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本稿は2017年4月に執筆された本国版の翻訳です。
近頃目にするウォッチメイキングの歴史の多くは、ヘリテージやその由緒を持ち出して我々の財布の紐を緩めようとする大手ブランドのマーケティングという形で語られている。だが、本物の歴史はいまなお確かに存在している。しかも相当な量だ。そして、それをスイス・ジュラ地方の牧草地を望む建物の最上階、大きな木製キャビネットのなかで目の当たりにしたとき、その光景はただただ圧巻だった。先週、スイス・ヴィルレにあるモンブラン傘下のミネルバ マニュファクチュールを訪れ、驚くべきものをいくつも発見した。
ミネルバに保管されている、数万点ものヴィンテージ部品が収められた巨大な木製キャビネット。
ミネルバの起源は1858年、シャルル・ロベール(Charles Robert)がヴィルレに小さな時計組立工房を創業したことにさかのぼる。この家族経営の工房は発展し、やがてスポーツ用や科学計測用など、あらゆる種類の特殊なストップウォッチやクロノグラフを得意とする著名なムーブメントメーカーとなった。その後、およそ1世紀にわたって家族経営を維持していたが、長年勤めていた社員の一部に売却され、彼らの家族が経営を担い続けた。そして2000年、同社の往年の栄光をよみがえらせることを目指したイタリア人投資家に買収されることとなる。最終的にリシュモンが2006年にミネルバを買収し、翌2007年にモンブランの一部門として統合された。現在に至るまで、ミネルバはモンブランにおけるハイウォッチメイキング部門として位置づけられている。
およそ150年にわたり比較的安定した体制下にあったことで、ミネルバは多くの競合他社よりも優れたアーカイブを維持することができた。というのも、競合のなかには経営が立ち行かなくなり機械や部品を手放したり、あるいは完全に廃業してしまったりしたところも少なくないからだ。そして今、目の前にあるこのキャビネットもまさにそうした歴史の賜物である。高さ約6フィート(約180cm)の木製キャビネットには45の引き出しが並び、マニュファクチュールの最上階にある小さなミュージアム展示の隣に鎮座している。そのなかには、1940年代以前のミネルバ製のオリジナル部品が数万点単位で収められている。
引き出しのなかにはクロノグラフ用のレバーやムーブメントの地板などが収められており、それぞれ小さな袋に入れられ、手書きのラベル(多くが1940年代初頭の日付が記されている)が添えられているものも多い。どの引き出しを開けても、何が現れるか予測がつかないのがまたおもしろい。なかでも特に興味深かったのは、20世紀初頭の数十年間に製造された、腕時計やストップウォッチ、クロノグラフ用のオリジナルのグラン・フー エナメルダイヤルの数々だ。これらのダイヤルは20数段の引き出しにわたって何千枚も保管されており、その大半はいまも当時の茶色い薄紙に包まれたままの状態で眠っている。
デシマル表示のストップウォッチ用ダイヤル。細長い箱のなかに、こうしたものがぎっしりと収められている。
これらのダイヤルは長年にわたり日光を浴びることなく、湿気やその他の外的要因からもしっかり守られてきたため、今なおまったくの無傷で残されている。もし同じものを現代に再現しようとすれば、相当な費用がかかるうえ、この規模で製作を引き受けてくれるサプライヤーを見つけるのも困難だろう。
それではミネルバのアーカイブの一端をご覧いただきたい。どうぞお楽しみください。
グラン・フー エナメルの(時刻表示仕様)ミネルバ製ダイヤル。
“オートライト”のブランド名が施された、きわめて珍しいミネルバ製のレーシングタイマー用ダイヤル。
赤と黒で印字された、ツートンの計時用ダイヤル。
このオリジナルのミネルバ製ダイヤルは、ツートン印字の鮮明さとシャープさに注目して欲しい。
手書きのラベルには、これらの部品が1943年7月のものであることが記されている。
キャビネットに貼られたラベル。この引き出しにもともと保管されていた部品の内容を示す。
キャビネットのラベルや包装からは、長年にわたる製造技術の変遷を読み取ることができる。
引き出しのなかにはあらゆる種類の部品が収められており、ていねいにラベルが付けられているものもあれば、袋にざっくりと入れられただけのものもある。
外周のタイミングリング用の転写印刷プレート。
インダイヤル専用の転写印刷プレート。
5分計用のエナメルダイヤル。秒針は10秒でダイヤルを1周する設計になっていた。
もう1種類のデシマル計時用ダイヤル。各数字に独特のマーキングが施されているのが特徴だ。
このアーカイブに収められているのはダイヤルだけではない。ミネルバの時計に使われる、あらゆる種類の部品がそろっている。
これほど多くのグラン・フー エナメルダイヤルが1ヵ所に集まっているのは、まさに驚異的だ。
本物のウォッチメイキングの歴史は、今なお膨大に存在している。あとはそれを探しに行くだけだ。
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