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マティアス・ブレシャン氏がCEOに就任して以来、ロンジンは以前にも増して、その豊かな歴史にフォーカスしたコレクションに注力している印象を受ける。先日リリースされたロンジン ウルトラ-クロンのように、オリジナルの忠実な再現を試みたモデルもあるが、スピリット Zulu Timeのように、同社がかつて世界に先駆けて世に送り出した時計にヒントを得ているものの、あくまでも現代的なまったく新しいコレクションもある。そういった点からいうと、このたびロンジン マスターコレクションに加わった190周年記念モデルは、そのどちらでもない、何とも不思議な魅力を持った時計だと感じている。
190周年記念モデルは、過去に製作されたアーカイブモデルにインスピレーションを得ているものの、特定のモデルを直接復刻したものではない。ロンジンによれば、本機はいくつかの懐中時計やヘリテージウォッチが持っていたディテールをデザインの源泉にしているといい、エングレービングで表現されたアラビア数字インデックスが最大の特徴だ。前述したとおり、モチーフとなったアーカイブモデルが存在しているため、エングレービングによるアラビア数字インデックスを持った時計は本機が初の試みというわけではないが、その存在は極めて珍しい。今回、筆者が知る日本屈指のロンジンコレクターを訪ねてリサーチを実施したのだが、インスピレーションの源泉となったアーカイブモデルに出合うことは叶わなかった。
なぜ190周年記念モデルとしてエングレービングで表現されたアラビア数字インデックスを持つ時計が選ばれたのか? 正直に言うと、筆者は本機の資料を目にした当初、その魅力を理解できなかった。確かにインデックスのエングレービングは珍しいかもしれないが、デザインとしてはマスターコレクションでよく見られるアラビア数字インデックスダイヤルのシンプルな3針時計だ。付け加えるなら、本機は日付表示すらない。ブランドの190周年という重要なメモリアルイヤーを祝うモデルとしては、とても地味に感じられたのだ。だが、実際に時計に触れ、腕に乗せてみることで、資料だけでは読み取れなかった魅力の一端を掴むことができた。
時計単体で見ると、小ぶりな印象を受ける本機だが、実際は40mmとそこそこの大きさがある。あまり大きさを感じさせないのは、クラシックなデザインの時計でありながらケースが意外と肉厚であること、そしてダイヤル外周にドットインデックスをあしらった幅のある見返しインナーリングを備えていることが影響している。そのため、相対的にダイヤルが小さく見えるのである。そしてこのケース、見返しインナーリング、そしてダイヤルの絶妙なサイズバランスは、この時計にふたつの利点をもたらした。
ひとつは、ややもすれば地味になりがちなシンプルな時計に程よい存在感、ボリューム感を与えている点である。かつて製造していたクラシックな懐中時計が原型ということもあり、スーツやジャケットのようなシックなスタイルにはもちろんマッチするが、この程よい存在感、ボリューム感があるおかげでドレッシーな印象は薄く、カジュアルな装いでもつけやすい。筆者は普段カーゴパンツにミリタリーシャツのように、かなりラフなスタイルでいることが多いのだが、そうした格好でもつけられる時計だと感じた。
そしてもうひとつは、男性だけでなく女性でも違和感なくつけられるという点だ。これは本当に意外だった。今では、細腕の女性でも大ぶりな時計をつけて楽しむことが当たり前のように受け入れられているが、それでも40mmの時計というのは、女性がつけるサイズとしてはかなり大きい。しかし相対的に小ぶりに見えるダイヤルが、40mmとそこそこの大きさがあるにもかかわらず、それほど時計の大きさを感じさせないのだ。そのため、女性の華奢な手首に合わせても、時計だけが悪目立ちすることがない。これが見返しインナーリングなどもなく、ベゼルの薄いケースに目一杯ダイヤルを広げた古典的なスタイルだったなら、時計が存在感を強く主張してしまい、きっと女性がつけるのは難しかったのではないかと思う。
先述したとおり、本機の最大の見どころはダイヤルにある。どのように作られるのか。ロンジンから得られた情報をもとに簡単に説明をしよう。まずはプレーンな状態の金属板に表面加工が施される。ステンレススティールモデルはサンドブラスト仕上げだが、18KYGモデルは縦に筋目を入れたバーティカルブラッシュド仕上げ、そして18KRGモデルは細かな粒を散らしたようなグレイン仕上げを採用している。そしてアラビア数字インデックスだ。手で彫ったような深く力強い印象だが、これは手彫りではなく、CNCを用いた機械加工によるものだ。機械加工と聞くと、簡単でスピーディに加工されるように思われるかもしれないが、ロンジンによると、このインデックスの加工には1枚あたり何と約80分もの時間を要するという。そしてインデックス加工のあとで着色やプリント加工が行われ、最後に見返しインナーリングをアッセンブリし、完了となる。実に手間のかかる工程なのだ。なお、合わせるブルーの針は青焼きのブルースティールによるものだ。
過去の懐中時計などにモチーフを得たクラシックなデザインでありながらも、本機は決して単に古典的で地味な時計という雰囲気は感じさせない。これはボリュームのあるケースによるところもあると思うが、こうした機械加工によって手仕事の温かみというよりも、マシンメイドらしい現代的で洗練された印象に整えられているからではないだろうか?
