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Photos by TanTan Wang
昨年、Apple Watch10周年という大きな節目を迎えたことを受け、今年はスティーブ・ジョブズ・シアター(Steve Jobs Theater)のステージ上で、予想どおり小規模なアップデートが発表された。
今回の新作はあまりにマイナーな変更にとどまっているため、Series 11とUltra 3は、初めて新しいチップを搭載せず、昨年導入されたS10チップを継続して採用している。もはや毎年のように革新的な進化を期待できる時代ではない。とはいえ、今回の最新モデルは、古い機種からの買い替えを検討しているユーザーに対し、現行で最もアップデートされた選択肢を提供するものとなっている。昨年のSeries 10でケースデザインが大きく刷新されたことを踏まえれば、その新たなデザイン言語が数年は継続されるのは自然な流れであろう。
クパチーノから戻ったばかりの今、発表されたばかりの新たなApple Watch Series 11、Ultra 3、そして新しいSE 3を数日間使用する機会を得たので、以下にその所感を記しておきたい。
Apple Watch Series 11
Series 11は外観においてSeries 10とまったく同じだが、今回は内部バッテリーが再設計されたことにより、ケースサイズを変えることなく、バッテリー駆動時間が24時間に延長されている。この新しいケースデザインの方向性には大いに共感している。とくに大幅に薄くなったことで、全体のプロポーションがこれまで以上にエレガントになっているからだ。手首が細い私にとっても、この“46mm”という大きめのケース径はかなり快適にフィットし、ラグ幅の内側にきれいに収まってくれる。確かにミラネーゼループのように、一般的なラグ接続方式を採用したブレスレットでは若干全長が伸びるものの、クラシックなスポーツバンド(お気に入りのマーク・ニューソンによるアイクポッド/Ikepod風のクラスプが特徴的な)などは、これまでどおり比較的コンパクトな装着感を保っている。
ビルドクオリティは、Appleが従来の時計業界に対して依然として大きな優位性を持つ分野だ。特に全面ポリッシュ仕上げのチタンケースにおける滑らかなカーブや、鋭い機械加工の痕跡が一切見られないフィット感と仕上げは、この価格帯では群を抜く完成度を誇る。これに関連して、このあいだ行われた基調講演で私の興味を強く引いたのは、きわめて目立たない発表内容であった。
見過ごされがちな、しかしきわめて興味深い発表として、Appleはすべて(Series 11とUltra 3も)の新たなチタンケースを、再生チタン素材を用いて完全に3Dプリントで製造していることを明かした。これは正直、かなり衝撃的である。確かに、3Dプリント製造のチタン製ウォッチというものはこれまでにも存在してきた。私の記憶では、ホルセンリックス(Holthinrichs)やアピア(Apiar)といったマイクロブランドが、このアディティブ・マニュファクチャリング技術を積極的に試みている例として思い浮かぶ。それらに共通して言えるのは、3Dプリントという手法は通常、芸術性を追求する目的で使われることが多いということだ。たとえば層状のラインをあえてデザインとして取り入れたり、複雑すぎてCNC加工では不可能なケース構造を実現したりといったアプローチ。そのため、大抵の場合はそれが3Dプリント製であることはひと目でわかる。プリントラインの層が見えていたり、未仕上げの部分があったりすることで、すぐに判別がつく。新しい手段で新しい結果を得るスタイルなのだ。
新しいフローダイヤルは、手首の動きに反応するリアクティブな仕様となっており、新たなリキッドグラスデザインを採用している(この点については後ほど詳しく述べる)。
しかし今回Appleが行ったのは、新しい手段で同じ結果を得るというアプローチだ。これは大量生産規模における素材使用量の削減を通じて、同社のサステナビリティ目標と収益性の両面に貢献するものだ。実際、Appleによれば、この新しい製造プロセスではひとつのケースに必要なチタンの原材料が従来の半分で済むという。製法こそ刷新されているが、3Dプリントによってつくられたチタンケースは、従来のスタンピングおよび精密切削によって作られたケースと見た目がまったく変わらない。
個人的に最も印象的だったのは、このテクノロジーがすでに十分に洗練され、効率的であるため、世界で最も売れている製品のひとつに採用されるに至ったという事実である。そしてそれはApple Watchの未来にとどまらず、時計業界全体にとってもきわめて大きな意味を持つかもしれない。
