ADVERTISEMENT
※本記事は2012年10月に執筆された本国版の翻訳です 。
時計ジャーナリストやディーラー、オークションハウスの専門家が使う最も陳腐な言葉は“important(重要)”である。我々にとっては、全てのものが重要なのだ。それが技術的に初めてのものであっても、一般に希少であっても、誰が所有していたかであっても、どんな時計でも“重要”であると言えるだろう。しかし、中には他のものより重要な時計もあり、エリック・クラプトン氏所有のプラチナ製パテック フィリップ Ref.2499は間違いなく重要な時計だ。過去25年間に作られた他のどの時計よりも重要であり、この記事では、その理由をお伝えすると共に、クラプトン氏の時計がニューヨークを訪れた際に撮影した撮り下ろし写真を多数掲載する。また、このレアな時計がどのようにして誕生したのか、どのようにしてエリックの手に渡ったのか。そして時計収集の世界にとってどのような意味があるのか解説しよう。
Ref.2499を知る
まず最初に、Ref.2499が何であるかについてお話しよう。 1951年にRef.1518の後継として誕生し、1986年に小型のRef.3970に引き継がれるまで生産されていたが、その35年間で349本、つまり1年に10本しか生産されなかった。 これは決して多いとは言えない。 そして、製造されたRef.2499の大部分はイエローゴールドケースに収められていた。 実際、オークションに出たのは4本のローズゴールドのRef.2499だけで、最後の1本は275万760ドルで落札された。クリスティーズの推定では、349本のRef.2499のうち10%未満がローズゴールドで製造されたと推定しており、プラチナ製の有名なRef.2499の存在は、文字どおり時計収集における伝説となっている。
しかし、なぜRef.2499は特別なのか? それは、ほとんどのパテック フィリップコレクターによると、マニュファクチュールの中のマニュファクチュールによる真骨頂とも言うべきリファレンスであるからだ。 ケースのプロポーション、ダイヤルデザイン、素晴らしいまでの複雑機構、そして完璧な仕上げ、さらに大きいケースサイズ(37.5mm。Ref.1518は35mmでRef.3970は36mm)はこのリファレンスならではの特徴だ(どの素材のケースであっても)。
この2本は我々のものだ!
Ref.2499が特別な時計であるならば、なぜホワイトゴールドで製造されなかったのだろうか? それは定かではないが、我々が知るかぎり、イエローゴールド製のRef.2499が生産終了となった翌年の1987年、フィリップ・スターン氏が残りの2個のRef.2499用ムーブメントをプラチナ製の特別なケースに収めると決めたということだ。これらの時計は、ジュネーブにあるパテック フィリップ・ミュージアムの最重要品目となることが運命づけられていた。興味深いのは、プラチナ製のヴィンテージパテックのコンプリケーションは信じられないほど希少であるということだ。実際、存在が知られているのは25本のみで、そのうちの半分はパテック フィリップ自身の手に渡っているという。そのため、スターン氏が2本のRef.2499を最も神聖な貴金属ケースに収めると決めたとき、彼は即座に2本の素晴らしい特別な時計を生み出したことになる。したがって、この2本が販売されることなど誰も夢にも思わなかっただろう-そのうちの1本が現実のものとなるまでは。
パテック フィリップ150周年記念
1989年、パテック フィリップは創業150周年を迎えた。 この記念日は、パテック フィリップの歴史、オークション市場、そして業界全体の歴史の転換点だった。1989年にパテックが初の限定モデルRef.3960を発表したのは、ハンタースタイルのヒンジ式ケースバックとアニバーサリーエングレービング、オニオンリューズを備えたカラトラバだった。Ref.3960は、多くの人が最初の真の限定版、アニバーサリーウォッチであったと考えており、この種の時計は最近では頻繁に見かけるようになった。 1989年4月9日に、アンティコルムがジュネーブで“The Art of Patek Philippe(パテック フィリップの芸術)”オークションを開催することが決定されたとき、それは初めて“テーマ”を掲げたオークションでもあった。
このオークションは、パテック フィリップの時計のみで構成され、パテックを二次流通におけるトップクラスの存在にまで押し上げ、現在もほぼ単独で占有している。 そして、この長い記事で紹介するロットが初めて市場に出回ったのは、このオークションが契機となったのだ。
フィリップ・スターン氏が、2本のプラチナ製Ref.2499のうちの1本を手放すことを決めたのは、1989年の “The Art of Patek Philippe”オークションのためであり、パテック フィリップのアーカイブによると、この時計は1989年4月7日(オークション前の金曜日)にパテック フィリップ・ミュージアムによって直接販売された。 1989年のこのRef.2499の最終的な販売価格は41万8000スイスフラン(約25万3300ドル/約3355万円)であった。インフレ調整後の価格は約51万3688ドルであることは、当時でもこの時計がいかに特別なものであるか世界は理解していたことになる。
