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In-Depth Appleの3Dプリントウォッチケースを支えるエンジニアリング

大規模な最先端のケース製造を詳しく見てみよう。


2025年9月のクパチーノでのApple WatchとiPhoneの発表会を後にしたとき、私はApple Watchチームに聞きたいことがひとつだけあった。時計愛好家として、ほんの一瞬だけ言及されたある事柄が際立っていたのだ。それは新しいSeries 11とUltra 3のケースがすべて、100%リサイクルされたチタンから3Dプリントされているという事実だ。Appleはこれを持続可能性の取り組みの重要な部分として提示しており、2030年のカーボンニュートラル目標と、リサイクル素材を最大化するという推進に沿うものである。このプロセスはこの規模において技術的に前例がないと感じており、私たちはAppleの関係者と独占的に話す機会を得て、その全容を解き明かす機会を得た。

Series 11 Apple Watch wristshot
Ultra 3 Caseback

Photos by TanTan Wang

Ultra 3 on railing
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 最新世代の時計のハンズオンで私が指摘したように、3Dプリントへの移行が発表された瞬間から私を驚かせたのは、それが過去のApple Watchと文字どおり同一の美観を実現することに全力を注いでいる点だ。このアプローチは従来のウォッチメイキングで私が見てきたものとは対照的である。そこでは金属3Dプリントは通常、5軸CNCマシンでは不可能な、視覚的に際立った結果を達成するためにのみ使用される。

 以前からスイスのケースサプライヤーや、CNCマシンが並ぶ自社製ケースを製造するメーカーに足を踏み入れたことがある人にとっては、Apple Watchのケース製造の説明はきわめてなじみのあるものだったろう。これは切削加工であり、鍛造金属ブランクから始め、目的の形状が得られるまで材料を削り取ることを意味する。これによってかなりの加工時間がかかり、そしてプロセス中には大量の残材が生じる。

Final Case Product

 しかし3Dプリントは積層造形であり、ケースを層ごとに作成するため、最終形態を実現するのに使用する材料とエネルギーが大幅に少なくなる。『How It's Made(どうやって作られているの?)』という番組を見て育った子供として、Appleが品質を妥協することなく、このプロセスをどのように大規模化したのかを理解したいと思っていた。

 幸いなことに、私はAppleの新しい製造プロセスにおける数年間にわたる取り組みを主導しているふたりの人物と話す機会を得た。プロダクトデザイン担当バイスプレジデントであるケイト・バージェロン(Kate Bergeron)氏と、環境およびサプライチェーンイノベーション担当バイスプレジデントであるサラ・チャンドラー(Sarah Chandler)氏。今回、彼らが舞台裏を覗かせてくれた。


製造プロセス

 大まかに言えば、Appleのチタンケースは確立されたLaser Powder Bed Fusion(レーザー粉末床溶融結合)方式を使用して3Dプリントされている。もしあなたの3Dプリントへの唯一の経験が、ノズルをとおしてプラスチックフィラメントを加熱する家庭用マシンであるならば、Laser Powder Bed Fusion方式のプロセスはまったく異なることがわかるだろう。

3D Printing Layers

このプロセスには20時間のプリントで900層以上が必要で、その後、最終的な機械加工と仕上げの工程が続く。

 まず100%リサイクルされたチタンから始め、それを微粉末に霧化する。3Dプリントプロセスでは、焼結レーザーからの熱にさらされると粉末状のチタンが爆発性を帯びる可能性があるため、グレード23チタンに見られるような低酸素含有量がきわめて重要だ。

 私たちの多くは、時計に見られるグレード5チタン合金(6%のアルミニウムと4%のバナジウムを混合)になじみがあるかもしれない。グレード23チタンは同じ組成だが低酸素含有量を提供し、ほかにもいくつかのわずかな違いがある。ブランパンはグレード23ケースを備えたチタン製時計を提供しており、マイクロブランドのラヴェンチュールも今年、マリーン タイプ3 クロノメーターをグレード23ケースでリリースした。このように、その使用は時計業界では前代未聞ではない。

 特に100%リサイクルされている場合、グレード23チタンの調達は容易ではない。Appleの製造規模ゆえ、リサイクル金属は複数の外部サプライヤーから調達する必要があるからだ。バージェロン氏は、同社がアルミニウム合金で培った経験に基づいたプロセスのおかげで、グレード5の生産スクラップとして入ってきたものを低酸素のグレード23相当品に変換できることをこのサプライチェーンを通じて明らかにした。3Dプリントプロセス中に酸素含有量が増加し、ケースの最終的な形状を構成するグレード5チタンになるのだ。

 正しい組成のチタンを粉末状にしたら、60ミクロンの粉末層がビルドプレート上に広げられる。次に6本のレーザーが粉末の層を通過し、事前に決定されたプリントファイルの指定された領域で粉末状のチタンを溶融し融合させて固体にする。その層が完了するとビルドプレートは1層の深さだけ下に移動し、新しい粉末層がビルドプレート上に広げられ、レーザーが再び作業を行う準備が整う。これを20時間にわたって900回以上繰り返すと、最終的なApple Watchケースにかなり近いものが得られる。

