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In-Depth ポルシェデザイン by IWC オーシャン BUNDのコレクターズガイド

知る人ぞ知る、ドイツ海軍の依頼で開発された軍用ダイバーズウォッチがある。ポルシェデザイン by IWC オーシャン BUNDだ。卓越した機能を誇るこの軍用時計はいかにして生まれたのか? 多角的な視点から深掘りする。

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軍用という特殊な開発背景を持つ高性能ダイバーズ

1980年、ドイツ海軍(BUND)は、VDO(Vereinigte Deuta OTA)に新しいダイバーズウォッチの開発・納入を依頼した。VDO社はアドルフ・シンドリング(Adolf Schindling)が創業したドイツの会社で、自動車向けのタコメーターや計測器を製造していた。この時代、IWCはVDOの傘下に入っており(正確には1978年にVDO アドルフ・シンドリングがIWCの事業を引き継いだ)、そうした経緯から同ブランドがこの新しいダイバーズウォッチの開発を担うことになった。

 1980年という年は、IWCの歴史を知る上で重要な意味を持つ。同じ年、フェルディナンド・アレキサンダー・ポルシェ(Ferdinand Alexander Porsche)の協力のもと、まったく新しいチタンウォッチコレクション、ポルシェデザイン by IWCが誕生し、そこでは革新的な民生用ダイバーズウォッチ、オーシャン 2000(1982年)やオーシャン 500(1983年)が発表された。特にオーシャン 2000は当時、加工が困難だったチタンをケースやブレスレットに使用した当時の最先端ツールウォッチで、200気圧(2000m)もの防水性能を保証した。

 ドイツ海軍がIWCに要求したことのひとつに“完全な耐磁性能を持つ時計”があった。そのため、同ブランドは開発に4年の歳月を費やすことになったのだ。この要求は、ドイツ海軍の特殊部隊ミーネンタウヒャー(Minentaucher、掃海ダイバー)のニーズにも基づいていた。彼らがさまざまな種類の機雷を除去する訓練を受けた特殊なダイバーであり、彼らが扱う機雷のなかには周囲の微妙な磁場の乱れで爆発するものが含まれていたためだった。IWCにとって、非磁性金属であるチタンを外装に用いたオーシャン 2000の製作で培ったノウハウや経験をオーシャン BUNDに活用することは理にかなった選択となった。しかし時計内部のムーブメントはスティール製の部品で構成されており、これを搭載した時計では磁気機雷に接近すると爆発する可能性がある。そのためオーシャン BUNDの開発は、この磁気の問題を解決することが主な課題となった。

 当時IWCの技術責任者だったユルゲン・キング(Jürgen King)とそのチームは、3つのグループに向けたダイバーズウォッチ開発に挑戦した。

 ひとつは、主に海岸や港湾での任務にあたるカンプフシュヴィマー(Kampfschwimmer、戦闘ダイバー)に向けたもの。彼らは深海での潜水や機雷除去を行わないため、ダイバーズウォッチに求める耐磁性はそれほど厳密なものではなく、IWCは彼らのためにクォーツムーブメントを搭載したRef.3314と3319を製作した。

 ふたつ目のグループは、ヴァッフェンタウヒャー(Waffentaucher、サービスダイバー)やアタックダイバーと呼ばれる水中で軍事目標を攻撃・防衛する高度な訓練を受けた海兵たちだ。彼らのためには、自動巻きモデルのRef.3501、3509、3529が開発された。ちなみにRef.3509は、プレーンダイヤルと3H(トリチウム)ダイヤルの2種類が製造された。

 最後に、ミーネンタウヒャー(マインダイバー、マインスイーパーと呼ばれる人たち)のために作られたのが、完全な耐磁性を持つRef.3519である。このモデルがオーシャン BUNDシリーズにおいてはある意味、最高傑作だと言える。

