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※本記事は2013年12月に執筆された本国版の翻訳です。
SIHH2013で発表されたA.ランゲ&ゾーネ グランド・コンプリケーションは、非常に複雑な直径50mm、260万ドルというモデルということからも、時計業界全体から注目を集めましたが、実際に実物を見ることができたのはほんのひと握りの人たちだけでした。拡散されたサンプルや公式のプレス写真だけで大半の人々には十分でした。しかし、数週間前にグランド・コンプリケーションのプロトタイプがニューヨークに到着し、CEOのヴィルヘルム・シュミット氏と商品開発ディレクターのアントニー・デ・ハス氏にインタビューを行い、この驚異的な時計がA.ランゲ&ゾーネの未来に何を意味するのかを詳しく考察してみました。
イントロダクション
ほとんどの“コンセプトウォッチ”は、1~2本のロットで作られ、市販されることはありませんが、ランゲは本機で他のモデルとは違うことをすることにしました。マニュファクチュールが保有する2本のプロトタイプと、6つの番号が付けられたモデルが販売されます。このモデルは192万ユーロ(2013年12月当時で3億7000万円以上)という高額な価格で販売され、着用を想定できないサイズであることは留意すべき点ではありますが、本機の魅力は十分に伝わってくるでしょう。比較ポイントとしてはこの時計は、120万ドルでパテック フィリップによって提供された最も高価な時計、スカイムーン・トゥールビヨンの文字通り2倍の価格です。確かに、直径50mm、厚さ20mm以上のローズゴールドケース(ムーブメント自体は40mm)で、理論的には着用可能な時計だと思いますが、僕はそれよりもかなり小さいヴィンテージの卓上クロックを所有しています。繰り返しになりますが、それはこの時計にとっては全く問題にならないことです。全く次元の異なる時計なのです。
グランド・コンプリケーションを偉業と呼ぶのは少し大げさに聞こえるかもしれませんが、ちょっと待ってください。僕はこの時計が印象的だという意味での功績を語っているのではありません。実物よりも、この時計がA.ランゲ&ゾーネの20年の歩みや、マニュファクチュールが今後どのような方向に進んでいきたいのかを示すものであるという意味で、この時計の偉業を讃えているのです。この時計は、完成品であると同時に、未来の道標であり、ブランドの顔でもあるのです。
グランド・コンプリケーションという言葉は様々な意味で使われていますが、伝統的には、カレンダー、計時、チャイムという3つのコンプリケーションを搭載した時計を指します。本作では、ムーンフェイズを備えた永久カレンダー、フライングセコンドを備えたスプリットセコンドクロノグラフ、ミニッツリピーターを備えたグランド&プティソヌリが搭載されています。間違いなく伝統的に定義された機能を全て兼ね揃えています。
永久カレンダー
まずは永久カレンダーから。ランゲはこれまでにも永久カレンダーを製作してきましたが(ラトラパンテ・パーペチュアルも含め)、今回のモデルでは、非常に細かく調整された複雑機構が採用されています。これまでのモデルとは異なるのは、表示方式です。12時位置のインダイヤルには、4年分の月と閏年表示が全て表示され、左側には曜日、右側には日付を表示。6時位置にはムーンフェイズがあり、フライングセコンドの下部に組み込まれています。
この方法で月数表示することには賛否両論あります。インダイヤルが大きくなったことで比較的読みやすくなりましたが、12ヵ月分だけのインダイヤルほど読みやすくはありません。しかし、その一方で、全体のサイクルを見ることは情緒を感じさせます。しかし、このような針とレジスター表示を採用している多くの永久カレンダーとは異なり、マーカーは緩やかに作動するわけではありません。ムーンフェイズだけがゆっくりと一定の動きをしていますが、その他の表示は全て真夜中に瞬時に切り替わるのです。
フライングセコンド機能とモノプッシャー式スプリットセコンド
クロノグラフに話題を移すと、グランド・コンプリケーションでは、6時位置にフライングセコンドを搭載したスプリットセコンドクロノグラフを搭載します。クロノグラフを作動させると、クロノ針とスプリット針がダイヤル上で動き出すだけでなく、6時位置の小針が5つの位置でジャンプし始め、5分の1秒単位の計測が可能になります。でも、「ちょっと待って。この時計のテンプは5Hz(3万6000振動/時)で振動しているの?」と思ったことでしょう。いいえ、違います。フライングセコンドは、独自の主ゼンマイで駆動し、独自の機構によって1秒間に5回動くことができるようになっているのです。機構自体は複雑ですが、4Hz(2万8800振動/時)で正確に振動している限り、Foudroyante(フドロワイヤント;秒未満の時間計測)機能は正確に5分の1秒を刻むことさえ理解しておけば十分でしょう。
