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In-Depth ヴァシュロン・コンスタンタン ラ・ケットゥ・デュ・タン(時の探求)オートマトン搭載クロックを徹底取材

ヴァシュロンのこれまでで最も意欲的な共同プロジェクトのひとつをさらに詳しく掘り下げる。


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Photos by TanTan Wang

去る6月、私は初めてヴァシュロン・コンスタンタンを訪れるため、ジュネーブへ飛んだ。これまでにもプレス向けのこうしたイベントに何度も参加してきたが、今回は様子が異なっていた。何を期待してよいのか、まったくわからなかったのだ。通常、マニュファクチュール訪問はふたつのタイプに分けられる。時計製造の作業を見るための工房見学か、あるいは多くの事前資料と共に新作のプレビューが行われるかだ。しかし今回は、この旅の手配を手伝ってくれたヴァシュロンのニューヨークチームでさえ、何が待ち受けているのかを知らなかった。そのとき私は何か尋常ではないことが起こっているのだと悟った。ブランドはすでに今年のWatches & Wondersで世界で最も複雑な腕時計、レ・キャビノティエ・ソラリア・ウルトラ・グランドコンプリケーションを発表していた。ではほかに何がこれほどの機密性を必要とするのだろうか? 明らかにヴァシュロンは、通常のビジネスの枠を遥かに超えた何かを我々に見せようと準備していたのだ。

Vacheron Manufacture Window View

ヴァシュロン本社からの眺め。ただし、このプロジェクトが行われた場所ではない。

 このプロジェクトはきわめて機密性が高く、ヴァシュロンのプラン・レ・ワットにある本社から数分離れた、リシュモンの姉妹ブランドであるピアジェの施設内に秘密裏に保管されていた。私たちが到着したとき、建物のブラインドは完全に閉じられていた。内部はほぼ真っ暗で、数名の業界関係者の顔ぶれがそろい待っていた。ヴァシュロンのクリスチャン・セルモニ(Christian Selmoni)氏の存在は予想していたが、ヴァシュロンのプロダクトマーケティング・アンド・イノベーションディレクターであるサンドリン・ドンガイ(Sandrine Donguy)氏とクロックメーカーであるレペ(L’Epée 1839)のCEOを務めるアルノー・ニコラ(Arnaud Nicolas)氏と共に、スイスのオートマタの巨匠フランソワ・ジュノー(François Junod)氏がいたことには驚いた。

 その時、私は悟った。我々が見ようとしているものが、腕時計ではないということを。チームからのひと言のあとドアが開くと、まるで映画『パルプ・フィクション』の光るブリーフケースのように光が一気に部屋にあふれ出し、私は言葉を失った。

Vacheron Clock with Collaborators

左からアルノー・ニコラ氏、サンドリン・ドンガイ氏、クリスチャン・セルモニ氏、そしてフランソワ・ジュノー氏が私たちを出迎えてくれた。

 今ではこれが何であったかは皆も目にしているだろう。ヴァシュロン・コンスタンタンのラ・ケットゥ・デュ・タン(時の探求)オートマトン搭載クロックがパリで正式に発表され、ルーヴル美術館で初めて展示された。しかし数ヵ月前、ジュネーブ郊外の暗い部屋に隠されていたラ・ケットゥ・デュ・タンは、周囲に何もない真っ黒な壁に囲まれて、その1mの高さよりも遥かに威圧的に感じられた。

 ラ・ケットゥ・デュ・タンは厳密にはオートマトンクロックではなく、オートマトンを備えたクロックだ。この場合、クロックが主要な機構として機能し、オートマトンはクロックに連結された二次的な機能として働く。言葉の定義はさておき、ラ・ケットゥ・デュ・タン(時の探求)オートマトン搭載クロックは開発に7年を要し、6293個の機械部品で構成されている。そのうち2370個がクロック本体に属し、外装には1000以上の部品が装飾と構造に使用されており、デザインと構想をアレクシア・ステウヌー(Alexia Steunou)氏が主導した。そしてもちろん、このような機械がその構想を正当化する特許なしで完成するだろうか? ここでは、時計製造に関してが7つ、そしてオートマトンに関して8つの特許が取得されている。