 オーシャン BUNDのプロトタイプとなるRef.3500は、ドイツ・グレーディングにあるWTD 81(Bundeswehr Technical Center for Information Technology and Electronics、日本語で言えばドイツ連邦軍情報技術・電子技術センター)でテストされ、NATO標準化協定(STANAG)2897、クラスBが耐磁性の判断基準として使用された。なお、同時にこの時のノウハウはもうひとつの耐磁時計、民生品のインヂュニア 500,000A/mの製造にも生かされることになった。

 ドイツ軍で使用されたすべての軍装品には、いわゆる供給番号(管理番号、Versorgungsnummer)が付けられていたが、この番号はNATOストックナンバー(NSN、National Stock Number)と同じ13桁の番号であり、最初の4桁は類似の軍事供給品のグループと分類を示す。次の2桁はNATO加盟国の国番号に対応している。(12はドイツ、99はイギリス、00または01はアメリカなど)。最後の7桁は、正確な対象物を表す。このコードは、戦車や武器などの大型のものだけではなく、時計、そして時計ベルトや時計工具などでも個別のナンバーが使われている。以下は、確認されているオーシャン BUNDの一覧だ。

 何種類のオーシャン BUNDが作られたかについては議論の余地があるのだが、使用された異なるムーブメントとNSNから、合計で7つあったと考えられている。

 一見すると、軍用のオーシャン BUNDは、民生品のオーシャン 2000とよく似ているが、明らかな違いがあった。ひとつはオーシャン BUNDの防水性能が300mであったのに対し、オーシャン 2000は2000m(200気圧)であったこと。そしてわかりやすい外見の特徴としては、前者はベゼルがブラックで分針が赤い点、後者はベゼルがチタン(グレー)カラーで秒針の先端が赤い点だ。そのほか、ディテールにおける違いは以下のとおり。

通常のオーシャン 2000 Ref.3500。

オーシャンBUND仕様のRef.3500。

  1. 1. ダイヤル 軍用:筆記体ロゴのみ(3H表記もある)。夜光はトリチウムと蓄光タイプが存在/民生用:4種類。夜光はトリチウムのみ。
  2. 2.  風防(サファイアクリスタル製) 軍用:フラット/民生用:ドーム。
  3. 3.  ケース(チタン製) 軍用:300mまで防水テスト、ブラックベゼル/民生用:2000m防水、グレー(チタンカラー)ベゼル。
  4. 4.  針 軍用:時針と秒針が白、分針が赤/民生用:時・分針が白、秒針の先端が赤。
  5. 5.  裏蓋 軍用:BUNDの文字とNSNの刻印/民生用:表記なし。
  6. 6.  ブレスレット 軍用:NSNの刻印/民生用:表記なし
  7. 7.  ムーブメント 軍用:自動巻きのほか、耐磁仕様やクォーツ仕様もあり/民生用:自動巻きのみ。

 そしてオーシャン BUNDは、基本的に2種類のムーブメントを搭載していた。ETAのクォーツCal.955.412を使用したCal.2250Qと、同じくETAの自動巻きCal.2890をベースにしたCal.375である。このCal.375は直径28mm。さらにCal.3752、37521、3755 AMと改良が加えられ、これらのキャリバーの直径はすべて25.6mmであった。当時、多くの時計メーカーがETAのムーブメントをそのまま使用したのに対し、IWCでは多くの部品を開発し、修正・改良。IWCの基準で新たに製造されたムーブメントは、特別なノウハウを示した。その究極の例が、Ref.3519に搭載されているCal.3755 AMだ。

 Cal.3755AMは、ほかのムーブメントと一見違いがわからないが、まさに特別なものだった。非鉄金属合金で作られており、テンプはニオブ・ジルコニウム合金製。そのほか、スティール製のパーツすべてがベリリウム、チタン、金などの金属や合金に置き換わっている。スティールパーツがまったくないため、Cal.3755AMはほかのオーシャン BUNDのムーブメントよりも傷つきやすく、頑丈ではなかった。そこでIWCは、Ref.3519を常時着用するのではなく、特別な作業や任務のために使用することを推奨していた。

