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Hands-On A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”はランゲで最も高価な量産モデルだ

ダトグラフにとってビッグイヤーを祝う特別な時計だ。では、その詳細を見てみよう。


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A.ランゲ&ゾーネがダトグラフの25周年記念に、何か大きなことをするだろうと疑っていなかった。2024年は同ブランドにとって大きな記念の年である。ダトグラフの25周年、ブランドの再始動(およびランゲ1)の30周年、そして故ウォルター・ランゲ(Walter Lange)の100歳の誕生日...これらすべてが祝うに値する。しかし、ブランド上層部の誰かが私に“25周年は30周年より大きなもの”と言っていたように、ダトグラフは当然の選択だった。それでも、ランゲがのちにWatches & Wondersで発表する基礎となる作品(ダトグラフの25周年記念モデル)のプレビューを初めて見たときは、やはり驚いた。

DPT Lumen and Datograph White Gold

Watches & Wonders 2024で発表されたふたつの新作、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”と、ホワイトゴールドにブルーダイヤルのダトグラフ・アップ/ダウン。

DPT and Datograph

裏側から。上下逆さまでも美しく見える。

 1999年に登場したオリジナルのダトグラフは、時計界に大きな衝撃を与えた。現代技術を駆使してつくり上げられた美しく複雑なフライバッククロノグラフムーブメントと、ブランドが誇る最高の手仕上げが融合し、ほぼ完璧なものが生み出されたのである(少なくとも私の現代的な視点から見ればそうだ)。確かに少し厚くて重いが(特にプラチナの場合)、それでも私や多くの人々にとって“聖杯”であることに変わりはない。

Four datographs

最も古い世代から最新世代まで、4本のダトグラフ。

 その瞬間でさえ心に響いた。フィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏はかつて私にこう言った。“この時計を見たとき、「これは世界最高のクロノグラフだ。スイス勢がこれを打ち負かすのを待つしかないだろう」と思った。それから25年が経ったが、まだ待っているんだ”。

Dufour and Datograph

昨年、彼の誕生日パーティに招待された。その場にふさわしい時計を身につけたかったため、友人が特別な時計を貸してくれた。

Dufour and Datograph

その日はデュフォー氏の75歳の誕生日で、彼はちょうど上記の話を私にしてくれたところだった。

 そのため今回のアニバーサリーリリースについて、ランゲが何をするのか予想がつかなかった。25周年というのは“基本的なダトグラフの水準を引き上げ、まったく新しいムーブメントを搭載した”というにふさわしいタイミングに思えた。もし私が賭けをしたならその試合にベットしていただろう。しかし彼らが実際に行ったことは、ある意味より明白で、驚異的で、信じられないような選択だった。すなわちランゲの技術すべてを駆使して、ブランド史上最も高価な量産時計をつくり上げたのである。その結果がダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”(略してDPTルーメン)だ。世界限定50本で、価格は62万ドル(日本円で約9130万円、なお日本での定価は要問い合わせ)。まさに注目を集めるリリースである。

DPT Honeygold Lumen

 以前にも話したことがあるが、私はこのような時計は価格とはまったく関係ないと考えている。値段を聞いたとき、私もほかの何人かも笑ってしまったほどだ。そして頭金(50%のデポジットが必要だと聞いている)を入金した顧客が、これを買うのによく考える必要がなかったとまで言わないが、私がチューダーを買うのと同じようにこのような時計を比較検討しているとは思えない。また、市場に同等の選択肢があるかどうかも分からない。現代においてフライバッククロノグラフを搭載した永久カレンダートゥールビヨンウォッチがほかにあるだろうか? 私は思い浮かばない。

 この時計が2年前に発売された、サーモンダイヤルのWG製DPTよりも33万2200ドル(日本円で約4890万円)高いことは触れておくべきだろう。新しいルーメンという追加機能を考慮しても、この差額は私には理解しがたい。ただしこれはまさに二者択一だと思う。言わばこの時計を買いたいか買いたくないか、またはお金があるかどうかのどちらかだ。私には手が届かないが、これらは私にとっていつも憧れの存在だった。憧れであり野心的で、多くのコレクターにとって頂点を象徴する時計である。そこで文脈を踏まえつつ、これまでに生産された(公に知られている)高価な3つのランゲを見てみよう。

Lange Grand Complication

A.ランゲ&ゾーネ グランド・コンプリケーション(2013年の取材内容から引用)

 技術的にランゲの最も高価な時計として最初に思い浮かぶのは、2013年に発表されたグランド・コンプリケーションだ。この時計は発売時に驚異の260万ドル(当時の相場で約2億5370万円)で、当時パテックで最も高価だったスカイムーン・トゥールビヨンの2倍の価格であった。直径50mm、厚さ20mm以上のローズゴールドケースを持つこの時計の内部には、ムーンフェイズ付きパーペチュアルカレンダー、フライングセコンド付きのスプリットセコンドクロノグラフ、ミニッツリピーター付きグランソヌリとプチソヌリを備えた40mmのムーブメントが収められていた。ただこの時計は顧客の要望に応じて、ふたつのプロトタイプと6つのナンバリングされた個体のみが製造された。