天文時計
Astronomical Clock Face

 ラ・ケットゥ・デュ・タンの頂上に鎮座する堂々とした人物像に辿り着く前に、まず天文時計について語る必要がある。その機構とケーシングには、協力者であるレペ(L’Épée)が基礎的な貢献をしている。オンラインで、または実際に目の前で見るかにかかわらず、写真やビデオが伝えるように、この圧倒的な創造物を正しく理解するには、到底容易なことではない。その理由の一部は物理的なものであり、ふんだんに使用された石のセッティングと鏡面仕上げを施したロッククリスタルによるものだ。そのデザインからして、視認性はここでは優先事項ではないようだ。

 ラ・ケットゥ・デュ・タンを理解する最良の出発点はその最も基本的な要素、つまり時間の表現方法にある。ヴァシュロンの時計製造と、この記念碑的なクロックを結びつける共通のモチーフはレトログラード機構の多用である。時刻スケールはダイヤルの円周にわたって半分に分けられ、左側はローマ数字が時を、右側はアラビア数字が分を示している。浮遊するゴールドの矢印ポインターはそれぞれのスケールの端まで徐々に上昇し、端に達するとポインターは即座に始まりの位置に戻る。

Numeral Tracks for Minutes

分針側に配置された、現在時刻を示すレトログラード針。

Power Reserve - Left

ダブルレトログラード・パワーリザーブ表示。

Power Reserve - Right
Sunrise/Sunset

 レトログラード機構に加えて、驚くべきダブルレトログラード・パワーリザーブインジケーターが、ラピスラズリとムーンストーンのセグメントに設定されている。左のスケールはエンプティから始まり、浮遊するポインターが7日半まで上昇する。その後、右のポインターが右のスケールを上昇し始め、パワーリザーブは全容量の15日間まで達し、パワーリザーブが減少するにつれてその動きは逆方向に戻っていく。パワーリザーブインジケーターの下には、面取りされたロッククリスタルのふたつの小さな曲線トラックがあり、青焼きされたレトログラード針に結びついている。左側は日の出時刻(4:00から9:00)、右側は日の入り時刻(16:00から21:00)を示している。

 レトログラード機構以外にも、クロックの前面にはまだ多くの要素がある。頂上に鎮座する巨大なサイクロプススタイルの拡大鏡を見逃すことはできない。これはヴァシュロンの機械的な勇敢さを映し出す文字どおりのレンズだ。その下には特大のトゥールビヨンが鎮座し、その18.8mmのテンプが28mmのマルタ十字型のケージに収められている。よく見るとこのピースの視覚的な密度のなかで、サイクロプスのフレームがヴァシュロンのマルタ十字モチーフでエングレービングされ、前面がバゲットカット・ダイヤモンドのリングで囲まれていることに気づくだろう。

Oversized Tourbillon with Maltese Cross Cage

巨大なトゥールビヨンが、その下に配されたパーペチュアルカレンダーを見下ろすように鎮座している。

Side of Tourbillon Frame
Sunset

 ダイヤルの下半分には、ポインターリング付きの24時間スケールを囲むように2番目のバゲットカット・ダイヤモンドのリングがレイアウトされており、クロック全体のダイヤモンドの総数は100個に達する。中央には、目を見張るような手彫りの太陽と月のアップリケが、手作業で異なる縞模様と曲線をギヨシェ加工したサンレイディスクの上にセットされ、アートワークに命を吹き込んでいる。この太陽のアップリケはロールス・ロイスのホイールキャップのように、ボールベアリング付きの24時間ディスクにセットされ、底部に向かって重りが付けられているため、完全に正対した状態を保つ。これは、リングポインターが物理的にサンレイとギヨシェ加工を施したディスクに接続されており、ディスクが1日を通して回転するからだ。そのためポインターとそれに接続されたディスクが回転しても、太陽と月の面は完璧に静止しているのだ。

Sun Moon Applique

 前面の大部分はパーペチュアルカレンダーによって占められており、月、曜日、うるう年ディスクは再びロッククリスタルでつくられ、小窓はゴールドで縁取られている。現在の日付は手彫りのゴールドの太陽によって縁取られ、下部のトラックを移動し、毎月の初めにレトログラード機構で再びリセットされる。確かにこれはあまり読みやすいとは言えない。そしてこのようなクロックのなかでは、この途方もないパーペチュアルカレンダーが最も平凡なものだと感じられるかもしれない。