スプリットセコンド複雑機構は、とりわけダブルスプリット方式が数年の間にランゲコレクターの間で愛されるようになりました。このモデルでは、スプリットプッシャーはリューズではなく、10時位置に搭載されています。スイス時計原理主義の愛好家の中には憤慨する人もいるかもしれませんが、このモデルはランゲにとっては当たり前のこと、そしてグラスヒュッテ様式に忠実な仕様なのです。ですから“安易な方法だ”と一日中議論してもいいのですが、これはこれで正当なやり方でもあるのです。1時と2時位置の間にはもう1つプッシュボタンがありますが、このスプリットもモノプッシュボタンです。最後に、メインのクロノグラフ機能とスプリット機能にはそれぞれ独立したコラムホイールが組み込まれています。
グランドソヌリ、プティソヌリ、そしてミニッツリピーター
最後に、ミニッツリピーター複雑機構をご紹介します。グラスヒュッテはミニッツリピーターウォッチの製作で有名ではなく、これはむしろスイスの伝統であり、過去も現在もドイツの多くミニッツリピーターにはスイスから輸入された機構が使用されてきました。デ・ハス氏が上の動画で説明しているように、グランド・コンプリケーションの重要な目標の1つは、将来のためにこれらのメカニズムを自社開発することでした。グランドソヌリは、15分ごとに1時間(正時の時数)と15分をチャイムで知らせますが、これを正時の時数のみと15分のみ(正時は省略される)ゴングが鳴るプティソヌリに切り替えることができます。また、グランド・コンプリケーションにはミニッツリピーターが搭載されており、2つのゴングの音色で時、15分、分のチャイムを鳴らすことができます。ケースの12時と6時位置にある2つのスイッチで、これらのモードをコントロールすることができます。ケースの大きさとその音量のため、音色はかなり素晴らしいものです。
新しいランゲのミニッツリピーター機構に不満があるとすれば、その機構が全く見えないことです。これはドイツの伝統的な時計製造技術にも当てはまりますが、ここではあまり魅力を感じられません。ハンマーとゴングは他のムーブメントの下に隠されているため、裏返したときにハンマーがゴングを叩く様子を視覚的に楽しむことができないのです。繰り返しになりますが、なぜこのような選択がなされたのかは理解できますが、ちょっと納得できない部分でもあります。
ムーブメントとダイヤル
Cal.L1902ムーブメントには876点の部品が搭載されており、そのうち67点は貴石で占められています。パワーリザーブは、ムーブメントの計時部分は30時間ですが、ソヌリには24時間分のチャイムを一度に鳴らすのに十分なパワーを蓄積できる専用香箱があります。最後にクロノグラフ用の3つめの香箱がありますが、スプリット機構とフドロワイヤント機構には大きなパワーを消費します。3つの香箱は全てメインリューズから巻かれており、12時方向に巻くと計時とクロノグラフの香箱に、6時方向に巻くとソヌリ/リピーターの香箱に動力が蓄えられます。このプロトタイプで撮影したCal.L1902には、まだ最終仕上げが済んでいませんでしたので、その点はご留意いただきたいと思います。
Cal.L1902の驚くべき機能を飾るのは、5つのピースからなるダイヤルです。エナメルを焼成したもので、小さなインダイヤルの穴は、レーザーで加工すると傷がついてしまうため、ノコギリでカットしなければなりません。無事にカットされた1枚のダイヤルを得るためには、何枚ものロスが生じます。黒と赤色はインクのように美しく、アンティークの懐中時計に見られるような仕上げに驚くほど似ています。
考察
時計を愛する者として、A.ランゲ&ゾーネのグランド・コンプリケーションに興奮しないわけにはいきません。このモデルは、今日の最も偉大なマニュファクチュールを象徴する時計の1つであり、単なる目立ちたがり屋ではないことは明らかです。ランゲは、コレクターがマニュファクチュールに対してより多くの期待を寄せていることを理解しており、時計メーカーがより困難な道を歩むことで、複雑機構の新旧を問わずユニークで興味深い高みに到達することを理解しているのです。グランド・コンプリケーションは、A.ランゲ&ゾーネの現在と未来を語るだけではありません - 超高級時計を愛する人々が自分たちの好きなメーカーに期待していることを物語っているのです。
完全無欠というわけではありませんが、上述したように、A.ランゲ&ゾーネは、私が直接体験することができて光栄に思う作品であり、ここで皆さんと共有できることを嬉しく思います。上の動画と下にご紹介する写真ギャラリーをお楽しみください。
A.ランゲ&ゾーネのグランド・コンプリケーションは世界6本限定で、価格は1.9百万ユーロ(2013年12月当時で3億7000万円以上)です。詳細はA.ランゲ&ゾーネのWebサイトをご覧ください。