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Found 世界初のコーアクシャル脱進機が搭載された腕時計(しかもパテック)がロンドン科学博物館にて展示

the Worshipful Company of Clockmaker(時計製造工の名誉組合)のコレクションに収蔵されている、現代のコーアクシャル脱進機を搭載した時計の先駆けを間近で見る。

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本稿は2018年3月に執筆された本国版の翻訳です。

時計愛好家にとって、ロンドンが魅力的な都市である理由のひとつに(というより、数ある魅力のうちのひとつに)、卓越した腕時計やクロックのコレクションを擁する博物館が多く存在する点が挙げられる。長年にわたり、さまざまな理由から旅先でこれらを訪れる機会を逃してきたが、このたびようやく、過去数十年にわたって見逃してきたものを取り戻すことができた。なかでも訪れるべき場所として真っ先に挙げられるのが大英博物館であることには間違いないが、もうひとつ見逃せないのが科学博物館だ。この博物館はケンジントン地区にあるヴィクトリア&アルバート博物館や自然史博物館からもほど近い距離に位置し、ここにおける時計愛好家向けのハイライトはWorshipful Company of Clockmakers(時計製造工の名誉組合)のコレクションを展示するクロックメーカーズ・ミュージアム(Clockmaker's Museum)である。

 Worshipful Company of Clockmakersは1631年に設立され、現在に至るまで現役の組織として存続している。その著名なマスターには故ジョージ・ダニエルズ博士(Dr. George Daniels)や、(『Talking Watches』にも登場した)ロジャー・スミス(Roger Smith)氏が名を連ねている。このクロックメーカーズ・ミュージアムは、ギルド(編注;時計師協会)が1813年から蒐集を始めたもので、現在では約15点のクロック、作業ノートやその他の文書、時計に関するエフェメラ類(編注;チラシ、ポスター、チケット、パンフレットなど)、そして600点を超える懐中時計や時計関連品を所蔵している。正直に言うと、科学博物館を訪れてこの展示を見るまでは、その規模と内容がこれほどまでに広範囲かつ充実しているとはまったく想像していなかった。ヨーロッパ各地の時計博物館で目にしてきたものと比べても、遜色ないどころか、軽く凌駕していると感じた(ただしパテック フィリップ・ミュージアムだけは例外かもしれないが、両者にはそれぞれ明確な持ち味がある)。

1813年のクロックメーカーズ・ミュージアムの様子。このキャビネットには当初の懐中時計および文献のコレクションが収められており、その多くはいまなおこのなかに保管されている。

展示されている時計すべてをじっくり見て回ろうとすれば、本物の愛好家であれば何時間どころか数日を要するだろう。

 所蔵品のなかにはブレゲの懐中時計も数多く含まれているが、その美しさと希少性にもかかわらず、コレクションの数ある見どころのひとつに過ぎないといえるだろう。

こちらは19世紀初頭にブレゲが製作したオリジナルの懐中時計群だ。

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1962年、ハーバート・デイヴィスによって2分の1サイズで製作されたジョン・ハリソンのH1のレプリカ。

 予想どおり、イギリスの時計やクロック、そしてそれらの製作者たちもじつに豊富に紹介されている。なかでも時計愛好家が必ず足を止めるであろう展示が、トーマス・マッジ(Thomas Mudge)によるマリンクロノメーターに関するショーケースだ。それは、彼のきわめて複雑なコンスタントフォース脱進機の構成部品とあわせて展示されている。

トーマス・マッジによるマリンクロノメーター。

トーマス・マッジが海上航法の革新を目指して開発した、コンスタントフォース脱進機を備えたムーブメントプレート。

 なかでもとりわけ目を見張る展示のひとつが、コレクションの最後に位置するジョージ・ダニエルズ博士(Dr. George Daniels)に捧げられたセクションだ(なお、時計やクロックは年代順に展示されており、最も古いものから最新のものへと順に見ていくことができる)。この展示は博士の功績を称えるもので、彼が手がけた懐中時計や腕時計に加え、世界で初めてコーアクシャル脱進機を搭載した腕時計そのものも展示されている。

中央にあるのはダニエルズ博士による“グランド・コンプリケーション”懐中時計。ムーンフェイズ、瞬間切り替え式永久カレンダー、均時差表示、温度計、パワーリザーブ表示を備える。

 その時計は、ほかならぬパテック フィリップのノーチラスである。1981年、パテック フィリップの依頼により、ダニエルズ博士の手でコーアクシャル脱進機へと改造された。

中央にあるのが、世界で初めてコーアクシャル脱進機を搭載した腕時計である。

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 これを目にしたときの興奮は並大抵のものではなかった。ご存じの方も多いように、ダニエルズ博士がパテック フィリップのためにプロトタイプを製作したことは知っていたし、実際つい最近もロジャー・スミス氏がオフィスを訪れた際、そのうちのひとつに触れる機会があった(この件については今後の投稿で詳しく紹介する予定だ)。しかしそのとき手にしたのは懐中時計であり、最初の腕時計がノーチラスだったことも、それが時計師協会のコレクションに所蔵されていたことも、まったく知らなかったのだ。過去にロンドンを訪れた際、もしギルドホールまで足を延ばしていれば、おそらく目にできていたのだろう。この時計は傷に対する配慮などほとんどなされていなかったことは明らかであり、実際、最初に見たときには、あまりにもベゼルが擦り減っていたためダイヤモンドがセットされているのかと錯覚したほどだった。

 しかしながら、激しく使い込まれた痕跡があるにもかかわらず、展示解説にはダニエルズ博士はこの時計を“10年間にわたり継続的に着用し、そのあいだ、脱進機は特別な手入れを必要とすることなく良好に作動していた”と記されている。ご存じのとおり、最終的にパテック フィリップはダニエルズ博士との協業を見送ったが、その決断は結果的にオメガの利益となった。ムーブメント開発には長い年月と、時にはもどかしさを感じるような困難があった(初期のコーアクシャルムーブメントにはいくつかの初期不良も見られた)が、オメガはついにコーアクシャル脱進機の工業化に成功したのだ。いまやこの機構は、世界中で何十万本という時計のなかで時を刻んでいる。

 このコレクションはどれだけ強くすすめても足りないほど素晴らしい。世界でも屈指の時計コレクションであるだけでなく、奇妙で魅力的、そして予想もしないような展示物がぎっしり詰まっている(たとえば上に挙げたものを含めて、これらは初期の核兵器用信管で、どうやら国防省からの貸与品のようだ)。科学博物館は毎日開館しており、入場は無料だ(ただし、入館時の寄付は礼儀として歓迎されている)。科学博物館、およびクロックメーカーズ・ミュージアムについてはこちらを参照して欲しい。

 また、まだご覧になっていない方はぜひこちらのロジャー・スミス氏が登場する『Talking Watches』もチェックしてみて欲しい。