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Hands-On ベルネロン ミラージュは創造者の妥協なきビジョンの結晶だ

クラシカルにインスパイアされながらも、常識に挑戦するアシンメトリーなミラージュは、ウォッチメイキングの伝統的な“ルール”を否定している。

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Photos by Mark Kauzlarich

「ミラージュという名前が付けられたのは、時計業界の“やってはいけないこと”をひとつの作品に集約し、それがあたかも幻のように独立して存在するからです」。これはベルネロンの創業者シルヴァン・ベルネロン(Sylvain Berneron)氏が昨年10月にミラージュを発表した際、自身の最初のインディペンデントウォッチについて語ったときの言葉だ。

 製作者のビジョンをここまで妥協なく具現化した時計はほかにない。ベルネロンにとって、それはシンプルなアイデアから始まった。伝統的なラウンドケースにこだわらなければ、ムーブメントはより効率的な技術性能を実現できるという考えだ。まず大きな香箱を可能にし、スペースをより有効に活用することが鍵となる。

berneron mirage 38

イエローゴールドのミラージュ 38mm “シエナ”。

 ベルネロンを紹介してから1年(その後Hodinkee Radioにも出演してもらった)、彼はついに最初のミラージュウォッチをコレクターたちに届けた。同時に、新しいキャリバーとストーンダイヤルを備えた第2世代の小型ミラージュも発表している。私たちはケース径38mmの第1世代ミラージュ(ミラージュ 38)の実機と、ストーンダイヤルを採用したミラージュ 34のプロトタイプを見ることができた。いずれのモデルもベルネロンが約束したとおり、デザインとメカニズムを融合させた時計であり、ほかの時計にはない特別な魅力を放っている。

berneron mirage caliber 233

サファイア製シースルーバックから見える、ミラージュのCal.233。

 ミラージュ 38は、ベルネロンのオリジナルアイデアを最も純粋に表現した時計だ。パテック フィリップ、ブレゲ、ランゲといった技術的に優れたクラシックなドレスウォッチ(3針時計)からインスピレーションを得る一方で、カルティエやジルベール・アルベール(Gilbert Albert)などのデザイン要素も取り入れている。従来のラウンドドレスウォッチはやや硬さを感じさせるが、他方独自のシェイプを持つ時計は通常、美観を優先して技術的性能を犠牲にしがちである。たとえばかつてのカルティエ クラッシュは、レディースカクテルウォッチ向けの小さなムーブメントを搭載していた。

berneron mirage caliber 233

Cal.233は、レーザー刻印が施された香箱、ブリッジのギヨシェ装飾、そして大型のテンプを特徴としている。

berneron mirage caliber 233

 非対称なデザインはすぐに目を引くが、ベルネロンにとってのストーリーはコンセプトと実現の両面において、手巻きCal.233から始まる。ベルネロン氏は当初から大きな香箱とテンプを持つムーブメントを構想しており、これらの技術的要素を収めるために独特な形状を取り入れた。Cal.233は薄さも特徴で、名前が示すとおりわずか2.33mmしかない。

 この点に関してベルネロンは妥協を許さなかった。ミラージュはケース、ダイヤル、バネ棒、ムーブメントのメインプレートやブリッジまですべてがゴールドで構成されている。Cal.233のブリッジにはギヨシェとアングラージュ装飾があしらわれており、そのほかにも多彩な仕上げが随所に見られる。さらにブリッジの曲線はムーブメントの非対称な形状に合わせてデザイン。シルヴァン・ベルネロン氏自身は時計職人ではないが、彼の目標はヌーシャテルにおける最高のウォッチメイキング技術と仕上げを披露することであり、ムーブメントはル・セルクル・ドルロジェ(Le Cercle des Horlogers)と共同で開発された。ミラージュには直接駆動するスモールセコンドを採用。針の順番を通常とは逆にして、短い時針を一番上に配置した。これにより傾斜した風防がミラージュの薄型化を可能にしたのである。

最初の1歩となったベルネロン ミラージュ 38
berneron mirage sienna

 ミラージュ 38のゴールドケースは、非対称のムーブメントに合わせた形状になっている。サイズは34mm×38mm(ラグからラグまでは42mm)、厚さは7mmだ。装着感は38mmのラウンドウォッチに近いが、独特のカーブを描く形状は従来のラウンドウォッチよりも人間工学的に優れた印象を与える。この有機的な曲線は、手首や手首の骨の自然な輪郭にフィットするように見える。また厚さ7mmという薄型ケースと、短く優雅に曲がったラグもこの快適さ実現に役立っている。

