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本稿は2016年4月に執筆された本国版の翻訳です。
いわゆるセイコーのダイバーズウォッチ、“タートル”は、1970年代半ばから1980年代半ばにかけて製造された有名なクッションケースの6306/9ダイバーズウォッチの新たな大型バージョンだ。今年の初めに発売され、我々は2月下旬に手に入れた。私は長年セイコーファンであり、その時計は私にとっても、ほかの多くの人にとっても素晴らしいものに見えた。ただどの時計にも言えることだが、ある種のアイデアが好きであることと、その時計と何日も何週間も、何カ月も、ともに過ごせるのは別のことだし、ときにはまったく異なることもある。時計を買う前に数週間後、数カ月後にどう感じるかを知っておきたいと思うのは誰もが思うことだろう。セイコーのダイバーズウォッチは、本当に一緒に過ごせるポテンシャルを持っているはず。では、タートルと一緒に毎日を過ごすとどうなるのだろうか?
長期間のハンズオンのためには、シリコンストラップで提供されるSRP777(日本国内の型式はSBDY015)とは対照的に、SRP775のほうがいい選択だと思った。SRP775は文字盤、ベゼル、針にゴールドのアクセントが施され、やや凝った装飾となっている。SBDY015のほうが落ち着いた印象だ。後者のパレットは大部分が白と黒だが、曜日に少しだけ色が入っている。もちろん、周囲の反射によって拾ったものもあるだろう。さらにSRP775のブレスレットが装着性の面でどれだけ長く使えるかを見るのもおもしろいと思った。
2月以来、この時計をブレスレットにつけたり外したりして、ときには1週間途切れることなくつけたこともあった(レビューのための着用時間を確保するため、ほかの時計は外していた)。SRP775とSBDY015を最初に手にしたときの印象は、とても前向きなものだった。見た目もよく、とてもしっかりしていてヘビーユースにも耐えられる時計だと思っていたし、その印象は今でも変わらない。SBDY015のシリコンストラップは、間違いなく素晴らしいものだ。唯一の問題は、ステンレスのキーパーのアイデアはいいと思うのだが、手首に少し食い込むことがあることか(ラバー製はしばらく使うと切れてしまう)。
ひとつ確かなのは、このブレスレットは何よりもまず強度を重視してつくられているということだ。しっかりとしたエンドリンクがあり、クラスプは洗練されてはいないものの、ブレスレット全体と同様、非常に丈夫そうだ。私は手首が7インチ(約17.8cm)で納品されたままだとかなり長く、リンクをいくつか外さなければならなかった(リンクはピンとスプリットワッシャーで固定されており、自分で調整するのは少々難しいだろう。可能であれば販売店に依頼することをおすすめする。特に難しいことではないが、カーペットの上で作業するときや、適切な道具を使わずに作業をしてしまったことで小さなワッシャーを失ってしまうと、間違いなく予期せぬいらだちが起こる)。ブレスレットのリンクはいざというとき、ブレスレットのサイズが合えば交換用ストラップに使えそうな感じで、その重量にもかかわらずつけ心地はかなりいい。ありがたいことに、安価な時計のブレスレットにありがちなガタつきや毛の巻き込みはない。去年の2月からSRP775を着用しているほとんどの期間でブレスレットをつけていたが、十分な機能性を備えていると実感した。ただ重いのは間違いないし、SRP775の44mmというケースと相まって、手首に装着するとその重さがより際立つ。
日常的に時計を身につけるときにはふたつの疑問がある。ひとつ目はその時計自体に満足しているかどうかで、その時計がどれだけ長く心を捉えて離さないかだ。
最初の点では、SRP775は本当に優れていると感じる。一般的に逆回転防止ベゼルを持つダイバーズウォッチはほかの一般的なカテゴリーの時計よりも、ほとんどの実生活の場面で満足のいく、あるいはそれ以上の性能を発揮する可能性が高いと思っていた。時折、あるいはそれ以上のラフな使用にも耐えられるようにつくられていて、あらゆるクラスの時計のなかで本当にしっかりしていて見栄えがよく、手頃な価格のものを見つけるのが最も簡単なのだ。そして経過時間ベゼルは、現実世界で発生するほぼすべてのタイミングの問題に対処できる(私のSRP775では、数えきれないほど洗濯物のタイミングを計っている)。ちなみにベゼルの位置合わせの問題については、初期の段階でいくつかの苦情があった。しかし我々のタートルはどちらも、この点で問題の兆候を示さなかった。ベゼルはわずかに硬いものの滑らかに回転してくれ、私のものは文字盤の全周に渡ってカチカチと歯留めに当たっていた。チューダー ブラックベイのベゼルのような正確な感触はないが、チューダーほどの価格を支払っているわけではないからいい。
ふたつ目の点は、SRP775をつけていたとき、何週間か経つにつれて恋しくなった時計がいくつか出てきたことだ。多くの人がそうであるように、私自身も時計をローテーションする習慣がある。ただし総合的に見てSRP775は、ほかの時計の選択肢があったとしても、また時計にかなりの時間を費やしたとしても、99%の時間において十分だと思う以上に心から満足できるものである。