 裏側では、天文時計の天文部分が機能する。ダイヤルは北半球の天球儀を現しており、星座とその位置をリアルタイムで追跡する。これは23時間56分4秒の恒星日も追跡する。これは、地球が太陽ではなく星に対して1回転するのにかかる時間を参照しているため、通常の24時間より約4分短い。このダイヤルを囲むのは一連の同心円状のリングで、ホワイトグラン・フー エナメルで月と季節のトラックを、そして手彫りでゴールドの12星座シンボルを施している。ダブルレトログラード・パワーリザーブインジケーターを確認するためにクロックの前面に戻るのが面倒な場合でも、単一のレトログラード・パワーリザーブインジケーターが青い針によって示され、天球儀の大部分を占めるブルーカラーとのバランスを保つようにダイヤルの上部にセットされている。

Back of the clock

裏側のダイヤルは、バゲットカットのムーンストーンで縁取られている。

Hand Engraved Sun
Lion Engraving

 クロック最下部にあたる台座との境目にはラピスラズリでできた2段の台座があり、さまざまなカボションカットの天然石で表現された惑星と、マザーオブパールの象嵌で英語表記されたその名称によって太陽系を描き出している。これはそれ自体がアートピースである。これらすべての表面のディテールを見るには、下のギャラリーをスクロールして欲しい。

さらに詳しくはギャラリーをスクロールしてご覧いただきたい。

木星にはクレイジーレースアゲートが用いられている。

星々はバイカラーのマザー・オブ・パールで表現されている。

 総計2000点を超える部品構成に加え、大規模な手仕上げが随所に施され、さらに23の複雑機構を備えたCal.9270により、ヴァシュロンとレペ(L’Épée)はここでメカニカル分野における腕前を存分に披露している。この時計を常軌を逸した存在たらしめている要素の多くは、おなじみの時計技術を巧みに再構築したその実現方法にある。コンセプトに同じくらい、あるいはそれ以上の研究開発を要する隠された革新を私たちに見せてくれる。ここでは、その隠された革新の多くがユーザーエクスペリエンスに向けられており、ふたつの特許が時刻設定とコンプリケーションの修正のためのセキュリティデバイスをカバーしている。印象的なダブルレトログラード・パワーリザーブインジケーターにはふたつの特許が与えられている。ひとつはスプリット機構自体に、もうひとつはこの機構を天文表示側にある単一の統合されたパワーリザーブへと連動させる同軸駆動システムに関するものだ。

Caliber 9270

ラ・ケットゥ・デュ・タン側から見たCal.9270。


オートマトン
Automaton standing still with larger picture

 フランソワ・ジュノー(François Junod)氏は、機械仕掛けの天才だ。ジュネーブからヘリコプターでひとっ飛びのサント・クロワに拠点を置くスイスのオートマタ職人であるジュノー氏は、成人してからの人生を機械仕掛けのフィギュアや彫刻の製作に費やしてきた。彼は、伝統に深く根ざしながらも、今日ではきわめてニッチな芸術形式を実行できる人がほとんどいないという、彼自身が認める消えゆく芸術に全身全霊を注いでいる。ヴァシュロンとの彼の関係は20年前にさかのぼり、マニュファクチュールの250周年を記念したクロック、レスプリ・デ・キャビノティエ(L'Espirit des Cabinotiers)の共同制作、2015年のメティエ・ダール アルカというクロック、そしてその2年後のメティエ・ダール・コペルニクス・スフェール・セレスト(Metiers d'Art Copernicus Celestial Spheres)ウォッチがある。

 今回の共同制作をとおして、ジュノー氏は自身の工芸に最新技術を取り入れることを決してためらわなかった。彼が協力してきた数多くのブランドにおける革新の多くは、現代の素材と製造技術のおかげだ。ラ・ケットゥ・デュ・タンでの彼の仕事において、現代のオートマタのアイデアはこれ以上ないほど強力だ。ジュノー氏との会話のなかで彼は、このようなクロックは20年前でさえ製作不可能だったと認めている。伝統的な技術と、コンピュータ支援設計(CAD)や金属3Dプリンティングのような現代的なツールとの組み合わせが、すべてを実現させているのだ。