 セクタースタイルのダイヤルは、ポリッシュとサテンが交互に仕上げ分けされているのが特徴だ。ヴィンテージにインスパイアされつつも数字は現代的で、これはベルネロン氏がミラージュのために特別にデザインしたものだ。このデザインによりミラージュはコンテンポラリーでありながら、わずかにスポーティな印象も与えている。

 渦巻くようなダイヤルはケースの形状と調和し、まるでミラージュが動いているかのような印象を与える。まさにドクター・スース(Dr. Seuss)やサルバドール・ダリ(Salvador Dali)の『記憶の固執』を思わせるデザインだ。カルティエ クラッシュのようでもあり、あるいは最高のセクターダイヤルを持つパテック カラトラバも連想させる。

berneron mirage prussian blue dial

ホワイトゴールドのミラージュ “プルシアンブルー”のセクタースタイルダイヤル。

 ミラージュはモダンウォッチという概念を解体している。遊び心がありながらも、同時に深い真剣さも持ち合わせている。ウォッチメイキングの伝統的な規範を捨て去る一方で、その歴史に敬意を表している。“ルールを破るためには、まずそのルールをきわめなければならない”という使い古された格言を思い起こさせるようだ。

 21世紀において、“機械式腕時計の目的とは何か?”という問いにしばしば悩まされる。どんな画面であっても時間をひと目で確認できる時代だ。ただもし時計がその本来の存在理由を完全に捨ててしまえば、ただのアクセサリー、装飾品になってしまう。それでも構わないが、機械式時計が正確な時間を刻むために、何世代にもわたって受け継がれてきた職人技を称えることで、時計は単なる装飾品以上の存在となる。

 ミラージュは時計のあるべき姿という従来の概念を拒否し、ゼロから再構築するための基本原則に立ち返っている。

 現代の時計はもはや時間を知るためのものではないが、ミラージュのストーリーは内部から始まり、外へと広がっていく。アシンメトリーデザインが技術的により効率的なキャリバーを生み出すことを理解しているのだ。機能を再考したあとで、初めてミラージュは形を考えるようになる。

sylvain berneron

シルヴァン・ベルネロン氏。

 これこそがミラージュを特別な存在にしている理由であり、ウォッチメイキングそのものを際立たせる要素だ。現代の時計はもはや機能を重視する必要がなくなり、これまで以上にジュエリーとして認識されるようになった。それ自体がぜいたく品となっているのだ。だがもし時計の本来の機能を完全に無視してしまえば、それはもはや時計ではない。デザインそのものの美しさはあっても、それはウォッチメイキングではないのだ。

 今日、最高の時計は芸術だとよく言われるが、それは少し違う。芸術に機能はないが、時計には常に機能がある。現代の生活で時間を知ることの重要性が薄れているとしても、時計の機能性は変わらない。ベルネロンとミラージュはこのことを理解し、それを基本原則として受け入れ、美しいものへと昇華させた。

 そのカーブを描いたゴールドの針は、まるでドクター・スースの短編から飛び出してきたかのように時間を示す。しかしミラージュの本質はそこではない。また機械ではそのカーブを磨くことすらできないため手作業で仕上げられているが、それも本質ではない。ベルネロンのミラージュは、伝統に挑むことで美しいものを生み出せることを証明しているのだ。

 ベルネロンは今後10年間、ミラージュ 38を年間24本生産する予定だ。うち12本がシエナ(YG)、残りの12本がプルシアンブルー(WG)となる。私はシエナの金無垢ケースとダイヤルが醸し出す温かみと、ほのかにヴィンテージを感じさせる雰囲気が好みだが、プルシアンブルーはその対照的なモダンさが魅力的だ。

 ベルネロンのサブスクリプション価格は、初回分(すでに納品済み)4万4000スイスフラン(日本円で約750万円)であり、その後の標準的な納品期間ごとに段階的に価格が上昇していく予定だ。