つまりSRP775は、その機能性とデザインで、どんなものにも対応できるという充足テストに合格しているのだ。さらに言うと使いやすさのテストにも合格している。多用途で機能性も十分、クールな要素も十分に備えているため、手首から外してほかのものを身につけたくなることはあまりない。しかしセイコーダイバーズウォッチを買おうとしている人が疑問に思うのは次のようなものだろう。人気が高く、伝説的なモデルであるSKX007のような、まだ高価ではないクラシックエントリーモデルではなく、なぜこの新しいクッションケース付きのプロスペックスダイバーズウォッチを買うのかということだ。
個人的な話になるが、私が初めて手にした機械式時計はセイコー5で、2番目に手にした機械式時計は偽物のセイコーSKX007だった(悲しいかな、なぜわざわざSKX007の偽物をつくる必要があったのかは、今でも謎である)。しかし、私が手にした3本目の機械式時計は本物のSKX007であり、その安さ、頑丈さ、そしてフィールドで長期間使用された歴史などが(実際カラシニコフ“銃”のような実用性を持ち、あらゆる装飾を完全に排除し、信じられないほどの乱用に耐える能力)、私史上最も好きな時計のひとつになった。しかし私がいつも見逃していたのは、ムーブメントの手巻き機能とストップセコンド機能だった。
しかし、私はSRP775をずっと安心して身につけられることに気づいた。というのも数日後に手に取った際、針が停止していたとしても実際には香箱をフルで巻き、(ストップセコンド機能のおかげで)時報をセットすれば、そのまま生活を続けることができるからだ。確かに手巻き機構がないのは、良質なエントリーレベルのセイコーのトレードマークのようなものであり、それ自体が致命的な欠陥ではない(結局のところジャガー・ルクルトのフューチャーマティックも手巻きにはできなかった)。しかし手巻きをするかしないかの選択を迫られたら、私は毎回手巻きを選ぶだろう。
ほかにもいくつかポイントがある。SRP775の秒針は一見すると短すぎるように感じたが、数週間後にSKX007の秒針と比較したら長さはまったく同じで、さらに見返し(インナーリング)の端までの距離も両モデルまったく同じだった。また、秒針が夜光部分を通過する位置もほとんど同じであった。秒針が少し短いという印象を受けたのは、何よりもSRP775のケース径が大きい(44mm径)ことによるものだと思う。ちなみにケースサイズと言えば、不思議なことにSRP775は007より大きくなかった。おそらく、クッションケースが手首にすっきりと収まるからだろう。
もうひとつのポイントは、ブレスレットをストラップに付け替えたい場合(おそらく、いつかバラエティに富ませるためにそうしたくなるだろう)、ドリルドラグ(ストラップ交換のあるべき姿として)のおかげで楽しく簡単に交換できることだろう。ここでSRP775のゴールドアクセントが本領を発揮する。ゴールドカラーを拾う色のストラップを選ぶと、とてもスタイリッシュな仕上がりになるとお伝えしておこう。
なお夜光を得意とするセイコーのいつもの熱意(いいことだ)で塗布された夜光は、強烈な輝きを放つことにも注意しなければならない。
最後のポイントは精度である。495ドル(当時の相場で約5万4000円)の自動巻きダイバーズウォッチにどの程度の精度を期待できるのか、あるいは期待すべきなのか。何年も前であれば、007やセイコー5との誤差が10秒以下であれば満足していた。最近の記憶では、経験則に基づく精度レポートを解釈することの危険性と落とし穴について議論をしたが、このSRP775は1日に、ちょうど2秒ズレていることに気づいた。計時測定器にかけていない限り、1日の誤差がごくわずかであることに満足している。私の着用習慣は非常に規則正しいため(毎日約14~16時間デイリーユースし、夜にはナイトスタンドで眠り、いつもは長距離の散歩を2、3回している)、精度がそれほど変わらないのはそれほど驚くことではない。いずれは遅れ気味ではなく少し進むように調整するかもしれない。もちろん本当に興味深いのは、このムーブメントを搭載したモデルの全体的な精度の安定性について、複数のサンプルでどれだけ一貫した性能を発揮できるか、より明らかにすることである。小話はともかく、500ドル以下の腕時計がマリンクロノメーターのような精度を提供してくれるのは、うれしい驚きだ。
SRP775を初めて巻いてから3カ月ほど経過したが、ほとんどのシーンで、つけるのが楽しくて仕方なかった。495ドルでこれ以上に多くのものを提供できる時計はほかにないだろうし、この価格帯のダイバーズウォッチのほとんどは、おそらくブラックタートルとゴールドタートルと同等のものを提供するのは難しいだろう。さまざまな理由から、毎日自然と腕につけてしまうような時計のひとつであり、44mm(ただ数字から予想するよりも小ぶりに着用できる)のケースさえ何とかすれば、私が長いあいだ見てきたバリュー・プロポジションのなかでも、最高のひとつと言えるだろう。
セイコー プロスペックス SRP775およびSRP777(日本国内の型番はSBDY015)。200m防水、44.3mm径×14mm厚のステンレススティール製クッションケース、ルミブライトの針とマーカー。セイコー製Cal.4R36、自動巻き(手巻き機能付き)、ストップセコンド、24石、2万1600振動/時。SRP775はブレスレット、SBDY015はシリコンラバーストラップ。価格はSRP775は495ドル(当時の相場で約5万4000円)、SBDY015は475ドル(当時の相場で約5万2000円)。