Tourbograph Diamonds

ダイヤモンドがあしらわれたトゥールボグラフ。Photo: courtesy SJX

 次のふたつはユニークピースだ。2009年、ある顧客が小売店のデュベイユ(Dubail)でトゥールボグラフ “プール・ル・メリット”を購入した。その時計はダイヤモンドケース&ブレスレットに201個のバゲットダイヤモンドがセットされており、価格は120万ユーロ(当時の相場で約1億5630万円)だった(SJXには写真もある)。そして2018年にはスティール製のA.ランゲ&ゾーネ 1815 “ウォルター・ランゲへのオマージュ”がオークションにかけられ、85万2525ドル(当時の相場で約9410万円)で落札された。また80万ドル(日本円で約1億1780万円)を超える価格で取引されたとされる、宝石がセットされたダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨンのユニークピースの存在も噂されている。

Steel 1815

 新しいダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”は、モダンで洗練された美しさと、複雑さを増したダイヤル、そしてほかのふたつのムーブメントの長所を備えるなど、多くの点で現代のランゲに近い。新しいリリースでは、ユニークピースではなく何が得られるのか? 先に述べたように、ランゲは基本的にすべての工夫を詰め込んだ。まず、少なくとも日中であれば最も明白なふたつのポイントから始めよう。

DPT Lumen

新しい王者(少なくとも複数の人にとって)。

 通常、ケース素材は全体のストーリーのなかでもひとこと触れる程度であるが、ランゲ独自のハニーゴールド®となれば主役級だ。これはピンクからホワイトへと変化する合金で、2010年に登場した“165周年記念―F. A.ランゲへのオマージュ”記念エディションにまでさかのぼる、極めて特別なケースにのみ使用されてきた。そのときはトゥールボグラフ “プール・ル・メリット”、ランゲ1・トゥールビヨン、1815ムーンフェイズが登場した。さらに2011年、ブランドはリヒャルト・ランゲ・トゥールビヨン “プール・ル・メリット” ハンドヴェルクスクンストをこの金属で発表している。ほかにもいくつか例があるが、最近だと2021年のツァイトヴェルク “ルーメン”の素材としても採用された。それまで“ルーメン”モデルはプラチナでのみ製造されていた。それも十分に素晴らしかったが、ランゲの世界ではハニーゴールド®ほど特別な存在ではない。

DPT Lumen

 写真で見ると、この素材はさまざまな色合いを帯びていることが分かる。ある撮影環境では、時計が暖色系の表面に置かれ、その色を拾っていた。寒色系の素材、例えば青い表面では一部がほとんど白に近い色に変わる。ケースの直径は41.5mmで、厚さは14.5mm。これはダトグラフ・アップ/ダウンよりも1.4mm厚いが、内部のムーブメントがはるかに複雑であることを考えると、実に驚くべきことである。

DPT Lumen

 ムーブメントについて話す前にケースについて最後に注記をしておく。DPTのケースには、シースルーバックに向かって上向きの傾斜がついたフランジがある。そうすることで視覚的に時計が少しスリムに見え、手首に装着したときにはミドルケースが少し高くなるため、時計のバランスがよくなるようだ。

 “ルーメン”でなければムーブメントが主役になっていただろう。ランゲに称賛を送りたいのは、このDPT(ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン)のために新しい手巻きムーブメントCal.L952.4を開発したことだ。このムーブメントは約50時間のパワーリザーブを持ち、ほかの現行DPTモデルに搭載されているL952.2とは異なる。この新ムーブメントはフライバッククロノグラフ、12時位置のアウトサイズデイト表示、パーペチュアルカレンダー、そしてトゥールビヨンといったほとんどの機能を維持しながらパワーリザーブインジケーターを省いたため、部品点数を45点減らした。これにより混雑しがちだった夜光ディスプレイがシンプルになった。

DPT Lumen

 これらの変更は、単に輪列からパワーリザーブ部分を取り除くだけではない。ムーブメントは、見た目では分かりにくいかもしれないが、大幅につくり直されている。さらにサファイアダイヤルを支えるために必要な部品も追加されている。ただランゲに期待できる最高のものであることに変わりはない。このようなムーブメント、このサイズで厳密な精度を持つものは、現代の技術的支援なしでは思い描くことは不可能だろうが、その結果として生まれるブリッジとレバーの集合体は、私が時計に夢見る奥行きを生み出す。私はランゲのクロノグラフを見るたびにムーブメント側を上にして目の高さに傾けている。すると時計が10フィート(約3m)ほどの厚みがあるかのように感じられるのだ。この体験はトリプルスプリットほどではないが、それでも素晴らしい。