WatchOS 26による主な進化点
毎年のことながら、AppleはApple Watchを、日常生活においてますます欠かせない存在として位置づけており、その中核を成すのが健康志向の機能群である。今年は新たにふたつのヘルスケア関連機能が加わった。ひとつは高血圧の通知、もうひとつは新しいスリープスコアである。昨年導入された睡眠時無呼吸の検出機能と同様に、高血圧の通知機能は、正式な診断を受けていないまま日常生活を送っている可能性のある数百万もの人々に、注意を促すことを目的としている。
Appleは、高血圧の可能性を知らせる通知は医師による正式な診断を受けるべききっかけにすぎず、Apple Watchはあくまでその最初の1歩であるという点を明確にしている。この機能は睡眠時無呼吸の検出と同様に、30日間のデータセットに基づいて作動するようである。今後、長期的にテストして自分の状態を確認するつもりだ。このようなアップデートで特に評価すべきなのは、このアップデートが最新モデルのApple Watchに限定されていないという点である。対応チップと第3世代の光学式心拍センサーを搭載していれば、Series 9以降のモデルとUltra 2(以降のモデル)で利用可能、ただしSE 3は対象外だ。
もうひとつの追加機能は新しいスリープスコアだ。これは正直なところ、目新しさを感じるような機能ではない。というのも、健康管理に特化したほかのトラッカー製品市場には、すでにスリープスコアを活用してユーザーに睡眠習慣の改善を促す“ゲーミフィケーション”の仕組みを備えた製品が数多く存在しているからだ。とはいえ、ようやくこの機能がApple Watchに搭載され、実際に使用してみたところ、既存の睡眠トラッキングデータをうまく要約してくれる、わかりやすい指標として機能していた。
最後に触れておきたいのがダイヤルだ。Appleは毎回、伝統的な時計製造へのオマージュを込めた遊び心あるダイヤルを用意しており、今回新たに追加されたイグザクトグラフダイヤルはまさにその好例といえる。Appleはこれがレギュレーターダイヤルから着想を得ていることを強調しており、画面をタップするとレイアウトが切り替わり、秒や分といったトラックが拡大表示され、より精密な視認が可能になる仕組みだ。また、新ダイヤルであるフローは、溶岩ランプを思わせるデザインで、昨年のギヨシェ模様に着想を得たリフレクションダイヤルと同様に、インタラクティブな要素を備えている。これらは決して革新的とはいえないかもしれないが、純粋に楽しく、時計愛好家として見ていてうれしくなるような、まさにイースターエッグ的な演出だ。
いくつかのカラースキームにおいて、各トラックの色分けが対応する針と連動している点は、実に巧みなデザインディテールだ。
イグザクトグラフダイヤルをタップすると、レイアウトが切り替わり、経過する秒をより明確に視認できる表示が現れる。
ダイヤルをもう1度タップすると、分のトラックも拡大表示される。
Apple Watch Ultra 3
今年、ついにApple Watch Ultra 3が登場した。昨年がApple Watchの10周年だったこともあり、注目はクラシックデザインのアップデートに集中していた。そのため、Ultra 2には新たな外装仕上げのみが追加されるにとどまっていた。
現在では3Dプリントによって成形されたチタン製のUltra 3は、外寸こそUltra 2とまったく同一であり、ナチュラルチタニウムと、DLCブラックチタニウムという仕上げも継続されている。しかし、いくつかのハードウェア改良によって性能が引き上げられ、Series 11とUltra 3のあいだにはもはや明確な違いは感じられなくなった。まず特筆すべきは、バッテリー駆動時間が36時間から42時間へと延長された点だ。私のUltra 2でも数日間の連続使用に困ったことは1度もなかったが、それでもバッテリー持ちは長いに越したことはない。
Ultra向けの新ダイヤル、ウェイポイントは、コンパス機能を活用して、たとえば駐車中のクルマの方向といった関連情報を表示してくれる。
