレックスからの多大な寄付により、彼女とそのチームは、大洋(海が直面している環境上の危険、そして事態の好転が見られる「ホープスポット(海洋保護区)」など)への意識を高めるための遠征を開始することができた。もちろん、ロレックスは科学上の遠征や探査の費用を負担してきた長い歴史があり、ミッション・ブルーやナショナルジオグラフィックとのパートナーシップは、最近のこうした例のいくつかにすぎない。

アールのゴールド ロレックス デイトジャスト。彼女はより「カジュアル」なダイビングで着用するという。

 最近ではアールは、ミッション・ブルーにひたすらに情熱を傾けている。彼女はTED賞を受賞した後、2009年にそれを立ち上げ、現在は年間300日を費やして、1つのホープスポットから別のホープスポットに移動しながら、見本市や会議で講演の仕事をしたり、途中で大統領や政府の大臣と会談したりしている。そして、もちろん途中でダイビング、​​常にダイビングである。多くの「著名人」にとって、目標は日和見的であるように思われる。しかし、博士の海洋研究と保全の長い歴史は、疑いの余地のない権威と信憑性をもたらす。彼女は説教じみたり悲観的であったりすることもなく、海洋生態系がかつてない試練に直面していても、快活と言えるほどに希望を抱いている。クロマグロは以前の個体数の2%まで減少、サメは10%まで減少し、他にも数多くの種が絶滅の危機に瀕するまで漁獲されている。海は危険なほど酸性になり、プラスチックでいっぱいになってしまっている。しかし、彼女はあからさまに政治的であることを拒否し、現在の政策(または関係者)に対する誘惑を避け、物事が正しく行われているところに焦点を当て、模範を示すことに集中している。彼女は断固として毅然としているが、人を惹きつける優しさをもっているのだ。外柔内剛、ネオプレンの手袋の下には鉄の拳が隠されている。

カボプルモ沖の海をジャック(アジ科の魚)の群れが円を描く。

 カボプルモは、ミッション・ブルーのホープスポットの1つで、おそらくその至宝とも言える場所だ。これは、コミュニティそして政府が事態を好転させようと決断すれば、何ができるかを示した優れた事例としてよく引用される。賑やかな観光の中心地から南に2時間のところにある人口200人の小さな町で、沖合の水域は、1990年代まで長い間主要な漁場であったが、その後魚の資源はほぼ完全に枯渇した。 

 コミュニティは全ての漁を中止し、カボプルモを水に浸かった長い砂の道やアロヨスの洗濯板をものともせずに、そこに向かう冒険的なダイバーのための目的地に変えるという決断をした。この壮大な実験は成功した。ここの水域では、魚の個体数が400%程度まで回復。メキシコ政府はここを海洋保護区に指定し、ユネスコはこの場所を海の世界遺産に指定している。実際、海のレジェンドが一緒にいるかどうかに関係なく、そこでのダイビングには目を見張るものがある。

数十匹の空腹のハタの存在に促され、熱狂的な「ベイト・ボール」(魚類がつくる球形群)を作る何千匹ものイワシ。

 今回が私にとってカボプルモへの遠征は2度目だが、なぜここが世界中でも私のお気に入りのダイビングスポットの1つなのかを思い出させられた。のんびりとした静かな町の雰囲気もさることながら、沖合のボートに乗ってすぐのところには、無数の魚からなる巨大な群れ(ジャック、鯛、イワシ)に囲まれた岩の頂が海面に飛び出している。餌となる小魚から、それらを捕獲するブルシャークやアシカまで、食物連鎖全体がここに現れている。私たちの最初のダイビング(私はグループで唯一のダイビングジャーナリストだった)で、アールと私はほんの25フィート(約7.6メートル)潜り、ツバメの群れのように一斉に移動し、ひどく興奮し雲のように泳ぐ何千匹ものイワシの真ん中でホバリングした。この神経質な活動の理由は、数十匹の大きなハタがその真ん中にいて、時々おやつをパクついていたからだった。

水を得た魚のようなシルヴィア・アール。

 翌朝、2度目のダイビングで、ここに生息するギンガメアジの群れを探しに行った。15分ほどゆっくりと航行した後、ボートのキャプテンが水中で攪乱しているのを発見し、私たちはザブンと飛び込み潜り始めた。銀色の魚の渦巻きが私の上を旋回し、強い流れに乗って漂い離れて行った。キックして追いつくのは無理だったので、しばらくして、アールと私は底まで潜り、岩の下でフグがチョコチョコ上下に動く様子を見た。我慢強く、どこを見るべきかを知っていれば、水中にはいつでも何か見るものがある。

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 82歳のシルヴィア・アールは、ダイブマスターが見守る中、浅いサンゴ礁を数分間パドリングするだけでも許されるはずだ。しかし、激しく揺れるボートに乗っている間中、彼女が快適におしゃべりをし、そして渦巻く海流の中をキックして泳ぎ回っている様子を見ると、彼女にはこの環境が最もくつろげる場なのだということが明らかになる。水中で彼女は、1台ではなく2台のカメラ、そのうちの1台は2つのハイパワーライトを備えたかさばるハウジングのカメラを持っているときでさえ、優雅にスイスイと泳いでいる。静寂の中で私は彼女を見ながら、これまでに何度これを経験したのだろうか、そして60年以上のダイビングで彼女はどんな冒険を見てきたのだろうかという思いに耽った。

