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スイスの小村、ヴィルレで迎えた涼しくも晴れたある9月の朝。19世紀に建てられた低い造りの建物のなかでは、およそ20人の熟練した職人たち(装飾職人、仕上げ職人、エンジニア、そして時計師)が黙々と作業を続けている。彼らが年間に生み出す時計は1000本にも満たないが、1858年の創業以来この地に息づくマニュファクチュール、ミネルバの伝統を今も守り続けている。
規模は小さいがその仕事ぶりは一貫して緻密で、丹念に、そしてじっくりと進められている。ある部屋では、在籍20年以上のベテラン職人が、自社製のヒゲゼンマイをすべて手作業で成形、調整、組み立てをしている。数十年前の工具を用い、2.5ヘルツ(1万8000振動/時)という正確な振動を刻むよう仕上げていくのだ。1本のヒゲゼンマイを完成させるのに丸半日を要し、そのゼンマイはアトリエの時計師たちが組み上げる時計に搭載される。そしてミネルバは、いまなお自社でヒゲゼンマイを製造する数少ないスイスブランドのひとつである。
ヒゲゼンマイの調整。
ミネルバは、スイスの高級筆記具メーカーとして知られるドイツ発のブランド、モンブランのスイス時計製造部門の一翼を担っており、そのモンブランはスイスの高級品コングロマリットであるリシュモンの傘下にある。モンブランは近隣のル・ロックルにもマニュファクチュールを構え、より大規模な時計生産を行っているが、ミネルバはモンブランの名を冠しながらも、手仕上げと手組み立てによるスイス製高級時計(オートオルロジュリー)を手がける存在である。ブランドのなかでは、まさに時計製造におけるヘイロー(聖域)として位置づけられている。
「私たちはほかとは違う存在でありたいのです」と語るのは、モンブランのタイムピース部門でグローバル・マネージング・ディレクターを務めるローラン・レカン(Laurent Lecamp)氏だ。ミネルバが社内、そしてスイス時計業界全体のなかで担う役割について、彼はそう説明する。
モンブランで時計、筆記具、アクセサリー部門を統括するグローバル・マネージング・ディレクターのローラン・レカン氏。
ミネルバはスイスウォッチメイキングの歴史において長らく中心的な役割を担ってきた、豊かな伝統を誇る名門ブランドである。創業当初はムーブメントや部品を供給するメーカーとして出発し、1887年に“ミネルバ”(知恵・芸術・手工芸・戦のローマ神に由来)の名と商標を登録。その後、100分の1秒単位の計測を可能にする高精度なクロノグラフを開発することで名声を確立し、1936年にドイツ・ガルミッシュで開催された冬季オリンピックでは公式計時を担当した。
依然としてクロノグラフは、ミネルバにおける中心的な柱であり続けている。ローラン・レカン氏のもとでブランドは、貴金属製ベゼルを操作して作動させるという新しいタイプのクロノグラフムーブメントを開発して発表した。いわばプッシャーを持たないモノプッシャークロノグラフのようなものだ。さらにミネルバでは、複雑な機構部品とクロノグラフの調速機構を文字盤側に配し、着用者がその動きを視認できるようにしたインバーテッド(反転)またはリバースクロノグラフムーブメントも製造している。
ミネルバはムーブメント製造における卓越した技術力も示しており、とりわけトゥールビヨンの分野で高い評価を得ている。なかでもエグゾトゥールビヨンは、テンプをトゥールビヨンケージの外側かつ上部に配置した独自構造を特徴としている。
ミネルバに在籍する20名の従業員のうち、8名は時計師である。レカン氏によれば、同ブランドでは創業以来製造してきたすべての時計の修理とメンテナンスに対応するという約束がアトリエを忙しくさせていると言う。さらに、ミネルバのハイエンドモデルを購入した顧客は、自身の時計のムーブメントを実際に製作・組み立てた時計師本人と直接会話し、質問することもできる。こうしたパーソナルで特別な体験があるからこそ、レカン氏はミネルバのオーナーたちを顧客ではなくファンと呼ぶ。
それはメカニズムだけにとどまらない。仕上げと装飾を担うアトリエでは、熟練の職人たちがムーブメントにジュネーブストライプ、鏡面仕上げ、ペルラージュ、アングラージュといった装飾を施している。ブリッジにはジャーマンシルバーが用いられることも多く、その素材の上に丹念な仕上げが加えられていく。
