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Business News モバードがエベルをF.P.ジュルヌとシャネルに売却、かつて隆盛を誇ったスイスブランドの復活を告げる取引

フランソワ-ポール・ジュルヌ氏やフランスの高級ブランドグループであるシャネルを含む買い手コンソーシアムが、エベルの株式95%を6650万ドル(約105億円)で買収した。

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かつてはスイスで最も成功した時計ブランドのひとつで、売上でもトップクラスだったエベルは、モバード・グループの傘下に入ってから比較的知名度を落としていたが、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏やシャネルといった著名な買い手からなるコンソーシアムに売却されることになった。彼らはエベルのブランドを復活させ、かつての栄光を取り戻すことを目指している。

エベルのヴィンテージクロノグラフ。Photo courtesy of Phillips; credit: James Kong.

 モバード・グループは、エベルの株式95%を6650万ドル(約105億円)で売却する拘束力のある契約を締結したと発表した。買収するのは、ジュネーブを拠点とするモントル・ジュルヌSAが主導する戦略的買収グループで、フランスのラグジュアリーメゾンであるシャネルと、時計業界で長年の経験を持つピエール・ジャック(Pierre Jacques)氏も参加する。

 エベルのCEOには、10年以上にわたりドゥ・ベトゥーンのトップを務めたジャック氏が就任する。一方、ニューヨーク証券取引所に株式を上場するモバード・グループは、取引完了後も、2004年にLVMHから取得した同ブランドの株式5%を保有すると声明で述べた。

 今回の契約は、かつて時計愛好家から高く評価されながらも、現在では存在感が薄れたスイスの高級時計ブランドの復活に対する、ビジネス面での関心の高まりを浮き彫りにしている。ブライトリングは、ユニバーサル・ジュネーブのブランドとアーカイブを取得するために6000万スイスフラン(約110億円)を超える金額を投じ、今年初めには同ブランドを高級時計メゾンとして再始動させた。

 エベルもかつて、時計業界の主要ブランドのひとつであった。1970年代から1990年代にかけてのクォーツ危機の時代には、巧みなマーケティングと流行のデザインセンスに長けた、創業家3代目のピエール=アラン・ブリュム(Pierre-Alain Blum)氏のもとで繁栄を遂げた。スポーツクラシックモデルに採用された“ウェーブブレスレット”で最もよく知られるエベルは、スイスの時計メーカー上位5社に名を連ね、自社でクォーツムーブメントと部品を製造していた。当時、カルティエ向けに時計を製造しており、最盛期にはスイスの自社工場に500人以上の従業員を抱えていた。

1980年代にエベルを身に着けるドン・ジョンソン。Photo courtesy of  LuxuryWatches635

 1980年代には、ブランドの知名度が大きく高まった。マイケル・マンが製作したテレビシリーズ『マイアミ・バイス』で、ドン・ジョンソン演じるジェームズ・“ソニー”・クロケット刑事が、ゼニスのエル・プリメロを搭載したエベルのクロノグラフモデル、1911を着用していたのだ。この時計は現在、ネオヴィンテージの名作として知られ、著名なコレクターからも高く評価されている。アルフレッド・パラミコ氏もそのひとりで、2024年にはフィリップスで開催されたエベルをテーマとするオークションを通じて、コレクションの大部分を売却した。

 エベルは1911年に創業し、1994年まで一族による経営が続いた。しかしほかの事業に関連する財務上の圧力を受け、ブリュム氏は同ブランドをバーレーンのプライベートエクイティ投資会社インベストコープに売却した。そして1999年には、LVMHがエベルを買収。これはタグ・ホイヤーやゼニスを含む、時計業界で相次いだ買収の一環だった。ゼニスは、エル・プリメロがロレックスのデイトナモデルに採用される以前、エベルのクロノグラフ向けに自動巻きムーブメントを供給していた。

 ブリュム家による売却後、エベルは複数のオーナーのもとで経営を続けたが、一族のもとで経営されていた時代の販売規模を取り戻すことはできなかった。

2024年にフィリップスで1万7145スイスフラン(当時のレートで約300万円)で落札されたエベル スポーツクラシック クロノグラフ。Image courtesy of Phillips

 新たなオーナーのもとでエベルをどのように展開していくのかについて、企業側や幹部からは詳しい説明はほとんどなかった。オークションや2次流通市場で時計の評価額が急騰しているインディペンデントブランドのF.P.ジュルヌ広報担当者も、プレスリリースで発表された内容以上のコメントは控えた。

 「ミケランジェロをはじめ、その後に続く多くの芸術家たちと同じように、何よりも大切なのは製品、製品、そして製品です。エベルは常に優れた製品を生み出すブランドであり、その次章に友人やパートナーとともに貢献できることをうれしく思います」とフランソワ-ポール・ジュルヌ氏は声明のなかで述べている。

左からフランソワ-ポール・ジュルヌ氏、モバードCEOのエフライム・グリンバーグ(Efraim Grinberg)氏、シャネル 時計&宝飾部門社長のフレデリック・グランジェ(Frédéric Grangié)氏、そして元ドゥ・ベチューンCEOのピエール・ジャック氏。Image Credit: Pierre Jacques' Instagram 

 シャネルはF.P.ジュルヌの株式20%を保有しており、スイスの時計製造業への投資を積極的に進めてきた。ローマン・ゴティエ、MB&F、チューダー傘下のムーブメントメーカーであるケニッシ、ベル&ロス、クロス・スタジオにも出資している。今回、ジュルヌやジャックとともにエベルを買収する動きは、時計業界における存在感をさらに高めようとするフランスのラグジュアリーメゾンの姿勢を示している。シャネル 時計&宝飾部門社長のフレデリック・グランジェ氏は、次のように述べている。


 「エベルは、豊かな歴史と独自のクリエイティブアイデンティティを備え、今後の成長に向けた強固な基盤を持つ、スイス時計製造を代表するブランドのひとつです。今回の投資は、ブランドの長期的な可能性に対する私たちの確信を示すとともに、世代を超えてエベルを形づくってきたクラフツマンシップ、卓越性、そして価値観を守りながら、その発展を支えていくという私たちの決意を表しています」

エベルのワールドタイマー。Image Courtesy Phillips Credit Tim Vaux

 モバードによると、今回の取引では、商標をはじめとする知的財産、在庫、その他エベル事業に主に関連する一部の資産が、モバード・グループの新設スイス子会社に移管される。これらの資産には、建築家ル・コルビュジエが設計したラ・ショー・ド・フォンにある歴史的なモダニズム建築、ヴィラ・トゥルクも含まれる。またモバード・グループでエベル事業を担当している一部の従業員も、新設されるスイス子会社の従業員となる予定だという。

 モバードは、取引の完了時期について「今後数カ月以内」を見込んでいると説明した。取引が完了すると、新設されるエベル子会社の株式95%が買収側のグループに譲渡される。

Hero Image Photo courtesy Antikauktion Krefeld