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「Watch of the Week」では、HODINKEEのスタッフや友人を招いて、ある時計を愛する理由を説明してもらう。今週の著者は、我々のブランド・エディターであり、インターネット上で最高の髪を持つ男だ。
私は成長期をヒューストンの北部にある郊外のスプロール地帯で過ごした。そこは、そびえ立つ松林と、マクドナルドよりもはるかに多い郊外住宅に囲まれた快適な場所だ。今日、友人たちは私がヒューストン地域をやや擁護していることを知っている(ダラスをからかうことも知っているが、それはまた別の機会に)。それには理由があるのだ。ヒューストンは、アメリカで最も大きく多様性に富んだ都市のひとつであるにもかかわらず、休暇を楽しむ場所としては知られていない。
ヒューストンに遊びに来る人の多くは市内を通過し、I-45を通って私の住む郊外を通り過ぎ、最終的には北東部のどこかに到着して狩りをするというパターンが多い。それはそれでいいが、私はこれまで訪問者に勧めることはなかった。
はっきり言って、私はスポーツとしての狩猟に反対しているわけではない。狩猟ライセンスの販売によって自然保護に貢献していることを認識することは非常に重要だと思う。しかし、アクティビティとして、私には向いていないのだ。
11歳の頃、父と一緒に2回ほど試したことがある。1回めはテキサス州東部の好物であるウズラ、2回めはカモだった。憶えているのは、湿気と蚊、そして退屈だったことだ。その記憶があるからこそ、この15年ほど近寄らなかった。
それなのに、私の頭から離れない数少ない時計のひとつが、ドイツ(!)でハンター(!)のためにデザインされた難解なツールウォッチなのだ。
ジンのハンティング・クロノグラフ 3006は、私が住んでいない国で、私が楽しんでいないスポーツのためにデザインされたモデルだ。時計収集の世界はミッキーマウスのような奇抜な理屈が飛び交うことで知られているが、この時計は、まさに私にとって他とは比べようのないものなのだ。
初めてハンティング・クロノグラフを見たとき、私は驚きを隠せなかった。2017年、ジンの米国代理店が、マンハッタンのミッドタウンにある豪華なホテルの一室内でイベントを開催していた。この時計はミュンヘンのショーでデビューしたばかりで、代理店チームは、他の時計とは離れた別のテーブルの名誉ある場所にこの時計を置いていた。
そのとき、私は時計を集め始めて2年ほど経っていたが、それまで見たジンの時計のほとんどがあった。私は少し圧倒された。不活性ガスで満たされた何十本もの時計は、私をあまり歓迎していないように見えた。そんな気持ちを察したのか、童顔の販売員が私を手招きして、フランクフルトのジン本社から届いたばかりの商品を見せてくれたのだ。
販売員がこの時計の用途や仕組みを説明しているあいだ、ハンティング・クロノグラフ3006を手にしていたのを覚えている。そのとき、私はこの時計について完全に理解していたとは思えない。私の目を引いたのは文字盤に配された様々な色合いの渋いオリーブグリーン、戦術的な方法で多くの情報を表示する密集したサブダイヤル、そして触るとひんやりするサテン仕上げのケースだった。
当時、私はテギメント加工スティールが何であるかを知らなかった。「Jagduhr」の意味も、「Bundesjagdgesetz」(早口で5回言ってみて)が一体何なのかも知らなかった。私が知っていたのは、この時計が私の手に与えてくれた感触だけだった。それは新鮮だった。それは、私が今までに見たことのない、正真正銘の「新しい」ツールウォッチのように感じられた。
少し話を戻そう。2010年代半ばに時計の世界に足を踏み入れた私の手首は生まれたての赤ちゃんと同等だったため、シンプルなパイロット・ウォッチがいつまでも賞賛されていることが理解できなかった。つまり、「本当に?」「歴史があるからといってそれに大金を払えというのか?」というように。我々は大人だ。ツールウォッチという考えが今日では少し愚かであることを認めることができる。あなたの腕時計がG-SHOCKやApple Watch(そんなことがあってもいいのか!)でもない限り、腕時計は日々のライフスタイルを彩る装飾品なのだ。それはそれでいい。
しかし、道具としてではなくアクセサリーとしての腕時計に移行する過程で失われてしまった、ツールウォッチというジャンル特有の道具感も存在すると思っている。
ツールウォッチとは、簡単に言えば「時計でもある道具」のことだ。しかし、その道具に用がないのであれば、あとはその一風変わった機能性の本質的な魅力を評価するしかない。私はジンのハンティング・クロノグラフ 3006に出会って初めてわかった。