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 数年前にLaser Powder Bed Fusion方式について初めて知ったとき、オブジェクトが層ごとに立ち上がるのを見るのではなく、構築中にビルド全体が粉末の床に隠れ、材料のなかに沈み込み、すべての層が焼結された後にのみ最終形状が現れるという事実に私はすぐには理解ができなかった。最後には、このあとの粗い粉末を除去する工程だ。ここではプリントされたケースが粉末床から現れ、ほとんどの遊離チタン粉末が真空で除去される。この工程のあとには、より細かい粉末除去プロセスが行われる。ケースのすべての小さな隅々から微量のチタン粉末を除去する必要があるため、これには加圧アルゴンと粉末を振動させて緩める超音波シェーカーが使用される。両方の粉末除去工程で、チタン粉末は将来のプリントのために回収される。

Rough Depowder step

この工程では、完成したプリントがチタン粉末の層から立ち上がる。また、緩んだ粉末も真空で吸い取られ、今後のプリントのために回収される。

Ultrasonic shaker

微細な粉末を取り除く工程では超音波シェーカーを使用し、ケースから残った粉塵をすべて除去する。

Case separation stage

薄いダイヤモンドを埋め込んだワイヤーがケースをビルドプレートから分離。各パーツはその後、自動検査に送られる。

 薄いダイヤモンドが埋め込まれたワイヤーがケースをビルドプレートから分離し、その後、各パーツは自動検査に送られる。ケースはビルドプレート上で直立した状態で斜めにプリントされ、各ケースはその隅のひとつに立っており、プリント自体の一部であるサポートベースを介して取り付けられている。ダイヤモンドワイヤーソーがケースをベースから切断するために使用され、最終的にApple Watchケースの素材が得られる。しかしプロセスはここで終わらない。各ケースにはトレーサビリティのためのバーコードがマーキングされ、コンピューター化されたシステムが、各ケースの寸法と外観が品質管理基準を満たしていることを検証する。

 これらの工程が完了するとケースは3Dプリントサプライヤーを離れ、以前の鍛造されたApple Watchケースがこれらの工程で行っていたのと同様に、CNC機械加工と仕上げに特化した従来のエンクロージャ製造現場に移動する。この最終工程で3Dプリントされたケースが粒状の表面から過去の例と同じサンドブラスト加工、または研磨された状態に仕上げられる。完全に研磨されたSeries 11ケースの場合、各ケースは熱間等方圧加圧法(Hot Isostatic Pressing)される。これは大まかに言えばケースの細孔を密閉し、最終的な研磨のために表面を準備するものだ。


その影響

 このような重要な取り組みにもかかわらず、これらの変更は着用者には実質的に感知できず、その製造の特異性が見えにくくなっている。ケースは外側からは同一に見えるが、バージェロン氏は新しい3Dプリント構造が従来のCNC機械加工では達成できなかった構造的特徴を組み込んでいることを指摘する。「ご想像のとおり、選択した製造技術によってある程度制限されます」と彼女は私に語り、「アンテナウィンドウを成形し、機械加工ではできなかったいくつかの追加の特徴を金属に加えることで、水密構造を確保できます」と述べる。

 しかしより広範な文脈を考慮すると、最も重要な意味合いがいくつか浮き彫りになる。「材料を半分にするという事実を過小評価しているかもしれません。これはとても大きな進歩なのです」とチャンドラー氏は私に説明する。「通常、私は5%の材料効率の改善にとても興奮します。だからこれは大きな出来事なのです。 3Dプリント技術が確立されても、リサイクルチタン粉末では実現不可能だと考えられていました。でもなぜ?」と。 バージェロン氏は、Appleの製品開発は究極のチームスポーツのようなもので、ボールがひとつのチームのコートを離れるとほかのチームが集まってそれを解決すると私に語る。デザイナー、エンジニア、そして材料科学者は、製造と運用、そしてほかのチームと緊密に連携してその難題を解かなければならない。そして最終的に彼らはそれを成し遂げたのだ。

Laser sintering on powder bed
Sparks on laser engraver

 確かに、従来的な時計ブランドがリサイクル金属のケースを宣伝しても、生産量が比較的少ないため実際の環境への影響がごくわずかであることから、いわゆるグリーンウォッシュに対する倦怠感が生じているように見受けられる。しかし対照的にAppleは、はるかに大きな規模で運営しており、リサイクル金属が効率的な3Dプリントプロセスと組み合わさると、これらの数字は実際に意味を持つ。今年だけでもAppleは新しいプロセスへの切り替えにより、400MT(メトリック・トン)以上の原料チタンが節約されると推定している。これはいい結果と言えるだろう。

 私が最も興味を持っているのは、この変化が最終的にデザインにどのようにフィードバックされるかという点だ。Series 11は未だに、2014年の初代Apple Watchの視覚的なDNAの多くを受け継いでいるが、完全にスケールアップした新しい製造プロセスはその形式を考える上ではるかに多くの自由を開くだろう。その自由は予期せぬ発見への道を開き、スイスの人々にとっても注目に値するアイデアになるかもしれない。ケースの内部がより創造的にエンジニアリングされ、伝統的な時計メーカーがこの次世代のプロセスを採用するにつれて、機械式ムーブメントのデザインがどのように進化するのか。そう考えずにはいられない。

 編注;Laser Powder Bed Fusion方式を実行中に酸素が追加された結果、最終的に得られるものがグレード5チタンと見なされることを記すために記事を更新。

 詳しくはこちらをご覧ください。

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