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本稿は2017年4月に執筆された本国版の翻訳です。また、記事内で紹介されているオークションはすでに終了しています。
ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)は時計を愛する人物だった。カブ(Turnip)という愛称で親しまれたお気に入りのブレゲの懐中時計をはじめとし、私たちはチャーチルの愛用品の数々を目にしてきたので、そのことをよく知っている。またチャーチルとロレックスの創業者ハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)とのあいだで交わされた、手首のサイズやエングレービングについて記された書簡も見たことがある。のちにウィンストン・チャーチルは、ロレックスによる10万本目のクロノメーターとして、彼の家紋が入ったゴールドのデイトジャストをウィルスドルフ本人から贈られている。
今週、彼のコレクションにあった時計がまたひとつ判明した。18Kイエローゴールドのレマニア クロノグラフで、これもまたヴォー州から贈られたものである。しかも、この時計はデイトジャストよりも以前のモデルなのだ。この時計はある個人が入手したもので、4月25日にロンドンで開催されるサザビーズの時計オークション、そのロット160として登場する。なお、この時計が特別な理由はいくつかある。
まず時計全体がゴールドだ。ケースから針、インデックス、そして文字盤にいたるまで、すべてに金メッキが施されている。ほとんどのレマニア クロノグラフが(ほかのメーカーにも供給しているエボーシュムーブメントを搭載しない場合)ステンレススティール製であったのに対して、これは極めてイエロー(ゴールド)が際立つレマニアとなっている。この時計はその点において、まったくの正反対だ。また、プッシャーのひとつが取り替えられていて、しかもその出来があまりいいものでないため、残念ながらこの時計の視覚的なバランスが少し崩れてしまっていることに注意して欲しい。写真でわかるだろうか?
第2に、定評あるクロノグラフムーブメントを搭載している。Cal.CH27-C12は1940年代初頭にオメガと共同開発した手巻きクロノグラフで、オメガはこれをCal.321と呼んでいる。Cal.CH27-C12と聞いてもピンとこない人も多いかもしれない。だがCal.321なら多分聞き覚えがあるはずだ。このムーブメントは数々の時計に使われ、そのなかでも特に月へ旅立ったスピードマスターに搭載されたことで知られている。
そして最後に、この時計はレマニアの本社兼ファクトリーがあったヴォー州から直々に贈呈されたものである(このファクトリーは1990年代にブレゲに吸収され、今日に至るまで、スウォッチ グループはこの建物を自社の時計製造に使用している)。チャーチルがこの時計を受け取ったのは妻クレメンタインとスイスで休暇を過ごしていたときで、チューリッヒ大学での演説でヨーロッパ統一についてのヴィジョンを語る直前のことだった。
この時系列を鑑みてか、サザビーズはこの時計がチャーチルが描いた“ヨーロッパの平和と統一”の象徴であると主張している。しかし、この主張については慎重に考える必要がある。というのも、チャーチルがヴォー州を訪れた際に演説を書いたという証拠も、スイスでの体験が演説のインスピレーションになったという証拠も、演説の際に時計を身につけていたという証拠もないからである。いずれにせよこの時計の真の価値は、その象徴性ではなく、その唯一性と出所の確かさにある。
サザビーズは、この時計の想定落札価格を1万5000ポンドから2万5000ポンド(掲載時点で約1万9000ドルから3万2000ドル、当時のレートで約270万円から約460万円)と見積もっている。このロットは時計愛好家というよりも、ウィンストン・チャーチルの遺品を収集しているコレクターに喜ばれるのではないだろうか。前者の時計愛好家であれば、この時計のコンディション(ケース上部のプッシャー付近に激しい打痕があり、文字盤の4時と5時のあいだに剥離が見られる)を差し引いても、自分の時計コレクションに加えるべき貴重な1本を手に入れたいと思うに違いない。
詳しくはサザビーズのオンラインサイトをご覧ください。