Photos by James Stacey
先週、時計業界の多くがジュネーブ・ウォッチ・デイズに注目していたなか、チューダーは新作ペラゴス 39を発表した。42mm径のプロ仕様のダイバーズウォッチとして知られる同ブランドの進化版ともいえるペラゴス 39は、兄弟モデルよりも小さく、薄く、そしてシンプルに仕上げられている。そして、これらの調整は、読者、そして世界中のコレクターのあいだで大きな反響を呼ぶに十分値するものだった。
2012年のデビュー以来、ペラゴスは常に妥協のない現代的なダイバーズウォッチとして一線を画してきた。この新たな進化は、多くの人が待ち詫びたチューダーとなるのだろうか?
過去10年間、より多くの購買層、特に時計愛好家層が、より小型の時計を求めるようになった。少なくとも、毎日身につけやすい時計が求められているのだ。つまり、サイズが大きすぎず、厚すぎず、そしてラグからラグまでが長すぎないということだ。ヴィンテージウォッチに影響を受けた現代のコレクターは、過去の小径モデルに近いサイズの時計への関心を高めている。パネライの45mm全盛期は過去のものとなり、40〜43mm(前後)のモデルが台頭してきているのは、こうしたトレンドの表れである。
41mmのブラックベイ、42mmのチタン製ペラゴスに熱狂した人も多いだろう。その結果、チューダー独自のシードゥエラーが誕生した。それもロレックスとは似ても似つかない外観で。総チタン、総マット仕上げ、派手な夜光、一流の品質を誇るベゼル、ヘリウムエスケープバルブ、500m防水、そしてあの隠し芸的な自動調整クラスプを備えている。
以前にも書いたが、ペラゴスはグラム単位、スペック単位で見ても、世界最高のダイバーズウォッチだということに疑いの余地はない。特に実際にダイビングをするのであれば、なおのことである。2015年にメキシコのダイビングに使用するなど、ペラゴスの複数のモデルと数え切れないほどの時間を過ごしてきた僕が言うのだから間違いない。
しかし、実際のところ、オフロードカーがオフロードよりも人気があるように、ダイバーズウォッチはダイビングよりもはるかに人気があるのが実情だ。ダイビングをするダイバーズウォッチのオーナーはほとんどいないし、従来のダイビングコンピューターのバックアップとして腕時計を着用するダイバーはさらに少ない。人々は、決して必要としない用途のためのスペックを重視してダイバーズウォッチを購入するのだ。非常にざっくりとした捉え方になってしまうが、現代のダイバーズウォッチの時代性を俯瞰すると、それは美的選択の象徴であるといえるだろう。コンバースのチャックテイラー(スニーカー)よりもレッドウィング社のアイアンレンジャー(ブーツ)を好むようなものかもしれない。
そういう意味で、ペラゴスはダイバーズウォッチという大きな枠のなかでは、ブラックベイのような、より広いマーケットで時流に乗ったアピールができるモデルと比較して、サイズ、価格、スペックなどにおいて、いつも少しニッチ過ぎたのだ。考えてみてほしい。ロレックスのダイバーズウォッチに、サブマリーナー、シードゥエラーがそれぞれ何種類あるというのだろう?