82歳のアールは、浅瀬でパドリングするだけではない。

 この全ての自然の素晴らしさ、それに対する未だかつてない脅威、そして行動を起こすべきというシルヴィア・アール博士の議論の中、私は時計会社の取材旅行に来ているということをすっかり忘れてしまうほどだった。シルヴィア・アールに対する絶大なる敬意、そしてこの海のパイオニアとのダイビングという忘れられない経験とともに、一方では私にたくさんのことを与えてくれた海のためにもっとや​​るべきことがあるというぬぐい切れない感情を抱きながら、私はカボプルモを後にした。私が着けていたロレックスについて語ることなどほとんど取るに足らないことのようにさえ思える。しかし、結局のところ、私は時計のライターであり、それがささいなものであろうとも、これが私にとっての影響を及ぼすやり方なのだ。

ダイビングで実際に使った"試験済み"のロレックスたち。

 10年前、私がダイビングをするきっかけになったのはダイバーズウォッチの購入だったが、以来振り返ることはなかった。時計を着けて、3つの海、五大湖、そして数十の国を訪れてきた。もし時計が私にインスピレーションを与えることができるなら、おそらくは時計(私がカボプルモで着けていたシードゥエラーのような)を着けてダイビングした経験について書くことで、ささやかながらも他の人たちも波の下に潜り込み(願わくば時計を着けて)、その美しさとダイビングの冒険を受け入れるきっかけとなるだろうと思う。そして、ダイビングを人々に奨励することによって、海への認識と海への感謝の気持ちを高めることができるだろう。私たちは自分の関心のあるものは大切にすると言われており、したがって、そのきっかけが何であれ、水中に潜るダイバーが多くなればなるほどそれに越したことはない。

 ちなみに、新しいシードゥエラーを1週間(そしてダイビングで2日間)着けた後、私はこの時計についての意見を逆転させた。バーゼルワールドで最初に懸念したのは、主にサイズの拡大と日付拡大用の「サイクロップレンズ」を追加したことなどだった。しかし、43mmというサイズは、ダイバーズウォッチには最適の直径で、オメガの2つのプラネット オーシャンのサイズのちょうど中間に位置しており、また競合製品の防水性を2倍にしている。その胴回りが大きくなったのにも関わらず、22mmまで細くなったテーパー状ラグのおかげで、シードゥエラーの寸法はまさにぴったりだと思う。サイクロップレンズはロレックス信者の間で常に意見が分かれる問題だ。時計の歴史的なルーツから逸脱しているが、ロレックスは後ろを向くのではなく、前を向く傾向があるのはよく知られるところであり、サイクロップレンズを追加できることは、欠点ではなく機能上の利点だと言える。いずれにせよ私は日付表示のないロレックスが好きなので、それを付けるとするなら、私が見るには十分な大きさであろうと思う。

カボプルモのビーチで減圧中の、新しいロレックス シードゥエラー。

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 赤字で「Sea-Dweller」という文字が追加されている点は、まさに天才的なひらめきのなせる技で、最も近いロレックスは過去を懐かしむものとなり、そして私たちみんなが望むものとなる。ヘリウムリリースバルブの存在は通常、私にとっては不平の種だが、それはこの時計の際立った特徴であり、最初からシードゥエラーの存在理由であるので、ロレックスには及第点をあげよう。機能的には、時計は必要なものを非常にうまく果たしており、それ以上でもそれ以下でもない。高精度クロノメーターレイティングのロレックスは、日差±2秒を実現しており、また、まるで「銀行の金庫」並みの精度を備えたセラミック製のタイミングベゼルラチェットは、私がうっかりして絶え間なく回転させないように注意しなければならなかった。グライドロッククラスプは業界でも最高のものの1つで、熱でむくんだ手首に合わせて簡単に調整ができ、またカリフォルニア湾の冷たい海中深くでも閉じることができる。

 もちろん、この時計には触っただけでは分からない魅力もあった。私が生まれた年にテクタイトという居住環境の中でその前身を着けていたと思われる伝説の潜水技術者と一緒にダイビングしながらそれを着けたことは、数回のシャローダイブでシンプルなボトムタイマーを着けた経験をはるかに超えたものだった。私にとって、それを着けた時の経験、これこそがダイバーズウォッチのパワーである。米国に戻った後、時計をロレックスに送り返さなければならなかったが、イワシの群れの真ん中で、ロレックスを着けている私と「深海の女王」の写真は、ずっと大切に取っておく。

著者(右)と彼の新しいダイビング仲間。

 空港へ向かうバンに乗り込む前に、ホテルの外の暑い太陽の下に立つシルヴィア・アール博士にお別れを告げた。翌日、彼女は飛行機でオーランドのダイビング見本市へと向かい、その後メキシコに戻り、新たに拡張された海洋保護区を定めた法律に署名した同国の大統領と会談することになっていたが、途中でこっそりとダイビングを楽しんだのは間違いない。さよならを言うために彼女に近づいたとき、彼女は私にUSBメモリスティックを手渡してくれた。カボプルモでの忙しい週末のインタビューや写真撮影の合間に、彼女はわざわざ時間を見つけて私たちが一緒にダイビングした際に水中で撮った私の写真を編集してくれたのだ。私は信じられないほど感動して彼女にそう伝えた。彼女は単に微笑んで、私にダブルフィスト・バンプをし、そして「私のダイビング仲間になってくれてありがとう」と言った。 

 ヒーローに失望しないこともある。

ミッション・ブルーの詳細については、こちらを、また、ロレックスの探査サポートの歴史、そしてナショナルジオグラフィックとのパートナーシップに関する詳細については、ロレックス公式サイトをご覧ください。

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I like articles about the history and design of watches, but I am most drawn to stories like this one about life and living with a watch. If it's a Rolex or Seiko that I like, that's even better, but if it's a great life, I think it's a great article with any watch, or even without a watch in some cases. This article is perfect in that sense. I am a mountaineering enthusiast and have only been scuba diving once, but now I want to try it again. Hoping that the corona disaster will be under control soon.