外観上の最大の変化は、広視野角のOLEDを備えた新型LTPO3ディスプレイの搭載である。これは昨年のSeries 10において、静かだが確かな進化を感じさせた要素でもあった。実用面で言えば、視野角の大幅な改善と、低消費電力性能の向上が得られている。たとえば、Ultra 2では常時表示モード時の情報更新が1分に1回であったが、新しいディスプレイ技術により、より省電力な1分間隔の更新が可能となり、秒針のような動きのある表示を常時表示することができるようになった。Ultraのデザイン言語において、この広い視野角というのはきわめて効果的であり、特に大きなサファイアクリスタルを備えるUltraの構造においては、その恩恵はなおさら大きい。昨年、自分はついにこの大きくてタフなデザインに踏み切り、Ultra 2を購入したのだが、この新しいディスプレイだけでUltra 3への買い替えを真剣に検討する理由になり得る。正直、この技術は昨年の時点でUltraに搭載されていてもおかしくなかったが、遅れての進化であっても、遅きに失するよりはましだ。
Series 11と同様に、Ultra 3ではセルラー通信が5Gに対応したことで、iPhoneに依存せずApple Watch単体で使いやすくなった。通信速度の向上は、音楽やポッドキャストのストリーミング体験をさらに快適にする。しかし、Ultraが最終的にターゲットとしている過酷なアウトドアやスポーツ志向のユーザー層にとって、最大の魅力はやはり衛星通信機能の追加であろう。
Apple本社で見たデモでは、助けを求めるメッセージを送信する様子が実演されていた。
質問に回答して緊急サービスにできるだけ正確な情報を伝えることができる一方で、ユーザーが応答しない場合や転倒が検知された場合には、Ultra 3が自動的に緊急サービスへ連絡を行う。
スマートフォンの電波が届かない場所では、アンテナが地球を周回する24基の提携衛星のいずれかと直線上にあれば、メッセージ送信や、探すアプリでの位置情報更新といった基本的な通信が可能となる。しかし山岳や荒野を踏破するような場面では、やはり緊急通報機能こそが最も有用だ。もちろん、自分がテストのために誤通報を行って地元ニュースの見出しになるような真似をする気はなかったが、幸いクパチーノではアップルの製品チームがこの機能を実際にデモンストレーションする様子を見ることができた。事前にクパチーノの緊急通報中継所と連携し、デモ用であることを通知したうえで、実際の運用シーンを再現していた。
Apple Watch SE 3
Apple Watch SEは、長らくApple Watchのエントリーモデルとしての役割を担ってきた。これはふたつの意味を持つ。ひとつは3万7800円からという最も手ごろな価格で提供される選択肢であること。もうひとつは、その代償として常にレギュラーラインより古いハードウェアが搭載されており、その結果としてフラッグシップ級のアップル体験を提供することはなかったという点である。
しかし新たに発表されたSE 3は、興味深いことにその状況を変えつつあり、多くの追加要素によってフラッグシップにぐっと近づいたモデルとなっている。とはいえ、第1印象としては依然としてエントリーモデル、あるいは1世代前のApple Watchといった感触が残る。最も顕著なのはディスプレイで、最大輝度が明らかに抑えられており、さらに従来の大型ベゼルもそのまま残っている(Series 10や11のディスプレイがいかに進化したかを実感させる部分だ)。
S10チップの搭載により、SE 3でも片手でのダブルタップや手首のスナップ操作といったジェスチャーが、スマートスタックなどの要素に対応するようになった。
興味深いことに、SE 3にはS10チップが搭載されており、これでApple Watchの3ラインすべてが同じチップを共有することになった。SE 3には常時表示ディスプレイも備わったが、採用されているのは旧式のLTPOディスプレイで、低電力時の更新速度は遅く、視野角も狭い。その一方で、5Gセルラー通信、急速充電、そして(ついに)スピーカーからのオーディオ再生に対応している。さらに新しいヘルスケア機能として、皮膚温センサー、排卵日の推定、睡眠時無呼吸の通知が追加された。ただし心拍センサーが旧式のままであるため心電図アプリや、高血圧検出には対応していない。
こうした追加要素を考えると、SE 3はフィットネストラッキングやスリープトラッキング専用での利用を想定するユーザーにとって、価格を抑えながら機械式時計のコレクションを補完する魅力的な選択肢となりうるだろう。SEシリーズをそのように捉えるコレクターがいるのかどうか、かなり興味深いところである。しかし大規模なコレクションを所有しているなら、より洗練された装着体験を得るために多少の追加出費をしてでもSeries 11を選びたくなる気持ちも理解できる。
価格やスペックの詳細についてはIntroducing記事、またはAppleの公式サイトから。
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