個人的には、ブルーのペラゴスほど迷いが多いと感じた時計はない。ルックス、夜光、ハードコアなスペック、チタン製の外装、そしてクラスプ…そのすべてが気に入っている。しかし、つけてみると、僕の手首にはちょっと大きすぎるのだ。もし、ペラゴスのような時計にお金を出すなら、毎日ずっとつけていたいと思うだろう。また、直径42mm、厚さ14.3mmは、このような高性能ダイバーズウォッチとしては決して大きすぎるとは言えないが、ラグからラグまでの縦幅が50mmでは、僕の手首サイズである7inch(約17.8cm)には長すぎるのだ。
多くの人がそうであるように、僕もペラゴスの小型化を切望していた。それが、このモデルで叶ったのだ。ペラゴス 39は、ペラゴスの雰囲気をそのままに、圧倒的な人気を誇るブラックベイ フィフティ-エイトの魅力に近づけた、チューダー初の試みといえるだろう。
ペラゴス 39は、ペラゴスの10周年を記念して登場したモデルで、オリジナルのチタンモデルの血統を受け継いでいる。この10年のあいだにペラゴスファミリーは成長し、2015年には自社製ムーブメントとブルーダイヤルバージョン、2016年には左利き用のヴィンテージを彷彿とさせるリファレンス(ペラゴス LHD)、そして2021年には評価が大きく分かれるが非常にクールなペラゴス FXDを経て進化してきたのである。
このシンプルでツールウォッチ的な系譜から、ペラゴス 39は大衆向けに歩み寄る努力をした最初の進化であることがわかる。過去のモデルには、視認性を重視したデザイン言語、絶妙な自動調整ブレスレット、ミリタリーテイスト(FXDのデザインの特殊性を念頭に置いている)の意図などがあり、常に最も完成度の高い有能なダイバーズウォッチを目指してきた。
ペラゴス 39に関しては、チューダーの現在の市場における成功という多面的なプリズムのなかで、この既定路線が屈折していることが見てとれる。ペラゴスの光線が入り、ペラゴス 39が反射したところをトレースすると、元の光線に隣接して、独自の経路で分裂しているのがわかる。
あるいは、クルマに例えるなら、ペラゴスがクラシックな何でもありのディーゼルエンジンを積んだランドローバーのディフェンダー L316だとしたら、ペラゴス 39は新しいディフェンダー L663なのだ。同じような理想から生まれたものでありながら、より現代的で異なる課題解決のために開発されたものだ。ツール性がやや薄れ、特殊性も幾分か薄れながらも、ニッチなオリジナルの敷居を下げたともいえる。
さて、あと800字ほどでペラゴス 39の本題に入ろう。先日のIntroducing記事で述べたように、まずは数字を整理してみよう。ペラゴス 39は、直径39mm、厚さ11.8mm、ラグ幅47mm、重さ107g(ブレスレットはフル駒時)だ。ラグ幅は21mmで、ブレスレットはクラスプのところで16mmにテーパーがかかっている。ヘリウムエスケープバルブはなく、クローズドケースバックを採用し、リューズはねじ込み式で、防水性能は200mだ。
僕自身のも含め、この時計への関心の高さを考えると、ペラゴス 39の体験における所与の条件について明確にしておきたいと思う。僕は、チューダーのサンプルと一緒にオフィスで1時間ほど過ごした。ブレスレットのサイズを測ることも、ラバーストラップをつけて時計を試すこともできなかった。また、チューダーには直接比較できるような標準的なペラゴスの予備機もなかった。申し訳なく思っている。
ペラゴス 39は、チューダーから提供されたレンダリング画像やイメージとは、実際に手に取るとかなり違って見えうる。というのも、光の加減やベゼルへの当たり方によって変わってくるからだ。暗いところや弱い光の下では、ベゼルはサテン仕上げによるザラつきのあるブラックに見え、兄弟モデルのマットなベゼル(下参照)とまったく同じように見える。しかし、太陽光やフラッシュを浴びると、サテン仕上げのベゼルが光を反射し、より明るい色調で、周囲の環境色を反映したベゼルに見える。ペラゴスのまったく新しい表情といえそうだ。
