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※本記事は2017年5月に執筆された本国版の翻訳です 。
クォーツは評価が分かれやすい。機械式時計を好む方のなかには、電池駆動のムーブメントに抵抗を感じる人もいる。ただ、好みはさておき、クォーツが時計製造の歴史のなかで大きな役割を果たしてきたことは間違いない。そして、その象徴的存在といえるのがベータ21である。昔からHODINKEEの記事を読んでいる人なら、ジャックと一緒に手がけた“クォーツウィーク”を覚えているかもしれない。クォーツにまつわるあれこれを集中的に取り上げたシリーズだった。まあ、“クォーツウィーク”は正直あまり歓迎されたとは言えない企画だった(本当に!)。でも、内容としては意義のある特集だったと思っている。そのときに書いた記事のひとつに、コレクターズアイテムとしてもっとも人気の高いベータ21搭載モデルを紹介したものがある。リストには、ロレックスのRef.5100も含まれていた。最近、その実物をクリスティーズで見る機会があった。というのも、2017年5月下旬の月曜にジュネーブで開催されるオークションに、このモデルのホワイトゴールド仕様が出品される予定だからである(執筆当時)。
まず触れておきたいのは、ベータ21ムーブメントの素晴らしさだ。メンテナンスはやや面倒なところもあるが、それでもこのムーブメントが時計史にもたらした意味や、単純に使っていて楽しいところを考慮すると、なかなか代えがたい魅力がある。もしベータ21を知らなかったとしても大丈夫。ここでざっくり説明しておく。ベータ21(1969年)は、ベータ1(1960年)の後継にあたるクォーツムーブメントで、スイスの20ブランドによって構成された電子時計センター(CEH)が開発を主導した。彼らの目標は、手巻きや自動巻きに匹敵する、あるいはそれ以上の精度をもったクォーツキャリバーを生み出すことだった。結果としてベータ21はCEHの期待を完全に満たすには至らなかったが、それでも数多くの腕時計に搭載された。パテック フィリップのRef.3587や、IWCのダ・ヴィンチ、そしてちょっと変わったピアジェのモデルなどがある。ただ、自分にとってベータ21といえば、やはりロレックスのRef.5100がすべてだ。
ホワイトゴールド製のロレックス Ref.5100が、ジュネーブで開催されるクリスティーズのオークションに登場する。
Ref.5100が初めてリリースされたのは1970年、ベータ21ムーブメントが完成した翌年のことだ。このモデルが製造されたのは1970年から1972年にかけてで、その後すぐに生産終了となった。ただし、正確に何本が作られたのかははっきりしていない。ヴィンテージロレックスにありがちなことだが、ロレックスはそうした数字について、基本的に肯定も否定もしない姿勢を貫いているために情報が出てこないのだ。
Ref.5100は1本ずつにナンバーが刻まれており、1000番を超える番号の個体も確認されている。ただし、総生産数やイエローゴールドとホワイトゴールドの比率についてはいくつか異なる説が存在している。ひとつの説では、イエローゴールドが700本強、ホワイトゴールドが300本強とされている。別の説では、イエローが約900本、ホワイトが約100本という配分だ。そして、さらにはふたつのロットに分けて製造され、それぞれにイエロー900本にホワイト100本、合計2000本という見方もある。どの説が正しいかはともかくとして、ホワイトゴールド製のRef.5100が非常に珍しい個体であることは間違いない。
今回紹介するホワイトゴールドのRef.5100はシリアルナンバー794で、いわゆる“デッドストック”状態にある。これはどんな時計であれ非常に希少なものだが、ベータ21を搭載したロレックスとなればなおさらだ。ケースは重厚なホワイトゴールド製で、フルーテッドベゼルを備え、面取りされたリンクを連ねた存在感あるブレスレットが取り付けられている。ロレックスはどのモデルであっても素晴らしいブレスレットを作ることで知られているが、この一風変わったブレスレットもその例外ではない。この時計のエスティメートは10万〜15万スイスフラン(当時のレートで約1150万〜1720万円)とされており、過去数年で市場に出た同モデルと比べても、かなり高額なレンジに設定されている。その背景には、この個体が未使用品であること、希少性、時計史における重要性、そして1986年の修理明細書とグリーンのブランドタグが付属していることなど、複数の要素があると考えられる。
Ref.5100 vs オイスタークォーツ
ロレックスのもうひとつのクォーツモデル、オイスタークォーツのことを知っている人も多いかもしれないが、Ref.5100とはまったく別物である。Ref.5100が製造されたのは1970年から1972年までのことで、当時ロレックスはまだ電子時計センター(CEH)に加盟していた。ロレックスは1972年にCEHを離脱し、その後は自社開発によるクォーツムーブメントとオイスタークォーツの製造へと舵を切ることになる。Photo: Courtesy www.oysterquartz.net
このモデルの市場価値は3〜4年で劇的に上昇している。過去に出品されたホワイトゴールド仕様の2本について見てみると、2013年には予想落札価格が1万5000〜2万5000スイスフラン(当時のレートで約160万〜264万円)、2014年には3万〜5万スイスフラン(当時のレートで約367万〜578万円)とされており、それぞれの落札結果は3万2500スイスフラン(当時のレートで約342万円)と12万5000スイスフラン(当時のレートで約1145万円)だった。見てのとおり、結果には大きな開きがある。私の見解としては、2014年のサザビーズに出品された個体がフルセットだったこと、そしてその時計を強く欲した入札者がふたりいて競り合ったことが、高騰の要因だと考えている。
ちなみに今回のクリスティーズのオークションではイエローゴールドのRef.5100も同時に出品される予定で、そちらの予想落札価格はわずか1万5000〜2万5000スイスフラン(当時のレートで約170万〜290万円)にとどまっている(編注; 1万7500スイスフランで落札、当時のレートで約200万円)。ホワイトゴールドのほうが高く評価されているのは、おそらく2014年の実績と、現在の市場の関心を反映した結果だろう。どちらのモデルがどんな結果になるのか、とても気になっている。
Ref.5100は、個人的にもロレックスのリファレンスのなかで特に好きなモデルのひとつだ。ケースやブレスレットのデザインには独特の新鮮さがあるし、“もっとも美しいロレックス”とは言えないデザインだとしても、そのちょっと不格好な感じが逆に魅力だと思っている。そしてロレックス初のクォーツウォッチであり、初のサファイアクリスタル搭載モデルでもあるという点を鑑みても、所有すること自体がすごくクールだと感じている。まあ、そう思っているのは私だけかもしれないけれど。(編注; クリスティーズに出品されたロレックス Ref.5100は1万7500スイスフランで落札、当時のレートで約200万円)
当時のクリスティーズによるジュネーブ・オークションについての詳細はこちらで確認できる。
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