DPT Lumen

 さらに細かく見てみると、この時計にはブランドによる手仕上げが随所に施されている。技術的には57もの石が使われているが、そのうちのひとつはトゥールビヨンの軸を支えるダイヤモンドエンドストーンである。ムーブメントは、ジャーマンシルバーが時間とともに醸し出すパティーナのような風合いはないが、白っぽくもないため独特の味わいがある。トゥールビヨンの追加により複雑さが増す一方で、ムーブメントに視覚的な奥行きを与えていた部分が少し取り除かれた。とはいえ非常に見応えがあることに変わりはない。

DPT Lumen

 さて、みんなが待ち望んでいた瞬間(あるいは機能)、つまり夜光ショーの時間だ。正直なところ、これはほとんどの非購入者が興奮する部分だろう(もちろんオーナーも同様に楽しんでいるに違いないが)。スモークサファイアダイヤルをとおして、ランゲはダイヤル上およびダイヤル下にたっぷりと施した夜光を披露している。

Lumen DPT

 “ルーメン”シリーズの背景について少し紹介しよう。A.ランゲ&ゾーネのプロダクト開発ディレクター、アンソニー・デ・ハス(Anthony de Haas)氏によると、このアイデアは彼がルミノバのないツァイトヴェルクで時間を読み取るのに苦労していた夜に生まれた。手短に言えば、その結果が2010年のツァイトヴェルク “ルミナス”だった。それから3年後、グランド・ランゲ1で初めて“ルーメン”という名前が登場する。その後2016年にグランド・ランゲ1・ムーンフェイズ、2018年にダトグラフ・アップ/ダウンがルーメンシリーズに加わる。直近だとハニーゴールド®製ツァイトヴェルク “ルーメン”が登場した。これが新しいハニーゴールド “ルーメン”の新時代を示すものなのか、という疑問が湧く。

Lumen History

 アウタートラックは、フライバッククロノグラフのDPTと同じ1000mまでのタキメータースケールを備えており、今回は白い文字の下にルミノバが塗布されている。12時位置にはアウトサイズデイト表示がダイヤルの開口部をとおしてはっきりと見える(インデックスに合わせてハニーゴールド®で囲まれている)。ほかの数字も見えるが、サファイアによって拡散されるために邪魔にならない。針にはルミノバのインサートもあり、クロノグラフ針全体も夜光塗料が塗布されている。

DPT Lumen

 2018年のダトグラフ・アップ/ダウン “ルーメン”と比べて、読みづらく感じることはないが、なぜか日付表示が目立つように感じる。必要な情報はひと目で見えるようになっており、よく見るとDPTが提供するそのほかの情報も容易に確認できる。

DPT Lumen

 インダイヤルの8時位置にスモールセコンド、曜日、デイナイト表示があり、4時位置にはクロノグラフの積算計、月、うるう年を表示。これらの情報をコンパクトかつ効率的に表示しており、重要度の高い情報ほど大きく、そうでないものほど小さく表示されるよう整理されている。また夜光塗料が塗布されたムーンフェイズも忘れてはならない。

DPT Lumen

 全面夜光の機能も素晴らしいが、私が特に気に入っているのはこの時計が透明でありながら、光に照らされても非常に視認性が高いことだ。スケルトンまたはセミスケルトンのダイヤルを持つ多くのブランドはこれをうまく実現できていないが、ここでは見事に成功しており、最近のパテック 5316/50P-001にも少なからず影響を与えているようだ。これには正当な理由がある。青みがかったスモークサファイアがクリーミーホワイトのインダイヤルやほかのアクセントと対比して、セミスケルトンウォッチのなかでも最も魅力的で視認性の高いモデルのひとつとなっているのだ。

Lumen
DPT Lumen

 ときに“ランゲのムーブメントは美しすぎて、できることなら時計を逆さまにして身につけたい”と言う人がいる。“ルーメン”はその体験を少し味わえる。それ以外の着用感については、本当に重要だろうか。50mmのグランド・コンプリケーションよりもはるかにつけやすいのは確かだ。複雑なムーブメントとゴールド製ケースにより重量はあるが、それでも驚くほどつけやすい時計である。

 しかし価格と同様、それは本質的な問題ではない。これはランゲの歴史における重要な瞬間をカタログにある最高の時計のひとつで祝い、そして顧客に提供するというブランドが最も得意とすることをしているのだ。もしあなたがコレクターで、手首に巻かれたこの時計を見下ろしているのなら、サイズや重さ、価格はすべて頭の片隅にもないだろう。

DPT Lumen

A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”。Ref.740.055FE。41.5mm径、14.5mm厚の18Kハニーゴールド®製ケース、30m防水。サファイアクリスタル製スモーク半透明文字盤、18Kハニーゴールド®の針とインデックス、ダイヤル内外に夜光塗料を使用。手巻きムーブメントのCal.L952.4搭載。永久カレンダー、ムーンフェイズ、時・分・センターセコンド表示、フライバッククロノグラフ、トゥールビヨン。部品数684、約50時間のパワーリザーブ。ダークブラウンのアリゲーターストラップ付き。世界限定50本。価格は62万ドル(日本円で約9130万円、なお日本での定価は要問い合わせ)

夜光の写真に協力いただいたジェームズ・コン(James Kong)氏に感謝する。