ベゼルのグレーとダイヤルの深いブラックのコントラストが大きく、ベゼルはとてもぼんやりと感じられることがある。暗所では、ペラゴス 39はより黒いペラゴスのように見える。明るいところでは、かなり違った印象になる。セラミックベゼルインサートと光が相互作用する様子はとても気に入っているものの、ペラゴスのスタンダードモデルに共通するマットベゼルのような透明感やストイックさは感じられない。
実際に手にしてみると、少なくとも僕の手首の上では、ペラゴス 39は完璧だ。まさに夢のようだ。ブラックベイ フィフティ-エイトのような装着感だが、かなり軽く、存在感はよりシャープでモダンだ。ベゼルの動きはスムーズで、60回クリックすることでソフトに回転し、僕が試したほかのペラゴスのベゼルに非常によく似た感触を持つ。リューズも、頑丈で操作しやすいペラゴスシリーズを踏襲している。
フル駒でも、ペラゴス 39は軽量だが、ちぐはぐ感や空洞感を感じるほどではない。ベゼル、リューズ、クラスプに至るまで、ペラゴス 39はよくできており、僕たちがペラゴスのシリーズに期待したとおりの品質である。
ベゼルは、針や四角いアワーマーカーと同様、夜光塗料で覆われており、これは僕がペラゴスで常に好きな特徴のひとつだ。ペラゴス 39の夜光塗料の発光を撮影する際、針がマーカーやベゼルの目盛りよりも若干明るくないことが判明したが、これは下の画像で確認できる。
ダイヤルは光を吸収する深い半光沢のブラックで、虹色に近い質感を持つベゼルの仕上げと十分なコントラストを生み出している。赤で表記されたモデル名を含む4行のテキスト表記はバランスがよく、ペラゴス 39はデイト表示を備えていない。審美面においても、このモデルにはまったく新しいデザインのフランジ、つまりダイヤルを囲むインナーリングが採用されている。ペラゴスのスタンダードモデルでは、マーカーを包み込むような立体的なデザインだったが、ペラゴス 39では目盛りを配した、よりオーソドックスな傾斜のあるインナーリングが採用されている。
僕はオリジナルのデザインが好きで、このデザインも捨て難いが、ペラゴス 39のフランジは厚さ12mm以下の時計としては意外なほど、視認性の点でも、ダイヤルと風防の隙間を埋める点でも素晴らしい仕事をしている。写真によってはベゼルマーカーの位置が微妙にずれて見えるほどの深さだ。これは実際に僕が受けた印象でなく、何時間も写真とにらめっこした印象であることを断っておく。
この新しいチタンケースのなかには、2万8800振動/時で時を刻み、70時間のパワーリザーブを持つノンデイトの自動巻きクロノメーター(COSC)ムーブメント、MT5400が収められている。5年保証のMT5400は、チューダーとケニッシ社のパートナーシップから生まれたマニュファクチュールムーブメントのひとつだ。このムーブメントは、非スティール製ブラックベイ フィフティ-エイト(925など)や、チューダーのほかのノンデイトモデルにも採用されているものと同じだ。
ブレスレットも素敵で、片側ねじ込み式のリンク、T-Fit(工具なしで8mm調整可能)と標準のペラゴスのクラスプに採用されているものと非常によく似た25mmのウェットスーツ用エクステンションの両方を備えたフォールドオーバークラスプ(いずれも下図)である。オリジナルモデルの素晴らしい自動調整クラスプに見劣りする? 確かにそうだ。しかし、T-Fitのよさ、快適な微調整のしやすさは損なわれていない。
ペラゴスからペラゴス 39に移行するために妥協した点(HeVを省き、防水深度の低下、自動調整クラスプなし)のうち、唯一僕の手首に著しい違いをもたらすのがクラスプだ。僕は飽和潜水士ではないので、どんな時計でもいちばん深いところでも40mほど潜るだけだが、このクラスプはとてもクールだ。T-Fitも素晴らしく、旧型クラスプがないことは僕にとっては致命的ではないものの、たとえ価格が上がったとしても、それがあれば最高だったと感じるのが正直なところだ。
