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Technical Perspective オメガ マスター コーアクシャル キャリバー8900を手際よく組み立てる方法とは?

上出来とは言えないが、大惨事にもならなかった。

本稿は2017年11月に執筆された本国版の翻訳です。

僕はバンクーバーのオメガブティックに足を踏み入れたが、時計職人の机にたどり着く前にすでにナーバスになっていた。オメガ主催のコーアクシャル ウォッチメイキング ワークショップに招待されたのだ。これからコーアクシャル マスター クロノメーターのムーブメントを分解し、再度組み立てることになる。オメガブティックでときどき開催されるこうしたワークショップでは、数時間にわたり職人の体験ができ、ムーブメントの設計と構造の両方を学びながら、時計製造の繊細で微細な世界を味わうことができる。真っ白な白衣を着て、額にルーペを装着した僕。これで何も問題が起こるはずがない…はず。

omega training caliber

Cal.8900(ローターなしの状態)。

 僕の前にはトレーニング用のCal.8900が置かれ、驚くほど忍耐強い時計職人ヴィクター(Victor)に託されることになった。プラネット オーシャン 600Mをはじめとする日付表示付き3針時計の多くに採用されている8900は、オメガの高級仕様ムーブメントだ。約60時間のパワーリザーブを持つふたつの香箱を備え、磁気耐性1万5000ガウス、シリコン製のヒゲゼンマイ、そしてMETAS認定のマスター クロノメーターを取得している。単なる汎用ムーブメントである6497とは違うのだ。

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 ヴィクターが注意深く見つめるなか、僕はムーブメントの分解を始めた。目を凝らすほど、ムーブメントがさらに小さく感じられる。時計修理の知識がほとんどない僕のような人間にとっては、ひとつひとつの動作を慎重かつ意図的に行わなければならない。道具の種類やサイズを慎重に選びながら(小さなドライバーはネジ頭から滑りやすく、周囲を傷つける恐れがある)、細心の注意を払って作業する必要がある。ムーブメントの構造や設計がよく練られているため、適切な手順を踏めば各部品が意図どおりに動いてくれる。僕の手さばきが多少ぎこちなくても…。

ヴィクターが見守るなか、Cal.8900の組み立てを進める。

 実際ムーブメントに触れてみると、より深い敬意を抱くようになる。シースルーバック越しやウェブサイトの仕様を眺めるだけでは決して感じることのない敬意だ。僕たちは複雑で美しく仕上げられたムーブメントに夢中になるが、それらを構成するための膨大な知識や設計への投資を忘れがちであることに少しばかり後ろめたさを感じた。ムーブメントのすべての部品を組み立て、それらを単につなぐだけでなく、時計のなかで適切に機能するよう支える構造をつくり上げるには、膨大な知識と設計への投資が必要だということをつい忘れがちになってしまう。

 ネジをひとつ外すごとに、複雑な構造がどんどん明らかになっていく。Cal.8900のベースプレートまで分解し終えたころには、時計職人の机に置かれたパーツトレイは小さな部品でいっぱいになっていた。期待どおり8900はスムーズかつ素早く分解できた。しかし、初心者にとって本当の試練はここからすべてを元どおりに組み立てることだった。

テンプを適切に取り付けるには、ブリッジを90°反時計回りに回転させる必要がある。これにより、振り石が正しく位置合わせされ、アンクルに適切に収まるようになる。

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 ふたつの香箱を元の位置に戻したのち、再組み立てで最も難しいコーアクシャル脱進機に取り掛かる。コーアクシャル脱進機はふたつの小さなホイール、太陽の形をしたコーアクシャルホイール、そしてアンクルで構成される。ホイールを正しく配置することには成功したが、アンクルブリッジ(通常は独立しているホイールの上部を支える部品)を取り付けたあと、次のハードルが待っていた。アンクルを慎重に設置しようとするたびに、ホイールの位置と整列が崩れてしまうのだ。手のブレ自体は問題にならなかったが、アンクルを固定したあと部品が自然に正しい位置に収まるよう、わずかな遊びを残しつつプレートを押さえるための適切な力加減がつかめなかった。そこでヴィクターの出番となった。

輪列の一部を支えるトレインホイールブリッジを取り外す。

 小さなコーアクシャル脱進機の取り付けが完了し、最後の難関はテンプの取り付けだった。テン輪、ヒゲゼンマイ、テンプ受けが一体となったユニットとして保持されており、テン輪をヒゲゼンマイに吊るすように配置し、ムーブメント全体を回転させてテンプ受けの位置を合わせる必要がある。この際テンプ受けを約90°ずらして配置しなくてはならない。驚くことに、そしてヴィクターの喜びとともに、僕はこの作業をやり遂げ、ムーブメントの残りの組み立てもスムーズに進み問題なく完成した。最後のネジを締めてリューズを素早く数回巻くと、再び組み上がった8900が命を宿した。

おそらく息は止めていない。

 この短いワークショップは、オメガ(実際にはどのブランドでもそうだが)が自社のムーブメント設計を紹介するうえで非常に魅力的な方法だ。だがムーブメントの設計だけでなく、それを意図したとおりに維持するためのメンテナンスの本当の複雑さについては、ごく一端を垣間見るに過ぎない。もし同じムーブメントをオメガにオーバーホールに出したとしたら、すべての部品が組み立て前に徹底的に清掃されるだけでなく、細かく規定されたガイドラインに従い、多種多様な潤滑剤を用いて適切に潤滑する必要がある。構想から製造、そして最終的なメンテナンスに至るまで、ムーブメントの設計と製造は実に奥深い。そしてオメガは現代の量産ムーブメント技術において間違いなく最前線を走っている。

 僕が時計職人になることはまずあり得ないし、ましてや、ムーブメントの基本的なメンテナンスに習熟することもないだろう(ヴィクターの自宅の電話番号を聞いておけばよかったかもしれない)。それでも、オメガの最新キャリバーの内部をじっくりと観察できたことは貴重な体験だった。そしてこのワークショップ全体が、時計を生み出すために必要な複雑なプロセスと高度な技術を再認識する貴重な機会となった。