スモールケースとストーンダイヤルのミラージュ 34
berneron mirage tiger's eye

 ベルネロンがミラージュ 38の第1弾をクライアントに届けているのとときを同じくして、新たにミラージュ 34も発表された。このモデルには厚さ2.15mmの新Cal.215が搭載されている。ミラージュ 38が時計という概念を解体し始めたのに対し、ミラージュ 34はその論理的な結論に到達しようとしているのだ。セクターダイヤルや正確な時間を示すという考えは取り払われ、代わりにタイガーズアイまたはラピスラズリのストーンダイヤルと手彫りのインダイヤルが採用された。WGまたはYGのケースのサイズは30mm×34mm×7mmである。

berneron mirage tiger's eye dial

インダイヤルは手作業で彫られ、ストーン全体とは異なる質感を持たせている。

berneron mirage tiger's eye dial

 ムーブメントを小型化するために、いくつかの技術的な妥協がなされている。テンプはフリースプラングではなくなったが、ベルネロン氏は実際に生産されているなかで最も小さなテンプを使用したと述べている。このサイズでフリースプラングのテンプが可能であれば、よろこんで採用するとも語っている。またCal.215では針の重ね順を逆にしていない。歯車を追加するとムーブメントが厚くなりすぎるためだ。しかしスモールセコンドの針を手彫りのインダイヤルに沈めたことで、ミラージュ 34はさらに薄型に仕上げられている。

 しかしミラージュ 34は性能面で妥協していない。左右非対称の形状が実現した効率性により、大きな香箱と約72時間のパワーリザーブを維持している。Cal.215は2万5200振動/時(3.5Hz)で時を刻み、Cal.233の2万1600振動/時(3Hz)よりわずかに高速だ。

berneron caliber 215 and 233

ベルネロンは、この非対称のムーブメントによりラウンドキャリバーと比べて小型のCal.215でも大きな香箱を搭載でき、スペースの効率的な活用と技術的な性能向上が可能になると説明した。これによりCal.233と同様、約72時間のパワーリザーブを維持できているのだ。

 ミラージュ 38がデザインと技術のバランスを追求しているのに対し、ミラージュ 34はより意図的にデザインに焦点を当てている。YGモデルにはタイガーズアイのストーンダイヤルが、WGモデルにはラピスラズリのダイヤルをそれぞれ採用しており、文字盤の厚さはわずか1.3mmだ。ブランドはストーンダイヤルに沈み込んだインダイヤルを、手彫りで仕上げられる職人を見つけた。この手作業によりインダイヤルにテクスチャーが加わり、ダイヤル全体に対してコントラストが生まれたという。ベルネロンによると、この手作業の難しさから失敗率はおよそ80%、つまり5つのダイヤルのうち4つはスクラップになってしまうそうだ。

berneron mirage lapis dial

 ミラージュ 34は小振りながらも、私の手首にはしっくりときた。カラフルなストーンダイヤルが実際よりも大きく感じさせる効果もある。ミラージュ 38の渦巻くようなセクターダイヤルが常に動きを感じさせるのに対し、ミラージュ 34ではストーンダイヤル自体が生き生きとしているように感じられる。

 タイガーズアイはまさに70年代そのもので、シャグカーペットや木目調パネル、ワイドラペルを思わせる。一方でアフガニスタン産のラピスラズリを使ったWGモデルは、その対極であるモダンな魅力を放っている。ミラージュ 38と同様、私はこのタイガーズアイの遠慮のない懐かしい輝きが好きだが、ラピスラズリのほうが現代の基準ではより身につけやすいだろう。

berneron caliber 215 mirage

Cal.215。

 ベルネロンは、ミラージュ 34を年間48本、各色24本ずつ納品する予定だ。ミラージュ 38とミラージュ 34の両モデルには、マッチしたグレイン仕上げのバレニアレザーストラップを組み合わせている。またHodinkee Radioで語ったように、ベルネロン氏はブランドの今後の計画にも着手しており、来年にはラウンド型カレンダーウォッチを発表する予定だという。

berneron mirage tiger's eye dial wrist shot

 ミラージュほど時計の概念を覆し、常識に挑戦する時計はほとんどない。1年前に話を聞いたとき、シルヴァン・ベルネロン氏は“ミラージュはほとんど幻想に近いもの”と語っていた。それが完全に実現した今、ウォッチメイキングのあり方がどうあるべきかについて、力強いメッセージを発している。

berneron mirage tiger's eye dial wrist shot

詳しくはBerneron.chをご覧ください。