 これら希有な軍用ダイバーズウォッチ、オーシャン BUNDは、ヴィンテージウォッチとしても大変価値があり、その多くが入手困難なことで知られている。とりわけプロトタイプのRef.3500は5本しか製造されなかった究極のレアピースだ。


Ref.3500 プロトタイプ

 オーシャン BUNDをドイツ海軍に納品するにあたり、IWCはプロトタイプを5本製造した。それがこのRef.3500である。ムーブメントは、Cal.375をベースとしたアンチマグネチック仕様の改良型Cal.375T。このキャリバーは、のちに納入された7種類のオーシャン BUNDには搭載されておらず、プロトタイプのみに見られるものだ。裏蓋には、1~5までの数字が刻印され、その下には“NATOストックナンバー(National Stock Number=NSN)”が記されている。なおNSNはアンチマグネチック仕様のCal.3755 AMのものと同じである。

 ダイヤルは3H(トリチウム)表記だが、のちの3H表記モデルとは異なり、IWCの文字がオフセットされていない。これは、民生品のオーシャン 2000のダイヤルに3Hを表記したデザインであることを示しており、裏蓋には3500のリファレンスナンバーが刻印されている。製造本数が5本しかなく市場に出る機会もほとんどないモデルゆえに、具体的な相場は不明だが、オークションなどに出品されれば、その希少性からかなりの高値がつくことが予想される。この個体は、今回取材に協力してくれたヴィンテージショップ、キュリオスキュリオのオーナーである萩原秀樹氏が退役軍人から買い取ったドイツのコレクターから譲り受けたものであり、出自がしっかりしているのも大きなポイント。いずれにせよ、幻の逸品と呼べる超希少モデルであることに違いない。


Ref.3501 初期型

 1984年に製造されたRef.3501は、ヴァッフェンタウヒャーやアタックダイバーと呼ばれる水中での軍事目標を攻撃・防衛する高度な訓練を受けた海兵のために開発されたモデル。Ref.3501は軍支給モデルとしては最初期のモデルで、滅多に市場に出てくることはない。搭載されているムーブメントのCal.375は、オーシャン BUNDの自動巻きモデルのベースキャリバーで、のちにCal.3572、Cal.35721、Cal.3755 AMと発展を遂げていった。

 軍用という性質上、パーツ交換されていることが多いオーシャン BUNDだが、この個体はミドルケースとベゼルは後年のモデルのものに交換されている。製造当時はプロトタイプと同じ1ピンタイプの初期型ミドルケースを採用していた。ダイヤルも注目だ。筆記体でブランドロゴがつづられ、そのダイヤルの夜光塗料にはトリチウムが使用されている。

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Ref.3509 後期モデル

 Ref.3501の後続機として登場したのが、Ref.3509である。製造年は1986年。プレーンダイヤルと3H仕様の2種類があり、こちらの個体は前者だ。夜光にはスーパールミノバが使用されており、NSNはそれぞれで異なる。ちなみにRef.3509のトリチウムダイヤル仕様はきわめて希少で、まず見つかることがないらしい。

 Ref.3509の後期モデル(1990年代)では、Cal.37521を搭載している。なお、この個体のベゼルはもとのブラックベゼルが経年により退色してグレーのような色味になっており、オーシャン 2000に近い印象を与える。このようにオリジナルのパーツであっても、経年変化している場合もあるため、そのオリジナリティを見定めることはなかなか難しい。ちなみに、このRef.3509からミドルケース(ブレスレット)が、ふたつのピンで接合を保持する中期タイプに変更となる。


Ref.3519

 オーシャン BUNDのなかでも、最高傑作との呼び声が高いRef.3519。その理由はシリーズで唯一、完全な耐磁性を備えていることで、これを実現できたのは搭載されたCal.3755 AMによるもの。同キャリバーはアンチマグネティック仕様で、非鉄金属と合金で作られている。その数はわずか55個で、このうち50個がRef.3519として製造された。これだけ少数の生産だった理由は、鉄を一切使用していないキャリバーの耐久性に課題があったからと考えられている。