我々が今回アトリエを訪れた際、ブリッジやローターをホッケーパックに固定して仕上げ技術を実演してくれた職人は、ミネルバに勤めて15年以上になるという。1日の仕事を終えると、彼女はすぐ近くの自宅兼農場に戻り、乳牛をはじめとする動物たちの世話をするのだと話してくれた。
レカン氏指揮のもと、ミネルバは高級時計業界で進む、パッケージやボックス素材の簡素化という潮流に逆らう存在となっている。大型で凝った作りのボックスを縮小するどころか、むしろその方向に踏み込んでいるのだ。限定生産の特別モデルには、スイスやヨーロッパで製作された、精緻な木工仕上げや彫刻を施した1点物、あるいは極めて限定的なボックスが付属する。こうしたボックスは、クローゼットの奥にしまい込むためのものではなく、むしろ飾って楽しむためにデザインされている。
「私たちはあのボックスを、会話のきっかけになる存在にしたいのです」と、レカン氏は語る。
ヴェルサイユ ウォッチはユニークなパッケージに収められており、それ自体がオルゴールとしても機能する。
ミネルバが培ってきた独自のサヴォアフェール、ムーブメント構造、そしてメティエ・ダールの粋が結実した限定タイムピースが、ついに披露された。その名もモンブラン スターレガシー サスペンデッド エグゾ トゥールビヨン シャトー ドゥ ヴェルサイユ リミテッド エディション - 8。これはあらゆる要素を兼ね備えている。
この時計は、フランスの名城ヴェルサイユ宮殿の歴史のなかでも、特に異彩を放つ一幕を語るという野心的なプロジェクトである。物語の舞台となるのは1745年、ルイ15世の息子の結婚を祝して開かれた華やかな夜会だ。しかしこの晩が人々の記憶に残ったのは、祝宴そのものではなく、国王自身の装いにあった。彼と側近たちは巨大なイチイの木に扮して現れ、その奇抜な仮装のまま客人たちと交流したというのである。伝えられるところによれば、この姿がきっかけで国王は、のちにポンパドゥール夫人として知られる魅惑的なデティオール夫人と親しくなり、彼女はまもなく国王の公妾となった。
この時計はわずか8本のみの生産で、文字盤、ケース、裏蓋、そしてムーブメントに至るまで、すべて手作業による装飾が施されている。これらの意匠によって描かれるのは、当時の地元紙が“イチイの木の舞踏会(Yew Tree Ball)”と呼んだあの夜、そしてその舞台となったヴェルサイユ宮殿の名高い鏡の間で繰り広げられた物語である。
この時計は、讃えていた舞踏会そのもののように、細部へのこだわりに満ちている。18Kゴールド製の文字盤ベースには、エナメル装飾やマイクロペインティング、大理石やオーク材のインレイといった伝統技法が用いられている。これらは、サファイアクリスタルや真鍮に3Dレーザーエッチングで描かれた舞踏会の登場人物や輝くシャンデリアの表現と融合し、当時の華やかな光景を生き生きと再現している。
18Kゴールド製ケースのベゼルには、勝利の象徴として手彫りの月桂冠があしらわれている。ミドルケースにも手彫りの装飾が施されており、そこにはフランソワ・ルモワーヌ(François Lemoyne)の絵画(ルイ15世がヨーロッパ諸国にオリーブの枝を差し出す場面)が再現されている。さらにシースルーバックから見えるムーブメントブリッジや輪列は、ジュネーブストライプ、ペルラージュ、サーキュラーグレイン、ポリッシュ仕上げ、そして内角の面取りといった装飾を含め、すべて手作業で仕上げられている。
そして最後に触れておきたいのが、このユニークな時計体験を完成させるモンブランらしい特別仕様のボックスとパッケージだ。モンブラン スターレガシー サスペンデッド エグゾ トゥールビヨン シャトー ドゥ ヴェルサイユ リミテッド エディション - 8の価格は4148万5400円(参考価格)で、ボックスはパリの高級家具職人エリー・ブルーによって製作。内部にはスイスのリュージュ社製のオルゴールが組み込まれており、1745年にヴェルサイユで王太子の結婚を祝して披露された楽曲、ジャン=フィリップ・ラモー作曲ヴォルテール作詞によるメロディが奏でられる。
ミネルバのムーブメントと仕上げの技術力がなければ、モンブランはオートオルロジュリーの世界で真に特別な存在として競い合うことは難しいだろう。だが、ヴィルレのアトリエで1世紀以上にわたり培われてきた遺産と蓄積された知識があるからこそ、モンブランはヴェルサイユ ウォッチのように、ほかに類を見ない個性を求める目の肥えたコレクターたちの心を引きつける唯一無二のタイムピースを生み出すことができるのだ。
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