 8つの特許が、ラ・ケットゥ・デュ・タンのオートマトンデザインにおけるジュノー氏の無限の創造性を示している。これにはオートマトンをクロックにリンクさせる機械的なタイムメモリー、人型フィギュアの動きの流れ、そして複数の平面と方向でジェスチャーを行う能力が含まれる。

Automaton at standstill
Back of Automaton
Leg of automaton

 ラ・ケットゥ・デュ・タンのオートマトンは、ジュノー氏によって彫刻され、ブロンズで鋳造されたアストロノマー(天文学者)と呼ばれる人物の形をとり、クロックの頂上に立っている。その胴体は手彫りされ、その後、星座のグラフィック描写を強調するために酸を用いたエッチングが施されている。最後に天空の主要な星々を表すために、132個のブリリアントカット・ダイヤモンドが、フィギュアの胴体にグレインセッティングされている。

 アストロノマーは、直径40cmの巨大なガラスドーム内にセットされている。ここでも北半球の天球の描写が登場するが、ドーム上では、ヴァシュロンの創業日である1755年9月17日の、星座配置に基づいて位置づけられている。ジュネーブ天文台の(実際の)天文学者との協力により決定されたこの天球は、完全にフリーハンドで描かれており、ヴァシュロンは機械加工や下書きとなるデザインがないことを堂々と強調している。十分に複雑さが伝わっているだろうか? では、全体がドームの内側に描かれているという事実についてはどうだろう。つまりアーティストはすべての星座を反転させて、逆さまに描いたのだ。この文脈を考えると、3週間の描画期間は手際がよいとさえ言えるだろう。

さらに詳しくはギャラリーをスクロールしてご覧いただきたい。

 手動で、または24時間先までプログラムされて機構が作動すると、メタロフォン(鉄琴)とワウワウチューブを介して、ベースから一連のチャイムが発せられる。そしてクロックの頂上にいるアストロノマーが目を覚まし、まるで長い眠りから覚めたかのように周囲を見下ろして見回し始める。しかしその後、彼は永遠に結びつけられる運命にあるピースを認識し始める。まず彼は月とそのトラックを指差し、29.5日ごとに前部の弧を横切る、さらに小さなオートマトン(これについては後述する)を見るように促す。

 最初のアニメーションの直後、新しいメロディが流れ、アストロノマーはサファイアの巨大な地球儀とその天体図を指差す。最初は右腕、次に左腕が動き、頭と胴体もこれらのジェスチャーに合わせて動く。それが終了するとアストロノマーは中立の立ち位置に戻り、3番目で最も複雑な動作プログラムの準備を整える。

Automaton Raised Hands

時間を指し示している。

 最後のアニメーションは、まさにショーの目玉だ。音楽と共にアストロノマーは最後の目覚めを迎え、動き回り、そして最終的に腕を上げ、フィギュアの隣にあるふたつの対向する時刻トラック、ひとつは時、もうひとつは分を指差す。これらのトラックは、焼結チタン粉末(これらのトラックが3Dプリントされたチタンであることを表すおしゃれな言い方だ)でつくられ、数字は金箔で装飾されている。

 これだけでも十分に印象的だが、時刻トラックをよく見ると、時・分表示が実際には完全にランダムな順序で設定されていることがわかる。一見すると、これはオートマトンの技術力を誇示しつつ、ジュノー氏をさらに苦労させるクリエイティブな演出のように思えるかもしれない。しかし実際には、驚くほど重要な意味を持っている。それはクロックが1時間のあいだに何度も再生されたとしても、オートマトンの最後のジェスチャーが毎回大きく異なるものになることを保証しているのだ。この“いかなるコストと努力を惜しまない”という精神こそが、ラ・ケットゥ・デュ・タンを真に輝かせている。

