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ブライトリングのハウス・オブ・ブランズを後ろ盾に復活を遂げたギャレは、大きな期待を集めるとともに、厳しい注目の目にさらされてきた。フライング オフィサーの3針モデルが39万500円、ブライトリング製の手巻きムーブメント Cal.B09を搭載し、ヴィンテージウォッチに着想を得た“クラシックス”モデルが91万8500円(いずれも税込)という価格設定は、ブライトリングのブティックで展開されるブランドとして、かなり攻めたものといえる。
ギャレの復活と価格設定に関する決断は、かつてスイス時計産業が確固たる地位を築きながら、近年ではその多くを失ってきた市場を取り戻そうとする、業界でもっとも注目度が高く、野心的な試みと言える。これまでは、伝統的なスイスブランドが高価格帯へと軸足を移すなかで生まれた空白を、いわゆる“ブティックブランド”やマイクロブランドが埋めてきた。
過去10年で、時計ブランドは価格帯の階段をさらに上り、より高価な時計を、より少ない本数だけ生産するようになった。かつてミッドティア・プレミアム、つまり希望小売価格が約30万から80万円の高級時計市場を支配していたのは、オメガからブライトリング、タグ・ホイヤー、ジャガー・ルクルトに至るスイスブランドだった。タグ・ホイヤーはいまも、ソーラームーブメントを搭載したフォーミュラ1をはじめ、この価格帯の時計を数多く手がけている。しかし開発やマーケティングのリソースの多くは、チタンなどの軽量素材をケースに採用した、従来のクロノグラフをベースとする高価格モデルに注がれている。そのなかには、革新的な機構を備える一方で、493万9000円(税込)と価格も目を疑うほど高額なモナコ エバーグラフも含まれる。
ギャレの新作時計のいくつかは、ブライトリングの一部のモデルで使用されているものと同じスティール製のブレスレットが付属している。Photo Credit: TanTan Wang
「ギャレの価格設定を見ると、主要ブランドの多くが価格をどんどん引き上げてきたことがわかります」と語るのは、英国を拠点とするヴィンテージウォッチディーラーのトビー・サットン(Toby Sutton)氏だ。彼は、ジュネーブを拠点とするデニソンの復活を手がけ、デザイン性を重視した時計をエントリーからミドルレンジの価格帯で展開している。「大手スイス時計ブランドが手放してきた市場はきわめて大きいです。そこに再び参入しようとするブランドが現れたのは、実に興味深いことです」とサットン氏は続ける。
ハウス・オブ・ブランズのCEOであるジョージ・カーン氏は、ブランド復活にあたって冒険や“旅への憧れ”を軸とするブランドイメージをすでに明確に打ち出しているギャレでは、ブライトリングが培ってきた強みや経験、製造に関する知見を生かすことで、ブライトリングがもはや展開していない価格帯で競争し、市場シェアを獲得していくと語る。
ギャレにとって重要なのは、ブライトリングのブランド名と評判を活用することに加え、製造や部品調達における規模の経済を活用できる点だ。ギャレの時計はすべて、ケースバックに“Manufactured By Breitling”の刻印が入り、世界約300店舗を擁するブライトリングの販売網のうち、約半数で取り扱われる。
「ブライトリングなしでは、これを実現することはできませんでした」とカーン氏は言う。「不可能だったでしょう」
ギャレのケースバックには、“Manufactured By Breitling”と刻印されている。
Photo Credit: TanTan Wang
Photo Credit: TanTan Wang
ラフで実用本位なギャレの再始動は、同じくブライトリングのハウス・オブ・ブランズが4月に発表した、ユニバーサル・ジュネーブの高級路線での復活と対照をなす。数多く発表されたユニバーサル・ジュネーブの新作は、デザイン、品質、そしてクラフツマンシップの面で広く称賛されたものの、1万5000ドル(約230万円)を超えるエントリー価格は、高級時計の価格帯をさらに引き上げるという業界の潮流に沿うものだった。かつてミドルレンジのブランドと見なされていたユニバーサル・ジュネーブの愛好家のなかには、こうした価格設定に不満を抱く人もいた。