 Ref.3519が支給されたのはドイツ海軍の特殊部隊、ミーネンタウヒャー(機雷潜水士)だ。彼らはあらゆる種類の機雷を除去する訓練を受けた特殊なダイバーで、機雷のなかには周囲の微妙な磁場が乱れると爆発してしまうものも含まれていた。そのため、ナイフや腕時計など、彼らの装備品は完全に磁気帯びしないものでなければならなかった。Ref.3519は、当時これを実現できる唯一の時計だったのだ。50本という少ない製造本数ゆえ、きわめて貴重なものであり、それもヴィンテージウォッチとしての価値の高さへと繋がっている。出合える機会は少ないかもしれないが、ぜひとも注目するべき1本だ。


Ref.3529

Courtesy Curious Curio

Courtesy Curious Curio

Courtesy Curious Curio

 1990年代に入ってからも、IWCはオーシャン BUNDを作り続けた。Cal.37521を搭載したプレーンダイヤルのRef.3529は、7つのオーシャン BUNDの最後のモデルにあたる。このモデルから、夜光塗料はトリチウムではなくルミノバのみとなる。このリファレンス最大の特徴は、ミドルケース(ブレスレット)がコマの横からピンを通す最終型に変わったことだ。これによりケースの耐久性が上がったものの、ブレスレットが厚くなったため、ブレスレットを装着した際の軽快感はそれまでのものよりも感じにくくなっている。

 50本しか製造されていないRef.3519と比べれば難易度は下がるが、コレクターの多くは自動巻きのオーシャン BUNDを求める傾向にあるため、Ref.3529の入手もなかなか難しい。とはいえ、オーシャン BUNDのなかでも最も高年式で相対的にほかのモデルよりも状態がよく扱いやすいのも事実。オーシャン BUNDの登竜門ともいえるモデルだ。


ヴィンテージとしてのオーシャン BUNDの魅力

オーシャン BUNDが数ある軍用時計でも異彩を放つ理由は、高い耐磁性を備えた腕時計である点だ。実際にアンチマグネティックの仕様であるのは、Ref.3500の5本と、Ref.3519の50本のみであることからもわかるようにその製造は難航を極め、すべてのリファレンスで完全な耐磁性を備えることはできなかった。これはそのまま希少性にも比例している。たった5本しかないRef.3500は別格として、50本しか製造していないRef.3519もきわめて希少である。その他のオーシャン BUNDも現存する本数は限られてくるし、パーツ交換されていない個体は決して多くはない。そのなかでもクォーツのRef.3314とRef.3319は比較的手にしやすいというが、修理対応が難しいことを考えると安い買い物ではないようだ。

 オーシャン BUNDの大きな魅力のひとつには、優れた防水性能がある。民生品のオーシャン 2000の2000m防水にはおよばないにしても、風防がサファイアクリスタル製で、300m防水もあれば日常使いには問題ないだろう。軍用時計としての開発ストーリーがあり、普段使いに支障がない防水性能を備えるオーシャン BUNDは、“使えるヴィンテージウォッチ”として魅力的だ。民生品のオーシャン 2000よりも探すのは骨が折れるかもしれないが、手に入れた際の喜びはひとしお。現在の市場でも見つかる可能性は十分にあり、初めてのヴィンテージミリタリーウォッチを手にしたいと考えている人にはおすすめのジャンルと言える。

特に記載のない写真は、by Kyosuke Sato, Special Thanks: Curious Curio
オーシャン BUNDに関する詳細は、エイドリアン・ファン・デル・メイデン(Adrian van der Meijden)氏、マーティン・ドーマン(Martin Dohrmann)氏、ハンス・ゲルター(Hans Goerter)氏による研究資料『The IWC Ocean Bund Diver's Watch』をもとに、キュリオスキュリオの萩原秀樹氏への独自取材に基づき編集したものです。