Left hour track
Right minutes track
Base of the clock

オートマトン機構が収められている土台部分の内部をのぞこう。

 ラ・ケットゥ・デュ・タン(時の探求)オートマトン搭載クロックを実際に目にすると、まず印象的なのは、これほど長い動作プログラムに必要な複雑な部品が、クロックの残りの部分にすべて収まっていることだ。しかもフィギュア自体も、その機構からきわめて遠く離れているのだ。その動きをこれほど高い位置に伝えるため、ジュノー氏は機構自体にタングステンケーブルを使用するという方法を考案した。古い芸術形式でありながら完全に現代的なこの発明は、作り手の真髄を感じさせる。

  これほど長い動作プログラムを(比較的)コンパクトなスペースに収めることができるのは、多くのオートマタではまったく異例のことだ。この創造物では、ジュノー氏はリボルバーのシリンダーからインスピレーションを得て、組み合わされた3つの動作プログラムと158個のカムのために新しい見事なシステムを考案した。ベースのクリスタルパネルを通して見ると、このリボルバーは3つの独立したムーブメントプログラムをひとつのコンパクトな機構内に収めている。基本的にこれは遊星歯車システムで連結された3つのシリンダー(円筒)で、各シリンダーはそれぞれが独自に回転するカム列を持っている。そしてそれらのカムが機械的フォロワーと接触し、その回転を直線運動へと変換している。その動作プログラムが終了すると、遊星歯車システムは終了したシリンダーを回転させて外に出し、次のシリンダーをフォロワーと接触させる。通常の動作中は隠されているにもかかわらず、リボルバーシステム全体、そしてそれ自体がショーのように感じられる。私はこの機構だけでも何時間も見ていられるだろう。

Cams on followers
wah wah tubes
gearing on bottom of mechanism
Planetary gearing

カムの3つの動作を切り替えるリボルバー機構を駆動する、プラネタリーギアシステム。

 ラ・ケットゥ・デュ・タンにおけるレトログラード機構の最も壮大な表現は、ガラスドームの底部のカーブに沿った半円形のトラックに配置された、3次元のレトログラード式ムーンフェイズにある。アプライドされたゴールドの数字は、ムーンフェイズがその周期を一巡する29.5日の周期を示している。ガラスのなかに収められた月は、明るいゴールドと深いブルーの半球に分かれており、月齢の変化に合わせてその透明なシェルの内部で回転し、ひと月を通じて満ち欠けの様子を描き出す。これはアストロノマーのオートマトンだけでなく、天文時計とも機械的に連動しており、個別に時刻を調整する必要がない。それだけでなく、中空の月の内部には独自の香箱とゼンマイが組み込まれており、月が曲線状の軌道を29.5日かけて進むあいだに自動的に巻き上げられる。そして軌道の終点に達すると蓄えられたエネルギーが解放され、月は再び出発点へとジャンプして戻る。そしてもちろん、これもきちんと特許が取得されている。

Moon on track
moonphase day track
Moon track behind

270年の機械的創造性

 ヴァシュロン・コンスタンタンは、270周年を記念してまさに全力を尽くしており、ラ・ケットゥ・デュ・タン(時の探求)はその祝典の完璧な集大成のように感じられる。さらに注目すべきは、このクロックが今年のブランドの唯一の目玉ではないことだ。ソラリアだけでもこのような節目を記念するには十分すぎるほどだったろう。

Automaton Dome

 私にとって、このすべてにおいて最もエキサイティングな側面はヴァシュロンと、フランソワ・ジュノー氏との長年にわたるパートナーシップだ。このようなコラボレーションはジュノー氏の並外れたクラフトマンシップに焦点を当てるだけでなく、次世代のためにそれを保存するのにも役立っている。ジュネーブでのジュノー氏とセルモニ氏との会話のなかで、私は、このようなプロジェクトが若い時計師たちにこの芸術形式を探求するインスピレーションを与えており、一部はジュノー氏自身のアトリエにまで辿り着いていることを知った。“現代のオートマタ”という言葉は矛盾しているように聞こえるかもしれないが、このプロジェクトはまだこれほど多くの発見が残されていることを証明している。

 ラ・ケットゥ・デュ・タン(時の探求)オートマトン搭載クロックというマキシマリスト的な機械芸術の熱狂的な夢のなかで、ヴァシュロン・コンスタンタンはその過去を称えるだけでなく、協力者と共に時計製造の未来への航路を描くことに成功した。見事な成果である。