ハウス・オブ・ブランズがギャレを通じて低価格帯の市場シェアを取り戻そうとしていることに、スイスの時計ブランド、フレデリック・コンスタントCEOのニールス・エガーディン(Niels Eggerding)氏は驚いていない。ギャレよりもさらに手ごろな価格帯で展開する同ブランドは、過去1年間に2桁成長を達成したという。インドやメキシコなど、急成長する経済圏では富裕層が時計により多くの金額を費やす一方、欧州や米国のような成熟した市場では、顧客がコストパフォーマンスを重視する傾向が強まっていると、エガーディン氏は説明する。
エガーディン氏は、日本のシチズンを親会社に持つ強みも生かしながら、ブランドの価格とコストを抑えてきた。スイスと日本のムーブメントメーカーに加え、アルピナ、ブローバ、そしてシチズン自身を含むブランドを傘下に持つグループのネットワークにより、フレデリック・コンスタントはサプライヤーとの交渉でより強い立場に立てる。また同氏によれば、生産量を増やすとともに、製造工程での無駄を削減して効率を高め、コストの低減にも取り組んできたという。
フレデリック・コンスタントの新作ワールドタイマーの価格は88万円(税込)だ。Photo credit: Tim Jeffreys
同時にフレデリック・コンスタントは、ミドルレンジの価格帯を維持してきた数少ない歴史あるスイスブランドと競い合うため、製品の品質や装着感、デザインの向上にも取り組んでいる。その一例が最近アップデートとデザイン刷新を受け、88万円(税込)で販売されているワールドタイマーだ。
一方、スウォッチグループ傘下のロンジンは、ブランドの業績に詳しい関係者によれば、近年の新作発表を通じて米国や英国で注目を集め、売り上げを伸ばしている。最近では65万円を下回る価格のクロノ モノプッシャーや、約80万円のスピリット パイロット フライバックを発表した。
「価格以上の価値を提供したい。この分野では、本当に積極的に攻めていくつもりです」とエガーディン氏は語る。「ロンジンは言うまでもなく巨大企業です。だからこそ、自社ブランドの強みを逆手に取ることでしか対抗できません。その強みとは、価格に見合う価値です」と続けた。
ロンジンの新作クロノ モノプッシャーの小売価格は、61万4900円(税込)だ。Photo Credit: TanTan Wang
スイスの独立系ブランド、オリスは長年この価格帯を牽引してきた。近年、時計業界全体が需要の拡大に苦戦するなか、ヘルシュタインを拠点とする同ブランドは、スター エディションやビッグクラウン ポインターデイト “ブルズアイ”など、価格帯の下限に位置する新作に力を入れている。オリスCEOのロルフ・スチューダー(Rolf Studer)氏によると、両モデルとも約36万円で販売されており、需要が供給を上回る状況が続いているという。スチューダー氏は、スイス時計業界で進む生産量の縮小は長期的に見てブランドの存続を脅かす問題であり、各社はミドルレンジの価格帯で、より優れ、より多くの人に支持される時計を生み出すことでこの危機に対処しなければならないと語る。
「生産量が大幅に減少すれば、この業界にとってそれはきわめて大きな問題となるでしょう」とスチューダー氏は言う。さらに、セリタ(ギャレの多くのモデルにも使用されている)などのサプライヤーが売上と利益率を維持するために、ムーブメントの生産量を減らしつつ価格を上げていることを指摘する。
「誰もが影響を受けています。しかし私たちが社会の手の届かない価格帯に自らを追いやってしまえば、スイス製機械式時計全体にとって、きわめて悪い影響を及ぼすことになるでしょう」と語った。
オリスのCEOによると、同社のビッグクラウン ポインターデイト “ブルズアイ”は需要が供給を上回っているとのことだ。Image credit: TanTan Wang
ハウス・オブ・ブランズはミドルレンジの価格帯への再参入にあたり、休眠状態にあったヘリテージブランドの復活を選んだ。しかし“クラシックス”コレクションを除く製品は、あくまで商業性を重視し、時計愛好家ではなく一般の時計購入者をターゲットとしている。
これらの時計は、グループ規模の経済性を活用することで、高品質なスイス製時計をリーズナブルな価格で提供するという目標を実際に実現している。これは価格に見合う価値を訴えるのに苦労してきた業界と企業にとって、称賛に値する成果と言えるだろう。新ブランドの販売実績は、スイス時計業界がこの価格帯で有力な競争相手であり続けられるのか、それとも歴史あるスイス時計業界にとって、価格、販売数量、カテゴリーのすべてを高級路線へと移行させることが避けられない結末なのかを見極める手がかりとなるだろう。
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