3006は、ムーンフェイズを搭載したトリプルカレンダークロノグラフだが、同じようなコンプリケーションを搭載したスイス製の時計(ヴィンテージのユニバーサル・ジュネーブ、ジャガー・ルクルト、ホイヤーなど)に見られるような、よく知られたドレッシーな雰囲気とはまったく無縁のものだ。その工夫は、月の力にある。
Google翻訳を開いて、「Bundesjagdgesetz(ドイツ連邦狩猟法)」第19条第5項の5Aを見てみよう。これによると、夜間の狩猟を合法的に行うためには、人工的な光源を使用することが禁止されている。つまり、狩猟者が獲物を見つけ安全に撃つためには、自然の月光が十分な明るさでなければならないということだ。
標的を照らすための人工的な光源、鏡、装置、画像変換装置や電子増幅装置を備えた銃器用の夜間照準器、テープレコーダーやあらゆる種類の狩猟動物を捕獲・殺害する際に電気ショックを与える装置、夜間に灯台や航海灯を使って狩猟鳥を捕獲することは禁止されている。- ドイツ連邦狩猟法第5条、第19条、第5a項
ハンティング・クロノグラフ3006では、6時位置のムーンフェイズの開口部が、満月の前後3日間という、月が最もよく見える1週間を分けるように配置されている。スーパールミノバが塗布された開口部内の月は、文字通り手首の上で光り、ドイツの夜行性ハンティング・コミュニティのメンバーに、射撃の合図を送る唯一無二の存在となる。
そう、ニッチな機能だ。確かに、ムーンフェイズを搭載した時計であれば、似たような機能を持つ。しかし、ジンほど真剣に、そして献身的にこうした機能を実践するメーカーは想像できない。ジンは、ギミックやスタントではなく、ツールとしてこの時計をデザインしたのだ。
膨大な量の情報が表示されるにもかかわらず、文字盤にはバランスと配慮が感じられる。ジンは、トップグレードのETA 7751の発展型とも言えるコンセプト C99002を採用している。その結果として、12時位置の30分積算計には月と曜日を示す2つのインライン開口部を、9時位置にはランニングセコンドと24時間表示を含むスタック式インダイヤルを、6時位置の12時間積算計にはムーンフェイズ表示を備える。
中央のピニオンから伸びるレイクスタイルのポインターデイトが文字盤の外周を巡り、3時位置にはアプライドのジンのロゴが文字盤のレイアウトを引き締める。興味深いことに、ケースの10時位置に配置されたプッシャーが、曜日表示の調整をする。その他の表示は3時位置のリューズで操作する。
この時計には、ジンの得意とする独自の技術がふんだんに盛り込まれている。ブランドの最高傑作と言えるだろう。44mm×15.5mm、ラグ間51mmの316の塊であるSS製ケースには、スティールの分子構造を調整して通常の最大9倍の硬度にする独自のテギメント硬化処理が施されている。また、ケース内には不活性のアルゴンガスが充填されており、7時付近のケースバンド内に設置された硫酸銅のカプセルがケース内に侵入した水分を吸収することで、水分の侵入を防いでいる。
フランクフルトの金融街のドレッシーなクロノグラフをベースに、スポーティな要素を加えた3006。リューズはねじ込み式で、クロノグラフのプッシュボタンは、内部にチューブを挿入しないシン独自のD3システムによって保護されており、200mまでの防水性を実現している。プッシャーは水中でも操作可能だ。しかもドリルラグだ。真のツールウォッチには、これが欠かせないだろう?
アウトドアには本物のロマンがある。そして、アウトドアでの個人的な経験を理解するには、持ち歩く物が大きな役割を果たす。私は、ジンのハンティング・クロノグラフ3006をきっかけに、道具として作られたクラシックな時計の魅力を知ったのだ。
しかし、もし私がジンに将来の時計で考慮すべきディテールをひとつ提案できるとしたら、それはL.L.BeanやOrvisで販売されているハミルトンのカーキフィールドや、Abercrombie & Fitchで販売されているホイヤーのクロノグラフのように、小売店のサイン入り文字盤の伝統を復活させることだろう。私だけかもしれないが、ジンのハンティング・クロノグラフ 3006に、Bass Pro Shopsのサインが入っていたら、とても魅力的だと思う。
夢のコラボウォッチが発売されるのを待っているあいだに、テキサスでは10月が正式な狩猟シーズンの始まりであることを思い出した(ドイツの友人たちはもう1ヵ月待たなければならない)。そろそろ父に電話して、狩猟を再開してみてもいいかもしれない。