価格についていえば、ペラゴス 39はブレスレットとラバーストラップ(とラバーダイブエクステンション)を含めて53万7900円(税込)だ。これに対し、標準的なペラゴスは57万6400円(税込)、FXD(ブレスレットなし)は47万4100円(税込)、スティール製のブラックベイ フィフティ-エイト(ブレスレット付き)は46万900円(税込)である。チューダーのラインナップのなかでは、ペラゴス 39は適正な価格設定だと感じるし、市場全体でも、特にチタン製であることから、厳しい競争を強いられるだろう。
ダイバーズウォッチに3000〜5000ドル(約42〜71万円)を費やすなら、チューダーは長いあいだ、このカテゴリーで最も魅力的なモデルを提供してきており、ペラゴス 39はさらにその熱を高めるだけだ。オメガ シーマスター 300Mは、42mm(ペラゴス 39を検討する主な理由のひとつ)であることに加え、スティール製で、ブレスレット付きで74万8000円(税込)からの価格設定である。確かに素晴らしいダイバーズウォッチだが、直接の比較候補になるとは思えないし、最近ではチタンのシーマスター300Mを手に入れるには、さらに多くの金額を支払う必要がある。
オリスは常にチタン製のオプションをいくつか用意しているが、やはり直径43.5mmのアクイスだけとなる。価格は33万6600円(税込)だが、かなりサイズが大きく、審美面でもまったく方向性が異なる。あるいはドイツに赴き、(スペックにより最大)税込57万2000円の美しい41mmのSinn U50を検討することも可能だ。しかし、この時計はスティール製で、ラグからラグまでの縦幅は同じだが、ペラゴス 39より2mm直径が大きい。
ペラゴス 39の主なライバルは、チューダーのほかのモデル、特にフィフティ-エイトのシリーズになると思っている。チューダーの全ダイバーズウォッチシリーズとある程度の期間ともに過ごしてきた僕としてはペラゴス 39を推したいが、フィフティ-エイトやフルスペックのペラゴスを欲しがる人を責めることはできない。
それでも興味があるのは、次のとおりだ。もし、ペラゴス 39を買おうと思っている人がいたら、どの時計を対立候補に据えるのかコメントで教えてほしい。僕としては、ドクサ のSub 300 カーボン ホワイトパール(3990ドル)と、使用感がどことなく似ていて私が所有するブレモンのS302(4495ドル)を候補に挙げたい。あなたの考えを共有してほしい。奇妙であればあるほど大歓迎だ。
結局のところ、僕はペラゴス 39が本当に好きだが、僕が “ペラゴス小型版”に期待したのとは違った形で琴線に触れたことを認めざるを得ない。視覚的効果も異なるし、あらゆる面で小さくなったことで、手首につけたときの印象が大きく変わったからだ。ヴィンテージ風のカラーリングやヴィンテージ特有のデザイン要素(スノーフレーク針を除く)を持たない時計であるにもかかわらず、ベゼルのグレーのハイライト、ブラックダイヤル、そして赤いテキストの組み合わせは、ペラゴス 39がヴィンテージサブマリーナーを現代風にアレンジしたかのように見せている。
そして、それこそがペラゴス 39の最良の捉え方なのかもしれない。単にペラゴスを小さくしたのではなく、現代に蘇ったチューダー サブとして、ブランドの最もモダンで有能なデザインをベースにしているのだ。とはいえ、心の底では、現行のペラゴスの39mmバージョンを作るのがいちばんクールだったような気がしている。 もちろん、HeVはなくてもいいのだが、オリジナルのデザインに忠実なのは確かではないだろうか?
ペラゴス 39は、チューダーのダイバーズウォッチのラインナップに加わった素晴らしいモデルであり、現在のペラゴスのラインナップを強力に補完し、あらゆる種類のダイバーズウォッチファンにさらなる選択肢を提供するものだと僕は考えている。
僕のように、より小型のペラゴスを待ち望んでいた人にとって、新しいペラゴス 39は、日常使いのダイバーズウォッチとして優れたプロポーション、存在感、魅力を備えつつ、予想とは少し異なる方向性を持つモデルである。
詳しくはチューダー公式Webサイトをご覧ください。HODINKEE Shopでは、チューダーの中古腕時計を多数取り揃えています。
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