クラプトン時代
この時計の元々の購入者は有名な個人コレクターであったものの、エリック・クラプトン氏ではなかった。彼がこの時計を購入したのは、2002年以降のことで仲介者からであった。その取引の詳細は公開されていないが、彼がこの時計を所有していたことは時計コレクターの間では有名だ。Ref.2499はパテックのコレクターにとって最も神聖な存在であり、このモデルは、地球上で最も有名なロックスターの一人が所有していたホワイトメタル(その金属はプラチナ)唯一のモデルであり、彼は偶然にも注目のヴィンテージウォッチコレクターであったことから、このモデルの完璧な来歴に新たな付加価値を加えることとなった。
そして、この時計を所有していたエリック氏のおかげで、表舞台への登場はほぼ不可能となった。時計収集の世界は、たとえ最高レベルであっても小規模なものだ。私が仕事で世界中の数少ない時計の震源地を旅していると、カクテルパーティーやディナー、様々なイベントで、信じられないような時計を所有している人たちに出くわすことがある。もしこの地球上に素晴らしい時計があれば、遅かれ早かれHODINKEEの誰かが、あるいはWeb上の時計愛好家の友人たちがその時計に出くわすことになるだろう。しかし、エリック・クラプトン氏が所有していたパテック フィリップは、最も希少なものだ。なぜなら、彼はSIHH(ジュネーブサロン)で客船に乗ったり、バーゼルでシュニッツェルを食べていたりと、私たちが想像するような人物ではないからである。
クリスティーズ・ジュネーブ ロットNo.151
ある日、私にニュースが入った。それは私と同じくらい夢中になっている人物からの電話だった。彼は「世界のパテックコレクター1000人に究極の時計は何かと聞いたら、それはクリスティーズが持っている時計だ」と言っていた。そして、それが何であるかはすぐに分かった。クラプトン氏のプラチナ Ref.2499だ。
2012年11月12日にジュネーブで開催されたクリスティーズのオークションに出品されたロット№151は、売却前の推定価格が270万~420万ドルだった。この時計の出自は明確に記録されており、新品とは言えないまでも素晴らしい状態だ。このことはもちろん、エリック・クラプトン氏やその前の所有者が、この時計をいつ、何と一緒に身に着けるのが適切だと判断したのか、ということを考えさせられる。クラプトン氏はこの時計をグラミー賞のときに身に着けていたのだろうか? それとも親しい家族の集まりに? 私たちには分からないが、この時計は間違いなく着用されていた。そして、これは何といっても(全ての腕時計と同じように)身に着けるべき腕時計なのだから、素晴らしいことではないか。
金曜日にクリスティーズを訪れたとき、私がどれだけはしゃいだか知っているか? まさに夢のようだった。時計は、客観的に( “客観的に”が何を意味するのかは緩く解釈してくれ)見て、ただただ素晴らしかった。パテックのパーペチュアルカレンダー・クロノグラフは、間違いなく地球上で最も私のお気に入りの時計である(実際のところ、私は1本も所有していないが)。ホワイトメタルのヴィンテージモデルでありながら、ロックスターの名を冠しているという事実は、とても素晴らしいものだ。そして、実際にストラップを着けてみると(実際に着用したんだ!)、ぴったりと収まる。ケースサイズ37.5mmは私の理想的なサイズかもしれない。Ref.3970の36mmよりも大きいが、Ref.5970の39mmよりも小さく、円形のポンププッシャーを備えている。最近ある人が私に指摘したとおり、最高に素晴らしい時計である。
クリスティーズはこの時計がどれだけ特別か知ってるいるのだろうか? もちろんだ。私が撮影を行っている間、ABC、NBC、CBSからNYポスト、フォーブスまで記者からの問い合わせがひっきりなしであった。このオークションは、彼らにとっても、私たちジャーナリストにとっても、そしてコレクターの世界にとっても大きな取引なのだ。この時計が、これまでに公に販売された中で最も高価な腕時計になる可能性はあるのだろうか? 確かにそうなる可能性はあるが、私はそうはならないと考えている - どの道、どちらでも良いことだ。この時計の存在を初めて知った時からずっと夢見ていた時計であり、実際に見て、身に着けて、体験してきたといえる。
エリック・クラプトン氏が所有していたパテック フィリップのプラチナ製パーペチュアルカレンダー・クロノグラフ Ref.2499/100が、2012年11月12日にジュネーブのクリスティーズに登場した(編注:既に販売済。344万3000スイスフラン(約4億万円)で落札された)。詳細はこちらをご覧いただきたい。