さて、細かな部分も見ていこう。本機はシースルーバック仕様になっているが、搭載するのはCal.888.5である。これはETAのエボーシュをベースとしたエクスクルーシブムーブメントで、Cal.888.5ではヒゲゼンマイを耐磁性を持つシリコン製にアップデートしたことで約72時間パワーリザーブを実現した。これはシリコンの比重が小さく軽いことから、少ないエネルギーで動かすことができるため。また、歯車などの部品を支える軸受けなどに使われている潤滑油は酸化によって劣化していくが、シリコン製パーツを採用によってその使用が最小限に抑えられる。ムーブメントに対する自信の表れだろうか、Cal.888.5には5年保証が与えられている。
そして、ストラップ。一見すると、特筆すべき点はなさそうだが、190周年記念モデルのアリゲーターストラップには、バローロ仕上げのストラップが採用されている。バローロ仕上げとは、クロム金属を使用する一般的なクロムなめしとは異なる“植物タンニンなめし”といわれる伝統的な手法のことで、クロムなめしよりもソフトな手触りに仕上げることができるという。実際、何度もストラップの着脱を試してみたが、短時間で手首になじみフィットした。ちなみにバローロ仕上げのストラップは経年変化によって、革に独特の艶が出るという点も特徴であるらしい。
本機はロンジンが説明するように、過去に製作された懐中時計など、アーカイブモデルにインスピレーションを得ている。だが、それは決して単に歴史を回顧するという性格の時計ではない。現代の機械加工技術を駆使した仕上げ、そして近年ロンジンが推し進めているシリコン製ヒゲゼンマイを搭載した現代的なムーブメントの採用など、今のロンジンが持つ技術がしっかりと盛り込まれた時計だ。しかも、SSモデルは限定ではなく、30万円台というプライスで入手が可能なのだ。190周年記念モデルは、パイオニアとして新しい時代を切り開いてきたロンジンのチャレンジ精神が詰まった、まさにアニバーサリーを祝うにふさわしい時計だと筆者は思う。
基本情報
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル(Longines master collection 190th anniversary edition)
型番: L2.793.4.73.2(ステンレススティール)、L2.793.6.73.2(18Kイエローゴールド)、L2.793.8.73.2(18Kローズゴールド)
直径: 40mm
厚さ: 9.35mm
ケース素材: SS(L2.793.4.73.2)、18KYG(L2.793.6.73.2)、18KRG(L2.793.8.73.2)
文字盤色: サンドブラストシルバーカラー(SS)、バーティカルブラッシュドグレー(18KYG)、グレイン加工ダークグレー(18KRG)
インデックス: アラビア数字エングレービング
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: ソフトタッチのダークグレーアリゲーターストラップ、トリプルセーフティフォールディングクラスプ、ワンプッシュ開閉システム
ムーブメント情報
キャリバー: L888.5
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 25.6mm
厚さ: 3.85mm
パワーリザーブ: 最大72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200 振動/時
石数: 21
クロノメーター認定: なし
価格 & 発売時期
価格: SS(L2.793.4.73.2)は31万3500円、18KYG(L2.793.6.73.2)、18KRG(L2.793.8.73.2)は各157万7400円。すべて税込価格。
限定: SS(L2.793.4.73.2)はレギュラーモデル。18KYG(L2.793.6.73.2)、18KRG(L2.793.8.73.2)はシリアルナンバーが入り各世界限定190本。
詳細は、ロンジン公式サイトをクリック。